窃盗(万引き)で第1種少年院送致が取消され、保護観察となった事例
ショッピングセンターでの万引き事件について、家庭裁判所(原審)と高等裁判所(抗告審)で結論が分かれた事例です。
少年(本件の少年は女性)の処遇選択を考えるにあたり、要保護性の検討について、参考になる事例といえます。
1 事案の概要 ~東京高裁平成29年2月9日決定
大型ショッピングモール内の雑貨店でピアス6セット等8点(販売価格合計5,162円)を万引きした事案です。
なお、被害品は全て還付されており、非行事件としては比較的軽微なものに分類されます。
2 裁判所の判断
1 原審(家庭裁判所)の判断
万引きの手慣れた態様、2回の万引きによる保護歴の存在から(1回目は審判不開始、2回目は不処分)、この種の非行に対する抵抗感の薄さがうかがえ、現時点で非行性が大きく進んでいるとは言えないが、資質上の問題性が顕在化すれば、再非行のおそれが高い。
少年にはその資質上の問題性があるほか、母及び養父は少年に拒否的な対応を続け、家庭での引き取りを拒否しており保護環境は悪い、付添人(弁護士)が主張する施設の受入れによっても、現時点では、少年が社会内で自律的な生活を送りながら更生していくことは困難である。
少年の更生のためには、少年を施設に収容し、問題行動を振り返らせ、自己の問題行動と家族関係との関連性を理解させるとともに、強固な枠組みの中で規則正しい集団生活を送らせることにより、基本的な生活習慣や忍耐力、社会規範、対人スキルを修得させて社会性を伸長させることが必要である。
(結論)
第一種少年院送致を相当。
ただ、少年が明確な枠組みの中では従順であり、一定の理解力を有することから、短期集中的な処遇により相当の効果が期待できるとして、短期間の処遇勧告をしました。
2 抗告審(東京高裁)の判断
万引きの態様は、小さな商品を握った手の中に隠し、さらに、着衣の長い袖でその手を隠して店外に持ち出すというもので、格別巧妙なものではなく、その態様自体から万引きの累行性や習癖をうかがうことはできない。
また、少年は、本件非行の前に、2回の家庭裁判所係属歴を有しているが、その内容は、1回目は審判不開始であり、2回目は保護的措置を講じた上での不処分に過ぎない。
しかも、少年は、前件の審判後、約1年後に本件非行に及んでいるが、本件非行後に、少年が万引きを繰り返していたことはうかがえない。
また、その後、友人と一緒にいるところを深夜徘徊で1回補導されたことはあるものの、不良交友関係を形成させていたわけでもない。
これらによれば、少年は、本件非行時、万引きに対する抵抗感が薄かったということは言いうるにしても、その程度は深刻なものではない上、本件非行後の生活状況や、次に検討する少年の資質上、環境上の問題を考慮に入れても、原決定が指摘するような再非行の高いおそれを肯定するだけの具体的な事情が見出せないのであって、非行事実自体からは、少年の非行性が、施設内における矯正教育を相当とするまで深化しているとは認められない。
少年は、家族から受容される経験に乏しく、家庭内で孤立し、強い疎外感を抱いていた。
そして、本件非行に及んだことにより、ますます家庭に居づらくなって家出をし、その後は、友人宅等を転々とした末、ガールズバーの寮に住み込んで深夜まで稼働するという不安定な生活を送っている。
これらの者による適切な監護や更生への協力が期待できず、適切な監護者が見当たらないことから、これまで保護処分歴がなかった少年に対し、原決定が有用性を認めた教育を、施設収容(少年院)を通じて修得させようとするのは早計に過ぎるというべきである。
前記のとおり、少年の非行性は深化しているものではない上、少年は、観護措置を通じて、自己の問題性を理解し始め、反省し更生を約束している。
少年は、本件非行後、家出をして転々とした末、ガールズバーの寮に居住し、深夜まで稼働するという不安定な生活を送りながらも、この間、犯罪に及ぶような問題行動には出ていない。
そして、少年が不安定な生活を送っていたのは、家族との関係性が失われて居場所を失い、適切な受け入れ先が見当たらなかったことによる。
少年にとっては、保護されるべき安定した環境が確保されることが喫緊の課題であり、適切な受け入れ先が確保できれば、専門家の指導や助力を得て適切な指導監督体制も構築することができ、原決定が意図した少年の健全育成の目的は達しうると考えられる。
結論として、破棄差戻し(差し戻し後に保護観察が確定)。
3 コメント
審判の対象である「要保護性」の評価の仕方が、家庭裁判所と高等裁判所の判断を分けたといえる事例です。
要保護性を検討する場合、非行事実は、犯罪的な危険性(非行性)が顕在化したものと考えられますので、少年が有する問題性や再非行性を検討するの重要な要素となり、非行事実の軽重は要保護性の程度と相関関係にあるといえます。
ただ、非行事実が軽微であっても、少年の問題性が顕著であれば高い再非行性が肯定された保護処分が相当とされることはあり得ます。
少年の処遇選択にあたっては、事案の重大性や態様の悪質性等、少年の反省・更生の意欲、資質、能力、性格・行動傾向、保護環境、社会的資源等の中に、少年の改善更生に結びつく要素がある場合には、直ちに収容とはせずに、そうした要素を活かす余地はないのか、という基本的な発想があるようにみられます。
まさに本件は、処遇選択にあたって、要保護性を慎重に検討した上で、社会内処遇の選択の余地がないかを検討することの重要性を示唆してくれるものといえるでしょう。