被害者の背部を飛び蹴りして金品を奪った強盗保護事件で、少年院送致とした原審を取り消した事例(差戻審で保護観察に)
18歳の少年が、共犯少年と共謀の上、歩道上で男性の背部を飛び蹴りしてその場で転倒させるなどの暴行を加えて、現金等が入ったバッグを強取し、加療約2週間を要する打撲傷等の傷害を負わせた強盗傷人保護事件において、家庭裁判所(原審)は少年を第1種少年院送致にする決定しました。
これに対して、福岡高裁は家庭裁判所の決定は、要保護性について説明不十分と批判をし、原審に破棄差戻しをしました(その後、保護観察が確定)。
その内容として、原審決定があまり目を付けていない以下の点を挙げ、非行リスクという観点からみると、少年の資質上の問題が原決定のいうほど根深く深刻なものであるかは疑問であり、むしろ、少年には、自力による問題改善の余地があると評価しています。
- 少年の非行歴
中学生時の対教師暴行による不処分歴が1件あるのみで、保護処分歴はないこと。 - 就労等の状況
中学校卒業後、それなりに就労を継続し、一人暮らしもしていたこと。 - 非行後の状況
本件で逮捕されるまでの約8か月半の間、コロナ禍で仕事がなくても、母親の援助も受けつつ、非行に及ぶことなく生活していたこと。 - 交友状況
不良交遊は見られないこと。
✍ 本決定(福岡高裁)のポイント
少年の処遇決定にあたっては、家庭裁判所調査官による少年調査票や、少年鑑別所での鑑別結果通知書によって、少年の資質上の問題が指摘され、それらがどのような非行事実に結びついているかなども説明されます。
そして、裁判所は少年調査票や鑑別結果通知書を参考にしながら、裁判所としての判断を示して、処遇を選択する必要があり、決定書においてもその理由を分かりやすく説明する必要があります。
本件は、改正少年法施行後には原則逆送事件(少年法62条2項2号)に該当することになる事件ですが、保護処分歴のない少年に対して、在宅処遇の可能性を慎重に検討せずに少年院送致した原審決定を著しく不当としました。
少年の要保護性の判断にあたり、非常に参考となる限界事例です。
1 裁判所(原審家庭裁判所)の判断
本件非行は、暴行の態様が危険で、被害者の傷害の程度も軽くない。
少年は、自ら暴行を行うなど、非行の主要部分に関与している。
少年は、独善的な対人態度からアルバイト先での対人関係に行き詰まり、経済的にも破綻して追い詰められ、金銭目的の本件非行に及んだ。
その根底には、少年が早期に自立を促され、家族から突き放されて愛情、依存欲求が満たされず、孤立感や落伍感があったことが指摘でき、少年は、自分の身を守るために他人を犠牲にすることもやむを得ないとの考えで、一足飛びに凶悪犯罪に至ったと考えられる。
少年が、被害者の心情に思いをはせ、深く後悔、反省していること、両親が早期に被害者に謝罪して示談したこと、母親が監督を誓い、就労先のあっせんもしており、父親も少年に積極的に関わりたいと述べていることなどを考慮しても、少年を一定期間矯正施設に収容し、体系だった指導により時間を掛けて健全な規範意識を涵養し、適切な対人関係の持ち方を身に付けさせるとともに、健全な生活観や職業観を獲得させ、社会生活への円滑な適応を図るのが相当である。
2 福岡高裁の判断 ~令和3年1月7日決定
原決定は、少年を直ちに収容保護しなければ、少年を改善更生し、再非行を防止することができないことを説得的に説示しておらず、その判断を是認することはできない。
本件の直接の原因は、仕事の収入が減り、スロットによる浪費もあって、金銭に窮したことであり、そこから本件のような悪質な非行に飛躍したことについて大いに問題があることは前記のとおりである。
しかし、上記のような少年の生活歴をみると、少年は非行を反復してきたわけではないし、非行の温床となるほどの不良交友や生活の乱れがあったともいえないのであって、直ちにその非行性が強く懸念される状況にあるといえるかは疑問がある。
少年の資質上の問題が、非行リスクという観点からみて、原決定のいうほど根深く深刻なものであるかは疑問であり、むしろ、前記のとおり、少年が、中学校卒業後それなりに就労を続けていたことや、本件非行後、生活を崩すことなく、再非行に及ぶこともなかったことは、自力による問題改善の余地があることを示している。
これまで保護処分を受けたことのない少年については、母親の下で生活し、少年の受入れを表明している雇用主の下で仕事をしながら、社会内処遇によりその改善更生を図る余地もあるというべきであり、試験観察に付することを含め在宅処遇の可能性を慎重に検討することなく、直ちに少年を第1種少年院に送致した原決定の処分は、著しく不当であるといわざるを得ない。