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ぐ犯少年(15歳)に強制的措置許可を伴い児童自立支援施設に送致した事例

決定のポイント

本件は、児童自立支援施設への送致に、強制的措置を認めています。

強制的措置の内容は、主には少年を自由に外出できない場所(施錠可能な部屋など)に収容することです。

強制的措置は、少年の事件を大きく制約することから、児相などに独自の権限を認めるのではなく、家庭裁判所に事件を送致してその許可を得なければならないと定められています(少年法6条の7第2項、児童福祉法27条の3)。

児童自立支援施設は、不良行為をなし、又はなす恐れのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ、又は保護者の下から通わせて、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援すること等を目的とする施設です(児童福祉法44条)。

①学校や警察署などからの通告や、家庭裁判所からの送致(少年法18条2項)を受けた児童について、都道府県知事(その委任を受けた児童相談所長)の判断により入所する場合(児童福祉法27条1項3号)と、②家庭裁判所の保護処分の決定により入所する場合(同法27条の2第1項)があります。

本件は、家庭裁判所の保護処分として(上記の②の方法)、児童自立支援施設への送致が決定された事案です。

なお、処遇理由において、保護者の監護についての言及もあり、少年と保護者(父)の関わりを考えさせられる事例でもあります。

1 事案の概要(非行事実) ~ 東京家裁平成29年4月25日決定

少年は、現在15歳の男子であるが、平成25年○月、家庭内で金品の持ち出しを繰り返したことなどから児童自立支援施設入所処置がとられ、また、同措置が解除され自宅に戻った平成27年○月以降も、保護者の指導に反し、父方祖母方から金品を持ち出すことを続けている。

さらに、少年は、父方祖母方から同人のキャッシュカードを窃取した上、平成28年○月には同キャッシュカードを使用して無断で合計10万円を引き出し、同年○月には○○区内の金融機関に赴いて同キャッシュカードが使用できるかどうか確認することをしている。

また、少年は、小学校に入学した平成21年○月以降、他児に対して暴力を振るうなど粗暴傾向が見られるようになり、平成22年○月から約3か月にわたり、その改善を図るため医療機関に入院することがあった。

その後、少年の暴力行為は減少し、上記児童自立支援施設入所中には暴力行為はほとんど見られなかったが、少年は、上記入所措置解除以降、入学した中学校において、少年をからかってきた同級生に暴力を振るい、さらに、家庭においても、少年が父方祖母方から金員を持ち出しては無断でゲーム機を購入する中で、ゲーム機を取り上げて叱責しようとする父親に反抗し、ロフトベッドの鉄製のはしごで殴りかかったりするなど、父親に対して粗暴な行為に及んでいる。

このように、少年は、保護者の正当な監督に服さない性癖があり、このまま放置すると、その性格又は環境に照らして、将来、窃盗、暴行、傷害の罪を犯すおそれがある。

2 主文と処遇の理由

⑴ 主文

少年を児童自立支援施設に送致する。

少年に対し、平成29年〇月〇日から1年半の間に、通算30日を限度として、強制的措置をとることができる。

⑵ 処遇の理由

少年の来歴

少年は、小学校入学前から落ち着きがなく、友達に暴力を振るうなどしていたところ、小学校に入学すると、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の診断を受ける一方、友達を作るためには強く振舞えばよいとの誤った考え方を持ち、同級生に対する暴力を繰り返すようになった。

少年は、粗暴傾向の改善を図るため、小2から3か月ほど○○病院に入院したが、同病院を退院すると、それまでの粗暴な言動は収まってきたものの、今度は物を介して友達関係を築こうと考え、話題の商品や同級生にあげる菓子を購入するため、自宅や父方祖母方から金品を持ち出すようになった。

少年は,こうした問題行動等によって、小5では児童自立支援施設入所措置がとられ、退所して以降に中学校に入学すると、同級生から日常的にからかわれる中で、これに立腹して暴力を振るうとともに、やはり友達を作りたいとの思いから、父方祖母方の金品を持ち出し、同級生との話題作りのため、ゲーム機や漫画本を購入することを繰り返した。

その後、少年は、中学校生活に適応できず、中学2年生になった頃から不登校状態に陥ったが、自宅でゲーム遊びやチャットに没頭する中で、ゲーム機欲しさに引き続き父方祖母方から金品を持ち出すなどしている。

他方で、保護者である父親は、金品持ち出し行為が発覚する度に少年を殴る蹴る等して暴力を伴う懲罰的な監護で対応してきたが、これによって少年の問題行動が収まることはなく、むしろ最近では少年が父親に反抗するようになり、これに対応して父親の暴力も激しさを増している状況にある。

保護者の対応と監護環境

少年は、父親のもとで生活しているところ、父親は、監護意欲を有し、在宅処遇を希望している。

しかし、父親は、問題行動を繰り返す少年に対し暴力を伴う懲罰的な態度で臨んでおり、受容的な態度に欠け、今もなお少年に不信感を抱いている。

父親は、今後は暴力を控えると述べているものの、少年は、父親のことを恐れ、家庭に疎外感を感じており、少年が父親との情緒的な交流を実感できるほど親子関係が改善されることは容易ではないとみられる。

父親において、児童相談所との関わり合いについて消極的な様子がうかがわれることにも照らすと、父親に適切な監護を期待することは困難である。

裁判所の検討結果

以上検討した本件事案の内容、少年の資質上の問題点、家庭環境等を考慮すると、独立型社会福祉士の支援が期待できることなど付添人が指摘する事情を踏まえてみても、少年について、児童自立支援施設に収容し、専門的な指導の下、家庭的な雰囲気の中で問題点の改善と社会適応力の向上を図るのが相当である。

⑶ 強制的措置許可決定について

児童相談所長は、少年に対しては児童自立支援施設に入所させて強固な枠組みと専門的な関わりの中で指導を行う必要があるところ、かつて少年は他の児童自立支援施設入所中に性的問題行動に及んだことがあり、このような問題を再び起こした場合には、一定期間の行動制限を行い、個別的に指導する必要があるとして、向こう1年半の間に通算90日を限度として強制的措置をとることの許可を求めている。

そこで検討するに、少年が性的問題行動に及んだのは小6の一時期のみであり、それから相当期間が経過していることにも照らすと、少年において再び性的問題行動に及ぶおそれが高いとみることはできない。

もっとも、少年は、中学校入学後、周囲の刺激に反応して衝動的に粗暴行為に及んでおり、児童自立支援施設に入所した後も、他の入所者とのいさかいが起きた場面などで興奮状態に陥り、衝動的に暴力を振るうことが懸念されるところである。

そのような状態になった少年を落ち着かせるためには強制的措置をとることもやむを得ないと考えられ、通算90日もの日数の必要性は認め難いものの、1年半の間に通算30日を限度として強制的措置をとることを許可することとする。

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