刑事訴訟法321条の3とは?|司法面接的録画の証拠能力・要件・実務上の問題点を解説
令和5年改正により新設された刑事訴訟法321条の3は、いわゆる司法面接の手法を用いた録音・録画記録を、一定の要件の下で証拠化することを認めた規定です。
特に、性犯罪被害者や児童などの「供述弱者」の負担軽減を目的とする一方で、供述汚染や反対尋問の実効性など、刑事弁護上の重要な問題も指摘されています。
本記事では、刑訴法321条の3の条文構造、措置要件・相当性要件の内容、最新裁判例、そして弁護実務上のポイントについて詳しく解説します。

1 刑事訴訟法321条の3の趣旨
(1) 被害者等の負担軽減と二次被害の防止
- 従来は、このような被害者の方の供述調書や聴取結果を録音録画した記録媒体は、伝聞証拠として証拠能力が原則認められず、供述不能等の伝聞例外の要件(刑訴法321条1項2号・同3号)が充足されなければ証拠として採用されませんでした。
- 性犯罪の被害者、特に児童や精神障害を有する方にとって、公判期日において被害状況を繰り返し、逐一詳細に証言することは、多大な心理的・精神的負担を伴います。
- また、捜査段階から公判に至るまでの間に何度も同じ話をさせられることは、記憶の変容を招くだけでなく、被害者にとっての「二次被害」となることが指摘されてきました。
- 本条は、このような負担を軽減することを主眼に置いているとされています。
(2) 供述の信用性確保と司法面接手法の活用
- 司法面接(Forensic Interview)とは、児童等の供述弱者から、誘導を避けつつ、できるだけ正確で詳細な情報を引き出すために開発された聴取手法とされています。
- 本条は、この司法面接的手法によって得られた初期の供述を録画媒体の形で証拠化することで、(場合によっては記憶が鮮明な段階での高い信用性とも評価され得る)初期段階の供述を裁判所に提出することを可能にしたということもできます。
2 条文の引用と構成
刑事訴訟法321条の3の内容は以下の通りです。
(1) 刑事訴訟法321条の3第1項
第321条第1項各号に掲げる者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体(その供述がされた聴取の開始から終了に至るまでの間における供述及びその状況を記録したものに限る。)は、
その供述が第2号に掲げる措置が特に採られた状況の下にされたものであると認める場合であって、聴取に至るまでの状況その他の事情を考慮し相当と認めるときは、同条第1項の規定にかかわらず、証拠とすることができる。
この場合において、裁判所は、その記録媒体を取り調べた後、訴訟関係人に対し、その供述者を証人として尋問する機会を与えなければならない。
一 次に掲げる者
イ 刑法第176条、第177条、第179条、第181条若しくは第182条の罪、同法第225条若しくは第226条の2第3項の罪(わいせつ又は結婚の目的に係る部分に限る。以下このイにおいて同じ。)、同法第227条第1項(同法第225条若しくは第226条の2第3項の罪を犯した者を幇助する目的に係る部分に限る。)若しくは第3項(わいせつの目的に係る部分に限る。)の罪若しくはこれらの罪の未遂罪の被害者
ロ 児童福祉法第60条第1項の罪若しくは同法第34条第1項第9号に係る同法第60条第2項の罪又は児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第4条から第8条までの罪又は性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に含まれる性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律第2条から第6条までの罪の被害者
ハ イ及びロに掲げる者のほか、犯罪の性質、供述者の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、更に公判準備又は公判期日において供述するときは精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者
二 次に掲げる措置
イ 供述者の年齢、心身の状態その他の特性に応じ、供述者の不安又は緊張を緩和することその他の供述者が十分な供述をするために必要な措置
ロ 供述者の年齢、心身の状態その他の特性に応じ、誘導をできる限り避けることその他の供述の内容に不当な影響を与えないようにするために必要な措置
(2) 刑事訴訟法321条の3第2項
「前項の規定により取り調べられた記録媒体に記録された供述者の供述は、第295条第1項前段の規定の適用については、被告事件の公判期日においてされたものとみなす。」
3 証拠能力が認められるための具体的要件
本条に基づき録画媒体が証拠として採用されるためには、以下の4つの要件を全て満たす必要があります。
(1) 対象者要件(1項1号)
ア 性犯罪等の被害者
- (イ・ロ) 不同意わいせつ罪、不同意性交等罪、児童福祉法違反、児童ポルノ法違反等の被害者が広く含まれます。
イ 精神の平穏を著しく害されるおそれのある者
- (ハ) 犯罪の性質や供述者の年齢、被告人との関係等を考慮し、公判期日での供述に多大な精神的苦痛が予想される者が対象となります。
- 性犯罪の被害者に限られていません。
- 「更に公判準備又は公判期日において供述するときは精神の平穏を著しく害されるおそれがある」かは、個別具体的な判断にはなりますが、立案担当者の解説では以下のような例が紹介されています。
予想される証言内容も考慮され得ると考えられています。- 性的目的に基づく監禁行為やいわゆる痴漢行為の被害者
- 暴行傷害等の身体的虐待を受けた子供
- 凄惨な事件を目撃した子供
- 対象者が(年少者や被害者等のみならず)無限定に読める点について、懸念を示す指摘もなされています。
(2) 対象となる録音・録画記録媒体
ア 「供述及びその状況」
- 刑訴法301条の2第4項と同義とされています。
- 聴取者の質問や発言も含まれ、供述者が沈黙している様子も含まれるとされています。
イ 「その供述がされた聴取の開始から終了に至るまでの間」
- 刑訴法301条の2第4項と同義とされています。
- 実質的にみて聴取を開始したときから終了したときまでと考えられています。
(3) 措置要件(1項2号)
ア 趣旨
- 聴取の際、供述者の特性に応じた適切な措置が「特に採られた」ことが必要です。
- こうした措置は、被害者や参考人への事情聴取に際し、一般的にとられ得るものであることから、そうした通常の配慮を越えて、個々の供述者の特性に応じた特段の配慮の下に採られたことを要する趣旨とされています(立案担当者)。
イ 「供述者の年齢、心身の状態その他の特性」
- これらの事情が明記されたのは、「十分な供述をするため」「不当な影響を与えないようにするため」の「必要な措置」に該当するかの判断をし易くし、安定的な運用を確保するためとされています。
- 「年齢」は、年齢が低い者ほど、ストレス耐性が低く、脳も未発達とった心理学的知見を踏まえ、供述をする際の不安・緊張の大きさや誘導の影響の受けやすさにかかわる事情としてとらえられています。
- 「心身の状態」は、心身の状態が悪化している場合には、その内容・程度によって、ストレス耐性や知的能力等が制限され、供述する際の不安・緊張の大きさや誘導の影響の受けやすさにかかわる事情として掲げられているとされています。
- 「その他の特性」としては、供述者の性格などが考えられるとされています。
ウ 「供述者の不安又は緊張を緩和することその他の供述者が十分な供述をするために必要な措置」
- このような措置がとられることにより供述の信用性の情況的保障が担保されると考えられることから設けられたとされています。
- 「捜査機関にとって有用な内容か否かを問わず、供述者において、その記憶に基づいて一連の出来事に関する事実関係をできる限り正確に、かつ、できる限り多くのべることができること」と解されています。
- 「十分な供述」とは、捜査にとって有用か否かを問わず、供述者が、記憶に基づいて事実を、できる限り正確に、多くを述べることができることを指すと考えられています。
- 「供述者の不安又は緊張を緩和すること」の例(立案担当者)
- 本題に入る前に供述者との間で話しやすい関係性を形成するための会話を行う
- 事情を聴く場所として、供述者が安心して供述できる配慮された場所で行う
- 「供述者が十分な供述をするために必要な措置」の例(立案担当者)
- 低年齢の供述者について、子供の集中力に関する心理学的知見を踏まえ、環境や時間等について配慮すること
エ 「誘導をできる限り避けることその他の供述の内容に不当な影響を与えないようにするために必要な措置」
- このような措置がとられることにより供述の信用性の情況的保障が担保されると考えられることから設けられたとされています。
- 「不当な影響を与え」とは、「供述者が一連の出来事に関する事実関係をその記憶に基づいて正確に述べることができなくなるような影響を与えること」と解されています(立案担当者)。
- 「誘導をできる限り避ける」とは、誘導又は暗示的な発問について、可能な範囲でこれを避けることを意味すると考えられています。
- 具体例(立案担当者)
- 誘導的な質問から開始するのではなく、まずはオープンな質問を使い、クローズドな質問はWH質問は、供述内容の具体化明確化等に必要な範囲で用いること
- 「その他の供述の内容に不当な影響を与えないようにするために必要な措置」の具体例として、面接者が極度に親和的であることが子供の迎合性を高める可能性があるとの心理的知見を踏まえ、極度に親和的に接することを避けること
- 具体例(立案担当者)
(4) 相当性要件
- 「聴取に至るまでの状況その他の事情を考慮し相当と認めるとき」という要件です。
- 2号の各措置がとられた場合、その結果を記録した記録媒体は、一般的に信用性の情況的保障が担保されていると言えるものの、聴取前に誘導や暗示の影響を受けて供述者の記憶が大幅に変容するなどしていた場合、当該記録媒体によって供述とその事情を確認するのみでは、記憶の変容が判明せず、信用性の判断を誤らせる危険があることから、そのような場合に証拠能力を認めることは相当ではないという考えに基づくものとされています(立案担当者)。
- 具体例(立案担当者)
- 第三者が虚偽供述を強要していた場合
- 「その他の事情」
- 供述者が虚偽供述をするような特性・障害を有するか
- 供述者が、被疑者等の事件関係者との間に虚偽供述をするような利害関係を有するか
- 相当性要件が問題になる場合には、第三者の影響を受けた事案であれば、当該第三者の証人尋問等を行うことが考えられます。
(5) 手続的要件(証人尋問機会の付与)
- 本条は、録画媒体を「主尋問」に代わるものとして位置づけています。
- そのため、憲法上の証人審問権を保障する観点もあり、記録媒体の取り調べ後、証人尋問の機会を与えなければならないと定めています(刑訴法321条の2第1項後段と同趣旨とされています。)。
- 証人尋問の機会を付与しなかった場合には、証拠能力が認められないと考えられています。
(6) 聴取主体
- 条文上、聴取主体は限定されていません。
- 聴取主体が誰であっても、司法面接的手法において求められる措置がとられたことこそが重要であり、聴取者を限定する必要はないと考えられたことから、このような規定になっています。
- 捜査機関ではなく、中立的な専門家が行うことが望ましいという指摘があります。
- なお、記録媒体が、刑訴法321条1項各号の要件が満たされれば、伝聞例外の証拠として、採用される余地があります。
- 検察官が録取主体となった場合には、刑訴法321条1項2号の要件で足りることになり、検察官以外が録取した場合に適用される刑訴法321条1項3号の要件と比較して緩い要件となる点は注意が必要です。
- 321条の3との選択の可否が問題になったケースではありませんが、321条1項2号の要件が問題になった事案で、「精神の故障」により供述不能と判断した裁判例として、大阪高判令和6年12月24日判例秘書L07920537があります。
- 検察官が録取主体となった場合には、刑訴法321条1項2号の要件で足りることになり、検察官以外が録取した場合に適用される刑訴法321条1項3号の要件と比較して緩い要件となる点は注意が必要です。
4 321条の3の効果
(1) 伝聞例外としての証拠能力
従来の伝聞法則(320条1項)の例外として、供述不能や特信状況の証明がなくても、上記の要件を満たせば録画媒体に証拠能力が認められます。
(2) 公判期日の供述とみなす規定(2項)
- 記録媒体に記録された供述は、刑訴法295条1項前段の適用に関しては、公判期日で行われた供述とみなされます(2項)。
- そのため、295条1項前段により、既に録画媒体で詳しく語られている内容について、法廷での証人尋問において重複する質問が制限される可能性があります。
- 繰り返しの供述を避けることで証人の心理的・精神的負担の軽減を図ろうとする点にあるとされています。
- ただし、重要な点で確認する必要性がある場合などの許される重複尋問はあり得ます。
(3) 諸問題
- 尋問の機会
- 尋問の機会を与えさえすれば足りるのかどうかは、形式的に手続要件を満たしていたとしても、議論があり得えます。
- 出廷した証人が証言を拒否するなどして、実質的に反対尋問等を行えなかったときなど。
- 尋問の機会を与えさえすれば足りるのかどうかは、形式的に手続要件を満たしていたとしても、議論があり得えます。
- 記録媒体の再生
- 記録媒体について、事前に供述者が視聴してよいか、法廷で再生することになった場合に供述者が在廷して視聴してよいかは、議論があります。
- 映像のインパクトと、それによる誘導の影響を考えると、慎重な対応が求められるべきです。
- 尋問中に聞いていることの確認や記憶喚起のために、一部分を再生してみてもらうという対応はあり得ます。
- 記録媒体について、事前に供述者が視聴してよいか、法廷で再生することになった場合に供述者が在廷して視聴してよいかは、議論があります。
- 補充的な主尋問
- 補充的な主尋問が許されないわけではないと判断した裁判例があります(福岡高判令和7年7月17日研修928号21頁)
- 反対尋問
- (補充的な主尋問があり得るとしても)基本的に主尋問が行われない上での反対尋問になるという特殊性があります。
- 供述者の年齢によっては、(もともと誘導されやすいため)誘導尋問による実効性がどこまであるかという指摘されています。
- 記録媒体が作成されたから相当時間が経過した後の反対尋問は、証人の忘却等により、実効的な弾劾が困難であるとの指摘があります。
- 記録媒体作成時の供述が尋問から数年前の話であるとして、証人が「数年前のことだからよく覚えていない」と言われた場合に、その言い分を排斥できるかということが考えられます。
- そのため、措置要件や相当性要件を検討し、証拠能力が認められ得るものなのかを徹底して検討する必要があります。
- 各要件の判断時期
- 証拠の採否にあたっては、特に裁判員裁判では、公判前整理手続で採否を決定することが望ましいという指摘もあります。
- 措置要件の判断にあたり、記録媒体に記録された映像を見た上で判断することになった後、要件は満たされないと判断された場合、見た映像を証拠から除外(見なかったことに)して判断することは容易ではないと考えられるため。
- 証拠の採否にあたっては、特に裁判員裁判では、公判前整理手続で採否を決定することが望ましいという指摘もあります。
5 弁護士から見た課題と実務対応
弁護人としては、適切な事実認定がされるよう、措置要件や相当性要件を十分に検討し、安易な証拠採用をさせないよう、以下の点に留意した活動が求められます。
(1) 供述汚染(面接前の接触)の調査
- 相当性に関する要件は、裁判所の判断に広い裁量が与えられているようにも読めます。
- 司法面接が実施される前に、親、学校、児童相談所、警察などがどのような聴取を行ったかを精査することが考えられます。
ア 証拠開示請求の徹底
- 司法面接に至るまでの全ての接触記録や報告書の開示を求めることが考えられます。
イ 専門家(供述心理学等)の活用
- 心理学の専門家に記録媒体や報告書を分析してもらい、誘導や汚染の有無について意見書を作成してもらうことも考えられます。
(2) 記録媒体の事前視聴と分析
- 検察官が証拠請求した記録媒体を、証拠採用の決定前に視聴し、措置要件(誘導の有無等)を具体的に争う必要があります。
- 裁判所が記録媒体を確認するという姿勢(提示命令等)をとる場合もあり得、予断を与えないような手続的工夫を求めるべきです。
(3) 実効的な反対尋問の準備
事後の反対尋問は、被告人側にとって重要な反証の機会です。
- 記録媒体との矛盾点の指摘
- 映像の中で語られている内容と、客観的証拠や他の供述との矛盾を突くことが考えられます。
- 供述の変遷の弾劾
- 初期の開示から司法面接、そして公判に至るまでの不自然な供述の変化を明らかにします。
- 誘導の影響の顕在化
- もし措置要件が不十分であれば、その誘導がいかに供述を作出させたかを証人尋問を通じて明らかにします。
6 まとめ
刑事訴訟法321条の3は、被害者保護と適正手続の調整を図る重要な規定ですが、映像供述が持つ強い影響力ゆえに、慎重な運用が求められます。
特に、
- 面接前の供述汚染の調査
- 措置要件の適否
- 相当性要件の判断
- 実効的反対尋問の確保
といった点は、刑事弁護において極めて重要です。
司法面接録画が問題となる事件では、供述心理に対する理解や専門的な検討が不可欠になります。





