同じ被害者に2度にわたる強盗によって少年院送致された事例
同じ被害者に2度にわたって暴行・強盗を行った少年が、最終的に少年院へ送致されるに至った審判例です(東京家裁令和4年1月13日決定~第1種少年院送致、確定事件)。
「なぜそんな重大事件を起こしてもすぐに少年院に行かなかったのか?」「なぜ最終的に少年院に送られたのか?」——その背景をひもときます。
1 事案の概要
今回の事件は、家庭裁判所に送致された保護処分歴のない少年。
つまり、それまで少年院や保護観察などの処分を受けたことのない、はじめて家庭裁判所にかけられた少年でした。
事件のきっかけは、ある女性からの相談でした。「ナンパしてくる男がいて困ってる。代わりにこらしめて金でも取ってきて」。
そう頼まれた少年は、不良仲間と一緒に、その“被害者”の男性に接近します。
第1の事件(強盗致傷)
夜11時過ぎ。
少年は被害者に「人の女に手を出してんじゃねぇ」と因縁をつけ、壁に頭を打ちつけさせ、首を絞めて気絶させるという暴行のうえ、財布から2万円を奪いました。
被害者は顔と首に全治7日の怪我を負っています。
第2の事件(強盗)
数日後、今度は被害者が街で少年を見かけ、スマホで写真を撮ったことに少年が立腹。
「ネットにさらされたらどうしよう」「警察に届けられるかも」——そう感じた少年は再び被害者に接近し、今度は自ら先に暴行を仕掛け、財布と現金を奪いました。
2 裁判所の判断
1 最初の判断 ⇒ すぐに少年院とならず
家庭裁判所は、少年の非行が重大であることを認めながらも、直ちに少年院に送るのではなく、「社会内での更生の可能性を探る」ことを優先しました。
そのために使われたのが、「身柄付き補導委託」という制度です。
✍ 身柄付き補導委託とは?
この制度は、少年を家庭などの元の環境に戻すのではなく、信頼できる大人(受託者)のもとで住み込みの生活や就労を体験させながら、社会内で更生できるかを見極める制度です。
このケースでは、少年は都内の飲食店を営む方のもとで働きながら生活を始めました。
はじめは、少年も仕事に前向きに取り組み、生活も安定しているように見えました。
「試験観察」とは?少年・保護者や付添人(弁護士)は何をするか?
項目 | 補導委託付き試験観察 | 少年院送致 |
---|---|---|
実施場所 | 社会内(受託者のもと) | 矯正施設(少年院) |
目的 | 社会内更生の可能性を見極める | 長期かつ専門的な改善指導 |
少年の自由度 | 制限あり(無断外出不可) | 厳格な施設規律あり |
支援者 | 民間の受託者(就労・生活支援) | 法務省管轄の専門職員(矯正教育) |
主な対象 | 初犯・環境改善の可能性がある少年 | 問題性が深く社会内処遇が困難な少年 |
2 少年院送致された理由:逃避、不安、感情のもろさ
ところが、数週間後に突然、少年は無断で外出し、そのまま所在不明となりました。
一度戻ってきたものの「誰にも会いたくない」と言って居室に閉じこもり、再び姿を消します。
数日後、深夜の○○町で酒に酔った状態で発見され、ようやく保護されました。
その後の調査で見えてきたのは、次のような少年の問題性でした:
- 他人からの批判や揶揄に非常に敏感で、すぐに不快感情が蓄積する
- 感情が限界に達すると、思考よりも先に行動(逃避や暴力)に出る
- 家庭環境に問題が多く、「愛されたい」という思いが強い一方で、人と信頼関係を築くのが極めて苦手
- 自分の感情や気持ちを、言葉でなく行動で示してしまう傾向が強い
3 裁判所の最終判断 ~ 少年院での支援が不可欠
裁判所は、「このまま社会の中で支えるのは難しい」と判断しました。
少年には、専門的な指導を受けられる安全な環境の中で、
- 感情の扱い方
- 他人との距離のとり方
- 自分の気持ちを言葉で伝える練習
などを時間をかけて身につける必要があると判断されたのです。
そのため、最終的に第1種少年院送致という決定が下されました。
観点 | 裁判所が認めた少年の課題 | 判断内容 |
---|---|---|
感情の扱い | 傷つきやすく、すぐ爆発・逃避に走る | 感情コントロール力に欠ける |
愛着・関係性 | 愛されたいが、信頼関係の構築が困難 | 批判を受け止められず反発しやすい |
社会環境 | 不良仲間を「居場所」と感じている | 健全な交友がなく、孤立感が強い |
更生支援 | 就労継続など短期的成果はあった | だが関係継続が破綻、支援の限界が明らかに |
最終結論 | 自力での安定的生活維持は困難 | 専門支援が不可欠 → 少年院送致を決定 |