ぐ犯により家裁送致された少年が、強制的措置許可申請を不許可とし第1種少年院送致された事例
事例のポイント
児童自立支援施設は、不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童が入所対象となります(児童福祉法44条)。
児童自立支援施設は、家庭的かつ開放的な雰囲気のもとで、児童を保護育成していくべき施設であって、基本的には少年に対して強制力を行使することはできません。
しかし、少年が指導に従わなかったり、施設から逃走したりする恐れがある場合には、強制力を伴わない指導のみによっては適正な保護を行うことができず、少年の行動の自由を制限するような措置が必要となることがあり得ます。
このような措置は、少年の人権を大きく制約するため、都道府県、児童相談所又は各施設はこのような措置をとる独自の権限を有しておらず、家庭裁判所に事件を送致して許可を得ることが必要となります(少年法6条の7第2項、児童福祉法27条の3)。
強制措置の具体的な内容は、主に少年を自由に外出できない場所(施錠可能な部屋)に収容することです(ただ、このような設備を備えた施設は限られます)。
なお、少年を児童自立支援施設に送致し、かつ、強制的措置を許可する場合は、事件を児童相談所長に送致し、かつ、強制的措置をとることができる期限を明示する必要があります(少年法18条2項)。
本件は、ぐ犯保護事件として裁判所に通常送致されましたが、児童相談所長は、少年が保護処分として児童自立支援施設に送致された場合を想定して、強制的措置許可申請をしました。
もっとも、裁判所は、児童自立支援施設では、少年の問題性をこれ以上改善することは困難であると考え、少年院の強固な枠組みの下で必要な能力を育てていくことが最も適切かつ必要であると判断し、少年院送致の判断をした事例となります。
1 事案の概要 ~横浜家庭裁判所平成27年12月16日決定
少年は、生後まもなく乳児院に入所した後、複数の児童養護施設及び児童自立支援施設を経て、平成27から児童自立支援施設において生活していましたが、無断外出したまま戻らなくなり、児童相談所に一時保護されました。
児童相談所においても、一時保護所職員から注意されたことなどに腹を立て、一時保護所の職員らに対して、突き飛ばしたり、掴みかかったりして、職員Aに全治約1週間の見込みの胸部、両上肢打撲の傷害を、職員Bに全治約7日間の見込みの頸部挫傷、背部挫傷、腰部挫傷、左肘挫創、右手挫創及び頬部挫創の傷害を負わせました。
それだけでなく、相談室の壁に穴を開けたり、トイレの利用方法を注意した指導員Cに暴行を加えました。
さらに、一時保護施設の職員Dの右顔面を殴打し、頭髪を掴むなどの暴行を加え、制止に入った他職員の頭髪を掴み、殴るなどの暴行を加え、さらに、一時保護所職員であるEに対し、頭髪を掴み、殴る蹴るなどした上、顔面を殴打して、全治約4週間を要する見込みの鼻骨骨折、顔面打撲挫創及び左大腿打撲の傷害を負わせました。
一時保護後も上記児童相談所職員の指導に従わず、たびたび無断外出を繰り返すなどしているほか、上記児童相談所職員の指導に対し、たびたび暴言を吐いたり粗暴行為に及んだりしており、保護者の正当な監督に服しない性癖があり、その性格及び環境に照らし、将来、器物損壊、暴行、傷害等の罪を犯すおそれがあるとして、家庭裁判所に送致されました。
2 処遇の理由
少年に対する処遇を検討するに、少年には、施設内における暴力行為や問題行動のほかに顕在化した非行はみられないことや、問題の根底には愛着形成の不全の問題があるとみられることからすれば、少年を強制的措置のとれる児童自立支援施設に送致し、家庭的で落ち着いた環境の中で指導を行うことも検討されるところではある。
しかしながら、少年はこれまで長期間にわたって児童自立支援施設及び児童養護施設で生活してきており、さまざまな指導が試みられてきたにもかかわらず、多くの問題点を抱えたままであり、本件においては職員に全治約4週間を要する見込みの重い傷害を負わせるところにまで至っていることからすれば、強制的措置を用いたとしても、児童自立支援施設における処遇によって少年の問題性をこれ以上改善することは困難であると考えられる。
むしろ、処遇の目標を達成するためには、少年院の強固な枠組みの下で、少年の問題点に焦点を絞った個別的教育を行い、少年がいずれ社会に戻る時に備えて必要な能力を育てていくことが最も適切かつ必要であると判断した。