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名誉毀損罪の「公然性」と「伝播性の理論」|1対1・LINE・SNSは成立する?

「1対1で話しただけなら、名誉毀損罪にはならないのでは?」

このように考える方も少なくありません。

名誉毀損罪(刑法230条)が成立するためには、単に他人の社会的評価を低下させるような事実を述べただけでは足りず、その事実が「公然と」摘示されたことが必要です。

もっとも、直接話した相手が1人や数人であっても、常に名誉毀損罪が成立しないとは限りません。

特定少数の相手に対する発言であっても、その相手からさらに不特定又は多数の人に伝わる可能性がある場合には、公然性が認められることがあります。

これが、いわゆる「伝播性の理論」です。

では、どのような場合に「公然」といえるのでしょうか。LINEやメール、DM、鍵付きSNS、グループチャットなど、限られた相手とのやり取りではどう判断されるのでしょうか。

本記事では、名誉毀損罪における「公然性」の基本的な考え方から、「伝播性の理論」に関する判例、インターネット・SNS時代における問題、さらに公然性をどのように争いうるのか、解説します。

名誉毀損罪の公然性と伝播性の理論を説明する図。不特定又は多数人が認識できる状態、特定少数人からの伝播、LINE・SNSなどの具体例を図解
名誉毀損罪の公然性と伝播性の基本的な考え方。
特定少数人への発言でも、伝播可能性によって公然性が認められる場合があります。

目次

1 「公然性」の基本概念と判例法理

(1) 「公然」の客観的要件(不特定又は多数人)

ア 「不特定」の意味と判断基準

  • 「特殊な関係」による限定がない状態
    • 刑法第230条第1項における「公然」とは、判例・通説上、不特定又は多数人が認識できる状態を意味すると解されています。
    • ここでいう「不特定」とは、摘示の相手方が特殊な関係によってその属する範囲を限られておらず、誰でも見聞きし得た場合などと解されています。
  • 限られた数の者に対する摘示と通行・出入りの自由
    • 相手方が数名程度に限定されている場合であっても、その場所への通行や出入りが自由であり、たまたまそこに居合わせた者が数名に過ぎないような場合は、不特定と判断される可能性があります(大判昭和6年10月19日参照)。

イ 「多数」の意味と判例・裁判例の具体的数字

  • 単なる「複数」との区別
    • 一方、「多数」とは多義的で一義的に〇人と定義づけることは困難です。
    • 裁判例や判例の傾向からすると、単なる複数(2名程度)では足りず、社会的な広がりを持つ相当程度の人数が存在することを意味しているようにも見えます。
    • なお、相手方が特定されている関係であっても、その人数が「多数」であれば公然性の要件を満たすことになります。
  • 具体的判断例(最決昭36・10・13等)
    • 最高裁判所昭和36年10月13日決定は、労働組合の執行委員会において少なくとも25名を下らない多数人の面前で発言された事案のようであり、判旨も多数人であることを前提にしているので、25名程度であれば、多数人と認定される可能性があるように思います。
    • 他方、投書が3名に各一通ずつ送付され、その内容が20名近くの者に閲覧等された事案においては、公然性が否定されています(東京高判昭58・4・27)。
      • もっともこのケースは、直接送付されたのが3名で特定且つ少数であることを前提に、伝播性がないことから、公然性が否定されたと読むべき事案のようにも見えます。
    • 大阪高判令和6・6・20は、メールが5名に送付され、3名の職員に広まったという事案です。この事案では伝播性が否定され、1審に差し戻されていることから、5名の場合には少数であることを前提にされているように見えます。
    • もっとも、直接の対象が特定かつ少数人の場合でも、いわゆる伝播性の理論により、公然性が認められることがあるのが、判例・裁判例の確立した考え方であり、「何人が多数か」という点に何処まで実益があるかは留意が必要です。

(2) 「認識できる状態(認識可能性)」の法理

ア 現実の認識(閲覧・聴取)の不要性

  • 抽象的危険犯としての公然性
    • 公然性の要件を満たすためには、相手方が現実にその内容を認識・了解(閲覧や聴取)したことまでは必要とされていません。
    • 「不特定又は多数人が認識できる状態に置かれたこと」で足ると解されています。
  • 認識可能状態による成立(大判明45・6・27)
    • 大審院明治45年6月27日判決や大審院大正6年7月3日判決などは、摘示された事実を現実に誰かが読んだり聞いたりしたことがなくとも、名誉毀損罪の成立を認めています。

イ インターネット上の投稿

  • インターネット上の投稿
    • ウェブサイト、匿名掲示板、鍵のかかっていないSNSなどに情報を書き込んだ場合、そのデータがサーバーに送信されてアクセス可能な状態(閲覧できる状態)になった時点で公然性が認められる可能性があります。
      • 実際にはまだ誰もそのページを開いていなかったり、アクセス数がゼロであったりしても、客観的に閲覧可能な状態に置かれた時点で公然性が満たされる可能性があります。
  • SNSのグループなどの投稿
    • たとえば100名などの多数人が参加しているグループにメッセージを送った場合、公然性が認められる可能性があります。
    • 相手方が現実にその内容を認識・了解(閲覧や聴取)したことまでは不要とすれば、既読が一人もつかなくとも、公然性が満たされる可能性があります。

2 伝播性の理論(特定少数者に対する発言と公然性)

(1) 伝播性の理論の構造と成立要件

ア 伝播性の理論(間接的伝播)の概要

  • 直接の相手方が特定少数である場合
    • 直接の摘示相手が「特定かつ少数(例:たった1人の友人)」である場合、本来であれば「不特定」でも「多数」でもないため、公然性の要件を満たさないのが原則です。
    • しかし、判例法理(大審院大正8年4月18日判決、最高裁判所昭和34年5月7日判決等)は、直接の相手方が特定少数であっても、その相手を通じて不特定又は多数の人へ内容が伝わっていく可能性(伝播可能性)が存在する場合には、「公然」の要件を満たすとする「伝播性の理論」を採用しています。
  • 学説による根強い批判
    • 学説上は伝播性の理論を否定する説が有力です。理由は様々ですが、以下のような指摘がなされています。
      • 公然性を要求し、成立要件を限定した意味がほとんど失われる
      • 伝播の可能性を理由に公然性を認めれば相手方の意思によって犯罪の成否が決まることになりかねない
      • 表現の自由による不当な制約になり得る
  • 判断要素を示した高裁裁判例(東京高判昭和58・4・27)
    • 東京高判昭和58・4・27は、「人の名誉を毀損するに足りる事項を記載した文書が、直接には、それ自体で多数とは言い得ない特定人に対して郵送された場合にあっては、法の趣旨に従い、当該文書の性質、内容、相手方との関連、その他具体的諸事情を綜合して、社会通念により、その記載内容が不特定又は多数の人に伝播する虞れが有るか否かを検討し、これが認められないときは、当該所為の公然性はこれを否定すべき」としています。

(2) 公然性が認められた裁判例(肯定例)

ア 村落・近隣・知人関係における噂の流布

  • 噂の波及と公然性
  • 最判昭和34年5月7日(村中での放火発言事件)
    • 最高裁判所昭和34年5月7日判決は、被害者の弟や村議員、近隣住民ら特定少数に対して「被害者が自宅に放火した」などと述べた事案において、公然性を肯定しました。
      • 原因は「噂は村中相当にひろまった状況」と認定しているものの、「特殊の関係により限局せられた者に対してのみ事実を摘示したものではなく…事実の摘示を不定多数の人の視聴に達せしめうる状態において行われたものとなすべき」と評価しており、不特定の者に行われたものという評価もあります。
      • 大審院大正8年4月18日判決においても、隣人ら特定の数名に対して告げた事実について、他の多数人に伝播すべき事情がある場合には公然性を認めています。

イ 選挙運動・集会・特定多数に対する文書送付

  • (ア)流布・伝播の危険性が高い環境
    • 大判昭和4年12月16日等の文書送付ケース
      • 大審院昭和4年12月16日判決は、特定の関係者に宛てて送付した封書であっても、特に之を秘密に付することを要求し、他に発表することを厳禁せずして配布した以上、転々して多数の者が了知するに至るおそれがあるとして、配布時点での公然性を認めています。
  • (イ)特定関係者への送付と不特定多数への伝播可能性
    • 文書の性質や受領者の属性、配布の態様から総合的に判断し、外部への伝播可能性が認められる場合は公然性が肯定される可能性があります。

(3) 伝播可能性が否定された裁判例(否定例)

ア 守秘義務者・取調官・職務関係者への発言・送付

  • (ア)守秘義務が存在する環境
    • 最決昭和34年2月19日(取調室での発言)
      • 最高裁判所昭和34年2月19日決定は、検察官および検察事務官のみが居合わせる取調室においてなされた他人の名誉を害する発言について、取調官には法令上の厳格な守秘義務が存在するため外部へ伝播する可能性がないとした高裁の判断を是認し、公然性を否定しました。
        • 高裁の大阪高裁昭和34年1月21日決定は「不特定又は多数の人に知られる状態とは、不特定又は多数の人の耳目に触れうべき状態を意味し、二人以上は多数といえることはもちろんであるが、特定の限られた数人の集合で、その集合又は集合員の性質上秘密が保たれその集合の際に行われた言動が絶対に他に伝播するおそれのない場合は右にいわゆる「公然」というに該当しないと解するのが相当」としていました(大審院大正1年10月20日判決を参照しています。)。
      • 検察官・検察事務官に対する発言と伝播性の欠如
        • 公務員等の守秘義務がある者に対する言動は、伝播可能性が遮断されているため公然性が否定される可能性があります。
  • (イ) 教育委員会・学校関係者宛ての文書送付
    • 東京高判昭和58年4月27日(教諭名誉毀損事件)
      • 東京高等裁判所昭和58年4月27日判決は、教諭の名誉を毀損する内容の文書を教育委員会委員長、校長、PTA会長宛てに各1通郵送した事例において、公然性を否定しました。
      • 校長・PTA会長宛て送付と守秘義務・職務上の限定性
        • 受領者が職務上の守秘義務や調査関係者という特別な立場にあることを重要な事情として、伝播可能性を否定して無罪(公然性否定)と判断しました。
        • 教育委員長あての文書は複数の職員が閲覧した、校長は教頭らに閲覧させた、PTA会長は家族や特定の教員に閲覧させたという事情はあったようですが、公然性は否定されています。

イ 家庭内・密室・特定の信頼関係における会話

  • (ア) 親族間・身内間の会話
    • 最決昭和34年12月25日(自宅玄関内での発言)
    • 最高裁判所昭和34年12月25日決定は、直接的には検察官による職権濫用が問題となった事案ですが、自宅の玄関内において被害者の家族や女中が居合わせた状況で、名誉を損なう発言をした事案について、公然性を否定しました。
      • 居合わせた母・妻に対する発言と伝播性の不成立
        • 身内間の会話であり外部へ伝播する可能性がないとして公然性が否定された可能性があります。
  • (イ) 口外しないと認められた信頼関係
    • 東京高判昭和42年3月28日等の事例
      • 東京高等裁判所昭和42年3月28日判決は、被害者から話を聞いた者が夫にのみ打ち明けたもののそれ以外の第三者には口外しないまま経過したという事案において公然性を否定しました。
        • 以下のような点がポイントになったと考えられます。
        • 環境の密室性
          • 夜間に雨戸を閉めた店舗内で2人きり、低い声で話されており、第三者に聴取されるおそれがなかった。
        • 他言防止の確約と高い信頼関係
          • 「絶対他言しない」と約束した懇意な知人との会話であり、外部へ漏洩するおそれがなかったため(実際に夫のみにしか打ち明けられていない)。
        • 伝播可能性のない単なる「打ち明け話」
          • 不特定多数へ広める意思はなく、打ち明け話的な悩み相談にとどまり、拡散するおそれがなかったた。

3 インターネット・SNS時代における「公然性」と「伝播性」

(1) ネットメディアの属性と「公然性」の判別

ア 開放型メディア(X/旧Twitter、5ちゃんねる、ブログ等)

  • 検索可能性と不特定多数のアクセス
    • 非公開設定を行っていないオープンなX(旧Twitter)アカウント、誰でも書き込みや閲覧ができる匿名掲示板(5ちゃんねる等)、ウェブサイト、ブログ等への投稿は、最初から不特定多数人が自由にアクセスできる状態にあります。
    • そのため、伝播性の理論を経るまでもなく、投稿した時点で「公然性」の要件を満たすことになると考えられます。

イ 限定公開型・閉鎖型メディア(鍵アカウント、グループチャット)

  • フォロワー数・グループ人数の影響
    • 少人数の鍵アカウントと伝播性の審理
      • フォロワー限定の非公開アカウント(鍵アカウント)や非公開掲示板への投稿は、直接の閲覧相手が「特定少数」にとどまるため、直ちに公然性が満たされるわけではありません。
      • 投稿の外部漏洩可能性やフォロワーの属性・人数に照らし、伝播可能性が存在するか否かが個別に判別されることになると考えられます。
    • 100人規模のLINEグループと直接の公然性
      • 他方、100人が参加するような大人数のグループチャット(LINEグループ等)への投稿は、メンバーが特定されているとしても「多数人」が直接認識できる状態にあるため、直接「公然」の要件を満たすと考えられます。

(2) ダイレクトメッセージ(DM)・非公開メールと伝播性の理論

ア 1対1のDM・電子メール送信

  • 送信相手との個別関係
    • 特定の一人に対してのみ送信されるダイレクトメッセージ(DM)、電子メール、1対1のLINEトークは、相手方が「特定1名」であり、当事者間の秘密性が期待されるやり取りであるため、原則として公然性を欠くと考えられます。

イ DM内容のスクリーンショット(スクショ)拡散

  • 第三者による拡散と元送信者の刑事責任
    • 送信者の伝播可能性(認識・認容)の有無
      • 1対1のDMで送られた内容を、受信者が勝手にスクリーンショット(スクショ)撮影し、SNS上に公開・拡散させた場合、元々の送信者に名誉毀損罪が成立するかが問題となります。
    • 予見可能性を超えた第三者による拡散と故意の阻却
      • この点、送信者自身が「相手がスクショを晒して拡散させること」まで予見・認容していたと認められない限り、元送信者について伝播可能性の故意(主観的認識)が否定されるべきと考えらえます。

4 名誉毀損罪における「公然性」に関する刑事弁護のポイント

  • 名誉毀損罪における「公然性」は、発言や投稿が実際にどのような状況で行われたのかを具体的に確認する必要がある論点です。
  • 特に、1対1の会話、LINE、DM、メールなどが問題となる場合には、次のような事情を丁寧に確認することが重要です。以下の点を検討する必要があります。
    • 誰に対して発言・送信したのか
    • 相手方は何人だったのか
    • 相手方は特定の人物に限られていたのか
    • 発言・送信が行われた場所や媒体はどのようなものだったのか
    • 他の第三者が内容を知ることのできる状況だったのか
    • 相手方に守秘義務があったのか
    • 「他言しないでほしい」などの口止めをしていたのか
    • 第三者への伝播を予想・認識していたといえる事情があるのか
  • また、LINEやDMなどの電子的なやり取りでは、スクリーンショットだけでなく、前後のメッセージやグループの構成、公開設定なども含めて確認する必要があります。
  • 公然性が争点となる事件では、単に「少人数にしか話していない」と主張するだけでは十分ではありません。なぜその発言が不特定又は多数人に認識される状態になっていなかったのか、また、第三者への伝播可能性がどの程度あったのかを、具体的な証拠によって示すことが重要です。

さらに、公判段階では、検察官が公然性を基礎付ける具体的事実を十分に立証できているかという観点から、証拠関係を検討する必要があります。

5 まとめ

名誉毀損罪が成立するためには、事実を摘示するだけではなく、それが「公然と」行われたことが必要です。

「公然」とは、一般に、不特定又は多数人が認識できる状態を意味します。
そのため、インターネット上の公開投稿などでは公然性が認められやすい一方、1対1の会話やDM、メールなどでは、公然性の有無が問題となります。

もっとも、直接の相手方が特定少数人であっても、そこから不特定又は多数の人に伝わる可能性がある場合には、公然性が認められることがあります。これが「伝播性の理論」です。

そのため、名誉毀損罪の成否を判断する際には、単に「何人に話したのか」だけを見るのではなく、相手方の人数や属性、発言が行われた場所・媒体、秘密保持の状況、口止めの有無、外部に伝わる可能性などを具体的に検討する必要があります。

特に、LINEやSNS、メールなどの電子的なやり取りでは、投稿の公開範囲やグループの人数、アカウントの設定、メッセージの内容などによって結論が変わる可能性があります。

名誉毀損罪について警察から事情を聞かれている場合や、告訴を受ける可能性がある場合には、発言や投稿を削除する前に、やり取りの内容や公開範囲などの証拠を保存しておくことも重要です。

6 その他の記事

名誉毀損罪の全体像に関する記事です。

7 用語解説など