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電磁的記録不正作出及び供用罪とは|刑法161条の2の構成要件を解説

電磁的記録不正作出及び供用罪は、コンピュータ上のデータを不正に作成・改変したり、そのデータをコンピュータによる事務処理のために使用したりする行為を処罰する犯罪です。

刑法161条の2に規定されており、銀行口座の残高データ、ICカードの情報、各種オンラインサービスの登録情報など、現代社会で利用されるさまざまな電磁的記録が問題となり得ます。

もっとも、本罪が成立するためには、単に「データを改ざんした」というだけでは足りません。どのような電磁的記録が本罪の客体となるのか、「不正に作った」とは何を意味するのか、「人の事務処理を誤らせる目的」とは何かなど、複数の構成要件を検討する必要があります。

本記事では、電磁的記録不正作出及び供用罪について、刑法161条の2の条文を確認した上で、電磁的記録の意義、私電磁的記録・公電磁的記録の違い、不正作出の意義、故意・目的犯としての要件、さらに供用罪と未遂罪まで、構成要件を中心に刑事弁護の観点から分かりやすく解説します。

※ 本記事は比較的一般的な理解を説明するものです。

※ また、公開日の情報を基に作成しています。

刑法161条の2(電磁的記録不正作出及び供用罪)の構成要件を解説した図解イラスト。全体の構成(私・公・供用・未遂)、不正作出の2つのパターン(無権限・権限濫用)、人の事務処理を誤らせる目的について視覚的に説明している。
図解:電磁的記録不正作出及び供用罪の全体像と構成要件

目次

1 はじめに

(1) 電磁的記録不正作出及び供用罪とはどのような犯罪か

ア 現代社会と電磁的記録の重要性

  • 文書からデータへの移行
    • a 電子ペーパーレス化の進展
      • (a) 現代社会においては、インターネットやIT技術の急速な発展に伴い、かつて紙媒体でやり取りされていた重要な契約書、領収書、公的な証明書、銀行の預金通帳などの多くが「電子データ」に移行し、いわゆるペーパーレス化が進んでいます。
      • (b) 刑法が明治40年に制定された当時は、情報が紙に書かれた「文書」であることを前提として文書偽造の罪(刑法154条以下)などが規定されていましたが、現代の高度情報化社会における取引や社会生活の基盤は、紙の文書から、コンピュータによって処理される電磁的記録(データ)へと大きく変化しています。
    • b 電磁的記録の証言機能・証明機能
      • (a) 電磁的記録は、紙の文書と同様に、個人の権利義務を証明したり、社会的な信用を伴う事実を証明したりする極めて重要な役割を果たしています。
      • (b) 例えば、銀行における預金の残高記録や、オンラインゲーム内でのキャラクターやアイテムの保有データ、さらには暗号資産(仮想通貨)の取引履歴などは、すべて電磁的記録としてサーバやデータベースに保管され、社会的な信用に基づいて流通・管理されています。
      • (c) これらは「可視性」や「可読性」がありませんが、社会生活における重要な証明手段・取引手段としての効用を持っており、その真実性や正確性を維持することは、社会の信頼関係を維持する上で不可欠と言っても過言ではありません。

イ 電磁的記録不正作出罪の新設

  • 昭和62年の刑法改正
    • a 新たな処罰規定の必要性
      • (a) 刑法上の文書に該当するためには、可視性・可読性が必要と考えられています
        • 大審院明治43年9月30日判決は、「文書とは文字又はこれに代わるべき符号を用い、永続すべき状態において、ある物体の上に記載したる意志表示をいう」、「その物体の種類については法律上何らの制限なし」と判示しています。
        • しかし、電磁的記録は、紙にインクや印影で固着された「文書」とは異なり、人間の肉眼で直接読み取ることが困難(可視性・可読性の欠如)であり、かつ、データの書き換えや消去が比較的容易であるという特性(変更の容易性)を有しています。
      • (b) そのため、これまでの有形偽造(名義人を冒用して文書を作成する行為)を基本とする文書偽造罪の枠組みだけでは、他人のサーバにアクセスしてデータを書き換えるような現代的なサイバー犯罪を適切に処罰することが困難でした。
      • (c) 例えば、他人の預金口座のデータベースの残高を不正に増額書き換えする行為は、物理的な文書を偽造しているわけではないため、文書偽造罪での処罰は不可能であり、財産上の不法な利益を得ていない段階(単に書き換えただけの段階)では詐欺罪での処罰も難しいという「法の隙間(処罰の空白)」が存在していました。
    • b 有形偽造・無形偽造の枠組みを超えた「不正作出」概念の導入
      • (a) このような法的な隙間を埋め、電磁的記録に対する社会的な信用と証明機能を紙の文書と同様に保護するために、昭和62年の刑法改正により「電磁的記録不正作出及び供用罪」(刑法161条の2)が新たに設けられました。
      • (b) 本罪は、従来の文書偽造罪における「偽造」「変造」といった有形偽造中心の処罰モデルを修正し、電磁的記録の特性に合わせた「不正作出」という独自の犯罪概念を導入することで、高度情報化社会における法的利益を保護することを目指しています。
      • (c) 本記事では、この「電磁的記録不正作出及び供用罪」について、保護法益、構成要件、具体的な裁判例、さらには学説上の議論や他罪との境界まで、刑事弁護士の専門的視点から徹底的に分かりやすく解説します。

(2) 本罪の保護法益

  • 社会的信用性と証明機能の保護
    • (a) 電磁的記録不正作出及び供用罪の保護法益
      • 従来の文書偽造罪と同様に、「電磁的記録に対する社会的な信用」および「電磁的記録が有する証明機能・証言機能」であると解されています。
    • (b) 現代のIT社会においては、各種のデータが紙の文書以上に強力な信用を持って社会で流通しており、システムのデータ処理が正確に行われているという信頼(情報処理の正確性に対する信頼)を害する行為は、社会の経済活動や事務処理を著しく混乱させるため、これが本罪の核心的な保護法益となります。
    • (c) また、本罪は「社会的法益に対する罪」に分類され、個人の財産や権利を直接守るだけでなく、社会全体におけるコンピュータシステムの安全な運用と、そのデータに対する公共の信用を担保することを目指していると言えます。

2 刑法161条の2の条文構成

(1) 第1項(私電磁的記録不正作出罪)の条文

  • 条文本文の引用
    • 刑法161条の2第1項は、基本類型である私電磁的記録の不正作出行為について、以下のように規定しています。
      • 「人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」

(2) 第2項(公電磁的記録不正作出罪)の条文

  • 条文本文の引用
    • 同条第2項は、不正に作出された電磁的記録が公的な機関に関連するものである場合について、法定刑を重くして以下のように規定しています。
      • 「前項の罪が公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録に係るものであるときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。」
      • 公文書と私文書の偽造に法定刑の格差があるのと同様に、国や地方自治体、あるいは公務員の職務として管理されるべき電磁的記録(公電磁的記録)は、民間が管理する電磁的記録(私電磁的記録)よりも高い社会的信用性を有するため、このように法定刑が著しく加重されています。

(3) 第3項(不正作出電磁的記録供用罪)の条文

  • 条文本文の引用
    • 同条第3項は、不正に作られた電磁的記録を実際に使用する行為(供用行為)について、以下のように規定しています。
      • 「不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第一項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。」
      • 本罪は、不正なデータを作成すること自体(不正作出)のみならず、それを用いて実際にシステムを稼働させ、実社会の事務処理を狂わせる行為(供用)についても独立して処罰対象としており、自身が不正作出を行った場合はもちろん、他人が不正に作ったデータであることを知りながらそれを利用した場合にも適用されます。

(4) 第4項(未遂罪)の条文

  • 条文本文の引用
    • 同条第4項は、供用行為の未遂について、以下のように処罰規定を設けています。
      • (a) 「前項の罪の未遂は、罰する。」
      • (b) 電磁的記録不正作出罪(1項、2項)自体の未遂は処罰されませんが、それを使用する「供用罪」(3項)の未遂については、社会的な法益侵害の危険性が極めて高いため、このように未遂罪が処罰される構造となっています。

3 刑法161条の2第1項・第2項の構成要件

(1) 客体(電磁的記録の意義)

刑法7条の2における「電磁的記録」の3つの特徴(知覚的認識の不可能性、固定性、情報処理供用性)を解説した図解イラスト。
電磁的記録と認められるための3つの要件(知覚的認識の不可能、固定性、情報処理供用性)

ア 刑法7条の2に定める「電磁的記録」の定義

  • a 刑法における「電磁的記録」の定義は、刑法総則7条の2において以下のように明文化されています。
    • (a) 「この法律において「電磁的記録」とは、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。」
  • b この定義から、本罪の客体となる電磁的記録には、以下の3つの特性(要件)が必要とされます。

イ 知覚的認識の不可能

  • 第一に「知覚的認識の不可能性」です。これは、人間の五感(特に肉眼)によって直接的にその内容を読み取ることができない方式で記録されていることを意味します。
    • 電磁的方式
      • SSDなどの半導体メモリに保存されたデータ
    • 磁気的方式
      • ハードディスクドライブなどに保存されたデータ
    • その他人の近くによっては認識することができない方式
      • 光ディスク、分子メモリ、DNAメモリ
    • 知覚的認識が可能な場合、「文書」に該当することから文書偽造罪等の規律が及び、本罪による保護の必要性がないため、要件とされています。
      • 例えば、紙に印刷された文字は肉眼で直接読めるため、これは「文書」に該当します。
      • 現在は殆ど利用されていませんが、穴を打つことによりデータを記録する紙テープやパンチカードなどは、情報処理に供される記録であっても、存在と状態を知覚的に認識できるため、電磁的記録には該当しないと考えられます。
    • これに対し、ハードディスクやICチップの中に電子的な符号(1と0のバイナリなど)として保存されているデータは、存在と状態を肉眼で直接見ることができないため、知覚的認識の不可能性を満たすと考えられます。
    • バーコードやQRコード(2次元コード)については、肉眼でその四角い模様自体は視認できますが、その模様の中に高度にエンコードされて埋め込まれた電子情報それ自体を直接脳で読解(意味内容を理解)することは困難であるという面もあります。
      • 昭和62年改正時の立案担当者は、バーコードについては電磁的記録に当たらないとの理解を示していましたが、現在の情報社会におけるQRコードの普及とそこに記録される情報の複雑さ等からすると、どこまで維持されるべきかは検討の余地があるように思います。
      • 実質的には電磁的記録として扱うべきか、あるいは紙に印刷されていることで「可視的」な文書と評価すべきか、議論があります。

ウ 固定性

  • 第二に「記録性(固定性)」です。電磁的記録は、何らかの記憶媒体(メディア)上に、ある程度固定・保存されていなければなりません。したがって、ネットワークのLANケーブルや光ファイバーの中を単に一瞬だけ流れていく電気信号や光信号(パケットデータ)それ自体は、媒体への固定性がないため、電磁的記録には該当しないと解されています。
    • 保護されるのはデータそのものではなく、データが媒体に記録・保存された状態が保護されると理解されています。
    • 不揮発性メモリやハードディスクなど、電源を落とした状態でもデータが保持される「永続性」のあるものや、揮発性メモリ(RAM)であっても、一定のシステム処理が継続されている間はデータが媒体上に保持されるため、一定の記録性を認めるのが一般的です。

エ 情報処理供用性

  • 第三に「電子計算機情報処理供用性」です。これは、コンピュータ(電子計算機)に読み込ませて、プログラムに基づき自動的な情報処理を行うために用いられる記録であることを意味します。
    • 電磁的記録が、文書と同様に証明機能・情報保存機能・伝達機能を果たし、社会生活において重要な役割を果たしているのは、それが電子計算機によって処理されるためであるために、設けられたとされています。

(2) 客体|「権利、義務又は事実証明に関する」の意義

  • 私電磁的記録不正作出罪(1項)の客体は、「人の事務処理の用に供する」「権利、義務又は事実証明に関する」電磁的記録に限られます。

ア 「人の事務処理の用に供する」

  • 客体は、人の事務処理の用に供するものとされています。
    • 文書はそれ自体に証明機能がありますが、電磁的記録が証明機能を発揮するのは、プログラムなどで使用される場合に限られるからとされています。

イ 「権利、義務に関する」電磁的記録

  • 法律上の権利や義務の発生、変更、消滅を発生させる、あるいはそれを証明することを直接の目的とするデータを指します。
    • 民事上の権利義務に限られず、公法上のものでも足りるとされています。
    • その典型例は、オンライン化された銀行の「預金口座元帳ファイル」における残高データ、クレジットカードやICカード、プリペイドカードの内部ICに記録された利用可能額・残高データ、暗号資産の残高履歴データなどです。
    • これらが書き換えられることにより、預金者と銀行との間の預金債権(権利)や、カード会社と保有者との間の債権債務関係が直接変化するため、権利・義務に関する記録に該当します。

ウ 「事実証明に関する」電磁的記録

  • 実社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる価値を有するデータを指します。
    • この定義に関しては、実社会生活に交渉を有しない(かかわりを有しない)事項はそもそも少ないため、処罰を限定できる定義と言えるか、疑問を呈する見解も存在します。
    • 具体的には、インターネットサービスプロバイダやSNS運営会社、各種ECサイトが管理する「顧客会員情報データベース(氏名、住所、電話番号、ログインパスワード、アカウント状況)」、電子カルテシステムに記録された患者の病歴、診療報酬明細データ、検査数値、あるいは競馬の自動払戻システムにおける「的中馬券の磁気ストライプ内の記録」などがこれに該当します。

(3) 客体|2項「公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録」の意義

  • 同条第2項は、客体が「公電磁的記録」である場合について定めています。これは、公務所(官公庁など)や公務員が、その職務権限に基づいて作成すべき電磁的記録を指します。
    • 例えば、法務局が管理する「不動産登記ファイル」や、市区町村が管理する「住民基本台帳ファイル」、あるいは警察・陸運局が管理する「自動車登録・車検証ファイル」、国税・地方税の課税・徴収データベースなどが、この公電磁的記録の代表的な具体例です。
    • 公電磁的記録は、私電磁的記録に比べて国家的な証明機能を有し、社会的信用が極めて高く、その改ざんによる社会秩序への被害が甚大であるため、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金という重い法定刑が課されます。

(4) 行為(「不正に作った」=不正作出)

ア 「不正に作る」の意義

  • 文書偽造罪における「偽造」とは、作成権限がないのに他人名義の文書を作成する行為(有形偽造)を指すのが原則です。
    • しかし、電磁的記録においては、署名や押印のように「一目で誰が名義人(作成者)であるか」を特定することが困難である場合が多々あります。
    • そこで、本罪の行為は「偽造」ではなく「不正に作る(不正作出)」という独自の文言が用いられています。
    • この「不正作出」の範囲をどのように捉えるかについて、学説上、対立が存在します。
      • なお、作出には、既存のデータを部分的に改変抹消することによって新たなデータを作り出す場合も含むと考えられています。
  • 学説の状況 
    • (a) 「有形偽造並行説(有形偽造対応説)」
      • この説は、電磁的記録においても、紙の文書における有形偽造(作成権限がないのに、他人のアカウント等を用いてデータを作出すること)のみが本罪の「不正作出」にあたるとし、作成権限がある者が不実の(嘘の)データを作出する行為(無形偽造)は原則として処罰対象外とするべきであると主張します。
      • 紙の私文書偽造罪において「虚偽の私文書を作成する行為(無形偽造)」は原則不処罰であることとの整合性を重視する立場です。
    • (b) 「無形偽造内包説(無形偽造対応説)」
      • この説は、電磁的記録の特性(誰が作ったかが可視化されず、データ自体の正確性が極めて強く信頼されること)に鑑み、作成権限の有無にかかわらず、システムの設定意図に反して不実の内容のデータを作成する行為(無形偽造に相当する行為)もすべて「不正作出」に含まれると広く捉えるべきだと主張します。
    • (c) 「システム設置・運営主体の意思違反説」
      • 電磁的記録における「作成者(名義人)」を「システムの設置・運営主体(またはその意思を反映する存在)」と捉えた上で、システム設置・運営主体の意思に反してデータを入力・更新する行為を「不正作出」と定義します。
      • この見解によれば、「不正に作る」行為は、以下の2つのケースに整理されます。
        • 第1のケース(無権限者によるデータ作出)
          • そもそもシステムへのアクセス権限(ログイン権限等)を持たない者が、ハッキングなどの不正手段や、他人のID・パスワードを冒用してシステムに侵入し、データを書き換えたり新規に作成したりする行為。
          • これは文書偽造罪における「有形偽造」に類似し、当然に「不正作出」に該当します。
        • 第2のケース(権限者によるデータ不実入力=権限の濫用)
          • システムへのログイン権限や入力権限自体は有している者が、その権限を濫用して、システムの設置・運営主体の意思に反し、本来作成すべきではない虚偽のデータを入力・登録する行為。
          • これは文書偽造罪における「無形偽造」に類似しますが、電磁的記録の信用性を保護するために、これも「システム設置・運営主体の意思に反する」という意味で「不正作出」に該当すると解されています。例えば、会社の給与支払いシステムにアクセス権限を持つ担当者が、自己の給料を勝手に増額して入力する行為などがこれにあたります。

イ 作る

  • 記録媒体上に電磁的記録を存在するに至らしめることを言います。
  • 記録をはじめから作り出す場合に限らず、既存の記録を改変抹消することによって、新たな電磁的記録を存在するに至らしめる場合も含むとされています。

(5) 主観的要件

ア 故意

  • a 本罪の成立には、自らの行為が電磁的記録を不正に作出するものであること、およびその客体が人の事務処理の用に供する権利・義務又は事実証明に関するものであることについて、認識および認容(故意)が必要です。

イ 人の事務処理を誤らせる目的(主観的違法要素)

  • a 本罪は、単に不正なデータを作るだけでなく、「人の事務処理を誤らせる目的」という特殊な目的(目的犯)を要求しています。
    • 文書偽造罪でも「行使の目的」が要件とされています。
      • もっとも、本罪では「人の事務処理の用の供する目的」ではなく、「誤らせる目的」という、より悪質な目的が要求されています。
    • b 「人の事務処理」とは、コンピュータによって行われる自動的なデータ処理だけでなく、それに関連して人間が行う意思決定や実務的な処理全般を含みます。
    • c 「誤らせる」とは、システムが本来予定している正しい処理とは異なる不適切な処理(例えば、実際には入金されていないのに残高を増やす、資格のない者にログインを許可するなど)を実行させ、社会生活上の各種の事務処理を本来の目的とは異なる誤った方向へと導くことをいいます。
    • d 本罪が「目的犯」とされた理由
      • 電磁的記録には紙の文書における「行使(物理的に相手に示す)」という概念を観念しにくく、他方で、データの作成段階において、単に個人的なメモやテスト目的で不正なデータを入力したに過ぎないような行為を処罰対象から除外し、社会生活上の事務処理を実際に狂わせる危険性のある悪質な行為のみを適切に処罰するためとされています。

4 供用罪(3項)の構成要件と未遂罪

(1) 供用罪の構成要件

ア 客体

  • (a) 供用罪(刑法161条の2第3項)の客体
    • 前述した1項又は2項の要件を満たし、「不正に作られた」権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録です。
  • (b) 客体の作成者
    • 誰が不正に作ったかは問いません。自ら不正に作出した電磁的記録である場合はもちろん、他人が不正に作った電磁的記録であることを認識しつつそれを使用する場合にも成立します。
    • 作出した他人の行為について、電磁的記録不正作出罪が成立しなくてよいとされています。
      • たとえば、作出した他人には、人の事務処理を誤らせる目的を欠いていた場合でも成立します。
  • (c) 注意すべきは、客体が「不正に作られた電磁的記録」そのものであるため、不正に作出されたデータが既に消去されてしまったり、システムから正常な状態に戻されてしまったりした後は、もはや本罪の客体は存在しないため、供用罪の既遂は成立し得ないという点です。

イ 行為(「用に供した」)

  • 「用いる状態」の意義
    • a 「供用」とは、不正に作出された電磁的記録を、その設計された目的に従って、電子計算機(コンピュータ)による情報処理の「用に供する(用いる状態に置く)」行為を指します。
      • 現実に事務処理を誤らせたという結果が生ずることまでは必要ないとされています。
    • b 具体的には、以下のような携帯型・オンライン型の違いによるアプローチがあります。
      • (a) 「携帯型電磁的記録」
        • 例えば、不正にデータが書き換えられたキャッシュカード、クレジットカード、B-CASカードなどのICチップや磁気ストライプを有するカードを、自動現金払出機(ATM)やカードリーダー、デコーダー等の端末機器に挿入し、読み取らせる行為がこれにあたります。
        • この場合、カードを端末の差込口に挿入し、機械がデータを読み取り可能な状態にした時点で「供用」が成立します。
      • (b) 「据置型・オンライン接続電磁的記録」
        • これは、インターネット上のWebサーバや社内システムのデータベース上に不正に保存されたデータを、システムを本来の事務処理の用に供するプロセスの中で稼働させ、あるいは第三者や一般ユーザーがアクセスして閲覧・処理できる状態に置く行為などを指します。
        • オンライン接続型の場合、不正に作出されたデータをサーバコンピュータに送信してデータベースに登録し、そのデータに基づいてシステムが自動的な処理を行える状態にした時点で供用罪は既遂に達します。
        • 例えば、ネットオークションのシステムに不正な会員登録データ(偽名や嘘の住所など)を送信し、サーバ内に会員情報として登録完了させ、アカウントが有効化された状態にした時点で不正作出・供用は完了(既遂)となります。

5 未遂罪(4項)の処罰

(1) 供用罪における未遂の意義

  • (a) 刑法161条の2第4項は、供用罪の未遂を罰すると定めています。
    • 電磁的記録不正作出罪自体には未遂処罰規定がありませんが、それを使用する「供用罪」については、実行の着手がありながら既遂に至らなかった場合を処罰します。
  • (b) 供用罪の未遂が成立するためには、不正に作られた電磁的記録をコンピュータの「用に供する」ための実行の着手(行為の開始)が必要です。

(2) 実行の着手時期と未遂の具体例

  • (a) 典型的な例としては、不正にデータを改ざんしたクレジットカードやキャッシュカードを、ATMや自動券売機、店舗の決済端末などの「挿入口に差し込もうとした段階」、あるいは「差し込んだが磁気エラーや不正感知システムによってデータの読み取りに失敗し、処理が行われずに排出された段階」などが挙げられます。
  • (b) また、オンラインシステムにおいて、不正に作出した虚偽のデータファイルをWebサーバや取引システムに送信しようとしてアップロード操作を開始したが、送信途中で回線が切断されたり、ファイアウォール等のセキュリティ検知によってサーバ側で受信が拒否されたりした場合も、供用罪の未遂にあたり得ます。
  • (c) このように、電磁的記録の供用は、コンピュータを用いた一連の処理が極めて迅速に行われるため、実行の着手から既遂に達するまでの時間が非常に短いという特徴があります。しかし、機械の読み取りミスや防犯機能、あるいは警察官等の介入によって途中で阻まれた場合には、「未遂罪」として評価され、処罰され得ることになります。

6 まとめ

  • 電磁的記録不正作出及び供用罪は、電磁的記録が社会において果たしている証明機能や信用を保護するために設けられた犯罪です。
  • その成立には、単にコンピュータ上のデータを改ざんしたという事実だけではなく、
    ①本罪の客体となる「電磁的記録」に当たること
    ②「権利、義務又は事実証明に関する」記録であること
    ③「不正に作った」と評価できること
    ④「人の事務処理を誤らせる目的」があること

    など、個々の構成要件を丁寧に検討する必要があります。
  • また、刑法161条の2は、電磁的記録を不正に作出する行為だけでなく、不正に作られた電磁的記録を実際にコンピュータによる事務処理の用に供する行為も処罰の対象としています。
    さらに、供用罪については未遂も処罰されます。
  • 特に実務上重要なのは、「不正に作った」という要件をどのように判断するかです。
    • アクセス権限を持たない者によるデータ作出だけでなく、正当な権限を有する者がその権限を濫用して虚偽のデータを入力した場合などについても、本罪の成否が問題となります。
  • このように、電磁的記録不正作出及び供用罪では、具体的なデータの性質、システムの構造、入力・改変の権限、システム管理者の意思、行為者の認識や目的などを踏まえた個別具体的な検討が不可欠です。

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8 用語解説など