青少年健全育成条例違反で少年院送致された事例(条例の罰則と少年への適用)
本件は、少年が、深夜、被害女性(17歳)が18歳に満たないことを知りながら、5名の男子少年で被害女性を取り囲み、同女にいわゆる野球拳を行った後、順次性的行為を行ったという、千葉県青少年健全育成条例20条違反保護事件(「単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない性行為」をした)です。
家庭裁判所は、少年の行為が、千葉県青少年健全育成条例(以下「本条例」という。)20条1項(みだらな性行為等の禁止)に当たるとして、同項違反の非行事実を認定し、少年に対し、短期処遇の意見を付した上で第1種少年院に送致する旨の決定をしました。
これに対して、付添人(弁護士)が抗告したのが、東京高裁の本決定(抗告棄却)です。
本条例20条1項は、「何人も、青少年に対し、威迫し、欺き、又は困惑させる等青少年の心身の未成熟に乗じた不当な手段によるほか単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない性行為又はわいせつな行為をしてはならない。」と規定しています。
他方、本条例30条本文は、「この条例に違反した者が青少年(注:小学校就学の始期から18歳に達するまでの者をいう。本条例6条1号)であるときは、この条例の罰則は、青少年に対しては適用しない。」と規定している。
家庭裁判所で保護処分の決定をする場合の「罪を犯した少年(少年法3条1項1号)」については、刑の減免事由、処罰阻却事由がない場合でも、犯罪が成立している以上、犯罪少年として審判に付すことができると解されています。
この考え方を前提とすれば、本条例30条本文が、構成要件該当性や違法性を阻却する趣旨ではなく、単に処罰阻却の趣旨であれば、本条例20条1項違反の行為を行った少年に対し、同事実を非行事実として保護処分の決定をすることができることになる。
そこで、当時「青少年」であった少年について、本条例20条1項の行為を非行事実とする保護処分が可能であるか否か、本条例30条本文の趣旨が、構成要件該当性や違法性を阻却するものか、あるいは、単に処罰阻却の趣旨で定められたものかという点などと関連して、問題となりました。
1 裁判所の判断 ~ 東京高裁平成28年6月22日決定
1 家庭裁判所の判断
本条例20条は、青少年の性が欲望の対象とされやすいという社会的背景を前提に、性行為やわいせつな行為が未成熟な青少年に与える影響の大きさに鑑み、このような行為から青少年を保護するために定められたものであるところ、このような目的は、行為者が青少年か否かで異なるものではないこと、本条例20条1項が「何人も」と規定しているのは、その趣旨の表れと考えられること、本条例30条本文の規定は、行為者が青少年である場合に、構成要件該当性や違法性を阻却する規定ではなく、処罰を免除する規定であり、少年法が定める保護処分は、少年の保護、教育を目的とするもので、処罰ではないから、保護処分に付すことは可能であることなどを説示しました。
2 東京高裁の判断
本条例は、20条1項において、何人に対しても、単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない性行為またはわいせつな行為をすることを禁止し、30条本文において、「この条例に違反した者が青少年であるときは」罰則を適用しない旨を定めているのであって、このような本条例の文言の解釈として、30条本文が構成要件該当性が欠け、あるいは違法性を阻却するという趣旨ではなく、むしろ、処罰阻却事由ととらえる方がその文理に忠実であるというべきである。
また、このような解釈をしても、刑事処分に処せられることを前提として検察官送致されることと保護処分に付されることとは、それぞれの性質に照らして意味あいが大きく異なるのであるから、同項本文とは検察官送致の可能性の有無が異なるだけであるといっても、同項ただし書の意味が失われることにはならない。
3 コメント
少年事件における保護処分は、刑罰を与える刑事手続とは全く性質が異なるものと理解されています。
その性質の違いから、本条例30条の規定があったとしても、本条例違反によって少年院等の保護処分に付すことは、何ら問題がないと裁判所は判断しました。
2 処遇選択の理由
東京高裁も、以下の原審判断を肯定し、第1種少年院送致として家庭裁判所の判断は著しく不当であるとはいえないとして、付添人の抗告を棄却しました。
本件は、当時の少年方において、5名の男子少年で被害者を取り囲み、いわゆる野球拳を行った後、順次性的行為をさせられて心身ともに疲弊状態にあった被害者に対し、少年が性的行為に及んだものであり、前記のとおり、Aから指示されて本件非行に及んだものではあるとしても、Aに強い抵抗を示すことができず、被害者の気持ちを慮ることもなく、自己防衛のために本件非行に及んだという経緯や態様に酌むべき点は乏しく、被害者の苦痛や将来に与える影響等も考慮すると、本件非行を軽くみることはできないこと、前回、詐欺未遂(いわゆる振り込め詐欺の受け取り役)の事実で逮捕され、観護措置を経て、平成26年11月に保護観察処分となり、不良仲間との交際の禁止や就労の継続が特別遵守事項として定められたにもかかわらず、不良仲間と同居してスロット等の遊びを中心とする昼夜逆転の生活を送るようになる一方、担当保護司への来訪の約束を守らず、指導に応じないことが増えていく中で、本件非行に及んだこと、本件後、実兄の指導の下、不良仲間との関係を経ち、複数のアルバイトを試みるなどしたものの、結局、生活は安定しなかったこと、鑑別及び調査の結果によれば、少年は、主体性に乏しく、集団に追従的であり、自ら問題を設定してその達成に取り組むことが苦手であるとされていることなどの事情からすれば、少年が、これらの問題性を改善しない限り、再非行に及ぶ可能性が否定できず、少年の保護者による指導及び監督にも限界があることなどを指摘して、少年の要保護性は低くなく、社会内での処遇には限界があるといわざるを得ないとし、短期処遇の意見を付けた上、少年を、第1種少年院に送致するのが相当である。