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窃盗等での少年院送致が取消 ⇒ 保護観察とされた事例

本件は、少年(14歳乃至15歳)が、1年余りの間に、スーパーの文房具売場の文房具を110点余り、図書館の備品(タブレット端末1台)、アルバイト先のコンビニの現金10万円を盗んだ3つの窃盗事件と、放置自転車1台を持ち去った1つの占有離脱物横領事件です。

少年には、過去に保護処分歴等はありませんでしたが、家庭裁判所は第1種少年院送致を決定しました。

これに対して付添人(弁護士)が抗告をしました。

本件(東京高裁)は、試験観察に付すことを含め、社会内処遇の可能性を十分に検討すべきであって、処分が著しく不当であるとして、家庭裁判所の決定を取消しました(差戻された後、保護観察となっています)。

少年に対する処遇を検討するにあたっては、殺人、強盗、放火等の重い罪名の非行でない限り、段階的処遇の観点を重視して処遇選択すべきであって、特に少年院送致の場合などに段階的処遇の観点によらない場合には、相応の合理的理由が必要とされています。

本件は、少年に家裁での保護処分歴もなかったことから、段階的処遇の観点からは、相応の合理的理由が問われるべきで、原審家庭裁判所の判断には不十分な検討、評価があったものといえる事案です。

1 事案の概要 ~ 東京高裁令和2年4月3日決定

本件は、少年が、①共犯少年と共謀の上、平成30年△月×日、○○市内の総合スーパー文房具売場において、シャープペンシル3本ほか115点(販売価格合計9万9429円)を窃取し、②平成31年△月×日、同市内の市立図書館において、同館のタブレット端末1台(時価約1万2000円相当)を窃取し、③令和元年△月上旬頃、同市内の自転車駐車場内において、何者かが他から窃取した自転車1台(時価約1万円相当)を発見したが、自己が使用する目的でこれを持ち去り、④同年△月×日、同市内のコンビニエンスストアにおいて、同店の現金10万円を窃取した(以下、それぞれを「①の非行」などという。)という事案です。

2 裁判所の判断

1 家庭裁判所の判断(第1種少年院送致決定)

本件各非行の犯情は、態様・結果・動機をみると、全体として軽視し難い非行といえる。

その上で、少年は、携帯電話機を使用したゲームに熱中し、親の指導に反抗的な態度をとる中で、窃盗の非行(①及び②の非行)に及び、高校入学後も上記ゲームばかりをして成績不振に陥り、友人と夜遊びを繰り返す中で、その余の非行(③及び④の非行)に及んでいるところ、鑑別結果(精神科診断の結果等)等によれば、少年には、衝動的で抑制力が乏しく、目先の欲求で短絡的に行動するなどの問題点が認められ、その背景として、知的能力の制約(境界域)に加え、ADHD(注意欠陥多動性障害)が併存している可能性や、両親との情緒的交流が乏しく、少年がストレスを抱えてきたという家庭環境があることなどに照らすと、少年の問題性は、その資質や家庭環境に深く根差しているといえる。

そして、1年余りの間に窃盗等の財産非行を重ね、歯止めがかからなくなっていることからすると、少年の非行性は相当程度進んでいるといわざるを得ず、保護者や学校という保護環境が整っているとはいえないことも考慮すると、社会内処遇による更生は困難かつ不相当というほかないとして、少年を第1種少年院に送致した。

2 本件東京高裁の決定(取消差戻)

少年の非行性の程度について、本件各非行は、全体として軽視し難い非行であるが、基本的には窃盗の範疇に限定されており、非行の広がりは見られないこと、本件各非行の間の高校入学後、少年には怠学傾向や学校への不適応は見られず、夜遊びの点も、深夜徘徊による補導歴は1回であり、不良傾向の強い者らとの交友もうかがえないことなどを指摘して、これらの事情は、非行性の程度を検討する上で十分踏まえる必要がある。

少年には、中学3年の夏頃以前に特段の問題行動は見られず、これまで家庭裁判所係属歴もなく、保護的措置や保護観察による指導等を受けたにもかかわらず、非行を繰り返したわけではないから、直ちに施設内における矯正教育が必要であるといえるほど、少年の非行性が深化しているとはいえない

そして、原決定が指摘する少年の問題性については、鑑別結果等によれば、少年は、両親が叱るだけで情緒的な交流が少なく、承認欲求等が満たされないことの代償として、友人の歓心を買うために窃盗を繰り返していた側面が強いと考えられるとした上で、鑑別の一環として行われた精神科診断の結果では、ADHDの存在はあくまで可能性のレベルにとどまり、窃盗も常習的といえるほどの回数ではなく、ゲームへの依存傾向はあるが、登校を維持するなど社会生活の崩れには至っていないなどとされているところ、原決定では、このような点を踏まえた考察はされていない(なお、仮に、少年にADHDという特性があり、本件各非行に何らかの影響を与えているとしても、医療的措置を含む適切な指導がされてこなかったという事情がある。)として、少年の資質上の問題性が大きく、これが本件各非行に直接的に現れているとするには疑問がある。

以上の点から、本決定は、少年の非行性や問題性に関する原決定の評価には誤りがあるとして、両親が監護姿勢を改める考えを持ち、少年との関係に変化が生じているほか、少年は高校への復学が可能とされ、社会的資源が存在することにも照らすと、社会内処遇の可能性を十分に検討することなく、少年を第1種少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である。

3 コメント

1 処遇選択の基準

少年に対する処遇を検討するにあたっては、非行事実の軽重及び要保護性の程度などを考慮した総合的な判断がなされます。

そして、一般的に、非行事実の軽重と要保護性の程度は相関していると理解されています。

少年に対する処遇を判断するにあたっては、非行事実の軽重と要保護性の程度を総合考慮します。
処遇選択の判断要素

同じ基準を用いながらも、認定された事実をどのように評価するかによって、担当する裁判官によって評価(決定)が分かれることがあります。

本件は、その好例の1つといえます。

2 本件における非行事実の軽重

本件各非行の内容は、軽視し難いとはいえ、直ちに少年院送致を基礎付けるほど重大とは言い難いでしょう。

しかも、非行事実からうかがわれる少年の問題性は盗癖等に限定されていると考えられること、少年には家庭裁判所係属歴がなく、非行が進んでいるとまではいい難いことなどの事実にも照らすと、犯情を含めた少年の非行性に対する家庭裁判所の評価は不相当といえる事案です。

3 本件における要保護性の程度

本決定は、少年が高校に適応していないとはいえないことのほか、少年の両親がこれまでの監護姿勢を改める意向を示し、少年も、今後は両親の指導に従って更生する意欲を有するに至っている旨説示しています。

本決定によれば、鑑別結果通知書において、少年は学校を居心地の良い場所と捉えるなど、健全な生活観は損なわれていないと指摘されています。

このような事実に照らしてみますと、保護環境等が整っているとはいえないという家庭裁判所の説示についても、合理的とはいえないでしょう。

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