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特定少年の営利目的大麻譲渡によって逆送(検察官送致)された事例

本決定のポイント

営利目的所持の所持量、具体的な経緯や従前の密売方法から認められる顕著な常習性、営利目的譲渡の譲渡量、経緯、同種・関連前歴や、第1種少年院仮退院中の犯行であり、保護観察における特別遵守事項違反であることを挙げ、検察官送致対象事件には該当しないものの、本件の犯情の重さを指摘しています。

そして、仮退院後の反社会性の深刻化・固着がうかがわれ、過去の保護処分がうまくいってないことや、本件における経緯・審判段階の変化のなさから、少年を相当長期間の処遇勧告を付して第2種少年院に送致したとしても再指導が浸透する見込みは乏しいとしました。

そのため、保護不能とまではいえないものの、保護不適に至っているものとして、刑事処分を相当と認めて検察官送致(逆送)としました。

なお、本件の少年は、令和5年1月26日の判決(地裁)にて、懲役3年、4年間執行猶予付き保護観察等が宣告されています。

1 事案の概要 ~ 神戸家裁尼崎支部令和4年12月8日決定

19歳の特定少年が、営利目的で、譲受少年に乾燥大麻約20gを代金7万円で譲渡すと共に、その13日後に乾燥大麻101g余を所持した大麻取締法違反の事件です。

2 検察官に送致する理由

⑴ 本件の犯情(犯罪の経緯や事情)

本件の営利目的所持は、その所持量自体も101g余と相当多量である上、不正に入手した他人名義のスマートフォンを使い、SNSを駆使して幅広く集客を図りつつ継続的に繰り返していた密売に供する目的で、前夜に旧知の密売人から比較的安価で一括購入した高品質の乾燥大麻を、販売方法に応じて3袋に分けて所持していたものであり、半ば職業的とすら評価できる程度に常習性も顕著である。

また、営利目的譲渡も、少年が教示した前記と同様の態様による密売を企図している譲受少年に自ら打診し、数日前に前記密売人から一括購入した高品質の乾燥大麻約30gの残りを、自身の利益を上乗せした代金額を設定して有償で譲り渡したものであり、その譲渡量も約20gと多量である。

それに加えて、少年には、令和2年△月にした大麻取締法違反(乾燥大麻約14.8gの単純所持)の非行により、試験観察を経て同年△月に保護観察となった同種前歴のほか、同年△月にした強盗致傷(大麻の密売取引を装い、催涙スプレーを用いて購入希望者から現金を強取)の非行により、同年△月に第1種少年院送致となった関連前歴があるところ、本件は、その仮退院中に重ねられ、保護観察における特別遵守事項(規制薬物関係者との接触禁止)にも違反するものである。

以上によると、本件は、いわゆる原則検察官送致事件(少年法62条2項各号)にこそ該当しないものの、その犯情は相当重いものと位置づけられる。

⑵ 少年の評価

少年は、中学3年在籍中から大麻の使用を始め、次第にこれを常用するようになり、さらに周囲の友人への大麻の譲渡も行うようになった後、令和2年△月に第1種少年院送致決定により■■少年院に収容され、1年2月余にわたる矯正教育を経て、令和4年△月×日に仮退院して実家で実母らとの同居生活を送り、同年△月以降はとび職として継続就労し、同年△月中旬頃から単身生活を始めたが、同年△月頃には、大麻の使用を再開し、すぐにこれを常用し始めるとともに、同年△月頃には前記態様による密売を開始している。

その経緯につき、少年は、友人と行った○○のクラブで見知らぬ者から勧められて大麻リキッドを吸ったことが契機となり、薬理効果を求めて自ら密売人から購入して常用するようになった、入れ墨師として活動しつつ単身生活をするための資金を得るため、自身で考えついた方法により個人的に大麻の密売を繰り返してきたと供述している。

少年なりの反省や更生意欲を示すものの、その内容は依然として漠然とした抽象的なものにとどまっており、自身の問題についての理解や検討は不十分である。

また、未判明の交友関係や大麻の密売関係者についての説明を頑なに拒絶しつつ、捜査機関に対して積極的な供述をした譲受少年を非難し不満を露わにしている。

⑶ 裁判所の検討結果

少年を改めて第2種少年院に送致し、相当長期間の処遇勧告を付したとしても、その見込まれる矯正教育の具体的内容等が前件時と大きく異なるものとなることは想定し難く、かつ、本件に至った経緯等や少年の現状からすれば、矯正教育による再指導が浸透する見込みは乏しいものと考えざるを得ない。

少年が現在19歳△月であり、仮退院後に身を寄せていた実家を離れ、自身の稼働収入による単身での社会生活を送り始めていたことなどを併せて考えると、少年については、保護不能とまでは断じ難いものの、再び保護処分に付すのが相当とはいえず、本件についての刑事手続及び刑事処分を通じて成人としての社会的責任を強く自覚させることにより再非行防止を図るべきである。

以上によれば、本件の犯情が相当重いものである上、少年がいわゆる保護不適の状況に至っていることに照らすと、少年が本件各事実を認め、少年なりの更生意欲を示していることや、親族による社会復帰後の更生支援が見込まれること等を踏まえても、本件の犯情及び情状に照らして刑事処分が相当と認められる。

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