ブログ

厳格な証明と自由な証明とは?|刑事訴訟法317条・証拠裁判主義を解説

刑事裁判では、「証拠によって事実を認定する」という証拠裁判主義が採用されています。しかし、すべての事実について同じ厳格さで証明が求められるわけではありません。

実務上は、「厳格な証明」と「自由な証明」という区別があり、どの事実がどちらに属するかによって適用される証拠法則や証拠調べの方法が大きく異なります。

本記事では、刑事訴訟法317条を出発点として、厳格な証明と自由な証明の違い、対象となる事実、判例・実務上の取扱いについて解説します。

※ 本記事では一般的な見解をご紹介するもので、そのすべてに賛同するものではありません。

※ 公開日時点の情報を基にしています。

目次

刑事裁判における厳格な証明と自由な証明の違いを解説した図解。証拠裁判主義の全体像、比較表、対象事実の分類、弁護士の防御対策を4つのブロックで示している。
厳格な証明と自由な証明の区別は、刑事裁判の根幹をなす概念です。

1 厳格な証明と自由な証明とは 

(1) 概念の定義と法的根拠

ア  厳格な証明

  •  「厳格な証明」とは、証拠能力があり、かつ適式な証拠調べの手続を経た証拠による証明などとされます。
  • 刑事訴訟の文言には直接現れていませんが、学説上確立し、判例・裁判例においても用いられている概念です。  

イ 自由な証明

  •  一方、「自由な証明」とは、様々な定義がありますが、厳格な証明の要件(証拠能力や適法な証拠調べ手続)の一部または全部を欠いた証明などといわれます。 
  • 「自由」という言葉が使われていますが、裁判官が勝手に決めてよいという意味ではなく、法律による証拠能力の制限(伝聞法則など)や、厳格な証拠調べの手続に縛られないという意味と理解されています。

ウ 証明の程度との関連

  • 証明の程度と関連付け、厳格な証明には「合理的な疑いを超える証明」、自由な証明には証拠の優越(ある事実が存在することを肯定する証拠の証明力が、否定する証拠の証明力をわずかでも上回っている状態)で足りるという見解もあります。
  • 一般的には、証明の程度とは区別されるべき問題と考えられています。

(2) 二者の区別の実益 

  • 刑事訴訟法には、証拠能力に関する規定(第319条から第328条)や、証拠調べの手続に関する規定(第304条から第307条)が数多く存在します。
  • これらの規定が厳密に適用されるのが「厳格な証明」であり、より緩和された方式で認められるのが「自由な証明」です。 
  • 特に、伝聞法則(第320条1項)の適用を受けるかどうかが、実務上の大きな分かれ目となります。

2 学説の議論 

(1) 第317条の「事実」の解釈

刑事訴訟法第317条は「事実の認定は、証拠による」と簡潔に定めていますが、ここでいう「事実」が何を指すかについて、学説では古くから議論がありました。 

ア 限定説(通説的見解)

  • 通説的な見解によれば、第317条の事実は「犯罪事実(刑罰権の存否及び範囲を定める要件となる事実)」を指すと解されています。 
  • この見解に立てば、犯罪事実に属するものは厳格な証明を要し、それ以外の事実は自由な証明で足りるという結論が導かれます。 

イ 非限定説

  •  一方で、第317条の「事実」に何ら限定を加えず、刑事裁判で問題となるすべての事実は証拠によって認定されるべきであるとする見解も存在します。 
  • この見解では、第317条を憲法31条の適正手続(DueProcess)の要請を具体化したものと捉え、より包括的な意味を持たせようとする見解と言えます。  

(2) 厳格な証明を要求する根拠

  • 厳格な証明がなぜ必要かについては、被告人の保護、当事者主義的構造の維持、そして事案の真相解明という刑事訴訟の目的から説明することができます。
  • 特に英米法的な証拠能力の制限や当事者主導の証拠調べは、裁判官の偏見を排除し、適正な心証形成を担保するための知恵ともいえます。

3 厳格な証明の対象となる事実

(1)  犯罪事実(構成要件的事実)

ア  客観的構成要件

  • 実行行為、結果の発生、因果関係など、犯罪の成立に不可欠な客観的事実は、当然に厳格な証明の対象です。 
  • 公訴事実に記載された犯行の日時、場所、方法などは、犯人の同一性や罪の成否に直結するため、厳格な証明が求められるとされています。 

イ 主観的構成要件 

  • 故意、過失、目的、あるいは共謀の事実なども、厳格な証明の対象です。 判例は、「共謀の認定には、厳格な証明を必要とする」(最判昭33・5・28刑集12巻8号1718頁)と明示しています。
  • また、常習犯における常習性の認定も、刑の加重に関わるため厳格な証明が必要です。

ウ 間接事実

犯罪事実の存否の裏付けとなる間接事実も厳格な証明を要するとされています。

エ 補助事実

  • 犯罪事実の存否に関する証拠の証明力に影響を及ぼす補助事実(例えば、目撃証人の視力など供述の信用性に影響する事実)については、自由な証明で足りるとする説も有力とされています。
  • もっとも、最判平成18・11・7刑集60・9・561は、自己矛盾供述の存在は厳格な証明によらなければならないと判示しています。
    • 視力や、利害関係といった、純粋補助事実については、平成18年判決の射程外と考えられています。

(2) 処罰条件、違法性・責任阻却事由の不存在 

ア 処罰条件

客観的処罰条件(例:破産法上の破産手続開始の決定の確定など)は、刑罰権の存否に関わるため、犯罪事実に準じて厳格な証明を要するとするのが通説です。

イ 阻却事由の不存在

  • 正当防衛や緊急避難といった違法性阻却事由、あるいは心神喪失といった責任阻却事由の「不存在」についても、検察官が厳格な証明により立証する責任を負うとされています。 
    • ただし、これらを争点化するためには、被告人側から一定の「証拠提出責任(争点形成責任)」を果たす必要があると解されています。  

(3) 刑の加減免の根拠となる事実

  • 法律上の刑の加重減免の事由(再犯加重、未遂減免、自首など)も、刑罰権の範囲を画するものであるため、厳格な証明が必要と一般的に考えられています。
  •  例えば、累犯加重の理由となる前科の事由について、判例は「罪となるべき事実」に準ずるものとして、適法な証拠調べが必要であるとしています(最決昭33・2・26刑集12巻2号316頁)。

(4) 情状事実(量刑事実)|犯情

犯行態様・動機、結果、共犯事件における地位や役割などの犯罪事実自体に関連する情状事実(犯情)は、厳格な証明を要するというのが一般的な理解です。

4 自由な証明の対象となる事実

(1) 訴訟法上の事実

刑事手続の進行や適法性に関わる事実は、原則として自由な証明で足りるとされています。

ア 公訴提起の有効性

  • 親告罪における告訴の有無や、有効な告訴があったかどうかについては、自由な証明により認定できるというのが通説・判例です。 
  • 判例は、告訴の有無について、証拠能力のない告訴状の写し等によって調査することを認めています(名古屋高判昭26・9・26特報27号149頁、最決平23・10・26刑集65・7・1107)。

イ 訴訟条件

  • 裁判権の有無、管轄権、公訴時効の完成、二重処罰の禁止(一事不再理)などの訴訟条件も、自由な証明の対象とされます。 
  • ただし、これらは有罪判決の前提となる重要な事実であるため、実務上は慎重な審理が要請されます。

(2) 証拠の採用等の前提事実

  • 証拠の採否や証拠能力の判断の前提となる事実も、自由な証明の対象とされています。 
  • 証拠の存在、証拠の関連性、証拠調べの必要性、伝聞例外の要件などが考えられます。

ア 自白の任意性

  • 自白の任意性(第319条1項)を基礎付ける事実は、訴訟法上の事実であるため、自由な証明で足りると一般的に考えられています(厳格な証明によるべきという立場もあります。)。
  • そうすると、 裁判所は、取調官の証人尋問を行わず、報告書等の書類のみで任意性を判断することも理論上は可能ですが、実務上は慎重な審理が行われます。
  • 実務上も、厳格な証明に近い運用がとられることが多いように思います。

イ 伝聞例外の要件(特信情況など)

  • 第321条各項が定める伝聞例外の要件(供述不能、特信情況、不可欠性など)も、自由な証明で足りると一般的に考えられています。
  • 例えば、供述者の死亡を診断書によって証明することなどがこれに当たります。 
  • もっとも、321条1項2号の相反性、同2号3号の特信情況などについては、原則、供述者の証人尋問等が行われるべきと考えられます。

(3) 証拠の収集過程

  • 違法収集証拠排除法則等の関係で、証拠の押収などの収集過程に関する事実の証明が問題になり得ます。
  • この点も自由な証明で足りるという立場が一般的に思われますが、捜査官の証人尋問を実施するなど慎重な運用がなされるべきです(実務上は多くの事案でこのような運用がされているように思います。)。
  • DNA型の鑑定書の証拠能力について、口腔内細胞の採取手続が違法な身体拘束下でされたと主張された事案について、不同意とされた現行犯逮捕手続書を採用等した原審の判断について「証拠採用に関する合理的な裁量の範囲を逸脱」とした裁判例として東京高判平22・1・26判タ1326号280頁があります。

(4) 情状事実(量刑事実)|一般情状

  • 情状事実のうち、いわゆる「一般情状」  被告人の性格、経歴、家庭環境、反省の状況、被害弁償の有無など、犯罪事実そのものではないが刑の量定に影響を与える事実は、自由な証明によることが許容されます。 
  • 最高裁は、「情状に属する事項の判断については、必ずしも刑事訴訟法に定められた一定の方式に従い証拠調べを経た証拠にのみよる必要はない」としています(最決昭24・2・22刑集3巻2号221頁)。
  • もっとも、その重要性から、原則証拠調べが必要など、自由度は制限されるべきという見解があります。
  • 実務上は、原則、厳格な証明に則って、証明がされていることが多いように思います。
    • 厳格な証明という立場か、自由な証明という立場をとりつつ厳格な証明に近い運用としているかは、その事件の裁判所の判断ということになると思います。

(5) 決定・命令などの前提事実

たとえば、逮捕・勾留・保釈などの令状に関する決定・命令の前提事実、訴訟指揮権や法廷警察権行使などの公判手続きの進行に関する前提事実などがありますが、自由な証明で足りると一般的に考えられています。

5 判例・裁判例の動向

(1) 犯罪事実の認定に関する厳格な姿勢

裁判所は、有罪判決の核心部分については、一貫して厳格な証明を求めています。

ア 共謀の事実

前述の通り、共謀の存在は厳格な証明が必要です(最判昭33・5・28)。これは、共謀が正犯性の根拠となる重要な犯罪事実であるためです。

イ 盗品等の知情

盗品等関与罪における「それが盗品であることの知情(認識)」についても、厳格な証明を要するとした裁判例があります(東京高判昭28・4・9特報38号82頁)。 

(2) 訴訟法的事実における「自由な証明」の具体例

ア 身代金要求電話の逆探知資料

犯人が使用した電話番号を特定する逆探知資料(電話局の回答書等)の証拠能力が争われた事案で、最高裁は、これが「犯人が誰であるか」という犯罪事実そのものではなく、証拠の存否を判断するための訴訟法上の資料にすぎない局面では、自由な証明で足りる旨を示唆しています(最決昭58・12・19刑集37巻10号1753頁)。

(3) 情状事実における緩和の限界

  • 情状事実が自由な証明で足りるとはいえ、被告人に不利な事実(余罪など)を量刑上考慮する場合には、実務上、慎重な取り扱いが求められます。
  • 判例は、起訴されていない余罪を、単に被告人の性格や動機を推認する資料として考慮することは許されるが、「実質的に当該余罪を処罰する趣旨」で重く処罰することは許されないとしています(最決昭41・7・13刑集20巻6号609頁)。 
  • このような実質的な処罰にあたる場合は、厳格な証明を要求すべきとの議論が根強くあります。

6 弁護士から見た課題と実務対応 

(1) 「自由な証明」に対する防御の困難性 

ア 伝聞証拠の流入

  • 自由な証明が許される場面では、弁護人が不同意としても、検察官作成の報告書や第三者の陳述書がそのまま証拠として採用されてしまうリスクがあります。 
  • 特に、被害者の示談交渉における意向や、取調経過に関する報告書などは、被告人の不利益に働くことが少なくありません。

イ 実務的対応

  • たとえ「自由な証明」の対象であっても、その事実が量刑や手続の適法性に重大な影響を与える場合には、「その証拠は信頼性に欠ける」と主張し、作成者の証人尋問を求めるなどの対抗措置が必要です。
  •  重要な事実については、自由な証明であっても適正手続の理念(憲法31条)を尊重し、反対尋問の機会を実質的に保障すべきであるという主張することが考えられます。

(2) 証拠能力の基礎事実(任意性等)への攻撃

ア 任意性立証の重要性

  • 自白の任意性は自由な証明で足りると一般的に考えられているとはいえ、そこで認定された事実は、最終的な「有罪・無罪」を分ける自白の証拠能力を左右します。
  • 捜査官の証人尋問を求め、また、取調べの録音・録画(可視化)記録を詳細に検討し、不適切な働きかけがなかったかを客観的な証拠に基づいて指摘していく必要があります。

(3) 違法収集証拠の排除

ア 排除の論理

  • 捜査機関が違法な手続によって収集した証拠は、一定の要件の下で、証拠能力が否定されます(違法収集証拠排除法則)。 
  • この「捜査の違法性」という事実は訴訟法上の事実であり、自由な証明の対象と一般的には考えられていますが、慎重な要請がされるべきです。

イ 実務上のポイント

  • 判例の枠組みでは、「違法の重大性」に加え、「将来の違法捜査抑制の見地」等から証拠を相当とする場合に、証拠能力が否定されます。
  • 単なる手続のミスではなく、捜査機関の意図的な法規範を無視する態度などを明らかにするべく、関与した捜査官の尋問を求めるなどしていく必要があります。

7 まとめ

厳格な証明と自由な証明の区別は、刑事裁判における証拠法の根幹をなす重要な概念です。

犯罪事実や刑罰権の存否に関わる事実については厳格な証明が要求される一方、訴訟法上の事実や一般情状などについては自由な証明が許容されています。

もっとも、自由な証明の対象であっても、被告人に重大な不利益をもたらす事実については慎重な審理が必要です。

刑事弁護においては、どの事実が厳格な証明の対象なのかを正確に見極め、適切な異議や立証活動を行うことが重要です。

8 その他の記事

9 用語解説など