暴走行為と少年事件~現状や保護者・弁護士ができること
バイクでの集団暴走行為は、道路交通法において共同危険行為として禁止されています。
共同危険行為は、「2人以上」の暴走行為で成立する犯罪なので暴走族に所属していなくても犯罪は成立します。
実際、近年は暴走族による集団の暴走行為ではなく、少人数の暴走行為で検挙されるケースも多いです。
現行犯でなく、後日逮捕状によって逮捕するケースも多いため、暴走行為を繰り返している場合には、いつ警察官が逮捕状を持ってきても不思議ではありません。
今回は、少年の暴走行為の現状に触れたうえで、共同危険行為がどのような場合に成立するか、少年の暴走行為における付添人活動はどのようなものかを解説します。
第1 少年の暴走行為の現状
暴走行為の禁止(共同危険行為)については、道路交通法68条に規定されています。
共同危険行為で禁止される具体的な行為としては、広がり通行、信号無視、蛇行運転、交互追い越し運転、渦巻き運転などが挙げられます。
(共同危険行為等の禁止)第六十八条 二人以上の自動車又は原動機付自転車の運転者は、道路において二台以上の自動車又は原動機付自転車を連ねて通行させ、又は並進させる場合において、共同して、著しく道路における交通の危険を生じさせ、又は著しく他人に迷惑を及ぼすこととなる行為をしてはならない。 第百十七条の三 第六十八条(共同危険行為等の禁止)の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 参照:e-Gov法令検索 |
少年が共同危険行為で検挙されると、少年審判による保護処分を受けるケースが多いです。
ただし、共同危険行為の禁止違反については、2年以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑罰が規定されています(道路交通法117条の3)。
少年でも18歳以上の特定少年については、逆送決定により刑罰が科される可能性もあります。
もちろん、共同危険行為だけでなく、速度超過や酒気帯び運転などにより人身事故を起こした場合には、危険運転致死傷罪により、少年であっても重い刑罰が科される可能性が高いです(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条)。
(危険運転致死傷)第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為五 車の通行を妨害する目的で、走行中の車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為六 高速自動車国道又は自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為七 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為八 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為参照:e-Gov法令検索 |
かつて、少年の暴走行為としては暴走族として大人数で徒党を組んだ集団暴走がほとんどでした。
しかし、近年では、暴走族による集団暴走は激減しています。
警察庁の統計によると、暴走族のグループ数は平成14年には1200を超えていましたが、令和3年のグループ数は110です。
暴走族の構成員となる少年の数も、平成14年には1万5,000人ほどいたものが、令和3年には2540人にまで減少しています。
最近の傾向としては、SNSなどで初めて会う少年同士がバイクに乗って暴走するといった少人数での暴走行為が増えています。
共同危険行為は「2人以上」で成立する犯罪であるため、少人数の暴走行為でも共同危険行為による検挙の対象です。
第2 少年の共同危険行為の特徴
少年の共同危険行為には他の少年事件と比較して、次のような特徴があります。
- 共犯関係が多い
- 事件から時間が経過してからの逮捕は多い
- 余罪があるケースが多い
- 再犯率が高い
共同危険行為は、2人以上で車両を暴走させる行為であるため、共犯者のいる少年事件です。
共同危険行為などの道路交通法違反の事案については、現行犯でなければ逮捕されないとの誤った認識を持つ少年も少なくありません。
しかし、共同危険行為については、むしろ事件から時間が経過してから逮捕されるケースが多いです。
事件によっては、暴走行為から数か月後に逮捕されることもあります。
暴走行為をパトカーに追跡されて、逃げ切れたとしても、パトカーの車載カメラの映像や防犯カメラの映像などには証拠が残っています。
そのため、証拠を固めたうえで逮捕状によって通常逮捕されてしまうのです。
さらに、共同危険行為だけでなく他に道路交通法違反や傷害罪、公務執行妨害罪などの余罪があるケースも多く、交友関係を断ち切れずに再犯を重ねる少年も少なくありません。
第3 暴走行為と付添人活動
ここでは、少年が暴走行為で検挙された場合にどのような処分が予想されるのか、それに対して付添人としてどのような活動を行うべきなのかを解説します。
1 少年が暴走行為で検挙されるとどうなるか?
共同危険行為は、共犯事件となるため、口裏合わせ防止のために一斉に逮捕されることが多いです。
少年が暴走行為で逮捕されると、勾留までされる可能性が高いです。
少年についても、逮捕・勾留については、成年とほぼ同じような扱いがされます。
少年の勾留については、「やむを得ない場合」に限定されていますが(少年法48条1項)、逮捕されたケースでは勾留状が発布されるケースがほとんどです。
勾留されると、逮捕から最大で23日間の身体拘束を受けることになります。
少年事件では、逮捕・勾留の手続きが終わると、事件は家庭裁判所に送致されます。
逮捕・勾留を経た事件では、家庭裁判所による観護措置決定がされるケースが多いです。
観護措置決定がされると、少年鑑別所に収容されます。
収容の期間としては4週間となることが多いでしょう。
少年審判では、初犯の場合は保護観察となる可能性が高いです。
しかし、前歴があるケースや、暴走族に所属しており再犯の可能性が高いと判断される場合には少年院送致の処分も考えられます。
2 付添人(弁護士)の活動内容
少年事件で逮捕、勾留に加えて観護措置決定までされると、少年は約2か月もの身体拘束を受けることになります。
身体拘束が長引くと、退学処分や解雇処分を受ける可能性が高くなるため、付添人としては早期解放を目指して活動します。
暴走行為との関係では、再犯防止に向けての活動が重要です。
暴走族に所属している場合に暴走族との関係を絶つのはもちろんのこと、SNSでの交友関係にも注意を向ける必要があります。
場合によっては、バイクの処分も検討すべきです。
暴走行為を続けてきた少年は、エネルギーを持て余しています。
少年が社会復帰した場合に備えて、就労支援や進学への動機付けなどを行い、暴走行為以外のエネルギー投入先を保護者と共に話し合うこともあります。