現行犯逮捕・準現行犯逮捕とは?刑訴法212・213条の要件を弁護士が解説
刑事事件において「逮捕」は、被疑者の身体の自由を著しく制約する強力な強制処分です。
その中でも現行犯逮捕は、令状(裁判官の発する逮捕状)を必要とせずに行われる例外的な手続です。
ドラマなどで、法律専門家ではない方にもなじみ深い手続ですが、人権保障の観点から厳格な要件の下に認められています。
弁護士は、現行犯逮捕の適法性を厳しくチェックし、不当な逮捕によって依頼者の方の人権や利益が侵害されることを防ぐことが求められます。
本記事では、現行犯逮捕の法的根拠と要件、そして刑事弁護上重要となる具体的な論点について、判例・裁判例、学説を交えて詳しく解説します。
※ 本記事は公開時点の情報を基にしています。
※ 一般的な実務上の運用などをご紹介するもので、全てに賛同しているわけではありません。
1 現行犯逮捕の法的根拠と趣旨
(1) 現行犯逮捕の根拠条文
現行犯逮捕は、刑事訴訟法第212条および第213条に規定されています。
第212条(現行犯人・準現行犯人)
1 現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人とする。
2 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
➀犯人として追呼されているとき。
②贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
③身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
④誰何されて逃走しようとするとき。
第213条(現行犯逮捕)
現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
※30万円(刑法犯等以外は2万円)以下の基金,拘留または科料に当たる罪については、犯人の住居もしくは氏名が不明の場合、または逃亡のおそれがある場合でなければ、現行犯逮捕はできません(217条)。
(2) 令状主義の例外としての趣旨
現行犯逮捕が、憲法第33条が定める令状主義の例外1として、逮捕状なしで何人にも許容される根拠は、その特殊な状況に求められます。
憲法 第33条
何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
その実質的な根拠は、主に二点あります。
・ 犯罪及び犯人の明白性(誤認のおそれが少ないこと)
- 犯罪が現に進行中であるか、または終了した直後の状況から、逮捕者にとって「犯罪があったこと」と「被逮捕者がその犯人であること」が極めて明白であり、無実の者を不当に拘束する誤認逮捕のおそれが少ないためです。
- 客観的には現に罪を行いつつある者であっても、外部的に明白でなければ現行犯とは言えないとされています。
・ 逮捕の必要性・緊急性
犯行直後の状況では、直ちに逮捕しなければ犯人が逃亡する恐れがあるなど令状を取っている余裕がないなど、迅速な処理を要する緊急性があり、その場で逮捕する緊急の必要性が高いため点も根拠とされています。
現行犯逮捕の対象となるのは、「現行犯人」(1項)と「準現行犯人」(2項)の二種類です。
以下、各要件を解説します。
2 現行犯人(刑事訴訟法212条第1項)
(1) 現に罪を行う者
「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」が該当します。
- 現に罪を行う者
- 逮捕者の面前に置いて犯罪の実行行為を行いつつある場合とされています。偶然に発見した場合に限らず、職務質問等で薬物等を所持しているいことが発覚した場合もこれに含まれるとされています。
(2) 現に罪を行い終わった者|時間的場所的接着性・明白性
この要件を満たすためには、時間的・場所的近接性と明白性が必要とされています。
- 時間的・場所的近接性
- 「現に」罪を行い終わったとは、犯行の終了から「間がない」相対的な概念であり、数値化は困難です。
- 犯罪が行われたという情況が生々しく現存していればよいなどと言われますが、事案に応じて判断されています。
- 犯人を追跡した場合、場所的に離れ、時間的に経過しても、現行犯逮捕と認められるとされています。
- 追跡が逮捕の着手と考えられているためです。
- そのため、一度見失い追跡が中断した場合には現行犯ではないとされています。
- 現場からの継続した追跡があれば、途中で追跡者が変わってもよいとされています。
- 裁判例・判例
- 犯罪の発生後直ちに現場に急行し、犯行後40〜50分を経過した頃、現場から約1100mの場所で逮捕行為を開始した事案について、「罪を行い終わって間がないとき」に該当するとされました(最三小決昭42.9.13刑集21巻7号904頁)。
- 密漁の犯行終了から3時間30分経過していても、追跡を継続していた場合は適法とされました(最判昭50.4.3刑集29巻4号132頁)。
- 明白性
- 逮捕者にとって、犯罪があったこと(犯罪の明白性)と被逮捕者が犯人であること(犯人の明白性)が明白である必要があります。
- この明白性は、逮捕時における現場の状況などから逮捕者に直接覚知しうる場合に限られます。
3 準現行犯人(刑事訴訟法212条第2項)
(1) 準現行犯逮捕の意義
- 合憲性など
- 「罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる者」が、各号のいずれかに該当する場合、「現行犯人」とみなされます。
- 準現行犯逮捕の規定も、要件を厳格に解すれば合憲2とされています(最大判昭23.12.1刑集2巻13号1679頁)。
- 現行犯逮捕との比較
- 現行犯人と比較すると、犯行終了から「間がない」と認められることで足りるとされています。
- 犯行または犯行終了の現認(ないし犯行直後の状況の認識)という事情による必要はないという点で要件が緩和されています。
- 犯行と逮捕との時間的接着性も、犯行の直後まで必要でないという意味でも緩和されています。
- 緩和される分、1号~4号までの類型的事情の存在が、犯人性の明白さを担保し、令状なしで逮捕すべき緊急の必要性を補強するものと考えられています。
- 現行犯人と比較すると、犯行終了から「間がない」と認められることで足りるとされています。
- 条文解釈の方向性
- このように、同項柱書による現行犯要件の緩和を、各号の類型的事情が補うという関係にあるといえます。
- そして、各号の事情が犯人性の明白さや緊急の必要性を担保・補強する度合いは、様々ですから、柱書の要件(「間がない」「明らか」)が満たされる具体的基準は、当該事案において各号のどの事情が認められるのかによって変わるものと考えられています。
(2) 犯罪の特定・時間的場所的近接性
- 特定の罪を犯したものであること
- 現行犯と同様、罪は特定されていなければならないとされています。
- 何らかの犯罪に関係していることが疑われればよい、警職法2条の職務質問とは異なります。
- 罪を行い終わってから「間がないと明らかに認められるとき」
- 準現行犯における時間的場所的近接性は、現行犯よりも緩和される概念ですが、数値化は不可能で、事案ごとの判断となります。
- 裁判例
- 犯行発生後、直ちに現場に急行した警察官が犯人を捜索し、犯行後40〜50分が経過した頃、現場から約1100mの場所で逮捕行為を開始した事案について、「罪を行い終わって間がないとき」に該当するとされました(最三小決昭42.9.13)。
(3) 準現行犯逮捕の各号の解説と具体例
① 犯人として追呼されているとき(1号)
- 追呼とは、犯人として追われている、または呼びかけられている状態を指します。
- その者が犯人であると明確に認識している者によることが必要とされています。
- 犯行を現認した者が継続して追呼することまでは要しないとされています。
- 追呼は犯罪終了後から継続して追呼されている必要があると考えられています。
- ただし、全体として一つの追呼行為として認められれば、追呼の途中で犯人の所在が不明となった後間もなく発見して再び追呼する場合や、犯行後時間的に相当へだたりを生じている場合でもよい という考えもあります。
- 後追いかけない追呼であっても適法とされることがあります。
- 追呼された場合を準現行犯と認めるのは、犯人の追跡により、時間的場所的な変動があっても、他の者と混同する可能性がない状況にあるためとされています。
- 裁判例
- 守衛、警察官、無線指令を受けたパトロールカーらによって順次犯人として追跡されていた場合、本号に該当するとされた例があります(横浜地判昭54.7.10)。
- また、犯行現場における監視が本号に該当する場合もあります(最三小決昭39.10.27)。
② 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき(2号)
- 贓物等
- 「贓物(ぞうぶつ)」とは、窃盗など財産に対する罪によって不法に領得された物で、被害者が法律上追及できる物を指します。
- 兇器(人を殺傷し得る器物)や、住居侵入に使用したドライバーなど所持している場合も該当します。
- 物と犯罪の結びつきが客観的に明らかである必要があるとされています。
- 所持
- 現に身に着けたり携帯している場合、これに準ずる事実上の支配下に置く状態を指すとされています。
- 自宅においてあるような状態は含まないとされています。
- 準現行犯と認定したときに所持があればよく、逮捕の瞬間に所持していることは要件ではないとされています。
- 現に身に着けたり携帯している場合、これに準ずる事実上の支配下に置く状態を指すとされています。
- 裁判例
- 被疑者がポケットから凶器を取り出したことによって初めて贓物を所持していることが明白になった場合、現行犯人とはいえないとされた事例があります(福岡地裁小倉支決昭44.6.18)。
- 内ゲバ事件において、腕に籠手(こて)を装着していた事案(最決平8.1.29刑集50巻1号1頁)
③ 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき(3号)
- 身体または被服に、その犯罪を行ったことが外部的かつ客観的に明らかな痕跡が認められることをいいます。
- 殺人事件等の発生直後に、現場付近で事件発生から間もない時間帯に、血だらけになった者を発見したような場合が典型例です。
- 被服には帽子や靴なども含まれますが、現実に着用している場合に限られず、行動を共にしている共犯者の被服に血痕が認められるような場合も当たるとされています(東京高判昭和62.4.16判事1244号140頁)。
- 裁判例
- 顔面に新しい傷跡が認められ、血の混じった唾を吐いていた事案(最決平8.1.29刑集50巻1号1頁)。
④ 誰何されて逃走しようとするとき(4号)
- 「誰何(すいか)」とは、本来「だれか」と声をかけて問うことです。
- 警察官が懐中電灯で照らしたり、警笛を鳴らす行為も該当します。
- 「誰かと声をかける」のみならず、制服を着た警察官の姿を見て逃げ出す場合も含むとされています(最決昭和42.9.13)。
- 通常人であれば逃走しないような場合に逃走したことが重要とされています。
- 裁判例
- 警察官が職務質問のため停止を求めたところ逃げ出した事案(最決平8.1.29刑集50巻1号1頁)
4 刑事弁護の重要性
現行犯逮捕は、令状なしで身体拘束できるという強力な手段であるからこそ、その要件の充足性については厳格に判断されなければなりません。
依頼人が現行犯逮捕された場合、逮捕の際の状況を詳細に聴取し、逮捕の時間的・場所的近接性、明白性、そして逮捕の必要性が真に存在したか否かチェックする必要があります。
もし、逮捕の要件を欠き違法であったと判断される場合は、逮捕の適法性を争い、勾留請求の却下や、違法に収集された証拠(違法収集証拠)の排除を求めるなど、の手段が考えられます。
不当な現行犯逮捕の疑いがある場合は、速やかに弁護士にご相談ください。
5 その他の記事
現行犯逮捕・準現行犯逮捕に関るする実務上の論点は、以下の記事でご紹介しています。