特殊詐欺の受け子・出し子の特定少年を検察官送致(逆送)とした事例
本件のポイント
令和3年の少年法改正により、18、19歳の「特定少年」について、原則逆送(検察官へ送致され、刑事事件となるもの)の対象範囲が、故意の犯罪行為による死亡事件に加えて、死刑又は無期もしくは短期1年以上の懲役もしくは禁固の罪に拡大されています。
本件は、特定少年でも原則逆送事件の対象に該当しない犯罪(窃盗、詐欺)ですが、検察官送致(逆送)とされました。
特定少年であっても、原則逆送対象事件でない場合には、保護処分(保護観察や少年院などの処分)の適用を優先的に考えられます。
刑事処分が相当かどうかは、少年の年齢、性格、成熟度、非行歴、環境等、事案の軽重、態様、検察官送致後の量刑の見通しと保護処分等との処遇の有効性の比較、共犯者との処分の権衡などの総合考慮によって判断されます。
いわゆる特殊詐欺の受け子や出し子であって多数の事件に関与し、多額の被害が発生している事案では、20歳以上の者には一発実刑となるなど厳しい刑罰が科されており、本件でも同様の判断が働いているように見受けられます(本件に限らず、複数の特殊詐欺に関与しているケースは、検察官送致となることが多い印象です)。
本件は、検察官に送致された後、刑事裁判となり、懲役2年6月の実刑が言い渡されています(確定)。
1 事案の概要 ~鳥取家裁令和4年9月26日決定
犯行当時18歳の特定少年が、氏名不詳者と共謀し、警察官になりすまして、高齢者らからキャッシュカード等を盗み、それを使用して現金を引き出して盗んだり、偽札なので預かるなどと言って現金をだまし取ったりした窃盗、詐欺保護事件です。
少年に対して、少年法62条1項を適用して検察官送致としました。
2 検察官に送致する理由
1 主文
この事件を○○地方検察庁検察官に送致する。
2 処遇の理由
少年は、自ら、高齢の被害者らからキャッシュカード等を盗み、それを用いた現金の窃盗行為を行ったものである。犯行による被害総額は合計1800万円余りと、この種の事案の中でも高額に及んでいるが、被害回復の見込みはない。
少年が現実に得た報酬は、窃取又は詐取した額の一部に限られていたとはいえ、少年は、労働によらず、簡単に遊興費等を得たいと考え、SNSで検索した「闇バイト」に応募し、まとまった金額の報酬を目当てに行動している。
そして、現金を引き出して、実際にそれを手にし、自分が行っていることの重大さを十分に理解できるはずであったのに、短期間に、実質的にみて7件の同様の行為に及んでいて責任非難の程度も高い。
加えて、他の共犯者との関係では、少年は指示を受けて行動する、いわば末端の立場にあったといえるが、本件が、役割を分担して組織的に行われた犯罪の一端であると考えられることからすれば、社会的にみた犯情の悪質性も高い事案である。
以上からすれば、少年の責任はかなり重いといわざるを得ないのであって、保護処分が許容される余地は狭い。
そして、少年は、本件各行為当時、18歳4ないし5か月であって、通信制の高等学校を卒業しており、解体業の仕事に就いて稼働していた経験もあって、社会の構成員として責任を負うべき立場に達していたということができる。
一方、少年には、軽犯罪法違反、傷害の非行事実により、令和元年△月、○○家庭裁判所において、保護観察処分(短期)に、その後、交際相手に対して暴行を加えて傷害を負わせたという非行事実により、令和2年△月、保護観察処分を付された前歴があるところ、その当時において、少年には、発達特性や家庭において十分な指導ができていなかったことを背景とした感情統制の不十分さや、望ましい規範を考え行動を自制すべく問題に対処する能力の欠如などの問題が指摘されていた。
保護観察期間中は、学業と就労を両立しつつ、衝動性の抑制も図られていたものの、令和3年△月に保護観察が解除されて、それほどの期間が経っていない時期に、大麻等の違法薬物の使用を契機に生活が乱れ、就労の継続が困難となる中で、違法行為に親和的な思考や行動は何ら修正されず、むしろ、その程度は悪化して自制的な行動をとることができずに本件に至っている。
少年は、社会内における処遇であったとはいえ、保護処分を受け、更生の機会を得たのに、上記のように違法性の高い犯行に積極的に加担しているのであって、少年が余罪も含めて事実を認めていることや、少年の父のもとで稼働できることなどの事情を考慮したとしても、保護処分による改善更生は容易なことではない。
以上のような本件の罪質及び情状によれば、本件については、保護処分とすることは不適当であり、少年の処遇を刑事裁判手続に委ねて、その責任を明らかにするのが相当である。