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虞犯(ぐはん)事件とは?虞犯少年の定義や虞犯事件の手続などを解説

Q

虞犯事件で犯罪を犯していない少年が規制されるのはなぜですか?

A

虞犯事件は、犯罪を犯していない少年審判の対象とする制度です。

成人の場合、犯罪を犯していない人を刑事裁判にかける制度はありません。

少年法が虞犯少年を審判の対象としているのは、犯罪を犯すおそれのある少年を早期に発見し適切な保護処分を与えることで、犯罪の発生を未然に防ぐとともに少年の健全な育成を図ることを目的としています。

今回は、虞犯事件について、虞犯少年の定義や虞犯事件の手続きの流れ、虞犯事件における付添人の活動などを解説します。
虞犯事件においても、少年鑑別所に収容される可能性が高く、少年院送致となる事件も珍しくありません。

第1 虞犯(ぐはん)少年とは

虞犯少年とは、犯罪を犯していないものの、将来的に犯罪を犯したり、刑罰法令に触れる行為をしたりするおそれのある少年のことです。

少年法には、審判に付するべき少年として、3つの類型が規定されています(少年法3条1項)。

(審判に付すべき少年)
第3条 次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。
一 罪を犯した少年
二 十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年
三 次に掲げる事由があつて、その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入すること。
ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。

参照:🔗e-Gov法令検索

犯罪少年とは、14歳以上の犯罪を犯した少年のことをいいます(少年法3条1項1号)。

触法少年とは、14歳未満の刑罰法令に触れる行為をした少年のことです(同法1項2号)。

虞犯少年は、少年法3条1項3号に規定される類型で、他の2つの類型と異なり犯罪を犯していない少年を対象としています。

少年事件における「少年」の類型。触法少年、犯罪少年、虞犯少年(ぐはんしょうねん)、特定少年があり、行為時の年齢と審判時の年齢を基準に分類される。
少年事件における「少年」の類型

少年法が虞犯少年を少年審判の対象としているのは、現時点では犯罪を犯していなくても、少年の性格や環境から、犯罪を犯す可能性が高い少年に保護処分を下すことで、犯罪を犯すことを未然に防ぐとともに、少年の健全な育成を図ることを目的としています。

1 虞犯事由

少年法3条1項3号では、虞犯少年となる事由(虞犯事由)として、次の4つを規定しています。

  • 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること(深夜の徘徊無断外泊家庭内暴力など)
  • 正当の理由がなく家庭に寄り付かないこと(家出など)
  • 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、またはいかがわしい場所に出入りすること(暴走族暴力団との交流など)
  • 自己または他人の徳性を害する行為をする性癖のあること(援助交際パパ活など)

虞犯少年として保護されるのは、虞犯事由が1つだけでなく複数あるケースも少なくありません。
たとえば、深夜の徘徊を繰り返して暴走族として活動する、援助交際を繰り返してネットカフェで寝泊りするなどのケースがあります。

犯罪白書(令和4年版)によると、令和3年に家庭裁判所での終局処理を受けた虞犯少年の人数は178名でした。

虞犯事由としては、不良交友が28名、家出が25名、不純異性交遊が10名、その他が115名となっています。

虞犯事件の特徴としては、女子の割合が高いことも挙げられます。
少年による刑法犯の場合、女子の割合は17.4%ですが、虞犯事件については、女子の割合が34.8%と高くなります。

2 不良行為少年との違い

不良行為少年とは、犯罪少年や虞犯少年には該当しないものの、飲酒喫煙深夜徘徊など自己または他人の徳性を害する行為をしている少年のことをいいます。

虞犯少年と不良行為少年とでは、深夜徘徊や自己または他人の徳性を害する行為をしている少年という点では共通点があります。

虞犯少年と不良行為少年を区別するのは、「将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする」危険性があるか否かです。
警察では、本人の性格や行為の具体的な内容なども考慮して、虞犯少年に該当するか否かを判断しています。

不良行為少年は、虞犯少年と異なり少年審判の対象とはなりません。

しかし、警察が不良行為少年を発見した場合には、保護者に連絡して監督や指導を促す、補導するなどの対応を行います。

犯罪白書(令和4年版)によると、令和3年に不良行為少年が補導された人数は30万8,563人となっており、その内訳としては深夜徘徊喫煙8割以上を占めています。

参考:🔗法務省「犯罪白書(令和4年版)」

3 少年法改正と虞犯事件

2022年4月1日に施行された少年法の改正では、行為時に18歳19歳の少年は「特定少年」として、虞犯事件の適用対象外となりました。

特定少年については、虞犯事由があっても少年審判の対象とされませんが、犯罪を犯してしまった場合には、原則として逆送となる事件(刑事事件として刑罰を受ける事件)が拡大されており全体としては従来の少年法よりも厳罰化されています。

参考:🔗法務省「改正少年法が2022年(令和4年)4月1日に施行されます。」

第2 虞犯(ぐはん)事件の手続き

ここでは、虞犯事件の手続きの流れを家庭裁判所への送致と家庭裁判所送致に分けて解説します。

1 家庭裁判所送致前の手続き

虞犯少年は、犯罪を犯したわけではないので、逮捕・勾留されることはありません。

警察は、虞犯少年を発見すると、虞犯事由の具体的内容や少年の性格、家庭環境、交友関係などを調査します。

少年が14歳未満の場合には、家庭裁判所送致の対象とはなりません。

調査の結果、少年に保護者がいない、もしくは、保護者に監督させることが不適当と認めるときは、児童相談所に通告する必要があります(児童福祉法25条)。

第25条 
要保護児童を発見した者は、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。
ただし、罪を犯した満14歳以上の児童については、この限りでない。この場合においては、これを家庭裁判所に通告しなければならない。
参照:🔗e-Gov法令検索

少年が14歳以上18歳未満の場合は、少年を家庭裁判所の審判に付すのが適当と認められるときには、家庭裁判所に送致します。

家庭裁判所に送致するよりもまずは児童福祉法上の措置にゆだねるのが適当であると認めるときは、児童相談所に通告します(少年法6条2項)。

(通告)
第6条 
家庭裁判所の審判に付すべき少年を発見した者は、これを家庭裁判所に通告しなければならない。
2 警察官又は保護者は、第3条第1項第3号に掲げる少年について、直接これを家庭裁判所に送致し、又は通告するよりも、先づ児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)による措置にゆだねるのが適当であると認めるときは、その少年を直接児童相談所に通告することができる。
参照:🔗e-Gov法令検索

2 家庭裁判所送致後の手続き

虞犯事件についても、家庭裁判所に送致された後の手続きは、犯罪少年の場合と変わりません。

家庭裁判所では、まずは少年を観護措置に付すか否かの決定を行います。

虞犯事件については、家庭裁判所による調査の必要性が高いことや、家庭環境に問題のあるケースが多いことから観護措置決定がされるケースが多いです。

観護措置による少年鑑別所への収容期間は、通常は4週間です。

その間に、家庭裁判所調査官による調査などが行われます。
観護措置の期間は、付添人(弁護士)や保護者などとの面会しかできません。

観護措置の期間が終了すると、家庭裁判所の審判により保護処分の内容が決まります。

虞犯事件については、審判不開始や不処分となるケースは少なく、保護観察もしくは少年院などの施設送致になる可能性が高いです。

第3 虞犯事件と付添人活動

虞犯事件は、犯罪を犯してはいないため、処分も軽いもので済むと考える方も多いです。

しかし、警察の調査や家庭裁判所によって虞犯少年と認定されてしまうと、要保護性(犯罪を犯す危険性)が高いと判断されて、少年鑑別所での観護措置決定がされる可能性があります。

また、家庭環境に問題があるなど、将来的に犯罪を犯す可能性が高いと判断されると、児童養護施設少年院送致となる可能性も十分にあります。

1 将来犯罪を犯さないための環境調整

虞犯事件は、将来犯罪を犯すおそれの程度が、何より注目される問題となります。
そのため、犯罪少年の事件よりも環境調整が重要となるケースが多いです。

環境調整には保護者の協力が欠かせません。

虞犯事件として扱われるまでは少年を自由にさせていた場合でも、保護者が意識を入れ替えて少年と向き合わなければ、児童自立支援施設や児童養護施設、少年院送致となる可能性が高くなります。

付添人による環境調整のための活動としては、親子関係の改善に務める、交友関係を改める、学校や職場に戻れるようにするなどが考えられます。

2 少年の内省を深める

虞犯事件においても少年の内省を深めることは重要です。
保護者や付添人のサポートがあっても、少年に真摯な反省の態度がなければ重い処分を下される可能性が高くなります。

付添人としては、少年自身の生活態度の問題点を把握させ、現状のままでは犯罪を犯す可能性が高いこと、少年院送致など通常の社会生活を送れなくなる可能性を知ってもらう必要があると考えています。

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