少年の暴行・傷害~現状と弁護士・保護者に求められること
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少年の暴行・傷害事件にはどのような特徴がありますか?
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少年の暴行・傷害事件は、喧嘩で相手にケガを負わせてしまったケースや、カツアゲの延長線上で手を出してしまったケースなどが多くなっています。
一般に、暴行・傷害事件で重い処分となるケースは少ないものの、凶器を使用した場合や、相手に大けがを負わせてしまった場合には初犯での少年院送致もあり得るでしょう。
令和5年版の犯罪白書によると、少年の暴行事件は1,461件、傷害事件は1,942件でした。
少年事件としては、窃盗事件・道路交通法違反事件に次いで件数の多い犯罪です。
単独での暴行事件や、ケガの程度が軽い傷害事件で逮捕・勾留されるケースは、多くありません。
少年の暴行・傷害事件で逮捕・勾留されるケースは、犯行態様が悪質なものや、被害者が大けがをしているものが多くなっています。
そのため、逮捕・勾留されているケースで重い処分を避けるには、弁護士・保護者による早めの対処が重要です。
第1 少年による暴行・傷害事件の現状
少年による暴行・傷害事件で多いのは、次のような事例です。
- 喧嘩で相手にケガを負わせた
- 集団でのリンチ事件
- 男女関係のもつれから手を出してしまった
- グループ同士での喧嘩
多くの人が事件に関わる共犯事件やケガの程度が重い事件では、逮捕・勾留される可能性が高くなります。
逮捕・勾留される事案では最終的にも重い処分となることが多いため、被害者との示談や生活環境の調整など重い処分を避けるための活動が重要となるでしょう。
令和5年版の犯罪白書によると、少年による刑法犯の検挙人員は21,401件で、そのうち、暴行事件は1,461件、傷害事件は1,942件でした。
暴行・傷害事件よりも検挙人員が多いのは、窃盗事件(11,159件)のみです。
暴行・傷害事件は、窃盗と道路交通法違反の事件に次いで3番目に多い類型の犯罪となっています。
【参照】令和5年版犯罪白書|法務省
第2 暴行罪・傷害罪とは?
1 暴行罪
暴行罪は、暴行を加えた人が相手に傷害を負わせるのに至らなかった場合に成立します(刑法208条)。
ここでの「暴行」とは、他人の身体に向けた不法な有形力の行使のことです。
相手を殴る、蹴るといった行為はもちろんのこと、刀を振り回す、目の前に石を投げつけるなど、相手の身体への直接の接触がない行為も「暴行」に当たります。
他には髪の毛を切る、塩をふりかけるなど、それ自体で相手にケガをさせる危険はない行為でも、「暴行」と認定されるケースは多いです。
2 傷害罪
傷害罪は、人の生理的機能に障害を加えた場合に成立します(刑法210条)。
傷害罪の多くは、暴行によって傷害を負った場合に成立します。
しかし、傷害罪が成立するのは暴行を手段とする場合には限定されません。
たとえば、性行為によって相手を性病に感染させてしまった場合や、嫌がらせ電話で相手を精神的な病気に追い込んだ場合にも傷害罪が成立する可能性があります。
少年事件では、単純な暴行罪で逮捕・勾留されるケースはほとんどありません。
しかし、集団での暴力事件では、暴行罪の共犯として逮捕・勾留されてしまうこともあります。
また、男女関係のもつれから暴行に及んだケースでは、被害女性との関係を考慮して重い処分が下されることもあるでしょう。
(傷害)
第204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。(暴行)
🔗「刑法」(e-Gov法令検索)
第208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
第3 少年が暴行罪・傷害罪で逮捕された場合の手続の流れ
少年が暴行罪・傷害罪で逮捕されると、72時間以内に釈放されるか引き続き勾留されるかが決まります。
多くのケースでは、引き続き勾留となる可能性が高いです。
1 逮捕
逮捕中(勾留までの72時間)は、弁護士以外が少年と面会することはできません。
2 勾留
勾留の期間は10日間です。
事件の内容によっては、さらに10日間延長されるケースもあります。
つまり、逮捕の期間を合わせると、最大で23日間の身体拘束を受ける可能性があるのです。
勾留された後は、ほとんどの警察署では1日に1組だけしか一般面会が許可されていません。
つまり、保護者や友人が、別々に同じ日に来ることはできません。
また、接見禁止が付される場合もあり、そのような場合には少年と面会が許される弁護士の役割はより大きなものとなります。
(ただ、少年事件では、接見禁止が付されていても、保護者との面会だけは許可されるなど、柔軟な運用がなされることも多くあります。)
また、身体拘束から早期に解放されるためには、被害者との示談交渉も重要となります。
3 家庭裁判所への送致後
勾留期間が終わると、少年は家庭裁判所に送致されます。
家庭裁判所では、観護措置決定により少年を引き続き少年鑑別所に収容するか、そして、少年審判を開始するかの判断を下します。
逮捕・勾留されたケースで、少年審判が不開始となる可能性は高くないでしょう。
被害者との示談が完了している事件や、家庭環境が整っているケースでは観護措置を避けられることもあります。
4 観護措置(少年鑑別所)
観護措置決定により少年鑑別所に収容される場合、そこから4週間は収容生活を送り、少年審判を迎えます。
暴行・傷害事件では、保護観察処分が真っ先に浮かぶ処遇です。
しかし、被害者との示談が進んでいない場合や、ケガの程度が重い場合、過去にも同様の事件で少年審判を受けている場合などは、少年院送致となることもあります。
第4 暴行罪・傷害罪と付添人(弁護人)の活動とは
少年が暴行罪・傷害罪で検挙された際の付添人の活動としては、次のようなものが挙げられます。
- 少年と面会して取り調べや生活面でのサポートを行う
- 被害者との示談交渉を行う
- 学校や職場に戻れるよう調整を行う
- 検察や裁判官に意見書を提出する
以下では、それぞれの具体的な内容について解説します。
1 少年と面会して取り調べや生活面でのサポートを行う
付添人(弁護士)は、逮捕・勾留された少年と自由に面会できます。
少年は、外部と連絡が取れないことや、取り調べにどのように対応すべきかがわからないことで大きな不安を抱えています。
付添人は、少年の不安を解消するために、両親からの言葉を伝えたり、取り調べに対するアドバイスを与えたりといった活動をおこないます。
特に、取り調べに対するアドバイスについては、早めに伝えることが重要です。
不安を抱えた少年は、警察官の言うままに事件を認めてしまうこともあります。
少年が自分の意見をはっきりと伝えられるようサポートすることは付添人の重要な役割と言えるでしょう。
2 被害者との示談交渉を行う
逮捕・勾留からの早期解放や少年審判で重い処分を避けるためには、被害者との示談交渉が重要です。
傷害で被害者が通院しているときには、早期に示談を成立させて治療費や慰謝料を支払うことで重い処分を免れることができます。
共犯の事件では、他の少年の付添人と共同して示談交渉を進めるケースもあります。
3 学校や職場に戻れるよう調整を行う
逮捕・勾留から観護措置と身体拘束の期間が長くなると、学校や職場に戻るのが難しくなります。
少年が社会復帰しても戻る場所がなくなると、再び非行に走ってしまう可能性も高くなるでしょう。
付添人は、少年が身体拘束を受けている期間に学校や職場との話し合いをして、できる限り寛大な処分で済むように働きかけます。
すぐに釈放される見込みがあるときには、関係者に逮捕の事実が伝わらないように付添人活動を行うケースもあります。
少年の社会復帰においては、家庭環境も重要です。
付添人は保護者と連絡を取り合いながら事件への対応を行いますが、その際は保護者に家庭環境の問題点を話し合いながら、共により良い道を模索します。
4 裁判官との協議(カンファレンス)や意見書を提出する
少年事件の手続きの中で、検察や裁判官は少年の捜査・調査を行いますが、少年の全てを把握できるわけではありません。
付添人は、少年や保護者との面会、被害者との示談交渉などの付添人活動から少年にとって有利な事情や更生の可能性を見出し、それを意見書の形にして裁判所に提出したり、審判の進行や処遇について調査官、裁判官と協議(カンファレンス)を行います。
少年の早期釈放を目指したり、重い処分を避けたりするには、裁判官に伝えたい情報を意見書で伝えておくことも重要な付添人活動の1つです。