ぐ犯少年(14歳)を児童自立支援施設送致とし強制的措置を許可した事例
児童自立支援施設とは?
児童自立支援施設は、不良行為をなし、又はなす恐れのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導を要する児童を入所させ、必要な指導や自立への支援を行うことなどを目的とする施設です(児童福祉法44条)。
その処遇の特色は、身柄拘束を伴う少年院と異なり、家庭的な雰囲気のもとで、開放的な処遇を行うことにあります。
もっとも、少年が、施設からの無断外出を繰り返している場合や、他人に暴力を振るう恐れがある場合など、集団生活に影響が生じ得る恐れがある場合には、少年を施錠した部屋に収容するなど、行動の自由を制限する強制的措置が必要となり得ます。
このような場合には、家庭裁判所の許可を得て、強制的措置を採り得る期間と日数を示したうえで、家裁は児童相談所長などに送致することとされています(少年法18条2項)。
【本決定のポイント】
- 盗みの態様が悪質化していることから、在宅処遇による更生は困難とみる一方、少年の年齢や身近な場所での窃盗であることを考慮し、少年院ではなく、可能な限り日常生活に近い環境下の児童自立支援施設への送致とされました。
- 無断外出や暴力が強制的措置の典型でしたが、本決定は盗みによる他者加害を理由として強制的措置を認めた珍しいケースです。
- 強制的措置の期間は、2年の間に数回程度と予測して、通算60日に制限したものと推察されます(基準として、原則として1回について3週間以内とされますので、数回と予測したものとの推察です)。
1 事案の概要 ~ 東京家裁平成27年7月1日決定
少年は、中学校3年に在籍中の14歳男児であり、小学校6年生の終わり頃から、両親の財布から金銭を抜き取るようになった上、中学校に入学すると、中学校内において、他児の物を持ち帰る等の行為が続いたことから、同年12月に父からの相談を受けて、児童相談所が、中学校と協力して、継続的に指導をするようになったが、その後も中学校内において、他児の○○シューズ、金銭等の窃盗が続いたため、平成26年○月○日に同中学校を退学し、現在の中学校に転校した者である。
少年は、両親及び児童相談所の再三の指導にもかかわらず、中学校に転校した後の平成27年○月○日から同年○月○日までの間も、甲中学校において、6回にわたって他児の○○シューズを窃取した上、5回にわたって近隣住民宅に侵入し、現金7100円やCDなどを窃取した。
以上の事実からすると、少年は、保護者の正当な監督に服しない性癖及び自己又は他人の特性を害する行為をする性癖があり、このまま放置すれば、将来、住居侵入や窃盗などの罪を犯すおそれがある。
2 主文と処遇の理由
⑴ 主文
少年を児童自立支援施設に送致する。
この事件を○○児童相談所長に送致する。
少年に対し、平成27年○月○日から2年の間に、通算60日を限度として、強制的措置をとることができる。
⑵ 処遇の理由
少年の来歴・非行事実等
少年は、平成13年から平成24年○月までの間、○○で生活した後、同月に帰国した。
帰国後、少年は、日本語や日本の生活習慣に慣れる努力を迫られるとともに、父が仕事に多忙がちとなったり、母から学業面について厳しく指導されるようになったりしたことから、徐々に息苦しさを感じるようになり、小学校でシャープペンシルやボールペンを盗んだり、両親の財布から現金を持ち出して、お菓子や文房具を購入したり、母方祖母及び父方祖母の財布から金銭を持ち出し、○○シューズなどを購入したりした。
その後、少年は、平成25年○月に、乙中学校に入学し、○○部への入部を希望したものの、乙中学校の方針の影響で、○○部に入部できないでいると、少年は、乙中学校の図書館から本を無断で持ち帰ったり、教室にあった同級生の○○ソックスを盗んだりするようになった。
そこで、父が、平成25年に、児童相談所に対して、少年の盗みについての相談を持ちかけたことから、少年は児童相談所に通所して指導を受けることになった。
また、少年は、平成25年○月、前記の図書館の本及び同級生の○○ソックスの盗みを理由に、乙中学校から謹慎処分を受け、それをきっかけとして、スクールカウンセラーの面接も受け始めるようになった。
しかしながら、少年は、その後も、父母の財布から金銭を持ち出したり、母方伯母のバックから現金を抜き取ったりするなどの窃盗行為が継続した上、中学校内の定期試験の前などでストレスがたまって体が重くなったように感じた時に、○○部のシューズ置き場から人目を盗んで○○シューズを盗むと、それによるスリルによって、盗んだ後に体が軽くなったように感じることを覚えたことから、○○シューズの盗みも繰り返すようになるなど、窃盗行為に歯止めがかからなくなったことから、少年は、平成26年○月に、乙中学校を退学することになり、平成26年○月に、甲中学校に転入することになった。
そして、少年は、甲中学校へ転入すると、念願の○○部に入部できたこともあり、当初は、甲中学校内における盗みは収まっていたものの、○○部の同級生から、練習中に嫌なことを言われるようになると、中学校生活が段々と辛くなり、平成27年○月には、甲中学校内でも○○シューズを盗んでくるようになった。
そこで、少年は、平成27年○月から、児童相談所に週1回の頻度で通所するようになったものの、それによっても窃盗行為に歯止めがかかることはなく、甲中学校内における○○シューズの盗みを繰り返しただけでなく、スリルを求めて、近隣住民宅に無施錠の裏口から侵入した上で、同宅からCDなどを盗むという行為を5,6回繰り返した。
保護者の監護状況
少年の保護者は、少年の盗みについて問題意識を持ち、児童相談所に相談しながら継続的に指導をしてきたが、少年の盗みが収まらないことから、指導に限界を感じている上、母は、少年に対する指導に疲れ果てて、相当思い詰めている状況にあり、これまで以上の監護は期待できない状況にある。
裁判所の判断
以上に加え、少年が、1年以上にわたって児童相談所からの指導を受けてきたにもかかわらず、盗みの問題を改善するどころか、盗みを常習化させている上、盗みの態様が、家庭や学校における盗みから、近隣住宅への侵入盗へと悪質化しつつあることを考慮すると、少年が在宅処遇によって更生することは、困難な状況にあるといわざるを得ない。
加えて、少年が、現在、身近なところで盗みを繰り返している状況にあることや、少年の年齢を考慮すると、少年院で矯正教育を施すのではなく、家庭的で、可能な限り日常生活に近い環境下にある児童自立支援施設に収容保護して、専門家による少年の資質上の特徴を踏まえた指導を受けることにより、ストレスの適切な対処方法及び自己の資質上の特徴を踏まえた、自己の欲求の抑制方法を身につける必要がある。
よって、少年法24条1項2号により、少年を児童自立支援施設に送致することとし、主文1項のとおり決定する。
⑶ 強制的措置許可について
少年は、児童自立支援施設入所後も、他児や職員の物の盗みを繰り返すおそれが高く、そのような事態に陥った場合には、少年に対して、ある程度強力な規制を加えながら、その非行傾向の矯正を図っていく必要があると考えられる。
したがって、少年に対しては、場合によりその自由を制限する強制的措置をとる必要があることが認められる。
ただし、現時点において、少年には、盗癖以外の問題行動があらわれていないことに加え、少年が強い更生意欲を有していることを考慮すると、強制的措置をとらなければならないような事態が多数回発生することは想定しがたいから、強制的措置を取りうる期限については、少年が児童自立支援施設に入所することが可能な平成27年○月○日から2年の間に通算60日を限度とすることが相当である。