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刑事訴訟法第323条とは?伝聞法則・伝聞例外の基本と弁護の重要性

刑事事件において、検察官が被告人の有罪を立証するために提出する証拠には、厳しいルールが適用されます。

「供述証拠」と呼ばれる証言や供述を記録した文書の証拠能力を制限するルールが伝聞法則であり、その例外を定めるのが伝聞例外です。

このルールを理解することが、適正な刑事裁判・刑事弁護活動の第一歩となります。

本記事では、伝聞例外の規定である、刑訴法323条について解説します。

※ 伝聞法則には様々な理解がありますが、本記事では一般的な理解をご紹介するものですべてに賛同するものではありません。

※ 公開時点の情報を基にしています。

1 伝聞法則と伝聞例外

(1) 伝聞法則の意義と根拠

ア 伝聞法則とは

刑事訴訟法第320条第1項は、伝聞法則の原則を定めています。

刑事訴訟法第320条第1項
「公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない」

伝聞証拠とは、公判廷外における供述を内容とする公判供述または書面(公判廷外の供述)で、供述内容の真実性を立証するために用いられるものを指します。

伝聞法則は、このような伝聞証拠の証拠能力を原則として否定するものです。

イ 伝聞法則の根拠

伝聞証拠が原則として排除される実質的な根拠は、主に以下の2点にあるとされています。

  • 反対尋問権の保障
    • 供述という行為には、知覚・記憶・表現の各過程において誤り(意図的な嘘も含む)が入り込む危険性があります。
    • そのため、供述者の反対尋問によるテストの機会を公判廷で保障しないままにこれを証拠とすると、事実認定を誤らせるおそれがある、という観点です。
    • 憲法が保障する被告人の証人審問権(憲法37条2項前段)の確保という点からも、伝聞法則の意義が強調されます。
  • 直接主義の観点
    • 供述は、裁判官が公判廷で直接に取り調べたものでなければ事実認定の基礎とすることができないという考え方です。
    • 裁判官や裁判員が証言態度等を直接観察し、その信用性を吟味・確認する機会を保障するためです。

(2) 伝聞例外の基本的な解説

ア 伝聞例外の要件と構造

伝聞法則の原則に対する例外規定が、刑事訴訟法第321条から第328条に定められています。

伝聞例外が認められるのは、伝聞法則を貫くと、かえって実体的真実主義に反し、事実認定を誤らせる場合があるためなどと言われることもあります。

伝聞例外として証拠能力が認められるためには、原則として以下の2つの要件が必要です。

  • 必要性(Necessity)
    • 公判廷で証言を得ることが困難であるなど、当該伝聞証拠を証拠として用いる必要性が高いこと。
  • 信用性の情況的保障(Circumstantial Guarantee of Trustworthiness)
    • 供述がなされた状況や、書面が作成された状況が、反対尋問を経るのと同程度に供述の信用性を担保していること。

イ 刑事訴訟法第323条の位置づけ

刑事訴訟法第323条は、供述証拠のうち、供述内容の真実性を立証するために用いられる文書の証拠能力に関する伝聞例外規定の一つです。

323条の文書は、個別の供述者の署名や押印(321条1項、322条など)を要件とせず、その文書が持つ客観的で高度な信用性に基づき、伝聞例外として広く証拠能力を認めるものです。

2 刑訴法323条の趣旨

(1) 条文

刑事訴訟法第323条は、以下のとおり規定されています。

刑事訴訟法第323条
前三条に掲げる書面以外の書面は、次に掲げるものに限り、これを証拠とすることができる。
一 戸籍謄本、公正証書その他公務員(外国の公務員を含む。)がその職務上証明することができる事実についてその公務員の作成した書面
二 商業帳簿、航海日誌その他業務の通常の過程において作成された書面
三 前二号に掲げるものの外特に信用すべき情況の下に作成された書面

(2) 刑訟法323条の趣旨

本条が伝聞例外として証拠能力を認める根拠は、その文書が、公文書や業務上の記録といった性質上、反対尋問等のチェックを経なくとも、当初から客観的に極めて高い信用性が備わっていると認められる点にあるとされます。

323条は、供述の信用性というより、文書自体の信用性(作成の正確さ)を客観的な情況により担保するものです。

このため、323条の証拠は、通常、個別の供述内容の真実性を争うための反対尋問の必要性は低く(細かい内容が記載された文書もあり、証人として話をしてもらうよりもかえって文書の方が、信用性が高い場合もある)、事実認定の基礎として許容されています。

3 刑訴法323条各号の解説

刑事訴訟法第323条は、その文書の性質と作成状況に応じて、3つの類型に分けて伝聞例外を認めています。

(1) 第1号|公務員の職務上作成した書面

ア 第1号の要件

第1号は、「戸籍謄本、公正証書その他公務員(外国の公務員を含む。)がその職務上証明することができる事実についてその公務員の作成した書面」 に証拠能力を認めています。

イ 趣旨

公務員が職務として作成する文書は、その職務の正確性確保と信用の情況的保障が極めて高いため、高度の信用性が認められるとされます

  • 公務員
    • 公務員には、国家公務員・地方公務員の他、法令により公務に従事する職員とみなされる者(みなし公務員)も含まれます
    • 罰則の適用についてのみ公務員とみなされる者は含まれません。
    • 外国の公務員は含まれるとされます。
  • 職務上証明することができる事実
    • 公務員として取り扱う職務についてその限度内で証明することのできる事実である必要があるとされます。権限が法令で明記されている必要はなく、慣行上認められているものでも差し支えないとされます。
      • その職務に関与する立場に立てば誰でもその存否に疑念をさしはさむ余地がない程度に客観性を持つ事実に限られるとする立場
      • 職務上保管している文書により当然証明されると認められる事実とする立場などがあります。
    • 実質的に公務員作成の文書であれば足り、作成名義人の明示や署名押印は要件とはされていません。

ウ 具体例

  • 戸籍謄本、公正証書等
    • 戸籍謄本は、市区町村長が職務上証明する高信頼性の記録であり、記載内容の真実性を立証する証拠能力が認められます。
    • 公正証書は、公証人が公証法に基づき作成する公正証書原本等の記録であり、公文書として同様の信用性が認められます。
    • これらに準じる書面
      • 不動産登記簿謄本・商業登記簿謄本・印鑑登録証明書・住民票写し・市町村長作成の身上照会回答書・公判期日における訴訟手続を立証する証拠としての公判調書等
  • 公の記録に基づく書面
    • 気象関係職員の作成した一定の日時場所における気象状況に関する報告書
    • 消防職員の作成した出火通報受理時刻等に関する報告書
    • 税務署長の作成した特定年度の課税所得についての回答書
    • 国または地方公共団体の議会や委員会の議事録写しなど
    • 警察署の留置人出入り簿について、2号書面として論じた裁判例があります(浦和地判H1.10.3判時1337号150頁)。
  • 捜査機関作成の文書と323条1項の適用
    • 捜査機関(検察官、検察事務官、司法警察職員等)が作成した文書も広義の公文書ですが、供述調書や実況見分調書といった個別の捜査記録については、原則として刑事訴訟法321条や322条といった供述証拠の伝聞例外の特則が適用されます。
      • 刑事裁判は、検察官・警察官等の犯罪事実の立証がされているか証拠に基づいて吟味認定する場であるため、323条が適用されるとなると、321条の規定が無意味になりかねません。
    • 現行犯逮捕手続書・捜索差押調書等
      • 逮捕や捜索の日時場所の特定のためであれば、323条が適用されるとする見解もあります。
    • 実況見分調書
      • 実況見分調書は、公務員がその職務上作成した書面ですが、323条1号が適用されることは通常ありません。321条3項(検察官または検察事務官が作成した検証・実況見分調書)の要件を充足する場合に証拠能力が認められます。
    • 前科調書・指紋照会回答書等
      • 323条の適用があると考えられています。
  • 判決書
    • 323条3号とする立場もあります。
    • 判決があったこと自体を証明に用いることには問題がないとされます。
    • その基礎となった事実の存否を証明することができるかどうかについては、議論が分かれています。

(2) 第2号|商業帳簿、航海日誌その他業務の通常の過程において作成された書面

ア 第2号の要件

第2号は、「商業帳簿、航海日誌その他業務の通常の過程において作成された書面」 に証拠能力を認めています。

イ 趣旨

この種の書面は、商業帳簿や航海日誌のように、営業や業務を営む者がその業務の通常の過程で、継続的かつ系統的に正確な記録を作成することが求められるために、高い信用性が認められることが根拠となります。

ウ 具体例

  • 帳簿・記録一般
    • 商業帳簿や航海日誌の他、金銭の貸借、売上、仕入れ、在庫に関する記録など、日常的な業務過程で作成されたものが含まれます。
    • 電磁的記録がこれらの役割を果たしている場合は、記憶媒体から機械的に印字された書面について、適用されることになるとされます。
    • 虚偽部分が含まれる場合、虚偽部分が可分であれば、その部分を除いて証拠能力を認める・結果として帳簿の信用性全体が損なわれる場合には、2号に当たらないことになると考えられています。
    • 判例・裁判例の適用例
      • 売掛金関係帳簿
        • 小売販売業者が、被告人が本件取引の認知を争った事案において、被告人自身が記帳したとする未収金控帳(最決昭32.11.2・刑集11巻12号3047頁参照)。
  • その他業務の通常の過程において作成された書面
    • 医師の診療録(カルテ)、タクシーの運転日報、工場現場の作業日報、営業日誌などが当たるとされます。
    • 診断書は、都度作成されるものであり、規則性・機械性・連続性がないためとされます。領収証や契約書も同様です。
  • 業務記録と作成者の尋問
    • 業務の通常の過程で作成された書面は、その作成者が公判廷で供述する機会がなかったとしても、323条2号により証拠能力を認めることができます。
    • ただし、その内容の真実性について争いがある場合は、作成者に対する反対尋問の機会が重要となります。

(3) 第3号|前二号に掲げるものの外特に信用すべき情況の下に作成された書面

ア 第3号の要件

第3号は、「前二号に掲げるものの外特に信用すべき情況の下に作成された書面」 に証拠能力を認めています。これは、1号・2号の類型に該当しない文書について、その作成の情況に基づいて、個別的かつ類型的に高度な信用性を認めるための包括的な規定です。

イ 趣旨

「特に信用すべき情況」とは、論者によってニュアンスは異なりますが、その書面が作成された当時の外部的な事情、または供述内容の信用性を推認させるに足りる客観的な情況が備わっていることが必要とされます。

作成者が真実を述べたことに疑いを差し挟む余地のないほど、客観的に信頼性が高い場合に限られます。

ウ 具体例

  • メモ
    • いわゆるメモの理論と関連して、様々な見解があります。
    • メモの理論
      • 証人等が、公判廷において、当時の記憶は喪失したが、記憶の新鮮な時に自ら経験した事実をそのまま正確に記載した書面である旨供述し、それが信用できれば、その書面がメモの理論的の適用として証拠能力を取得するとされるもの。
      • 英米法で発達した理論とされています。
    • 消極的な立場
      • 刑訴法323条3号は書面自体に高度の信ぴょう性のある場合と考えるべきであり、作成者等が証言して初めて信ぴょう性が生じる場合を含むべきではない
      • 単なるメモには、1号2号のような高度の信用性はない。
      • 作成者が証言して特信性が認められれば、単に323条3号の問題とすればよく、メモの理論を適用する必要はない。
      • 323条3号の適用がないとする立場でも、321条1項3号(322条)、321条3項・4項など見解が分かれています。
    • 積極的な立場
      • 作成者の尋問をし、特信情況を確認できるならば、肯定してよい。
      • 証人として証言する者は、尋問について記憶が曖昧な場合には、事前にならんかのメモを見た上で、あたかもの終始記憶があったかのように供述することが多く、そのような場合、メモ自体を証拠とすることと実質的に差異はない
        • 肯定するにしても、323条3号の適用、準用、記憶喪失等は不要など、様々な見解があります。
  • 日記
    • 見解が分かれています。
    • 肯定的な立場
      • 通常の業務の過程に準ずるような状況で作成されたものが必要
      • 訴訟を意識せずに書かれたもので、信用の情況的保障があれば該当する。
      • 事件に関係なく通常の過程で作成されれば該当する。
      • 作成者が法廷で証言し、特信性が具備されれば323条3号により証拠能力を認めてよい。
    • 消極的な立場
      • 個々の具体的事情に基づいて信用の状況的保障を判断するべきではない、作成者である証人を尋問するまでもなく信用できる書面とは言えないといった点に根拠があるように思います。
      • 被疑者ノート
        • 被疑者が捜査過程における自己の供述状況等を記録した被疑者ノートは、非供述証拠の限度で採用するか、刑訴法322条の問題となるとする立場が有力なように見えます。
  • 手紙
    • 日記と同様、見解が分かれています。
      • 肯定例として最判昭29.12.2刑集8巻12号1923頁があります。
  • 手帳
    • 日記や手紙と同様、見解が分かれています。
      • 否定例として、最判昭31.3.27刑集10巻3号387頁があります。
  • レシート
    • 機械から打ち出されるレシートは、業務の通常の過程で順次継続的に作成される書面に類するものとして、3号に該当する余地があるとする見解もあります。
    • 手書の領収証でも、同時複写式になって作成される場合には、同様に考えてよいという立場もあります。
  • その他の例
    • 定期刊行物掲載の市場価格表、法令に根拠を有する統計表、スポーツ記録、暦、家系図、墓石の記録、学術書、学術論文、年表など
  • 判例・裁判例の適用例
    • 手紙について323条3号の適用を認めた例(最判昭29.12.2刑集8巻12号1923頁)
    • 手帳について、323条各号の適用を否定した例(最判昭31.3.27刑集10巻3号387頁)
    • 未収金控帳について、323条2号に当たるとした例(最決昭32・11・2刑集11巻12号3041頁)。
    • 会社員が業務遂行の必要上その都度あるいは他の関係資料に基づいて作成していたメモについて3号に該当するとした例(東京高判平成11.10.8)
    • 被害者が嫌がらせ電話の都度その日時、回数内容等を記載したノートと一覧表について3号に該当するとした例(東京地判平成15.1.22判タ1129号265頁)

エ 各号に該当するかの判断資料は書面自体に限られるか      

  • 刑訴法323条各号の該当性を判断するにあたっては、書面自体の形状内容により判断されるべきという見解(反対尋問を要しない程度に高度の信用性の状況的保障があることなどを主な根拠とします。)
  • 作成者の供述等も判断資料となしうるとする見解があります(主に3号についてですが、個々の書面について具体的に信用性の状況的保障を判断することを許容しているように読めることが一つの根拠とされているように見えます。)。
  • 最決昭63.3.3刑集40巻2号175頁は、「業務の通常の過程において作成された書面」にあたるかを判断するにあたって、作成者の証言等も資料とすることができるとしています。
    • 「業務の通常の過程において作成」かは書面自体からは通常明らかではないこと、書面自体に限定すると321条1項3号の厳格な要件が必要となり実体的真実発見の見地から妥当ではないという考慮があるように思います。

4 刑事弁護における第323条の重要性

刑事訴訟法第323条によって、その文書の証拠能力が認められることで、内容によって被告人にとって不利な事実が立証・認定される可能性があります。

弁護人は、検察官が提出する323条の証拠に対し、その伝聞例外の要件(文書の性質から323条の各号に該当するのか、信用性の情況的保障があると言える文書なのか。)が満たされているか、厳格にチェックする責務があります。

例えば、検察官が323条3号書面として提出した証拠が、真に「特に信用すべき情況」の下で作成されたものなのか、作成の動機や過程に虚偽混入の危険性はないか、また、その記載内容が、他の証拠(被告人供述や客観証拠)と矛盾しないかなどを多角的に検討し、証拠能力の有無を争うことが重要です。

逆に、弁護活動上重要と考えられる文書について証拠提出したい場合に、刑訴法323条の規定を活用することができないか、検討することも重要です。(伝聞例外の規定を活用できなければ、検察官が刑訴法326条の同意をしない場合、伝聞証拠として採用されることが難しくなるためです。)

弁護活動においては、323条を含む伝聞例外の規定を深く理解し、適正な立証手続きの下で事実が認定されるよう、法廷で尽力することが求められます。

刑事事件における証拠の採用の適否は、事件の帰趨を左右します。

専門的な知識と経験を持つ弁護士にご相談ください。

5 その他の記事

伝聞法則一般に関する記事です。
伝聞証拠に対する刑訴法326条の同意に関する記事です。

6 用語解説など