14歳ぐ犯少年に児童自立支援施設送致と強制的措置許可が決定された事例
児童自立支援施設と本件のポイント
児童自立支援施設とは、不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ、又は保護者の下から通わせて、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設(児童福祉法44条)です。
寮で生活し、中学校の分校等に通学するなどの家庭的な雰囲気のもとで開放処遇が実際されており、中学生を中心とした年少少年が対象とされることが多いです。
もっとも、少年が自傷他害をし、無断外出をするなどの場合には、少年の行動を自由を制限する強制的起訴し(閉鎖施設への入所等)が必要となる場合があります。
人権保障の観点から、都道府県知事又は児童相談所長は家庭裁判所の許可を求めなければなりません(児童福祉法27条の3、少年法6条の7第2項)。
この強制的措置許可申請を受けた家庭裁判所は、これを許可する場合には、決定により、期限を付して強制的措置をとることができる旨を明示した上で、事件を児童相談所長に送致します(少年法18条2項)。
ただ、実際に強制的措置を実施できるのは、男子は国立武蔵野学院、女子は国立きぬ川学院の2カ所だけです。
本件は、ぐ犯保護事件について少年を児童自立支援施設に送致し、強制的措置許可申請事件について、児童相談所長に送致する強制的措置を許可しました。
本件は、ぐ犯の内容は、粗暴な行為が多く、非行の危険性は大きいといえます。
現状の施設の生活のままでは、再び情緒が不安定になって粗暴な言動に及ぶ可能性が高く、専門的な教育を施す必要があります。
もっとも、問題行動が施設内に限られ、自己の問題に気付きつつあることを考慮すると、少年院送致までの必要はなく、少年を児童自立支援施設に送致することが相当であると判断しています。
本件は、年齢が14歳と中学生であることの考慮要素が大きく、高校生であれば、少年院送致が相当と判断されるケースではないかと考えられます。
1 事案の概要 ~ 令和4年3月29日千葉家裁決定
児童自立支援施設○○入所中の少年が、保護者である同施設の正当な監督に服さず、3回にわたり職員に暴行を加えてけがを負わせ、窓ガラスを割るなどし、将来においても暴行、傷害、器物損壊等の罪を犯すおそれがあるというぐ犯の事案及び少年に対する強制的措置許可申請の事案である。
2 検察官に送致する理由
1 主文
1 令和4年(少)第80号ぐ犯保護事件について
少年を児童自立支援施設に送致する。
2 令和4年(少)第86号強制的措置許可申請事件について
(1)本件を○○児童相談所長に送致する。
(2)少年に対し、令和4年3月30日から2年の間に通算120日を限度として、強制的措置をとることができる。
2 処遇の理由
ぐ犯の内容と評価
少年は、児童自立支援施設○○内での日常生活にストレスを感じ、職員の対応に不満を有しており、職員にはもっと自分に構ってほしいと思っていたところ、無断外出をしようとしたり、他の部屋の鍵を持ち出そうとしたり、他の部屋の写真を借りようとした行動をそれぞれ制止された際に、強く抵抗し、各職員に暴行を加えてけがを負わせた。
また、自己の児童ファイルを見たいと考え、寮長室の窓ガラスを割った。
児童自立支援施設○○内でのルールを遵守せず、感情をコントロールできずに粗暴な行為が続いており、施設内に限られたものとはいえ、その非行の危険性は大きい。
少年の経歴等
少年の経歴等についてみると、少年は、幼少期に自閉症スペクトラム障害、注意欠陥・多動性障害、言語発達遅滞等と診断されるなどの生来的な問題を有しており、また、幼少期から適切な監護を受けられず、父は家庭内暴力を行い、少年の4歳時に離婚後は、母が少年を叩くなどの身体的虐待をするなど、不適切な家庭環境で生育したため、十分な愛着関係が形成されなかった。
少年は、小学校に進学後は、特別支援学級で授業を受け、精神科の服薬をするなどして生活していたが、小学5年生頃には母子の力関係が逆転して少年の粗暴な言動を母が抑えられなくなった。
そして、母の少年に対する身体的虐待により児童相談所に係属し、少年は、一時保護を経て、小学6年生時(平成31年)に児童自立支援施設○○に入所した。
少年は、同施設入所後、概ね落ち着いて過ごしており、不安定になるのは年1,2回程度であったが、令和3年に入ってから、児童養護施設に入所する見込みであると告げられたものの、後にその見込みがなくなったり、仲の良かった生徒が児童自立支援施設○○を離校したり、職員が異動するなどの変化があり、少年が同施設での生活に意欲をなくし始め、本件非行に至っている。
少年調査票・鑑別結果通知書
少年調査票及び鑑別結果通知書によれば、少年は、自閉症スペクトラム障害等の資質面を有しており、幼少期の被虐待経験を始め、被受容感や愛情を感じることができにくい家庭環境において、情緒の安定性が育まれず、社会適応力全般の発達が阻害されている。
そして、その愛着形成の問題から、周囲の身近な大人に対する愛情の求め方が不適切で誤ったものとなっており、規則の不遵守や粗暴な言動により構ってくれるだろうという誤学習が生じている。
少年の粗暴な言動は、このような問題を背景にしたものと理解できるといえ、少年の問題性は深刻である。
少年の保護環境
少年の保護環境についてみると、少年の母は、少年との間で定期的な面会を行っており、鑑別所においても面会し、当審判廷にも出席したが、依然として精神的な余裕はなく、現時点において単独で監護養育を行うことは困難である。
また、児童自立支援施設○○では、度重なる粗暴行為により指導困難となっており、集団生活を前提とする同所においてこれ以上の支援を行うことは難しい。
裁判所の判断
以上の諸事情に照らせば、現状の児童自立支援施設○○の生活のままでは、再びストレスや不満を抱いた際には、情緒が不安定になり粗暴な言動に及ぶ可能性が高く、より強固な枠組みにおいて専門的な教育を施すことが必要である。
他方、少年の問題性は愛着形成に起因するものであり、問題行動は施設内に限られていること、少年が当審判廷で反省や謝罪の言葉を述べ、自己の問題に気付きつつあることなどを考慮すると、現時点においては少年院という強固な枠組みまでは必要ない。
そこで、少年については、児童自立支援施設に送致して、保護にあたる周囲の大人との信頼関係に根差した共同生活の中で、資質面や愛着形成に配慮した指導を通じて基本的信頼感を得させた上で、自己の感情をコントロールし、気持ちを適切に言葉で伝える力を身に付けさせることによって、少年の自立を支援することが相当である。
強制的措置の可否・日数
そして、少年のこれまでの行状からして、少年に落ち着いた生活を送らせて必要な処遇を行うためには、場合によって強制的措置をとる必要があると認められ、その期間としては、少年を受け入れる施設の準備が整う予定の令和4年3月30日から2年の間に通算120日を限度として許可することが相当である。