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弁護士会より、弁護士会照会(23条照会)の文書が届きました。
照会内容に取引先の情報も含まれており、回答すべきか悩んでいます。この照会文書に対しては、回答をしても良いのでしょうか?
拒否しても問題ないのでしょうか? -
弁護士会照会(通称「23条照会」)の対応については、弁護士によっても考え方や助言内容が異なっている実態があります。
報告(回答)を拒否しても損害賠償義務は負わない一方、回答することで損害賠償請求を受けるリスクがあるから、23条照会の回答については一律に消極的に考えた方が良いです。
最高裁判例においても報告義務があると明言されていることから、基本的には回答する方向で考えるべきで、回答拒否をする時は正当な理由を慎重に検討すべきです。
この問題に、絶対的な答えはありません。
私自身の経験・感覚においても、同期や同業の集まりにおいて、皆が同じ見解を持っているわけではないと認識しています。【私見】
判例上も回答義務が認められていることや、企業の社会的責任の履践とレピュテーション維持の観点から、基本的には報告(回答)することを前提として行動するべきと考えています。仮に報告を拒否するとしても、正当な理由について慎重な検討を行い、安易な拒否を行ったと非難を受けないよう努めましょう。
そのため、上記にある消極派弁護士の意見には与しがたいと考えます。
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第1 はじめに
弁護士会照会(23条照会)の照会件数の増加と共に、その対応を巡る相談も増えているように感じます。
同じ質問なのに弁護士によって回答が異なり得る、比較的珍しい類型と思います。
その延長線上として、「報告は絶対にできないので拒否したいが、法的に問題はあるか?」と聞かれる場合と、「この対応はどうしたら良いか?」とオープンに聞かれる場合と、同じ弁護士でも回答が異なり得るのではないかと考えています。
この弁護士会照会(23条照会)は、何より照会先にとってその対応が非常に悩ましい問題ですので、その検討材料を提供することができたら幸いに思います。
第2 弁護士会照会(23条照会)とは?
1 内容
「弁護士の職務の公共性」(真実の発見と公正な判断に寄与するため)から、弁護士が受任事件について、証拠資料を収集し、事実を調査する等、その職務活動を円滑に執行処理するために設けられた制度です。
そして、時に個人情報や取引相手の秘密情報など、センシティブな情報の収集を行うこともあるため、慎重な行使のために個々の弁護士ではなく、弁護士会が主体となって照会を行う仕組みとなっています。
なお、日弁連によると、2019年の照会受付件数は22万2811件、回答件数が20万件弱あり、9割弱の回答が得られているとのことです。
【参考】🔗「弁護士会から照会を受けた皆さまへ」(日弁連HP)
弁護士会照会(23条照会)とは、弁護士が受任している事件の解決に向けて、証拠収集の1つの手段としての役割を担っています。
2 根拠法令
弁護士法23条の2に規定されています。
この条文番号から、通称「23条照会」とも呼ばれています。
弁護士法第23条の2(報告の請求)
1項
弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2項
弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
この条文の規定は、刑事訴訟法197条2項により捜査機関(検察、警察)に与えられた「捜査関係事項照会」に類似しています。
刑事訴訟法第197条2項(捜査関係事項照会)
「捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」
3 照会の態様等について
前述しましたように、弁護士「会」が主体となって照会を行います。
「受任」事件に限ること
それだけでなく、弁護士会に照会を求める個々の弁護士においても、照会を求めることができるのは、受任している事件に関連するものに限る、という制約があります。
そのため、法律相談だけでは利用できません。かつ、弁護士会照会の調査を目的とした受任も原則としてできません。
例外的に、たとえば医療過誤事件のように、調査を踏まえてその後の法的手続を取るかどうかを判断する場合もあり得、そのような場合には弁護士会照会を利用することができるとされます。
ただ、この場合は、照会申出に「●●事件(準備中)」等と記載し、照会理由に調査結果を踏まえて手続を決めることを記載します。
照会先に対する負担等も考慮されていること
「裁判所に提出するため」、「受任事件の調査のため」では、照会先が必要性を理解することができません。
そのため、照会先には、弁護士会の審査段階を経ることで、照会の趣旨が理解できる程度に具体的に記載されているはずです。
また、銀行口座の長期間の入出金の明細を照会する場合など、照会先に過重な調査労働を強いるケースが有り得るため、照会対象期間は、必要最小限度の期間に限定されています。
同様に、「本書到着後、1週間以内に回答されたい。」等と回答期限を設定することも好ましくないものとされています。
この他にも、照会先において容易に判断できる法律解釈や医学的意見を求めることは許されると考えられていますが、それ以外の意見や鑑定を求める照会は許容されていません。
照会の内容や必要性などで確認したいことがあれば、弁護士会や照会申出弁護士に対し、遠慮なく問い合わせましょう。
4 照会先の報告(回答)義務について
最高裁平成28年10月18日判決(以下、該当部分を抜粋)において判示されたように、法律上の報告義務が認められています。
「23条照会の制度は、弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査等をすることを容易にするために設けられたものである。そして、23条照会を受けた公務所又は公私の団体は、正当な理由がない限り、照会された事項について報告をすべきものと解される。」
5 個人情報保護法との関係
弁護士会照会については、判例においても報告(回答)義務が明言されているように、個人情報保護法との関係において、免責となります。
具体的には、「法令」によるものとして、第三者提供に際しての本人の同意は「不要」です。
各種ガイドラインでも、弁護士会照会がこの場合の「法令」に該当することを明示していることも多く、照会申出弁護士が関連するガイドラインを資料として説明をすることもあります。
個人情報保護委員会の見解は、(原則)問題なし、(例外)内容によっては慎重な判断が必要、としていますが、基本的に問題はないとの結論を示しています。
(参考リンク:🔗個人情報保護委員会「弁護士会への第三者提供」)
(参考リンク:🔗個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」法第18条第3項第1号関係事例5
🔗個人情報保護委員会『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A の7-16)
第3 弁護士会照会の運用上の問題点
1 照会先がリスクを引き受ける構図になっていること
弁護士会照会(23条照会)への対応にあたっては、弁護士会照会の照会事項は、照会先自身やその顧客などの秘密情報を含むことがあるため、照会先は正当な理由があれば照会を拒否できると理解されています。
先ほどの最高裁平成28年10月18日判決において、「各照会事項について、照会を求める側の利益と秘密を守られる側の利益を比較衡量して報告拒絶が正当であるか否かを判断するべきである」と述べられています。
つまり、弁護士会照会の問題点は、照会先が自己のリスクで比較衡量を行い、正当理由の有無を判断しなければならないことにあります。
照会先企業にリスクを負わせる構図が良くありません。
相談を受ける弁護士も、色々な意見や価値観があるからこそ、照会先企業と共に苦悩せざるを得ない現実があります。
2 報告に対する消極的意見の主な論拠
弁護士会照会に対して、消極的な意見が出る理由は、報告(回答)を拒否することでの不利益(特に賠償義務)は生じない一方、報告をすることで損害賠償を請求される恐れがあることです。
根拠となる判例・裁判例は、①前科・前歴照会に応じた区に対して損害賠償請求が命じられた判例(最三小判昭和56年4月14日民集35巻3号620頁)がリーディングケースとしてよく引用されました。
もっとも、同判例以降において照会先に賠償責任が認められる事例は不見当でしたが、②確定申告の開示に応じた税理士法人への損害賠償請求が認められた裁判例(大阪高判平26年8月28日)が出ており、最近ではむしろこちらが念頭に置かれています。
3 照会先に損害賠償請求を命じる事例を一般化できるか?
①前科・前歴照会に応じた判例(最三小判昭和56年4月14日)について
前科・前歴という極めてセンシティブな情報に対して、申出における照会を必要とする事由が非常に簡略な内容で、かつ、前科・前歴については通達により一般の身元照会には応じない取扱いとされており、弁護士照会にも回答できない旨の自治省行政課長の回答があったにもかかわらず、政令指定都市の区長が漫然と報告に応じたという極めて特殊な事案です。
その意味で、この照会の審査を通した弁護士会にも大きな非が認められると考えますが、本事案の特殊性が大きく、これをもって一般化することはできないと考えます。
②確定申告を開示した税理士法人の事例(大阪高判平26年8月28日)
事案の内容は、平成22年3月以降に体調不良となったAの就労の有無が争点となっていた訴訟があったため、「平成22年3月以降のAの就労の事実がなかったことを立証すること」を照会理由として、平成21年までAの確定申告を担当していた税理士法人に弁護士会照会がなされました。
税理士法人はそれに対して回答をしましたが、回答をした税理士法人に慰謝料の賠償責任が認定されました。
この裁判例においては、「弁護士会が現実に23条照会申出の適否につき、どの程度の審査を行っているのか不明」、「厳格な審査が行われた形跡がない」などの評価がありました。
一方で、これと同一事案でありながら、同じ原告が弁護士会を被告として提起した別訴では、弁護士会が具体的かつ詳細な審査手続・審査基準の定めを有し、それに従って照会をすることに合理性があるとして、弁護士会の照会は不法行為を構成しないとの判断が示されています(京都地判平成29年9月27日判決)。
この京都地裁判決では、健康状態を明らかにするために対象者の診療録等を取り寄せることが必ずしも容易ではないこと(すなわち、代替手段が乏しいこと)、また、争点となっている平成22年以降の勤務実態を明らかにするため、事業収入金額にも変動があったと考えられることなどから、大阪高裁判決がありながらも、照会申出の必要性・相当性を肯定し、同一原告からの請求を棄却しています。
両判決については、弁護士会の審査に対する評価が結論を分けた印象があります。
ただ、この大阪高裁の事例では、弁護士会の審査手続・審査基準について弁護士会自体が反論する機会を得られたわけではなく、大阪高裁の裁判例に追従する事例が発生するかの推移を見守っていく必要がありますが、個人的には多くないと考えています。
4 時代の変化 ~ 日本郵便が転居先情報の開示へ
弁護士会照会に対し、回答拒否をしても弁護士会に対し損害賠償義務を負わないとした判例(最高裁平成28年10月18日判決)や、弁護士照会制度には報告拒否に対する制裁の定めがないこと等を理由に、弁護士会が照会先に対して報告を義務付けることはできないとして、訴えに確認の利益がないとして却下した判例(最三小判平成30年12月21日)があります。
これらは、日本郵便株式会社が転居届記載の新住所の開示を拒否したことに対するものでした。
しかし、日本郵便もかかる判例を受け、令和2年3月に郵便分野ガイドラインの解説を改正しています。
【参考:🔗「郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」(第3回)配布資料について(総務省HP)】
そして、とうとう令和5年6月1日より「弁護士会が、弁護士法第23条の2の規定に基づき、住民票を異動せず転出し所在の把握が困難となっている訴え等の相手方の転居届に係る新住所の情報を照会した場合、日本郵便は、当該相手方の転居届に係る新住所の情報を当該弁護士会に提供することを開始します」と開示の方向に舵を切りました。
【参考】🔗「郵便の転居届に係る情報の弁護士会への提供の開始」(総務省ホームページ)
日本郵政と弁護士会の裁判は、未公開株の詐欺被害事案であるのに、民事訴訟の和解金を支払わない不法行為者の転居先の回答を拒否したものでした。
非難も強い所でしたが、長く戦った方々がいるからこその、時代が変わった瞬間だと思います。
第4 まとめと私見
以上のように、弁護士会照会は、照会先に正当理由の判断とそのリスクを負わせている点で大いに改善の余地がある制度です。
とはいえ、判例において明確に報告義務があると述べられ、かつ、開示したことによる賠償リスクは高くない点を看過してはなりません。
そして、企業が社会の構成員として経済活動を行っていることや、コンプライアンスを遵守することで企業のレピュテーションを維持することに考慮すると、基本的には報告を行う方向で検討し、仮に拒否する場合であっても、正当理由について慎重な検討を要すると考えるべきです。
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