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ぐ犯少年の覚せい剤による少年院送致事例(ぐ犯事実の同一性)

本件は、家庭裁判所には、次の2つの事件として扱われていました。

  • 平成29年夏頃の覚せい剤自己使用の事実を送致事実とする覚せい剤取締法違反保護事件(甲事件)
  • Cと交際し覚せい剤を使用していたこと(乙1事実:ぐ犯)及びDが覚せい剤を所持していることを知っていながら行動を共にしていたこと(乙2事実:ぐ犯)

裁判所は、上記の①(甲事件)は認定できないとして、覚せい剤取締法違反の犯罪事実を認めませんでした。

そのため、ぐ犯の乙事件2つについて判断され、少年院送致がなされたケースです。

なお、法律的には、甲事件と同一性を有するぐ犯事実に、乙事件のぐ犯事実(1及び2)を併せて1個のぐ犯事実を認定していますので、ぐ犯事実の数え方について、コメント(解説)しています。

1 事案の概要

少年(女性)は、平成25年頃家を出て、キャバクラで稼働しました。

平成27年春頃、キャバクラの客であるAと覚せい剤を使用して性交すると、その後覚せい剤を常習的に使用するようになりました。

同年冬頃からはBと、平成28年夏頃からは覚せい剤の密売人であるCと、それぞれ生活費を出してもらう愛人関係となって、覚せい剤を使用して性交するなどしていました。

少年は、覚せい剤使用により幻覚を見たことなどから、覚せい剤の使用をやめることを決意して、平成28年冬頃、Cから逃げたものの、別の男性とのトラブルから、平成29年春頃、Cに連絡を取って覚せい剤を使用しました。

更に、同年夏頃には、友人のDが覚せい剤を所持していることを知りながら同人と行動を共にして、覚せい剤を使用しました。

このように、少年は、犯罪性のある人と交際し、このまま放置すれば、その性格及び環境に照らして、将来、覚せい剤取締法違反等の罪を犯すおそれがあるというぐ犯保護事件です。

2 裁判所の判断

1 千葉家庭裁判所(平成29年10月10日決定)

覚せい剤の自己使用の保護事件も家庭裁判所に送致されていましたが、「全体として、無理やり覚せい剤入りの水を飲まされ、陰部に覚せい剤を塗られたという少年の弁解は排斥しがたいというほかない。少年の弁解を前提とすると、覚せい剤使用行為を認定できないから、覚せい剤取締法違反保護事件の送致事実を認めることはできない。」と判断しました。

その上で、上記(「事案の概要」)の非行事実によるぐ犯保護事件として、第1種少年院送致としました。

2 東京高等裁判所(平成29年12月19日決定)

原審の判断に対して、付添人(弁護士)は、「少年が家出をしていたことは事実であるが、毎週少なくとも1回程度は両親の住む実家に戻り、家出をしている間も両親に居場所を伝え、頻繁に連絡を取り合っていたため、両親の指導力に期待できないとする点は誤っている」ことを抗告理由に挙げました。

これに対して、東京高裁は次のように述べて、付添人の抗告を棄却しています。

一件記録に照らせば、原決定が、所論の指摘する少年の家出の状況や両親との関係を前提として、要保護性の基礎となる事実を認定していることは明らかである。

また、所論の指摘を前提としても、幼少時からの両親による養育の状況やこれに対する少年の態度、本件ぐ犯事実に至るまでの少年の生活状況両親の保護内容などを見れば、両親の指導力に期待することができないとした原決定の評価に誤りは認められず、原決定に、所論指摘の事実の重大な誤認はない。

3 法律的コメント(ぐ犯事実の同一性と少年の防御権)

1 本件の法律上のポイント

本件では、事案の概要において、甲事件、乙事件のいずれの送致事実としても記載されていない事実(A及びBと交際して覚せい剤を使用した事実。)が含まれていました。

そのため、記載されていない事実について、少年に対する審判に付すべき事由の告知陳述の機会が与えられておらず、これらを非行事実として認定したことについて、決定に影響を及ぼす法令の違反があるのではないかとの疑問があり得ます。

2 ぐ犯事実の同一性

まず、ぐ犯事実の捉え方について、どの範囲のぐ犯事実を1個として評価すべきか(横断的同一性)という問題と、どの時点までのぐ犯事実を1個として評価すべきか(縦断的同一性)の論点があります。

横断的同一性

①ぐ犯事由に該当する事実ごとに別個のぐ犯が成立するとする説、②ぐ犯事由と同種のぐ犯性によるとする説、③ぐ犯性によって特定する説、④一定時期には一つのぐ犯のみが成立するとして時期により特定する説などの考え方があります。

縦断的同一性

①事件送致時、②事件終局時、③原則は事件終局時であるが、試験観察決定があったときにはその時期とする説などの考え方があります。

本決定のポイント

本決定は、横断的同一性について、④一定時期には1つのぐ犯のみが成立するとして時期により特定し、かつ、縦断的同一性については、②事件終局時である考えを採用しました。

つまり、ぐ犯事実の同一性について、同一時期に1人の少年には1つのぐ犯事実しか成立しないとの立場を明確にしました。

3 本決定のポイント(記載されていない事実について)

千葉家裁は、少年に対して、同種のぐ犯事由が記載されたぐ犯保護事件の送致事実が告知され、少年はその事実を認めていたこと、少年は調査及び審判を通じて、A及びBと交際し覚せい剤を使用したことを明白に認めていたことを考慮すれば、不記載事実を含めて1個のぐ犯の非行事実を認定することは、少年側の防御権を侵害するものではないと判断しました。

本決定(東京高裁)は、少年の防御権が保障されているかどうかは、履践された手続の形式ではなく実質において判断するのが相当であるとした上で、原審付添人(抗告審の付添人と同じ)立会いの下で実施された原審審判期日において、裁判官が少年に黙秘権を告知した後、少年本人質問の手続が実施され、その中で不記載事実に関する質問も行われて事実関係の確認が行われていること、その際、少年及び原審付添人は不記載事実を認めていること、その後も少年及び原審付添人は事実関係について争っていなかったことといった経緯が認められることなどの点を検討し、少年には実質的な防御の機会が与えられていたと評価しました。

本決定の法律的な意義

本決定は、事例判断ではあるものの、ぐ犯事実の同一性について、同一時期に1人の少年には1つのぐ犯事実しか成立しないとの立場を明確にし、また、非行事実の認定において実質的な告知と陳述の機会が与えられたと評価されるためのポイントを示した点で、意義のある事例と評価されています。

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