電子計算機損壊等業務妨害罪とは|刑法234条の2の成立要件の解説
IT化が進んだ現代社会では、コンピュータやプログラムへの攻撃が企業活動に重大な影響を与えることがあります。
電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法234条の2)は、コンピュータの破壊、データの改ざん、虚偽情報や不正な指令の入力などによって、人の業務を妨害する行為を処罰する犯罪です。
本罪は、単に「コンピュータに不正な操作をした」だけで成立するものではなく、対象となる電子計算機の範囲、動作阻害の有無、業務妨害との関係、故意の内容など、専門的な検討が必要となります。
本記事では、刑法234条の2の構成要件、裁判例、刑事弁護における重要なポイントについて、弁護士が詳しく解説します。

※DDos攻撃が該当するかは議論があります。
1 電子計算機損壊等業務妨害罪の概要と条文
(1) 処罰の対象
本罪は、他人の業務に使用するコンピュータやそのデータを損壊したり、虚偽の情報や不正な指令を与えたりすることで、コンピュータに本来の目的に反する動作をさせ、業務を妨害することを処罰します。
(2) 条文
刑法第234条の2には、以下のように定められています。
「人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、又は人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、若しくはその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。」(第1項)
「前項の罪の未遂は、罰する。」(第2項)
2 立法趣旨と保護法益
(1) 立法趣旨
ア コンピュータ社会への対応
本罪は、昭和62年の刑法改正により新設されました。
コンピュータの普及に伴い、従来は人によって行われていた事務作業が電子計算機によって行われるようになった実態を踏まえ、電子計算機に向けられた加害を手段とする新たな業務妨害行為を処罰するために設けられたものです。
イ 従来の業務妨害罪との比較
電子計算機による情報処理は、大量かつ迅速に行われるため、これに向けられた妨害行為は、従来の形態(偽計や威力)による業務妨害に比して重大かつ広範な被害を生じる可能性が高いと考えられました。
そのため、第233条(偽計業務妨害罪)や第234条(威力業務妨害罪)の法定刑が「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」であるのに対し、本罪は「5年以下の懲役又は100万円以下の罰金」と、より重く設定されています。
(2) 保護法益
ア 業務の円滑な遂行
本罪の直接の保護法益は、電子計算機を介して行われる「人の業務」の円滑な遂行、安全性、および信頼です。
本罪は電子計算機や電磁的記録それ自体の財産的価値を保護しようとするものではなく、あくまで「業務」を保護するために、電子計算機への加害を手段として用いる行為を禁じている点に特徴があります。
イ 社会的な活動としての「自由」
- 学説上、本罪を含む業務妨害罪の保護法益は、社会的な地位に基づき継続して行う活動、すなわち「社会的活動の自由」であるという見解が多数説とされています。
- 電子計算機への加害は、その活動主体である「人」の意思決定を介さずとも、システムの動作阻害を通じて直接的に業務を妨害し得るため、業務活動それ自体の内容や業務活動が実現しようとする目的によって保護法益を基礎づけようとする見解もあります。
3 構成要件
(1) 犯罪成立の全体像(3段階の構造)
本罪の構成要件は、論理的に以下の3段階に整理できます。
- コンピュータに対する「加害行為」(手段)
- コンピュータの「動作阻害」(中間結果)
- 人の「業務妨害」(最終結果)
(2) 客体|業務に使用する電子計算機および電磁的記録
ア 「人の業務に使用する」の意義
- (ア)「人」
- 犯人以外の自然人、法人、法人格なき社団等を指します。
- (イ)「業務」の範囲
- ここでの「業務」とは、職業その他の社会生活上の地位に基づき反復継続して行う事務や事業を指します。
- 営利目的の活動だけでなく、非権力的な公務も含まれますが、強制力を行使するような権力的な公務については、本罪ではなく公務執行妨害罪との関係が問題となります。
- 最高裁は、業務妨害罪に関し「強制力を行使する権力的公務」は「業務に含まれない」としていますが(最決H12.12.17刑集54巻2巻38頁など)、電子計算機による情報処理の業務には権力的な公務は想定し難いため、全ての公務に使用される電子計算機は客体になると解してよいという見解もあります。
- (イ)使用の形態
- 「使用する」とは、現に稼働中である場合に限定されず、夜間など一時的に停止していても、翌日の業務を妨害するような行為であれば本罪に当たるとされています。
イ 「電子計算機」の定義と現代的解釈
- (ア)概念
- 本罪における「電子計算機」とは、自動的に計算やデータの処理を行う電子装置と言われます。
- サーバーやパソコン、制御用コンピュータなどが代表例です。
- それ自体が人の代替として独立的、自動的に情報を集積して処理し、あるいは外部からの情報に対応してある程度複雑・高度・広範な業務を制御する機能を備えていることが必要などと解されています。
- このような解釈は本罪の立法趣旨が、電子計算機による大量迅速な情報処理に基づいて行われる業務の範囲が拡大し、人によって行われていた作業が電子計算機によって行われるようになりつつあることから、電子計算機に向けられた加害を手段とする新たな業務妨害行為をとらえて処罰しようとして点に求められるとされています。
- 本罪における「電子計算機」とは、自動的に計算やデータの処理を行う電子装置と言われます。
- (イ)客体に含まれないもの(部品的デバイス)
- 単に特定の機能を向上させるために組み込まれた部品に過ぎないものは、原則として客体から除外されます。
- 電卓、電子手帳
- 自動販売機に内蔵されたマイクロコンピュータ
- パチンコ遊技台の制御用基板(ROM等)
- 単に特定の機能を向上させるために組み込まれた部品に過ぎないものは、原則として客体から除外されます。
- (ウ)IoT機器等の現代的展開
- 近年のスマートフォン、スマートウォッチ、さらにインターネットに接続された監視カメラなどのIoT機器は、従来の「家電」の枠を超え、自律的な情報処理機能を備えていると評価され得るものもあるように思います。
- したがって、今後はこれらの機器も「電子計算機」に該当すると判断される可能性もあるという見解もあります。
ウ 「その用に供する電磁的記録」
- 電子計算機での処理に供されるデータやプログラムなどを指します。
- 「その用に供する」とある通り、業務に使用することが予定されていないバックアップ用のコピーなどは、本罪の客体には含まれないとするのが通説的解釈です。
(3) 加害行為の態様
ア 電子計算機・電磁的記録の「損壊」
- 物理的な破壊(たとえば、ハードウェアの損壊)だけでなく、電磁的記録の消去や改ざんのようにその効用を害することも含まれます。
- 具体例
- サーバー内の顧客データを消去する
- 工作機械の作業用プログラム(ソースコード)を書き換える。
- 他の罪との比較
- 器物損壊罪(刑法261条)
- 器物損壊罪は客体が財物に限られているため、ハードディスクドライブの消去がコンピュータ事態を損壊したと評価されない限り、摘要が難しいと考えられています。
- 電磁的記録毀棄罪(刑法258条、同259条)
- 客体が業務用の電子計算機等に限られていませんが、公務所の用に供する、権利義務に関するといった要件が必要になります。
- 器物損壊罪(刑法261条)
イ 「虚偽の情報」「不正な指令」
- (ア)虚偽の情報
- 当該システムが予定している事務処理目的に照らし、内容が真実に反する情報を指します。
- 例えば、工場において電子計算機によって物質の温度等を一定に保つという制御がなされている場合に、実際とは異なる温度データを入力する行為などが考えられます。
- (イ)不正な指令
- 当該事務処理場面において、与えられるべきではない指令を指します。
- マルウェア(ウイルス)の提供や、管理者の意図に反するシステム停止命令などが考えられます。
ウ 与え・指令を与え
- 「与え」とは虚偽の情報または不正な指令を人の業務に使用する電子計算機に入力することと解されています。
- 「指令を与え」は、キーボードから個別に入力する場合のほか、プログラムに含まれる一定の指示を実行させる場合などがあると考えられています。
- 他人の業務を妨害する意図でプログラムにあらかじめ一定の仕掛け(一定の時点で、ファイルを消去する命令)を組み込むことも、本罪の手段となりうるという見解もあります。
- この場合には、故意による業務妨害なのか、過失によるプログラムの欠陥に起因する障害との区別が重要になります。
- 障害の原因を十分に究明することが極めて重要になります。
- この場合には、故意による業務妨害なのか、過失によるプログラムの欠陥に起因する障害との区別が重要になります。
- 他人の業務を妨害する意図でプログラムにあらかじめ一定の仕掛け(一定の時点で、ファイルを消去する命令)を組み込むことも、本罪の手段となりうるという見解もあります。
エ 「その他の方法」
- 損壊や虚偽情報入力以外の手段で、動作に直接影響を及ぼすものを広く含みます。
- 具体例
- コンピュータの電源を強制的に切断する。
- 動作環境(温度・湿度を上下させるなど)を破壊する。
- 通信回線の切断
- 入力装置の損壊
- 処理不能データの入力
- 大量のパケットを送信しサーバーを過負荷にする(DDoS攻撃)※議論あり
- 一つひとつのデータは「虚偽の情報」「不正な指令」といえないのではないかという問題があります。
- コンピュータに多量のデータを送って、回線容量を占拠したり、データ処理を停止させたりする行為は、通信回線の切断や処理不能データの入力と同じものであるから、仮に、「虚偽の情報若しくは不正な指令を与え〔た〕」とはいえないとしても、「その他の方法」に該当すると解することは可能という見解もあります。
- 電子計算機が置かれておる部屋の占拠、オペーレータへの脅迫や拘束は、人に向けられ、その意思や行動の事由を害する結果として業務の遂行が妨害された場合には、該当しないという考えがあります。
(4) 動作阻害(中間結果)
- 単に加害行為を行うだけでは足りず、「使用目的に沿うべき動作をさせず」または「使用目的に反する動作をさせる」ことを指します。
- 本罪が電子計算機自体を保護しようとしているのではなく、あくまでも電子計算機を介して行われる人の業務を保護しようとするものであることから設けられた構成要件と理解されています。
- 「使用目的に沿うべき動作」とは、電子計算機を設置してこれを業務遂行のため使用している者が、具体的な業務遂行において当該電子計算機を使用して実現しようとしている目的に適合するような動作などと解されています。
- 典型例はコンピュータをダウンさせるような場合が考えられます。
- 「使用目的に反する動作」とは、「使用目的」に矛盾するような動作、例えば、一定の条件下において行われるべきでない、人の業務を妨害することとなるような制御等の動作などと解されています。
- 例えば、ウェブサイトを閲覧不能にしたり、意図しない画像を表示させたりするような状態が考えられます。
- 「使用目的に沿うべき動作」との区別の実益には乏しいという指摘もあります。
(5) 業務の妨害(最終結果)
- 本罪は「抽象的危険犯」と理解されており、実際に業務が停滞・停止しなくても、業務を妨害する「おそれ」のある状態が発生すれば成立するというのが一般的な理解です。
- 具体例
- バックアップ体制が整備されており現実の被害が最小限だったとしても、妨害の危険が生じていれば本罪に該当します。
- データベース業者が提供するデータの一部を改変した場合でも顧客に対してデータを提供するというデータベース業者の業務自体が円滑にされているような場合には、その業務を妨害したとはいい難いとされています。
- 他人のパスワードを用いるなどして、情報を不正に入手したりのぞき見る行為や自分の情報処理のために他人の電子計算機を無権限で使用する行為についても、その業務を妨害したとはいい難いとされています。
- ただし、不正アクセス禁止法に該当する可能性はあります。
- 限界
- 限界をどこに線引きするかは課題があるという指摘もあります。
- たとえば、仮に当該行為がなかった場合には必ずしも必要ではなかった(ただし、業務遂行の一環ともいえるが)対応を強いる場合、業務遂行の一環ではあるか、仮に当該行為がなければ不要であった追加的な事務的•経済的負担(例:セキュリティの強化など)を生ずる場合などについては、それがどのような意味で業務の妨害と言えるのか、明確ではないという指摘もあります。
- 限界をどこに線引きするかは課題があるという指摘もあります。
(6) 主観的要件(故意)
- 加害者において、自己の行為によって電子計算機の動作を阻害し、それによって他人の業務を妨害することについての認識および認容が必要です。
4 未遂罪と他罪との関係
(1) 未遂罪の処罰
- 平成23年の改正により、本罪の未遂罪が新設されました(第2項)。
ア 新設の背景
- 動作障害が生じない限り、処罰することは不可能とされていました。
- 以下のような背景事情があるとされています。
- コンピュータ・ネットワークの高度な発展と利用により遠隔からでも他人の業務に使用する電子計算機に攻撃を加えることができるようになったこと
- とりわけコンピュータ・ウイルスは、容易に、かつ、大量に複写することが可能であり、これを実行する者がその機能を把握することは困難であること
- コンピュータ・ネットワークの発展と相まって、広範囲に被害を及ぼし得るものとなっていること
- こうした状況の下では、他人の業務に使用する電子計算機に対して攻撃が加えられた場合については、それによって実際に動作阻害が発生する前であっても、これを処罰する必要性が高いと考えられること
イ 未遂の具体例
- ウイルスを送信したが、相手側のセキュリティソフトに阻止された場合。
- データを消去する目的でメールを送信したが、プロバイダのメールボックスに留まった場合。
- 電子計算機を物理的に損壊しようとしたが、中枢部分の損壊に至らず、動作阻害は生じなかった場合
(2) 他罪との関係
ア 偽計・威力業務妨害罪
- 本罪はこれらの特別類型であり、妨害された業務が同じであれば、通常は本罪のみが成立します。
イ 公務執行妨害罪
- 非権力的公務への妨害は本罪が成立しますが、強制力を伴う権力的公務への妨害は公務執行妨害罪との観念的競合になります。
ウ 不正アクセス禁止法違反
- 他人のパスワードを不正に入力して本罪を犯した場合、両罪は牽連犯の関係になると解されます。
5 裁判例などの紹介
(1) 勤務先の作業用プログラム消去(京都地裁峰山支部平成2年3月26日判決)
- 勤務先のコンピュータ制御式旋盤機の内蔵記憶回路に入力されていた製造製品作業プログラムを消去又は改ざんして、プログラムによる旋盤機の自動稼働を不能にした行為に対し、本罪の成立を認めました。
(2) ホームページ書き換え事件(大阪地裁平成9年10月3日判決)
- 放送会社が解説した天気情報提供ホームページのサーバーコンピュータ内に記憶蔵置されていた天気予報画像のデータファイルを削除し、わいせつ画像等に置き換えた行為について、「虚偽の情報」を与え「使用目的に反する動作」をさせたとして本罪を認定しました。
(3) パチンコ台ROM交換事件(福岡高裁平成12年9月21日判決)
- パチンコ台の制御ROMを「裏ROM」に交換した行為について、裁判所はパチンコ台が本罪の客体である「電子計算機」には該当しないとして本罪の成立を否定しました。
- ただし、予備的訴因である「偽計業務妨害罪」の成立を認めています。
(4) 故意が否定された事例(高松地裁丸亀支部令和3年1月12日判決)
- 元従業員がソースコードに「メンテナンス用チェック」と記載して、一定期間後に作動しなくなる設定をした事例です。
- 裁判所は、復旧が極めて容易であったことや、保守目的であるとする被告人の供述を排斥できないとして、業務妨害の故意を否定し「無罪」を言い渡しました。
(5) オンラインゲームにおけるチートツール
- 報道などでも話題になっていますが、近時、オンラインゲームで不正にキャラクターのレベルを上げたりアイテムを取得したりする「チート行為」についても、本罪の対象になるかという議論があります。
- 理論上「チート行為対策としてシステム監視などの負担を与えて業務を妨害した」という説明がされることもあります。
- 通常のプレイとチートツールを利用したプレイ予定がどの程度異なる物なのか、それがゲームの運営に及ぼした影響を十分に検討する必要があるように思います。
6 刑事弁護におけるポイント
本罪では以下の点を十分に検討する必要があると言えます。
- 客体が構成要件の予定する電子計算機等に該当するか
- パチンコ台判決の例では客体の該当性が否定されている
- 行為を行った目的が何か。
- 「保守管理」や「テスト」目的であったのであれば故意が否定される可能性がある(高松地裁の例)
- 動作阻害や業務妨害の程度が社会通念上許容される軽微な範囲であるとの主張
- 被害弁償や示談の検討
7 まとめ
電子計算機損壊等業務妨害罪は、コンピュータ社会に対応するために設けられた重要なサイバー犯罪の一つです。
一方で、プログラムの変更やシステムへの関与が直ちに犯罪となるわけではなく、電子計算機該当性、行為の目的、業務妨害の程度、故意の有無などを具体的に検討する必要があります。
特に、保守作業やシステム管理上の操作が問題となる事案では、技術的事情を踏まえた弁護活動が重要になります。
IT関連のトラブルや電子計算機損壊等業務妨害罪に関する刑事事件でお悩みの場合は、早期に弁護士へご相談ください。





