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少年法55条の「移送」とは?移送が認められた審判事例を解説

Q
検察官に逆走された事件について、刑事処分を免れる方法はありますか?

A

逆送された事件でも、保護処分相当性」が認められるときには、少年法55条移送により、事件が家庭裁判所に戻される余地はあります。

55条移送が認められると、事件は再び家庭裁判所での審理対象となり、少年審判によって保護処分が決定します。

逆送事件の刑事弁護では、55条移送を狙うのか、刑事裁判を前提とした対応をするのかについて、早急に方針を決めることが重要です。

今回は、55条移送とは何か、55条移送に関わる弁護活動、55条移送が認められた事例について解説します。

第1 55条移送とは

55条移送とは、検察官送致(逆送)された事件について、裁判所の決定により、再び事件を家庭裁判所に移送する手続きのことです。

(家庭裁判所への移送)
第55条 
裁判所は、事実審理の結果、少年の被告人を保護処分に付するのが相当であると認めるときは、決定をもつて、事件を家庭裁判所に移送しなければならない。

【参照】少年法|e-Gov法令検索

少年事件は、家庭裁判所に全件送致され、家庭裁判所が少年の保護処分を決定するのが原則です。

しかし、少年事件であっても、手続中に少年の年齢が20歳を越えた事件や、刑事処分を相当とする事件は、家庭裁判所の決定により検察官に送致されます(逆送)。

家庭裁判所への送致後
家庭裁判所に送致された後に、検察官へ再び事件が戻される手続(いわゆる逆送)事件の解説です。
逆送とは?逆送される事件と保護者や弁護士にできること
家庭裁判所への送致後
少年事件における刑事裁判と保護処分の違い。
少年の刑事(逆送)事件における弁護活動~成人事件や少年保護事件との相違点 

逆送された事件は、刑事裁判で処罰が決定されるため、少年にとって少年事件よりも厳しい結果となる可能性が高いです。

家庭裁判所の移送決定には、不服申立ての手段がありません。

そのため、逆送事件で刑事処分を避けるための現実的な手段は、55条移送に限られます。

1 保護処分相当性とは

55条移送の決定がされるのは、被告人を「保護処分に付するのが相当であると認めるとき」です。

この要件は、「保護処分相当性」と言われています。

「保護処分相当性」は、逆送における「刑事処分相当性」(少年法20条、62条)と表裏の関係にあります。

なぜなら、それぞれの解釈は、結局のところ、少年にとって保護処分と刑事処分のどちらが相応しいかという問題に収束されるからです。

(検察官への送致)
第20条 
家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。 
2 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るものについては、同項の決定をしなければならない。ただし、調査の結果、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。
【参照】少年法|e-Gov法令検索

少年法20条では「刑事処分相当性」の判断要素として、「罪質及び情状」(同法1項)、「犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情」(同法2項)が挙げられています。

そのため、「保護処分相当性」についても、これらの事情を総合考慮して判断すべきと言えるでしょう。

「保護処分相当性」は、保護可能性保護処分許容性の2つの要素に分けられます。

「保護処分相当性」の要件を満たすには、保護処分という手段が有効で保護可能性があり、かつ、諸般の事情を考慮して保護処分許容性が認められなくてはなりません。

過去の裁判例では、次のような事情を考慮して保護可能性や保護処分許容性を判断し、55条移送の決定がされています。

  • 重大な犯罪ではない
  • 犯情が軽い
  • 犯行後に有利な情状がある(被害弁償、示談の成立など)
  • 少年が若年で未成熟である
  • 長期の自由刑を科すのが適当ではない
  • 共犯者の処遇との均衡

第2 55条移送に関わる弁護活動

逆送事件の弁護活動では、55条移送を狙うのか、刑事裁判を前提するのかによって方針が異なります。

そのため、担当する少年が逆送されたときは、最初の方針として55条移送を狙うか否かを決めるべきです。

55条移送を狙う場合、「保護処分相当性」に関わる事情をいかに主張・立証できるかが重要となります。

保護処分ではなく刑事処分が相当であることは、検察官に立証責任があるとしても、弁護人としては、保護処分が相当であることの立証活動を積極的に行っていくべきでしょう。

少年が間もなく20歳を迎える年齢切迫事件では、公判期日ができる限り早く開かれるよう裁判所と協議する必要があります。

少年の年齢が20歳を越えてしまった場合には、55条移送の余地はなくなってしまいます。

第3 55条移送が認められた事例集

ここでは、55条移送が認められた裁判例を紹介します。どのような事件であれば55条移送が認められるかの判断要素としてご活用ください。

ただし、近年の少年法改正では、少年事件の厳罰化が進められています。

そのため、過去の裁判例と同種の事案であっても、55条移送が認められるハードルが高くなっている可能性がある点にはご注意ください。

大阪地方裁判所決定平成29年1月24日
【事案の概要】 
本件は、自動車運転経験の全くない被告人が、自身の運転技術の未熟さを認識していたにもかかわらず運転を継続したことで、被害者が運転する自転車との衝突事故を起こし、被害者を死亡させた事案です。
道路交通法違反、危険運転致死被告事件として逆送されました。

【結論】
本件を家庭裁判所に移送する(55条移送)

【裁判所の判断】 
犯行により、被害者の生命が奪われ、取り返しのつかない重大な結果が発生している。
被告人は、過去に2度の保護処分を受け、本件当時も保護観察中であった。
他方、無免許運転をしていたとはいえ、人を殺傷するなどの悪意はなく、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件の中では、反社会性が強いとは評価できない。 
被告人は、犯行当時16歳5か月と低年齢であること、以前の保護処分は交通犯罪とは異なる犯罪による児童自立支援施設施設送致及び保護観察であったこと、謝罪の気持ちを述べていること、再度の逆送決定がされた手続経過などを併せて考えれば、保護処分が許される特段の事情が存在し、保護許容性が肯定できる。 保護処分により被告人の更生が期待でき、保護可能性があることは明らかである。

本事例には、55条移送された事件について、家庭裁判所が再び逆送決定したという異例の前提があります。

この点で、少年は、既に長期にわたる手続き的な負担を受けていました。

本件の犯罪は、危険運転致死被告事件という故意の犯罪行為で被害者を死亡させた罪であり、原則逆送の事件です(少年法20条2項)。

裁判所は、原則逆送の本件事件について、諸般の事情から保護処分が許される「特段の事情」が認められるとして、保護許容性を肯定しました。

横浜地方裁判所決定平成28年6月23日
【事案の概要】 
本件は、犯行当時15歳の被告人が実母及び祖母を殺害したという事案です。
殺人被告事件として逆送されました。

【結論】
本件を家庭裁判所に移送する(55条移送)

【裁判所の判断】 
被告人は犯行当時15歳8か月の少年である。
被告人は、公判廷において反省や後悔の念も示していない。

しかし、被告人の態度は、被告人の思考、感情、行動様式が全般的に甚だ未成熟、未発達であり、他者とのコミュニケーションをとることに困難があるという被告人の精神面の問題性に由来するものと認められる。 
鑑定人の医師や少年鑑別所の職員との交流の中で被告人の態度に良い変化が見られたことや、公判廷でも時折、感情を高ぶらせる様子を見せたことなどから、被告人には可塑性があると認められる。
被告人には、非行歴や保護処分歴がないことからしても、保護処分を受けることによって改善更生していく可能性を肯定することができる。 
被告人に対する保護処分には有効性があると認められる。
本件各犯行は、強固な殺意に基づく極めて危険で残忍な犯行である。被告人の叔母は厳しい処罰感情を示しており、凶行が社会に与えた不安感等も無視することはできない。
以上を前提とすると、被告人に対して保護処分を選択することが許容されて良いのかという点に一抹の躊躇を感じることは否定できない。

しかし、被告人の未熟さやコミュニケーション上の問題性には生育歴等が影響を与えたといえるのであるから、本件各犯行について、被告人一人のみに全ての責任を負わせることが正しいとはいえない。
本件各犯行は家庭内におけるものであって、父親や妹は厳しい処罰を求めてはいない。
さらに、被告人を本件各犯行に向き合わせ、改善更生をさせて二度と再犯に至らせないことは、被害感情を和らげ、社会の不安を鎮めるためにも重要なことと考えられる。 
被告人に対して刑罰を与えるのではなく保護処分を選択するということは、社会的にみても十分に許容されると考えることができる。

本事案は、2名の殺人事件という重大犯罪でありながら、被告人の未成熟さや家庭内の犯行であることなどを考慮し、55条移送の決定をしました。

福岡地方裁判所小倉支部決定平成26年3月27日
【事案の概要】 
本件は、被告人が他2名と共謀のうえ、店舗で販売されていたブラックホールミラーなど27点を共犯者の1人が担当するレジに持ち込み、精算をしないまま店外に持ち出して万引きした事案です。
窃盗被告事件として逆送されました。

【結論】 
本件を家庭裁判所に移送する(55条移送)

【裁判所の判断】 
本件の犯行態様は悪質で、被害金額も高額である。
共犯者の供述によれば、被告人が同種の行為を多数回繰り返してきたことが認められるのであり、本件犯行は常習的なものといえる。 

しかし、被害品は買い取られており、財産的被害は回復されていること、起訴されているのは窃盗1件のみであること、被告人が3万円の贖罪寄付をしていることなどからすると、本件につき刑罰ではなく保護処分を選択することが、被害感情や正義観念等に照らし、社会的に許容されないものであるとはいえない。
被告人は、年齢に比して精神的に幼く、人格形成が未成熟であるといえる。
被告人は、これまでに一度も保護処分を受ける機会を持たず、被告人の両親も、被告人に対して的確な指導監督をなし得ず、現状ではどのように被告人に対応すればいいのかとまどっていることが認められる。
このような事情からすれば、被告人を更生させるためには、十分な矯正教育を行わないままで刑罰を科すよりも、長期にわたって緻密な教育矯正を行うことが有効であるといえる
現在19歳という被告人の年齢からすると、今回が被告人を教育する最後の機会であると考えられる。
よって、被告人に対しては、少年法の原則に則り、刑罰ではなく保護処分を選択するのが相当である。

本事案では、被害弁償や贖罪寄付といった犯行後の有利な事情を考慮し、保護処分許容性を肯定しています。

さらに、被告人が未成熟であることや、これまでに保護処分を受けた経験がないことを重視し、保護処分の有効性を認めたうえで、保護処分が相当との判断をしています。

東京地方裁判所決定平成23年6月30日
【事案の概要】 
本件は、19歳で外国籍の被告人が共犯者2名と共謀のうえ、被害者宅に侵入し、パソコン及び手提げバッグを窃取したが、被害者に発見されたことから、逮捕を免れるために被害者に暴行を加え、全治約2週間の傷害を負わせた事案です。
住居侵入、強盗致傷被告事件として逆送されました。

【結論】
本件を家庭裁判所に移送する(55条移送)

【裁判所の判断】 
本件は強盗致傷罪という重大事件であり、しかも、悪質な態様の犯行である。

しかし、当初から強盗自体を計画したものではないこと、被告人自身の暴行態様が積極的に被害者を傷害させることを目的としたものではないこと、被害者の怪我が軽傷であること、被害弁償がなされ示談が成立していることなどの諸事情に照らすと、刑罰ではなく保護処分を選択することが社会的に許容されないものであるとはいい難い
被告人は、本件犯行当時、来日後間もなく日本語の勉強も挫折し、母及び養父との意思疎通ができず、家庭での居場所のない状態であり、共犯少年に誘われるがまま本件犯行に至ったことが認められる。
また、被告人自身には、与えられた環境で努力することができないという性格的な問題点もうかがえる。
被告人の未成熟さと環境の不備といった問題点を解決するには、被告人に対しては刑罰によるのではなく教育によるのが相当であると考えられる

本件についても、保護処分許容性と保護可能性の2つの観点から保護処分相当性の判断をしています。

保護処分許容性の判断では、事件の重大性や犯行態様、計画性、被害の程度といった事件の内容に着目するとともに、示談が成立しているという犯行後の事情を考慮し、保護処分許容性を認めています。

保護可能性の判断で重視されているのは、被告人の性格と生活環境です。被告人が未成熟で保護可能性が認められるか否かについては、単に年齢だけを基準とするのではなく、本件のように19歳の少年であっても、未成熟であると認定されるケースは存在します。

水戸地方裁判所土浦支部決定平成14年3月1日
【事案の概要】
19歳の被告人は、運動公園内遊歩道において携帯電話で通話しながら歩いていたところ、被害者(当時47歳)と肩がぶつかり、「ぶつかっといて謝んねてのか、くそガキ」などと言われたことに立腹し、言い返したところ被害者との口論に発展しました。
本件は、被害者が持っていた傘で被告人の後頭部付近を殴打したところ、被告人は、被害者の顎部付近を右手拳で1回殴打し、被害者を路上に仰向けに転倒させて、その後、後頭部をコンクリート舗装の施された地面に強打させる暴行を加え、被告人に後頭部打撲等の傷害を負わせ、後頭部打撲による頭蓋骨骨折を伴う頭蓋内損傷により死亡させたという事案です。
なお、本件は、傷害致死被告事件と併せて、別の日に原動機付自転車を飲酒運転したことを理由とする道路交通法違反被告事件も審理の対象となっています。

【結論】
本件を家庭裁判所に移送する(55条移送)

【裁判所の判断】 
被告人は、売り言葉に買い言葉で被害者に口答えをして口論となり反撃を加えたものであり、動機に酌量の余地は乏しい。
また、被害者は、死亡するに至っており、犯行の結果は重大である。 
飲酒運転の犯行についても、危険で悪質な交通違反であるところ、被告人は、軽い気持ちで常習的に飲酒運転をしていたことが窺われ、交通規範意識は薄弱であり、再び同種犯行に及ぶおそれも否定できない。 
本件各犯行はいずれも犯情悪質であり、被告人の刑事責任を軽視することはできない。
 
しかし、傷害致死事件の犯行については、被害者にも、被告人に言いがかりをつけたり、いきなり被告人の頭部を折り畳み傘で殴打したりした点で落ち度があったこと、被告人の被害者に対する暴行は1回の殴打のみで、転倒した被害者が後頭部を地面に打ち付けて死亡するに至ったことは被告人にとって予想外のことである。
被告人は、刑事裁判手続を通して、自己の行為の重大性やその責任についての認識を深め、次第に反省の態度を示すようになってきており、内省は深まりつつあると認められること、被害者の遺族との間で、葬儀費用等の外に500万円を支払って示談が成立し、被害者の遺族は被告人に対する厳格な処罰を望まない旨の意思を表明していること、被告人は前歴が1件あるのみで、資質面において大きな偏りは見られないことから、適切な教育矯正を受ければ早期に更生できる可能性があると認められること、父親が今後の被告人の監督を誓っていることなどの酌むべき事情が認められる。 
以上の諸事情を総合的に考慮した結果、被告人に対する処遇としては、刑事処分を科すよりも、むしろ家庭裁判所における保護処分に付し、その更生を図るのが、妥当であると判断した。

本件では、保護処分相当性について、保護可能性と保護許容性を分けて認定するという方法は採られていません。

しかし、保護処分相当性を認定する要素としては、事件の重大性や犯情、反省の態度や示談の成否など犯行後の事情、被告人の矯正教育による更生の可能性などを総合的に考慮しており、認定の思考過程としては保護可能性と保護許容性を分けて認定する裁判例と大きな違いはないと言えるでしょう。

逆送(刑事事件)事例
少年事件の審判例、刑事裁判事例を紹介、解説します。
【事例】犯行時15歳の被告人の殺人罪等について少年法55条移送意見を排斥した(福岡地判令4年7月25日)