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【事例】深夜に歩行中の被害者を強盗した事件について少年院送致が不当とされた事案(令和3年1月7日福岡高裁決定)

✍ 付添人(弁護士)の役割の重要性を示す事例

少年の非行に至る経緯や、これまでの非行状況(非行事実や交友関係など)、そして今後の生活環境(家庭や就労先、学校の支援状況など)を踏まえ、少年の更生を後押します。

裁判所から適正な評価を得られない場合には、抗告などに手段により争うことの重要性が示されたケースといえます。

【事案の概要】

18歳の少年が、共犯少年と共謀の上、午前0時38分頃に歩道上で男性の背部を飛び蹴りしてその場で転倒させるなどの暴行を加え、現金等が入ったバッグを強奪し、加療約2週間を要する打撲傷等の傷害を負わせました。

この事例において、家庭裁判所は、第1種少年院への送致を決めました。
主な理由は、「少年が、独善的な対人態度からアルバイト先での対人関係に行き詰まり、経済的にも破綻して追い詰められて本件非行に及んだ。その根底には、少年が家族から突き放されて愛情、依存欲求が満たされず、孤立感や落伍感があったのであり、少年は、自分の身を守るために他人を犠牲にすることもやむを得ないとの考えで、一足飛びに本件非行に至った」などと本件非行に至った要因を分析しました。

これに対し、少年付添人(弁護士)が、少年院送致の決定は著しく不当であるとして抗告を申立てた事案です。

【裁判所の判断】

原決定は、少年を直ちに収容保護しなければ、少年を改善更生し、再非行を防止することができないことを説得的に説示しておらず、その判断を是認することはできない。

第1種少年院送致を決定した原決定を取消し、原裁判所に差戻しを行いました

少年の非行歴(中学生時の対教師暴行による不処分歴が1件あるのみで、保護処分歴はない)、就労等の状況(中学校卒業後、それなりに就労を継続し、一人暮らしもしていた)、本件非行後の状況(本件で 逮捕されるまでの約8か月半の間、コロナ禍で仕事がなくても、母親の援助も受けつつ、非行に及ぶことなく生活していた)、交友状況(特段の不良交友はみられない)など、原決定が余り目を向けていない事情も考慮した上で、非行リスクという観点からみると、少年の資質上の問題が原決定のいうほど根深く深刻なものであるかは疑問であるとしました。

むしろ、少年には、自力による問題改善の余地があると評価して、少年の保護環境がある程度整っていること(原決定も、少年と家族の関係に問題があると指摘する一方で保護環境に問題があるとの評価まではしていない)も考慮して、保護処分歴のない少年について、在宅処遇の可能性を慎重に検討せずに直ちに少年院に送致した原決定の処分は著しく不当であると結論付けました。

【メモ】

少年事件においては、家庭裁判所調査官(少年調査票)や鑑別結果通知書(少年鑑別所の生活評価)により、少年の様々な資質上の問題が指摘され、それらがどのように非行事実に結び付いているかなどが説明されます。

しかし、そこで指摘される問題は網羅的に単に列挙されることも多く、非行事実の動機、経緯等には様々なものがあり、少年のどのような問題が、どのようにして非行事実や、今後の非行リスクに結び付いているかという点の理解が難しいケースが少なくありません。

裁判所は、これらの点についても、専門的知見に基づく家庭裁判所調査官や少年鑑別所の意見を参考にしつつ、裁判所としての判断を示し、処遇を選択しなければならず、決定書においてもその理由を分かりやすく説明する必要があります。

少なくとも、本件では、少年の要保護性に疑問を抱かせる事情も多々認められたようであるから、それらも踏まえた上で、説得的に説明する必要があったといえます。

このような裁判所の決定に対し、付添人(弁護士)として、納得し難いものには争っていくことの重要性を示唆する事例といえます。

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