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勾留の要件を解説|裁判官が重視するポイントー早期相談の重要性ー

ご自身、ご家族の方、知人の方が逮捕されたとき「勾留されるのか」「いつ釈放されるのか」は最も不安な点です。

裁判官が勾留1を認めれば、最初は勾留請求日から10日間、延長されれば最長20日間も身柄が拘束されることになります。

この「勾留」が決まるかどうかで、その後の生活や仕事、家族への影響は大きく変わります。したがって、勾留の要件を正しく理解し、弁護士に早期に相談することが重要です。

まずは法律上のルールと、実務で判断されやすいポイントを整理します。

※本記事は、現在の実務上の取扱いを説明するものであり、賛同できない箇所もありますので、ご留意ください。本記事は公開日時点の情報を基に作成しています。

1. 勾留の要件の全体像

勾留は、逮捕後に検察が勾留を請求し、裁判官がその請求を認めた場合に行われます。条文上は、(大まかに)次の要件が必要とされています(刑事訴訟法207条1項が、被告人に関する規定の同60条を準用しています。)。

第60条(勾留の要件)※ 2項・3項は省略
1 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

整理すると以下の通りです。

Ⅰ 罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があること

Ⅱ 勾留の理由

➀(一定の場合に)定まった住居を有しないこと(住居不定)

②罪証を隠滅するおそれがあること

③逃亡のおそれがあること

➀~③のいずれかとされていますが、一般的には、➀~③全てについて判断されています。

Ⅲ 勾留の必要性

勾留の理由があっても、「勾留の必要性」が認められなければなりません。

勾留請求が却下されたり、準抗告1の申立てにより勾留の判断が覆る多くのケースは、「勾留の必要性」が認められないことを理由とするものであると言われています。

2. 「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」

(1) 意義

「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」とは、捜査段階で犯罪の嫌疑が肯認できる程度の事情があることをいいます。起訴後に要求される有罪立証より軽い基準ですが、単なる不確かな疑い(漠然とした不安)では足りません。

実務・学説では「具体的根拠に基づいて犯罪の嫌疑が一応是認できる程度の理由」が必要などと解されています。

(2) 実情

もっとも、殆どの裁判官は、捜査は流動的で並行して捜査が行われている段階であるため、事件をよりよく知っているのは捜査官であると考え、捜査機関の判断を尊重する、謙抑的な姿勢を持っているように見えます。

通常逮捕時に逮捕状を裁判官が発付しているような事例ではなおさらです。

残念ながら、「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」が認められないと判断される事案は殆どみられません。

3. 「住居不定」

(1) 意義

条文の「定まった住居を有しないとき」は、単に住所が不明な場合だけでなく、捜査機関が被疑者に定まった住所(居所)を確認できない・確保できない状況を指します。

(2) 実情

野宿や定住しない生活、住所を隠す・虚偽の住所を申告する、連絡手段が確保できないなども該当し得ます。

裁判例・学説でも、捜査手続(呼び出しなど)が困難になる点が重視されています。

住居不定があると判断されれば、軽微な犯罪でも勾留が許される余地があります。

4. 「罪証隠滅のおそれ」

(1) 意義

「証拠に対して不正な働き掛けを行い、終局的判断を誤らせたり、捜査や公判を紛糾させるなどのおそれがあること」などと言われます。

勾留理由で最も争点になりやすいのがこの「罪証隠滅のおそれ」です。

「抽象的なおそれ」では足りず、具体的な資料に基づいた当該事案における具体的蓋然性であることを要する とされています。

被疑者とされた本人がいくら「証拠隠滅をしない」と言っても、客観的事情も含めて判断されてしまうのが現実です。

(2) 考慮要素 ➀対象、②態様、③余地、④動機

➀対象(何が隠滅され得るか)

まず対象となる事実ですが、犯罪事実のみならず、重要な情状事実も含まれるとされています。

  • 犯罪事実
    • 犯人性(アリバイなども含まれます)など
    • 犯罪の構成要件該当2に該当する事実3違法性4責任56に関する事実など
  • 重要な情状事実
    • 犯行に至る経緯、動機、犯行手段
    • 共犯事案における共謀の成立過程・地位や役割・犯行後の利益の分配など

②態様(どのような隠滅があり得るか)

隠滅の対象となる証拠
  • 物証
    • たとえば、凶器、盗品、書類、デジタル端末のデータ等など
  • 人証
    • 被害者の方や目撃者の供述(目撃者への働きかけで供述が変わる等)

に整理できます。

※ 証拠と言うと、物と考えられがちですが、人の話(供述)も重要な証拠です。

裁判官も供述に関する罪証隠滅を重視しているように感じます。

隠滅態様
  • 物証の破棄・隠匿など
    • 凶器・被害品・スマートフォンなどを捨てる、隠す
    • スマートフォンの通話履歴や消去
    • 物的証拠の作出(アリバイ写真の作出など)
  • 証人への働きかけ等
    • 脅迫・説得・接触して証言を変えさせる
    • アリバイを作出する口裏合わせ

※ 隠滅と言うと、隠したり・壊したりというイメージですが、新しい証拠の作出も隠滅に含まれることに注意です。

表による整理

表でまとめると以下のようになります。

罪証隠滅の対象と態様
消極的隠滅 積極的隠滅
人証 関係者に接触し供述を変えるよう働きかける等 アリバイがあったなど関係者と口裏合わせを行う等
物証 凶器や被害品を隠す・壊す
スマートフォンのデータを消去する等
アリバイの写真を作出する等

③余地(客観的に可能か・実効性はあるか)

裁判所は「隠滅する余地」があるかを評価します。

隠滅困難な事案の例

例えば、以下のような例があります。

  • 既に証拠物の押収・鑑定が済んでいる場合
    • 物証隠滅の余地はまず考え難い
  • 公務執行妨害など重要証人が警察官などである場合
    • 供述を変えさせるというの働きかけは困難
    • 金品を渡してという可能性は抽象的
      • 贈賄罪になり得るので「この罪でそこまでやるか?」という問題になってくる。
      • 公務執行妨害罪の法定刑は、「法定刑は3年以下の拘禁刑もしくは禁錮、または50万円以下の罰金」と比較的軽い。
被害者の方がいる事案の例
  • 被害者の方がいる事案
    • 被害者の方が顔見知りかどうか
    • 顔見知りではなくても居住地や通勤・通学ルートが近いか

などの点も考慮されています。

関係者への事情聴取
  • 逮捕時にはすでに被害者の方など主要な事件関係者に対する警察の事情聴取は一度は済ませていることが多い
    • 供述調書7も作成されているはず
  • 果たして警察署で事情を聴かれ供述調書を作成しているであろう事件関係者の供述が、何らかの接触により本当に変わり得るのか「当該事案における具体的蓋然性」が本当にあるのかは、疑問
  • しかし、現実的には、(検察官が事情を聴いていないからか)「さらに事情を聴く必要がある。」ことが重視され、罪証隠滅の余地があるかのように評価されることが多いのが実情

万が一、供述が覆ったとしても、働きかけにより覆った供述が当初の供述より信用できるとされる可能性があるのかは厳密に判断されるべきと考えます。

「証言が変わるかもしれない」「証言が変わったら終局的判断を誤るかもしれない」では「当該事案における具体的蓋然性」とは到底言えないでしょう。

このあたりは、徹底的に分析して検察官や裁判官を説得する必要があります。

④動機(主観的可能性)

  • 事案の重大性
    • たとえば、重大事案であれば、厳しい刑罰が予想されるので、なりふり構わず行う動機がある方向に評価される
    • 予想される刑罰を考えるにあたり、前科・前歴の有無も考慮される
  • 人的関係
    • 接触しやすいのであれば動機がある方向に評価される
  • 証拠隠滅の余地
    • 機会が高ければ動機がある方向に評価される
  • それまでの罪証隠滅工作の有無
  • 供述態度
    • 否認していると動機がある方向に評価される

などが考慮されると言われています。

事案の重大性、前科8910前歴1112などを含め、まずは起訴される可能性がある事案か、起訴されたとして執行猶予付判決1314の可能性が高い事案か、刑務所に収容される実刑判決15の可能性が高いかなどがポイントになると考えられます。

賛同はできませんが、否認16している場合には、罪を認めている場合と比較して主観的可能性があると判断されやすいのが現実です。

5. 「逃亡のおそれ」

(1) 意義

逃亡のおそれは「処罰を避けるために被疑者が国外・遠隔地に逃れる、あるいは出頭を拒むおそれ」を意味します。

(2) 考慮要素

➀生活不安定のために所在不明となる可能性

②処罰を免れるために所在不明となる可能性

から判断されると言われます。

罪証隠滅のおそれと同様、被疑者とされた人本人がいくら「逃げない」と言っても、客観的事情も含めて判断されてしまうのが現実です。

➀生活不安定のために所在不明となる可能性

生活不安定のために所在不明となる可能性については、社会的地位・家族関係・職業の安定性が考慮されます。

一般的には、家族や職が安定していると逃亡しにくいと評価されるためと考えられます。家族や生活を捨ててまで、逃亡による処罰を免れることをするだろうか?という視点と言い換えることができます。

②処罰を免れるために所在不明となる可能性

処罰を免れるために所在不明となる可能性は、罪証隠滅の主観的可能性と似ています。

事案の重大性、前科前歴などを含め、まずは起訴される可能性がある事案か、起訴されたとして執行猶予付判決の可能性が高い事案か、刑務所に収容される実刑判決の可能性が高いかなどがポイントになると考えられます。

捜査機関に対する供述態度も考慮要素とする関係もあります。

6. 勾留の必要性

(1) 意義

条文上の根拠は刑訴法87条の反対解釈と言われています(被疑者勾留については刑訴法207条1項によって準用される同87条)。

基本的には比例原則的な判断で、

勾留することにより得られる利益、勾留により被る不利益の比較衡量によるとされています。

(2) 考慮要素

以下のような整理が可能です。

  • 勾留することにより得られる利益
    • 勾留の理由の度合い(罪証隠滅や逃亡のおそれの高さ)
      • 罪証隠滅や逃亡のおそれが高い事案であれば、勾留による守られる捜査の適正な進行という利益が守られるという発想かもしれない。
    • 事案の軽重
      • 重大な事案であれば、罪証隠滅や逃亡を防ぐ公益的な要請も高いという発想かもしれない。
  • 勾留により被る不利益
    • 身体拘束が続くことによって健康状態が悪化する
    • 勤務先での業務への支障
    • それらによる生活への影響

家族等の事情も考慮されえます。被疑者とされた人の家族の保護が必要で、他に保護できる人がいない場合などが考えられます。

7. まとめ

(1) 勾留の判断がされたときのリスク

  • 延長前の最初の勾留の期間は、勾留請求日から10日間とされるのが実務。
    • 一度勾留されると10日間は身体拘束が継続される可能性が出てきます。
    • 勾留に対しては、準抗告申立という不服申立てもある。
      • 準抗告は事後審17的な考え方により最初の勾留の判断が尊重されてしまうリスクもある。
    • 勾留取消請求(刑訴法87条)
      • 裁判官はなかなか簡単には認めない印象です。

そのため、逮捕されたら、勾留の判断が出る前に検察官に勾留請求をしないよう求める、裁判官に勾留請求を却下させるよう求める活動が大切です。

逮捕されてしまった後の基本的な流れは以下もご参照ください。

(2) 専門家にご相談するメリット

ご紹介した通り、勾留の判断は、法律で定められた要件を裁判官が判断することになりますが、被疑者とされてしまった本人が、「証拠隠滅をしない」「逃げない」と言っても、客観的事情も含めて判断されてしまうのが現実です。

専門知識を有する弁護士に依頼し、法的な観点から事情を整理し、検察官や裁判官に働きかけることは重要です。
お早目のご相談をお勧めします。

8.他の記事

9.用語解説など

  1. 準抗告:裁判官が行った、勾留・保釈・押収などに関する裁判に対して、その取消や変更を求める申立
  2. 構成要件:様々な理解があるが、ここでは刑法などの刑罰法規に定められている犯罪が成立するための条件という程度の意味合い
  3. 構成要件該当事実の例:たとえば、窃盗罪であれば、物を取ったという事実
  4. 違法性の意味と例:様々な理解があるが、「処罰に値し、法的に許容されないこと」などといわれることがある。例として、違法性阻却事由であるえ正当防衛に該当する事実が挙げられる。
  5. 責任の意味と例:様々な理解があるが、「構成要件に該当する違法な行為が行為者に主観的に帰属すること」などといわれることがある。例として、刑事責任能力に関する事実が挙げられる。
  6. 刑事責任能力:刑法上の刑事責任を負担できる能力
  7. 供述調書:捜査機関が被疑者や参考人の立場にある人を取調べたときに、その供述を記録した書面
  8. 前科確定判決で刑の言い渡しを受けたこと。
  9. 確定判決:上訴の期限の経過や上訴権放棄などの理由により、通常の上訴という手段では取り消すことのできない状態になった判決。
  10. 上訴:裁判が確定しない間に、上級裁判所へ、裁判の取消や変更を申し立てること。
  11. 前歴:捜査機関から犯罪の疑いをかけられて捜査の対象になった履歴を指すことが多い。不起訴に留まれば、前科はなく、前歴に留まることになる。
  12. 不起訴:検察官の事務処理のうち公訴を提起しないこと
  13. 執行猶予:刑の言い渡しはするが、情状によって刑の執行を一定期間猶予し、猶予期間を無事経過したときは刑罰権を消滅させる制度。
  14. 刑の執行:刑を言い渡す判決が確定したときに、その内容を実現させること
  15. 実刑:執行猶予のつかない拘禁刑
  16. 否認:刑事事件においては、被疑者や被告人の立場にある人が、捜査や裁判の対象となっている犯罪事実(被疑事実や公訴事実)を否定していること
  17. 事後審:上訴審が原裁判を対象として原審の資料だけに基づいてその当否を審査するという構造を持つ審理手続。ただし、実際の運用では原裁判以降に生じた事由や、原裁判で提出されなかった資料もある程度までは許容されている。