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観護措置の必要性とは?鑑別所の回避をめぐる事例を検討します

観護措置では必ず少年鑑別所に収容されるのですか?

観護措置には、少年鑑別所での収容鑑別だけでなく在宅観護の方法もあります。

しかし、在宅観護となるケースはほとんどないため、観護措置と収容観護が同じ意味で使われることも多いです。

観護措置決定(収容観護)がされると、最大4週間の身体拘束を受けることになります。

身体拘束が長期に及ぶことによる少年の不利益を考えると、保護者や付添人としては、在宅観護となる道を探りたいところでしょう。

実務上、収容観護の決定には、「観護措置の必要性があること」が要件とされています。

今回は、観護措置の必要性とは何かについて解説したうえで、観護措置の必要性が肯定された事例と否定された事例を紹介します。

【参考記事】

第1 観護措置の必要性とは

警察・検察による事件の捜査が終わると、少年は家庭裁判所に送致されます。

逮捕・勾留された少年が家庭裁判所に送致されたときには、多くのケースで観護措置決定がされます。

観護措置では、収容観護(少年鑑別所送致)となるケースがほとんどです。

そのため、一般的に観護措置」と呼ぶときには、少年鑑別所での身体拘束をともなう手続きを示すことが多いでしょう。

しかし、観護措置の種類には、収容観護だけでなく、家庭裁判所調査官の観護に付す在宅観護もあります。

保護者・付添人の立場としては、身体拘束による少年の不利益を考慮すると、収容観護の必要性がない事件については、少年を身体拘束から解放したうえでの在宅観護を目指すべきです。

1 観護措置決定(収容観護)の要件

観護措置決定の要件について、少年法17条では「審判を行うために必要があるとき」と規定されています。

これについて、実務上は次の3つの要件を満たす必要があると考えられています。

  • 少年が非行を犯したと疑うに足りる理由があること
  • 少年審判を行う蓋然性があること
  • 観護措置の必要性があること

観護措置は、少年の身体を拘束する手続であるため、少年が非行を犯したと疑うに足りる理由がなければなりません。

また、観護措置は、少年審判に備えるための手続なので、審判開始の見込みがない事件については、観護措置を執ることはできません。

(観護の措置)
第17条 
家庭裁判所は、審判を行うため必要があるときは、決定をもつて、次に掲げる観護の措置をとることができる。
一 家庭裁判所調査官の観護に付すること。
二 少年鑑別所に送致すること。
2 同行された少年については、観護の措置は、遅くとも、到着のときから24時間以内に、これを行わなければならない。検察官又は司法警察員から勾留又は逮捕された少年の送致を受けたときも、同様である。
3 第1項第2号の措置においては、少年鑑別所に収容する期間は、2週間を超えることができない。ただし、特に継続の必要があるときは、決定をもつて、これを更新することができる。
【参照】少年法|e-Gov法令検索

2 観護措置の必要性

観護措置の必要性についてはさらに次の3つの要素に分けられており、3つのうちいずれかが認められれば、観護措置の必要性があるとされます。

  1. 調査、審判及び保護処分の執行のための身体拘束の必要性があること
  2. 緊急保護のための暫定的身体拘束の必要性があること
  3. 収容鑑別の必要性があること

1つ目の要素については、定まった住居がない又は逃亡のおそれがあるなど少年の出頭を確保する必要がある場合や罪証隠滅のおそれがあり証拠を保全する必要がある場合に身体拘束の必要があると判断されます。

2つ目の要素については、少年に自殺や自傷のおそれがあるとき、薬物の中毒症状が認められるときなどに身体拘束の必要があると判断されます。

3つ目の要素については、在宅観護では鑑別の目的を十分に達しえないと認められることが必要です。

具体的には、少年の心身の状況や性格傾向などから、継続的な行動観察や社会と遮断しての鑑別が必要と認められるときに、収容鑑別の必要性があると判断されます。

第2 観護措置の必要性を肯定した事例

ここでは、観護措置の必要性を肯定した事例を3つ紹介します。

観護措置の必要性については、観護措置決定に対する異議申立ての手続きの中で判断されます(少年法17条の2)。

(異議の申立て)
第17条の2 
1 少年、その法定代理人又は付添人は、前条第1項第2号又は第3項ただし書の決定に対して、保護事件の係属する家庭裁判所に異議の申立てをすることができる。ただし、付添人は、選任者である保護者の明示した意思に反して、異議の申立てをすることができない。
2 前項の異議の申立ては、審判に付すべき事由がないことを理由としてすることはできない。
3 第一項の異議の申立てについては、家庭裁判所は、合議体で決定をしなければならない。この場合において、その決定には、原決定に関与した裁判官は、関与することができない。
【参照】少年法|e-Gov法令検索

1 那覇家庭裁判所決定平成16年7月14日

事案の概要

少年が中学校での喫煙指導に憤慨し、担任教師に対して、草刈鎌を振りかざすなどしながら、「触るな。死にたいか。」、「小学6年生でも人が殺せるんだから、俺も余裕やん。」など申し向けた事案です。

暴力行為等処罰に関する法律違反、銃砲刀剣類等取締法違反保護事件の「みなし観護措置」について異議申立てをした事件。

結論

みなし観護措置についての異議申立てを棄却しました。


裁判所の判断

少年が脅迫の意図や態様を否認しているため、担任教師や目撃者の取り調べ等が必要な状況にあるところ、捜査段階での少年の供述内容、これまでの教師への態度や指導への対応状況、中学校での友人関係等の生活歴からすると、目撃者等の関係者に働きかけて罪証を隠滅するおそれがあると言わざるを得ない。

また、事件の重大性、少年の生活状況、保護者の観護状況からすると、少年の所在が不明になるおそれがある少年鑑別所に送致したうえでの資質鑑別の必要性がある。

この事例では、観護措置の必要性における3つの要素のうち、1つ目と3つ目の要素に言及しています。

3つ目の要素については、「資質鑑別の必要性がある」と簡単に言及するのみですが、1つ目の要素については具体的な事実を示したうえで、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれを認定しています。

2 東京家庭裁判所決定平成24年2月23日

事案の概要

少年が駅コンコース及びその付近で、通行中の若い女性につきまとい、キャバクラで働くようにしつこく勧誘した事案です。

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反保護事件の観護措置決定に対して異議申立てをした事件。

結論

観護措置決定に対する異議申立てを棄却しました。

裁判所の判断

少年には4件の非行歴があり、直近の事件では観護措置を経て保護観察決定を受けている社会内での更生の機会を与えられたにもかかわらず、手っ取り早く高収入を得るために違法なスカウト行為を繰り返し、さらに携帯電話の履歴と整合しない供述をしており、自己中心的で身勝手な行動に及びやすいなどといった資質上の問題性が改善された様子がうかがわれない。

以上のような少年の非行歴、本件非行に至る経緯や非行の内容等にかんがみれば、その資質上の問題の大きさは看過できず、少年鑑別所に収容して心身鑑別をする必要があるとした原決定の判断は正当というべきである。

この事例では、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれについては言及されていません。

非行歴や保護観察中の行動から、観護措置の必要性が肯定されています。

3 東京家庭裁判所八王子支部決定平成13年4月5日

事案の概要

少年が不良交友関係にある年長の少年2名と共謀して自動二輪車を窃取した事案で、窃盗保護事件の観護措置決定に対して異議申立てをした事件。

結論

観護措置決定に対する異議申立てを棄却しました。

裁判所の判断

事案の性質、少年の生活状況、共犯少年との関係に加え、同様の事案による児童相談所への通告歴があることからすると、非行性の深まりが疑われるのであり、継続的な行動観察等による詳細な資質鑑別の必要が認められる。

この事例も、2つ目の事例と同様に、収容鑑別の必要性について検討したうえで、継続的な行動観察による資質鑑別の必要が認められるとして、観護措置決定に対する異議申立てを棄却しています。

第3 観護措置の必要性を否定した事例

ここでは、観護措置の必要性を肯定した事例を4つ紹介します。

1 札幌家庭裁判所決定平成15年8月28日

事案の概要

少年が共犯少年3人と共謀して、工具を用いて自動販売機から現金と清涼飲料水を窃取しようとしたが目的を遂げなかった事案です。

窃盗未遂保護事件のみなし観護措置に対して異議申立てをした事件。

結論

みなし観護措置を取り消す

裁判所の判断

当初は共犯少年をかばう供述をしていたが、その後は自白して事件の全容が明らかになっていること、本件非行が未遂に終わっていること、非行歴や補導歴がなく、高校にもほとんど欠席せずに通っており、生活態度にも大きな問題は認められないこと、少年の家庭環境は安定しており、両親は共に健在で少年の身元引受と手続きへの出頭を誓約しているなど、両親の監督も期待できる。

既に長期間の身体拘束を受けて反省の念を示していること、身体拘束の継続によって少年が被る不利益の程度等を考慮すると、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれ、身体を拘束してまで心身を鑑別する必要は、いずれも認められない。

この事例は、いわゆる自販機荒らしをしているところを警察官に発見されて、未遂に終わった事件についての判断です。

事実関係から罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれがないことを認定し、少年が被る不利益に言及して収容観護の必要性を否定しています。

裁判所は、収容観護の必要性について、事案の重大性と少年が被る不利益を比較して、身体拘束を継続するほどの必要性があるか否かを検討していることがうかがわれます。

2 水戸家庭裁判所決定平成14年3月19日

事案の概要

少年および友人4人が居酒屋で飲酒したところ、予想外に飲食代金がかさんだことから、小遣い稼ぎのために5人で恐喝することを相談し、駅近くの暗い路上で通行人を待ち伏せしたうえで、通行人を取り囲み「お金がないので貸してくれますか。」、「お金ないんだよね。」などと声をかけて、現金約7000円を脅し取った事案です。

恐喝保護事件の観護措置決定に対して異議申立てをした事件。

結論

観護措置決定を取り消す。

裁判所の判断

犯行態様は、夜間、暗がりの路地上で多人数で1人の被害者を取り囲んで恐喝に及ぶという(悪質な)もので、立件されていないものの、他にも2度にわたって同種の恐喝をした旨を供述している。

しかしながら、

  • 逮捕直後から一貫して犯行を認めている
  • 本件が計画性に乏しい犯行であること
  • 少年は大学にまじめに通っており、日常生活も大過なく送っていること
  • 少年は過去に審判不開始となった万引き以外には非行歴がないこと
  • 保護者の監護意欲も認められること
  • 逮捕拘留による身体拘束を受けたことで反省を深めていること
  • 本件に加担した5人のうち3人は逮捕・勾留後に観護措置を執られずに帰宅を許されていること

以上の事実関係を考慮すると、少年をさらに少年鑑別所に収容したうえで心身の鑑別を行うまでの必要性があるとはいえない。

この事例は、犯行態様自体は悪質な事件です。

しかし、裁判所は、少年の生活態度や非行歴、反省の態度から収容観護による鑑別の必要性はないと判断しています。

裁判所は、他の共犯者の状況についても言及しており、共犯事件では他の共犯者との均衡も考慮されていると言えるでしょう。

3 東京家庭裁判所決定平成13年7月27日

事案の概要

少年が暴走族の構成員ら数名と共謀のうえ、駐車場内でビールびんにガソリンを入れたうえ、びんの口からタオル片を差し込んで火炎びん約10本を製造した事案です。

火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反保護事件の観護措置決定に対して異議申立てをした事件。

結論

観護措置決定を取り消す。

裁判所の判断

少年は、暴走族の構成員と親交を持っていたものの、加入の誘いは極力断ってきた上、本件の少年の関与は、暴走族の構成員から呼び出されて、火炎びん製造現場で見張りをしていたに過ぎない。

本件直前に、共犯者と共にビールびん2ケースを盗んでいるものの、ビールびんが火炎びん製造に使われると明確には認識していたとは認定できない。

さらに、本件の後は、暴走族の構成員との交際を避けるために、学校にも登校せず、親類宅に身を隠して生活し、共犯者が身体拘束された後は、自宅に戻って真面目に学校に通うようになっていました。

その上、非行歴は比較的軽微なものに止まっていることが認められ、保護者に監護意欲もあります。

以上の事実関係を考慮すると、少年を少年鑑別所に収容したうえで心身の鑑別を行うまでの必要があるとはいえない。

この事案では、事件における少年の役割に着目して、少年の関与の程度は低いものと判断しています。

さらに、事件後の少年の生活態度から、少年は社会内でも十分に更生できる状況にあると考えられるため、収容観護の必要性が否定されたと言えます。

収容観護の必要性の判断においては、事件の重大性や少年が被る不利益だけでなく、少年の状況や性格傾向も考慮されるのです。

4 福岡家庭裁判所小倉支部決定平成15年1月24日

事案の概要

少年が運転免許の交付を受けていないのに、自賠責保険契約が締結されていない原動機付自転車を運転し、一時停止違反、信号無視をした事案です。

道路交通法違反、自動車損害賠償保障法違反保護事件の観護措置更新決定に対して異議申立てをした事件。

結論

観護措置の更新決定を取り消す。

裁判所の判断

少年は、両親の指導に従わず、継続的に無免許運転をしていました。

もっとも、少年に前歴はなく、アルバイトをしながら高校に在学し、両親と同居していたこと、本件事案は比較的軽微なもので、逮捕当初から非行事実を認めていること、両親が監督と裁判所への出頭確保を約束していることなどの事実を考慮すると、罪証隠滅、逃亡のおそれや少年を収容して心身鑑別をする必要性は少なく、その他に少年の収容を継続すべき事由は見当たらない。

さらに、少年は高校3年生で、卒業のために必要な学期末試験を控えていることも軽視することはできない。

以上によれば、少年に対する適切な処遇を決めるために、本件観護措置を特に継続する必要があるということはできない。

この事案は、他の事例とは異なり、いったん観護措置による身体拘束を受けたあとで、観護措置の更新決定が取り消された事案です。

少年は、無免許運転をしていたものの事故は起こしておらず、事案としては比較的軽微なものでした。
その反面、少年は高校3年生で学期末試験を控えており、観護措置が更新されると試験が受けられないという大きな不利益を被る状況にありました。

裁判所は、事案の重大性と少年が受ける不利益を考慮したうえで、少年の収容を継続して心身観護をする必要はないと判断したのです。

第4 まとめ

観護措置決定において、家庭裁判所が当初から在宅観護を選択するケースはほとんどありません。
観護措置決定を取り消すには、決定に対して異議申立てをする必要があります。

異議申立ての結論が出るまでの期間は、観護措置が執られることになります。

少年の早期釈放のためには、すぐに異議申立ての手続きをすることが重要です。

異議申立てが認められるためには、観護措置の必要性が否定されなければなりません。

そのうえで、罪証隠滅のおそれがないこと、逃亡のおそれがないことは前提条件と言えるでしょう。

少年が事件を否認している場合や、住居不定の場合、両親の監督が期待できない場合には、基本的に異議申立ては認められません。

異議申立てをする付添人としては、罪証隠滅のおそれがないこと、逃亡のおそれがないことの説明を前提に、収容観護の必要性がないことをいかに説明できるかが観護措置の必要性が否定されるか否かの大きなポイントとなるでしょう。

収容観護の必要性の判断においては、事案の内容非行歴が重視されます。

そのため、重大な事件や、少年が多数の非行歴を有する場合には、その他の事情にかかわらず収容観護の必要性があると判断されてしまうでしょう。

収容観護の必要性を否定するには、収容されることによ少年が受ける不利益が大きいことを説明する必要があります。

軽微な事件で、少年の身体拘束を継続すると少年が退学解雇に追い込まれるといった事情があるときには、収容観護の必要性が否定される可能性があります。

✍ 付添人(弁護士)の活動ポイント

家庭裁判所の裁判官は、観護措置の前に少年に対して審問手続を行います。

観護措置を阻止するためには、審問手続より前に、家庭裁判所裁判官に対し、収容されることによって生じる不利益が大きいことを説明し、観護措置をしないよう申し入れることも大切です。

捜査機関(警察官・検察官)や裁判所は、少年に具体的にどのような不利益が生じるかまで把握しているわけではありません。

そのため、少年側の事情をしっかりと伝える役割を担う人が必要になります。

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