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【事例】特定少年に対し検察官送致が決定された事例(逮捕監禁罪等)

検察官送致(いわゆる逆送)をする場合

少年法20条1項において、検察官送致をすべき場合が定められています。

そして、令和3年の改正により、18歳以上の少年は「特定少年」と呼称されることとなり、特定少年については、死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役・禁固に当たる罪の事件であって、その罪を犯すとき特定少年に係るもの(少年法62条2項2号)と範囲が拡大されています。

特定少年に対して、逆送事件の対象が拡大されたのは、公職選挙法や民法の改正等により、18歳、19歳の者が責任ある主体として位置づけられていたことを踏まえ、その立場に照らして、重大な犯罪に及んだ場合には広く刑事責任を負うべきであるとされたことにあります。

本件は、令和3年少年法改正後において、少年法62条2項2号が適用されたまだ数少ない事例の1つです。

改正の趣旨を踏まえると、新たに対象事件とされた罪をはじめとして、刑事責任を問う事例が増えてくるでしょう。

(検察官への送致)
少年法第20条1項
家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。

第62条1項
家庭裁判所は、特定少年(十八歳以上の少年をいう。以下同じ。)に係る事件については、第20条の規定にかかわらず、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。
2項
前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、特定少年に係る次に掲げる事件については、同項の決定をしなければならない。ただし、調査の結果、犯行の動機、態様及び結果、犯行後の情況、特定少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。
1号 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るもの
2号 死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件であつて、その罪を犯すとき特定少年に係るもの(前号に該当するものを除く。)

🔗「少年法」e-Gov法令

【事案の概要】

【罪名】
逮捕監禁致傷、営利略取、営利略取未遂、傷害保護事件

少年は、成人男性らと共謀して、深夜、大阪市北区豊崎の路上で、男性(23歳)の右腕を金属製の棒(十手)で殴ったり、顔面に催涙スプレーを噴射したりするなど暴行を加え、乗用車に乗せて連れ去り、車中で両手足首をロープで縛るなどしました。

被害男性と一緒にいた知人男性(22歳)に対しても、顔面に催涙スプレーを噴射し、車外に逃げ出したところ多数回蹴る等の暴行を加えましたが、知人男性は連れ去られる前に逃げることができました。


本件は、実行役(成人男性や少年ら)とは別に指示役の主犯(29歳)がおり、主犯者は交流サイト(SNS)で違法行為を請け負う「闇バイト」で実行役を募っていました。
そして、被害者らは、事件の数日前に主犯者よりSNSを通じて投資セミナーの講師を依頼され、指定された場所に呼び出されたところを襲撃されたとのことです。

【決定の要旨】

(被告人に対する処遇の在り方)

〇〇地方検察庁検察官に送致する、として、逆送決定をしました。

(理由)

少年の非行事実は、いずれも、その当時特定少年であった少年が、短期1年以上の懲役に該当する事件(営利略取、同未遂)を含むものである。

本件は、報酬を得るために見ず知らずの人間を犯罪の標的とするもので、このような事案に関与すること自体が強い非難に値する。
少年は、主導的立場にあったものではないが、腕とはいえ、いきなり金属製の十手を用いて被害者の身体を複数回殴っているほか、車の運転や無抵抗の被害者の足首をロープで縛る手伝いをするなど、この犯行に主体的・積極的に関わり、重要な役割を果たしている。

第1の事件では略取が未遂に止まり、いずれの傷害結果も重いとまではいえないものの、被害者両名が負った心身両面にわたる苦痛、とりわけ恐怖感等の精神的被害は軽視できない。
そうすると、付添人が指摘するとおり、先輩に当たるDに利用されたとの面が否定できないことを考慮しても、本件は相当に悪質な事案といわなければならない。

少年は、知的制約もあって、中学1年の半ば頃から学校への適応が難しくなったが、大きな逸脱はなく、家庭でも学校でも細やかな指導を受けることはなかった。
高校には進まず、同級生らとの関係は疎遠になり、彼らをうらやむ気持ちも生じ、時間を持て余す中で、そのような不全感等を払拭するものとして、夜遊びや不良者との交友に重きを置くようになった。
その中で、Dを含む年長の素行不良者との関わりを深め、本件の共犯者であるAら年下の者に自身の不良者としての優位性を示そうとしていた。

このような少年の資質的要因を背景とする規範意識の乏しさ対人関係構築上の問題点も、少年が本件に関与する一因となっている。
また、少年は、観護措置を含む身柄拘束下で本件と向き合い、自身の抱える問題性に気づき、交友関係を改めることを誓っているほか、被害者らの心情等についても考えを及ぼし、謝罪の念を深め、母の協力を得て被害弁償に向け努力している。

このように、犯行後の情況に酌むべきところがあり、少年の性格・環境等にも考慮に値する点が認められるものの、上記で述べた本件事案の評価を踏まえると、本件は、刑事裁判での事実認定と量刑判断を経ることにより、少年の刑責を明らかにすべき事案といえ、保護処分に付すのが相当とは認められず、少年の未熟さを踏まえると、刑事処分を科すのは酷であるとの付添人の主張には賛同できない。

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