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任意取調べ中の弁護士面会を妨害―東京高裁が「接見の利益」を認めた判決

「警察や検察から『話を聞きたい』と呼ばれたものの、取調べが長引き、不安になって弁護士に連絡した…。」 このような状況で、駆けつけた弁護士はすぐ面会できるのでしょうか。

現実には、捜査機関が「取調べ中だから」という理由で、弁護士との面会をすぐに認めないケースがあります。 

今回は、「任意の取調べ」中に弁護人になろうとする者が面会を求めた事案について、捜査機関の対応に違法性があると認めた東京高等裁判所の重要な判決(令和3年6月16日判タ1490号99頁)をご紹介します。

この判決は、身体拘束されていない被疑者の権利利益を認め、捜査機関に厳しい態度をとった画期的な内容を含んでいます。

※ 本裁判例の結論に全面的に賛同するものではありません。

※ また、公開日の情報を基に作成しています。

1.事案の概要

  • 東京地検から捜査を受けていたAさんは、ある日、検察庁に任意で出頭1し、取調べ2を受けていました。Aさんは出頭前に弁護士事務所に電話で相談を申し入れており、その後、Aさんの妻が正式に弁護士に弁護を依頼しました。
  • 依頼を受けた弁護士は、同日午後3時10分頃に検察庁を訪れ、「弁護人になろうとする者」としてAさんとの面会を求めました。
  • しかし、担当の検察官は「本当にAさんの妻から依頼されたのか確認が必要」などと述べ、すぐには面会を認めませんでした。
  • 弁護士は、Aさん本人から事務所に電話があった経緯や、その際に使われた携帯電話の番号(以下「本件電話番号」)を検察官に伝え、本人に確認すればすぐに分かるはずだと主張しました。
  • にもかかわらず、検察官はAさん本人に本件電話番号について確認することなく、他の方法で確認作業を続けました。
  • その間、Aさんの取調べは継続され、Aさんは自白する内容の供述調書に署名してしまいます。
  • 結局、検察官がAさん本人に面会の意思を確認したのは取調べが終わった午後4時30分頃で、弁護士がAさんと実際に会えたのは午後5時頃でした。
  • 弁護士は、この検察官の対応によって速やかな面会が妨害され、弁護活動が阻害されたとして、国に対して損害賠償を求める訴訟を起こしました。

2.第1審の判断

(1) 結論

検察官の不作為3は社会通念上相当と認められる範囲を超え、国家賠償法上違法であると結論付け、国に10万円の慰謝料支払いを命じました。

(2) 判旨の概要|弁護人との面会に関する法解釈の部分

捜査機関は,弁護人等から身体の拘束を受けている被疑者との接見の申出があったときは,原則としていつでも接見等の機会を与えなければならない(最高裁平成5年(オ)第1189号同11年3月24日大法廷判決民集3巻3号,最高裁平成7年(オ)第105号同12年6月13日第三小法廷判決民集54巻5号1635号)。 
この理は,身体の拘束を受けていない被疑者について,捜査機関により任意の取調べが行われている場合についても同様に解すべきである。
すなわち,弁護人等は,その弁護活動の一環としていつでも自由に被疑者と面会することができると解されるが,取調べ中の被疑者と直接に連絡を取ることはできない。一方で,被疑者は,身体の拘束を受けていない場合であっても,弁護人等との面会予定を事前に把握しているなどの特段の事情がある場合を除き,取調べの継続中に自由に退去して弁護人の援助を受けるための手段を自らとることは困難であり,弁護人等の来訪につき告知を受け,接見の機会を得て初めて,弁護人による実質的な弁護を受ける権利(刑事訴訟法30条1項)を保障される
・・・身体拘束を受けていない被疑者に対する弁 護人等から面会の申出があった場合には,捜査機関としては,取調べを中断した上で,速やかに弁護人等の来訪を被疑者に伝え,被疑者が面会を希望するときは,その実現のための措置をとらなければならないというべきであり,取調べの性格上,特定の事項に係る質疑等のため一定の時間を要し,即時の中断が困難な場合があること等を考慮しても,社会通念上相当と認められる範囲を超えて弁護人等の来訪を被疑者に伝えず,その結果,速やかに弁護人等との面会が実現されなかった場合には,当該捜査機関の行為は,弁護人等の弁護活動を阻害するものとして違法と評価され,国家賠償法1条1項の規定による損害賠償の対象となる

(3) ポイント

•「弁護人等から身体の拘束を受けている被疑者との接見の申出があったときは,原則としていつでも接見等の機会を与えなければならない」という理は身体拘束されていない被疑者にも及ぶとしました。

• 捜査機関は、弁護人等から面会の申出があった場合、取調べを中断した上で、速やかにその来訪を被疑者に伝え、被疑者が面会を希望するときは、その実現のための措置をとらなければならないという具体的な義務を指摘しました。

• 本件では、弁護士は検察官に対し、被疑者の妻から依頼された経緯や、その際に使われた携帯電話の番号(被疑者自身が弁護士事務所に伝えたもの)を伝えていました。検察官は、被疑者本人にこの電話番号について確認すれば、依頼の事実を容易に確認できたはずです。

• にもかかわらず、検察官は本人への確認を怠り、他の方法で確認しようとして時間をかけた結果、面会が遅れました

3.控訴審の判断

(1) 結論

東京高等裁判所は、第一審の東京地方裁判所の判断を支持し、検察官の対応は違法であると認め、国に10万円の慰謝料支払いを命じました。

(2) 判旨の概要|弁護人との面会に関する法解釈の部分

刑訴法30条1項は,被疑者は,何時でも弁護人を選任することができる旨規定しているところ,被疑者が刑事手続において十分な防御をするためには,弁護人に相談し,その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を実質的に保障する必要があるから,被疑者は,身体の拘束を受けていない段階にあっても,接見交通権に準じて,立会人なく接見する利益(以下,上記段階における当該利益を,単に「接見の利益」という。)を有する
…刑訴法39条1項によって被告人又は被疑者に保障される接見交通権が,弁護人等にとってはその固有権の重要なものの一つであるとされていることに鑑みれば(最高裁昭和49年(オ)第1088号同53年7月10 日第一小法廷判決・民集32巻5号820頁参照),接見の利益も,上記のような刑訴法30条1項の趣旨に照らし,弁護人等からいえばその固有の利益であると解するのが相当
…身体の拘束を受けていない被疑者 の弁護人等が,任意の取調べを受けている被疑者との間で立会人のない接見の申出をした場合には,速やかにその申出があった事実を被疑者に告げて弁護人等と接見するか任意の取調べを継続するかを捜査機関において確認すべきであって,その事実を告げないまま任意の取調べを継続する捜査機関の措置は,弁護人等であることの事実確認のために必要な時間を要するなど特段の事情がない限り,被疑者の接見の利益を侵害するだけではなく,その弁護人等の固有の接見の利益も侵害するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法となると解するのが相当

(3) ポイント

・ 「接見の利益」の承認

身体を拘束されていない任意取調べ中の被疑者であっても、弁護人から助言を受ける機会は実質的に保障される必要があり、逮捕・勾留されている場合の接見交通権4に準じた「接見の利益」を有すると判断しました。

・ 弁護人固有の利益

この「接見の利益」は、被疑者本人だけでなく、接見の相手方である弁護人等にとっても「固有の利益」であると認めました。

・ 捜査機関の義務

捜査機関は、弁護人等から接見の申し出があった場合、速やかにその事実を被疑者に告げ、「弁護人と接見するか、このまま任意の取調べを継続するか」を確認する義務があるとしました。

・ 違法性の判断基準

弁護人等の来訪を告げないまま取調べを継続する措置は、「弁護人等であることの事実確認に必要な時間を要するなど特段の事情がない限り」、被疑者と弁護人双方の「接見の利益」を侵害するものであり、国家賠償法上、違法となると判示しました。

本件では、検察官は弁護士から伝えられた電話番号をAさん本人に確認すれば、弁護人になろうとする者であることを容易に確認できたのに、それを怠った点に「特段の事情」は認められないと結論付けました。

4.ポイント

この判決のポイントは、任意取調べ中に保障される権利の内容を明確にし、捜査の都合よりも被疑者・弁護人の権利を優先する姿勢を打ち出した点にあります。

(1)  任意の取調べでも「接見の利益」という権利が保障される

これまで、身体拘束されていない任意取調べの段階で、弁護士との面会がどこまで保障されるかは必ずしも明確ではありませんでした。 

本判決は、身体拘束されていない被疑者にも、逮捕・勾留されている被疑者の「接見交通権」に準じた「接見の利益」は弁護人にとっても固有の利益であると明言したことで、弁護活動の重要性を一定程度認めたものと言えます。

 これにより、捜査機関は「任意でも取調べ中だから」という理由で、弁護人との面会を安易に制限できないはずです。

(2)  捜査の必要性を理由とした接見の制限を認めなかった点

また、この判決は、捜査の必要性を理由とした接見の制限を事実上認めなかった点も注目されます。

• 先行する裁判例(福岡高裁・本件の東京地裁)との違い

◦この分野のリーディングケースとされる福岡高裁判決(平成5年11月16日判タ875号117頁)は、

被疑者の弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)は、当然のことながら、その弁護活動の一環として、何時でも自由に被疑者に面会することができる。その理は、被疑者が任意同行に引き続いて捜査機関から取調べを受けている場合においても、基本的に変わるところはない
…取調べに当たる捜査機関としては、弁護人等から右被疑者に対する面会の申出があった場合には、弁護人等と面会時間の調整が整うなど特段の事情がない限り、取調べを中断して、その旨を疑者に伝え、被疑者が面会を希望するときは、その実現のための措置を執るべきである。
任意捜査の性格上、捜査機関が、社会通念上相当と認められる限度を超えて 被疑者に対する右伝達を遅らせ又は伝達後被疑者の行動の自由に制約を加えたときは、当該捜査機関の行為は、弁護人等の弁護活動を阻害するものとして違法

と示していました。

「任意捜査の性格上、捜査機関が、社会通念上相当と認められる限度」では、伝達を遅らせることが可能という余地が残されていました。

また、本件の第一審である東京地裁判決も、「取調べの性格上、即時の中断が困難な場合があること等を考慮しても,社会通念上相当と認められる範囲」と述べ、福岡高裁と同様に、捜査の必要性にある程度配慮する姿勢を見せていました

• 東京高裁の厳格な基準「特段の事情」

これに対し、今回の東京高裁判決は「社会通念上相当」といった基準を用いず、
接見を遅らせることが許される例外的な場合を「弁護人等であることの事実確認に必要な時間など特段の事情」がある場合に厳しく限定しました。

弁護人からの接見の申出を遅らせることができるのは基本的には弁護人等であることの事実確認に必要な時間に限られるということになります。

「など」に関して、東京高裁の判決が掲載されている判例タイムズの解説では
「「など」の範囲は,現時点では直ちには想定し難く,仮にこれを認めたとしても,実務上やむを得ない極めて限定的なものとされるべきであろう。」
とかなり限定的な評価をしています(判例タイムズ1490号103頁)。

判決文では、控訴人の主張に応ずる形で、

被疑者には取調べに応じる義務(取調受忍義務)はなく、いつでも退去できる権利があることを強調し、弁護人の来訪は、被疑者が「取調べを中断して退去するかどうかを自己決定する」上で極めて重要な情報である

と指摘しています。
つまり、「捜査のキリがいいところまで」といった捜査側の都合で、被疑者が弁護士の助言を得る機会を奪うことは許されない、というルールを示したと評価できます。

当然と言えば当然ですが、被疑者とされた人の権利擁護の観点から裁判所が明言したことは大きいと言えます。

5.課題 接見交通権との関係

なお、任意取調べ中の被疑者とされた人の利益の理論的根拠については、大きく

  • 身体拘束を受けている被疑者・被告人とされた人について規定されている刑事訴訟法39条の接見交通権が保障されているという立場
  • 刑事訴訟法39条の接見交通権は保障されないものの接見交通権に準じた利益があるという立場

に分かれています。
前者は、刑訴法39条は「被疑者の包括的防御権」を前提に、特に身柄拘束中に制約を受けやすいから明文で規定しているだけであり、任意取調べ中の被疑者にも当然に接見交通権が認められるという立場です。

理由付けは様々ですが、任意の取調べでも外部からは遮断されていますし、事実上拘束されているに等しく、憲法・刑訴法の接見交通権を当然に適用すべきということは考えられるでしょう。

刑事訴訟法39条の接見交通権が保障されているという立場からすれば、
最高裁大法廷平成11年3月24日判決・民集53巻3号514頁が、接見交通権について、

憲法34条前段は弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障するものであり接見交通権は同条の趣旨にのっとり,弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたのであるから,同条前段の保障に由来するものである

と述べていることから、捜査機関に対しより強い義務を課しやすくなるということになっていくと考えられます。

本判決はあくまでも「接見交通権に準じて,立会人なく接見する利益(接見の利益)」と判断したにとどまることになります。

6.まとめ

もし捜査機関から呼び出しを受け、少しでも不安を感じたら、すぐに弁護士にご相談ください。
任意の取調べ中に弁護士と相談したければ、いつでも退出し、弁護士に連絡や面会ができます。

この判決が示すように、弁護士はあなたの権利を守るために速やかに行動します。

7.他の記事など

8.用語解説など

  1. 任意出頭:身体拘束を受けていない被疑者や参考人の立場にある人が、捜査機関の要求に応じて、自発的に出頭すること
  2. 取調べ:被疑者や参考人に供述を求める捜査行為
  3. 不作為:ここでは一定の行為を行わないという意味。本件に即していえば、「取調べを中断した上で,速やかに弁護人等の来訪を被疑者に伝え,被疑者が面会を希望するときは,その実現のための措置」をしなかったことが該当し得る。
  4. 接見交通権:身体拘束を受けている被疑者・被告人の立場の人と面会し、手紙や物の授受をすること。