特殊詐欺罪と少年事件~現状と保護者や弁護士がすべきこと
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少年が特殊詐欺事件の被疑者となる事件に特徴はありますか?
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特殊詐欺事件とは、オレオレ詐欺や還付金詐欺、架空料金請求詐欺などの手口による詐欺事件のことです。
特殊詐欺は、複数人のグループで行われるケースが多く、グループの末端構成員として少年が関与するケースが少なくありません。
精神的に未熟な少年が報酬目当てで手口の全容も知らずに特殊詐欺に関わり、逮捕されるケースが急増しています。
特殊詐欺事件に関与すると、初犯であっても重い処分が予想されます。
少年院送致となるケースも珍しくはありません。
今回は、特殊詐欺と少年事件の関係について、特殊詐欺とは何かといった基本を抑えつつ、弁護人・付添人の活動について詳しく解説していきます。
第1 詐欺罪とは?
詐欺罪は、被害者を欺いて財産を騙し取る犯罪です。
少年事件でも詐欺罪による摘発は多く、近年は特に特殊詐欺事件による摘発が増えています。
ここでは、詐欺罪の構成要件について触れたうえで、特殊詐欺の具体的な手口、特殊詐欺と少年事件との関係について解説します。
1 詐欺罪の構成要件(犯罪を構成する行為)
構成要件とは、犯罪が成立するための要件のことを言います。
詐欺罪について言えば、次の4つの要件が揃って初めて詐欺罪(刑法246条)が成立します。
- 人を欺く行為
- 被害者の錯誤
- 財物の交付、財産上の利益の移転
- それぞれの因果関係
加害者による被害者を欺く行為があり、それによって被害者が錯誤に陥り、財物や財産上の利益を加害者に交付したときに詐欺罪が成立します。
保険金を受給する条件がないのに、それがあるように偽って保険金の交付を受ける保険金詐欺や、結婚をする気がないのに、それがあるかのように偽って金銭を騙し取る結婚詐欺などが典型的な詐欺行為です。
(詐欺)第246条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。 2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。 引用:e-Gov法令検索 |
2 特殊詐欺とは
特殊詐欺とは、電話やハガキなどで、被害者の親族や公共機関を名乗って不特定多数の被害者から、現金やキャッシュカードを騙し取る手口の詐欺のことです。
警視庁では、オレオレ詐欺、預貯金詐欺、架空金請求詐欺、還付金詐欺などの10類型を特殊詐欺の類型に分類しています。
参照:🔗警視庁「特殊詐欺とは」
オレオレ詐欺は、親族や弁護士などを装い、急ぎで現金が必要であると信じ込ませ、被害者から振り込みなどの方法で現金を騙し取る手口の特殊詐欺です。
架空請求詐欺は、手紙やメールなどで架空請求の文書を送付して、支払いが必要であると信じ込ませ、指定口座への振り込みにより被害者から現金を騙し取る手口の特殊詐欺です。
特殊詐欺については、こうした10類型による分類の他に、被害金の受け取り方法による分類もあります。
口座振込の方法で被害金を騙し取る詐欺を振り込め詐欺、現金やキャッシュカードを直接受け取る形式の詐欺を現金受取型詐欺、レターパックなどで現金を送付させる形式の詐欺を現金送付型詐欺と言います。
3 特殊詐欺と少年事件
特殊詐欺は複数人のグループで行われるケースが多く、グループ内では役割分担がされています。
少年は、グループ内で受け子、出し子、見張り役など末端の構成員として犯罪に関与するケースが多いです。
受け子や出し子は、摘発される可能性の高い危険な役割です。
実際、特殊詐欺事件で少年が摘発される事件数も高い基準で推移しています。
令和2年の特殊詐欺による検挙人数は2,621人で、少年はそのうちの18.7%を占めています。
参照:🔗法務省「令和3年版犯罪白書(詐欺事犯者の実態と処遇)」
不良グループと付き合いのある少年は、グループ内の友人や先輩に誘われて特殊詐欺事件に関与してしまうケースが少なくありません。
中には、「ただ現金を受け取るだけだから。」、「荷物を受け取るだけで報酬が手に入る。」などと具体的な内容を知らされずに事件に関与してしまう少年もいます。
しかし、近年は、特殊詐欺事件が多く発生しており、事件の全貌を知らなかったとの言い訳は通用しなくなっています。
つまり、現金や荷物を受け取るだけで報酬を貰えるというのは通常は考えられないことで、事件の全貌を知らなかったとしても何らかの犯罪に加担してるとの認識はあったと認定されてしまうことがあります。
特殊詐欺のような組織的犯罪は、成人、少年かかわらず厳罰化の傾向があります。
少年の役割が受け子、出し子といった末端のものであっても、逮捕・勾留、少年院送致となってしまう可能性は少なくありません。
第2 少年が特殊詐欺で逮捕された際の手続
特殊詐欺で逮捕された少年は、その後、勾留、家裁送致を経て少年審判を受ける可能性が高いです。
ここでは、逮捕・勾留から少年審判に至るまでの手続きの流れを解説します。
1 逮捕・勾留
少年であっても、逮捕・勾留による身体拘束の手続きは、成人の場合の手続とほとんど変わりません。
少年が勾留されるのは少年法の規定によりやむを得ない場合に限定されていますが、特殊詐欺の事案では勾留されてしまうケースがほとんどです。
逮捕、勾留されると最大で23日間の身体拘束を受けることになります。
特殊詐欺のような組織犯罪では接見禁止となる可能性も高く、その場合は弁護人以外の面会が認められなくなってしまいます。
ただ、少年事件の性質上、保護者は禁止対象から除外され、面会できるよう配慮されることも多いです。
2 家庭裁判所への送致
少年事件での逮捕・勾留を終えると、事件は全て家庭裁判所に送致されます。
逮捕・勾留を経た事件については、家庭裁判所で観護措置決定が行われ、引き続き少年鑑別所に収容される可能性が高いです。
少年鑑別所では、通常は4週間(最大で8週間)にわたって、少年の処分を決めるための鑑別を行います。
少年鑑別所に収容されると、逮捕勾留の期間と併せて約2か月間は身体拘束状態が続くことになります。
3 少年審判
少年鑑別所での観護措置が終わると、少年審判により少年の処分(保護処分)が決定されます。
保護処分の種類は、保護観察、児童自立支援施設または児童養護施設送致、少年院送致の3種類です。
ここで、保護観察処分となれば、少年は身体拘束から解放されて、保護司や保護者の指導監督の下で社会内での更生を目指すことになります。
一方、少年院送致となってしまった場合は、相当期間少年院に収容されて、引き続き社会とは隔離された状態での生活を余儀なくされます。
特殊詐欺事件では、少年院送致の処分が下されるケースも多く、保護者や弁護士には少年院送致を避けるために可能な限りの活動が求められるのです。
第3 特殊詐欺事件の弁護人・付添人活動
少年が特殊詐欺グループに関与してしまった場合、グループ内での役割が重要なものでなくても重大な犯罪と評価され、保護処分も重くなる傾向があります。
ここでは、少年の処分が重くなり過ぎないよう特殊詐欺事件の弁護人・付添人としてどのような活動を行っていくのかを解説します。
1 犯情(非行態様)や少年の認識を掘り下げる
特殊詐欺事件には、さまざまな類型があり、グループ内における役割も異なります。
そのため、特殊詐欺事件の弁護人・付添人活動では、犯情や少年の認識を深く掘り下げる作業が重要です。
犯行への関与の程度によっては、そもそも詐欺の故意が認められない場合もあります。
近年では、判例の蓄積により具体的な犯行計画を知らなくても詐欺の故意は認定されやすい傾向にあります。
それでも、少年がどのような経緯で犯行に関与したのか、どの程度の内容まで具体的に認識していたのかを明らかにすることは弁護人・付添人としての活動方針を決定するうえでも重要です。
少年が受け子や出し子といった特殊詐欺における末端の役割を担っていた場合、詐欺の故意が認定されたとしても関与の程度は低いとして少年院送致を避けられる可能性はあります。
犯行への関与の程度としては、少年が事件の全容を認識していたのか、グループ内での分け前はどの程度であったのかが重要な要素です。
また、事件によっては、少年が脅迫されて事件に関与しているケースもあります。
この場合、少年自身が積極的に事件に関与していたとは言えなくなるため、グループ内での立ち位置や力関係も明確にすべきです。
弁護人・付添人としては、事件についての少年の具体的な認識、グループ内での立ち位置、報酬がどの程度であったのかを明らかにして、少年の犯行への関与の程度が低いことを立証していくことになります。
2 内省を深める
少年の処分を決定するうえでは、少年の非行性も大きな要素となります。
弁護人・付添人としては、事件以前の少年の生活状況も含めて、少年の非行性が進んでいないこと、今後、同様の非行を繰り返す危険性がないことを立証していく必要があります。
そのため、少年には、事件の重大性を理解させて事件についての内省させるだけでなく、これまでの生活態度を振り返って自身の問題点を把握させることが重要です。
3 被害者との示談を進める
詐欺事件において、被害弁償が行われているか、被害者が示談に応じているかは、少年の保護処分を決定するうえで重要な要素の1つです。
少年審判は、少年の処罰を決めるのではなく、更生のために適切な保護処分の内容を決める手続きであるため、示談の成立と保護処分の内容が直結するものではありません。
しかし、保護処分の内容を決めるうえでは、非行事実の内容も重要な判断要素となり、その中で被害者の被害が回復されているか否かも当然に重要な判断要素と言えます。
4 関係解消~詐欺グループ、不良交友を解消させる
特殊詐欺の事案については、詐欺グループ、不良グループとの関係を断絶できるかが少年の更生にとって非常に重要な事項となります。
少年審判の開始までにグループとの関係断絶ができなければ、非行を繰り返す危険性があるとして、少年院送致となる可能性は高くなるでしょう。
少年には、グループとの関係断絶をさせるだけでなく、なぜ関係を持つようになってしまったのかという点から内省を深めさせることが重要です。
5 将来へ目を向けさせる
少年事件においては、少年が社会に戻ったときに更生できる環境が整っているのかが重要です。
社会内での環境調整の問題では、少年が非行に至った原因を把握し、その原因が解消されたことを主張・立証する必要があります。
たとえば、家庭内での両親の監督能力に問題があった場合には、監督能力を強化するための具体的な方法を検討し、それを主張することが重要です。
さらに、少年が社会内での更生を目指すには、学校や職場など少年の居場所を確保しなくてはなりません。
そのうえで、少年には、将来へ目を向けさせて社会内での目標を見つけさせることも重要です。具体的な目標がなければ、社会に戻っても再び非行に走ると判断されてしまう可能性が高くなるためです。