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不正指令電磁的記録等の罪とコインハイブ事件|「反意図性」と「不正性」とは

「利用者が知らないうちに、利用者のコンピュータでプログラムを動かしたら犯罪になるのか。」
不正指令電磁的記録に関する罪(いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪)を考える上で、重要な問題の一つです。

プログラムは、それ自体が直ちに違法なものとは限りません。利用方法によっては便利な機能を提供する一方、同じ技術が利用方法によっては他人に不利益を与えることもあります。
そのため、プログラムの開発や利用について刑事責任を問う場合、どのような動作が「使用者の意図に反する」のか、さらに、そのプログラムが社会的に許容されない「不正な」ものなのかは慎重に判断される必要があります。

この問題について最高裁判所が判断を示した重要な事例が、いわゆる「コインハイブ事件」です。

コインハイブ事件では、ウェブサイトの閲覧者のコンピュータのCPUを利用して暗号資産のマイニングを行うサービス「Coinhive」が利用され、そのマイニング用のJavaScriptコードをウェブサイトに設置した行為について、不正指令電磁的記録に関する罪の成否が争われました。
最高裁判所は、令和4年1月20日判決において、「反意図性」と「不正性」について判断基準を示した上で、最終的に無罪としました。

本記事では、コインハイブ事件の一審・控訴審・最高裁の判断をたどりながら、不正指令電磁的記録に関する罪における「反意図性」と「不正性」の意味を、刑事弁護の観点から解説します。

※ 本記事は比較的一般的な理解を説明するものです。

※ また、公開日の情報を基に作成しています。

不正指令電磁的記録作成罪(コンピュータウイルスに関する罪)とコインハイブ事件の解説概念図。「反意図性」と「不正性」の構成要件と、最高裁が示した判断基準に基づく無罪判決の仕組みを示すイラスト図。
不正指令電磁的記録等の罪における「反意図性」と「不正性」の判断基準と、コインハイブ事件における最高裁の無罪判決の枠組み。

目次

1 不正指令電磁的記録に関する罪とは

今日、電子計算機(コンピュータなど)は極めて重要な社会的機能を有しており、多くの社会活動がプログラムによる情報処理に依存しています。

コンピュータ・ウィルス等が使用者の意図に反して実行され、これらプログラムが正常に作動しない、データ破壊や情報流出を引き起こす事態を放置すれば、情報処理システムに対する社会一般の信頼が失われ、円滑な社会活動が困難になります。

本罪の新設前は、電子計算機損壊等業務妨害(刑法234条の2)、電磁的記録毀棄罪(258条)が成立し得るにとどまっていました。

不正指令電磁的記録に関する罪(一般に「コンピュータ・ウイルス作成罪」とも呼ばれます)は、平成23年の刑法改正により、サイバー攻撃による被害の深刻化や、欧州評議会の「サイバー犯罪に関する条約」の受諾・発効に向けた国内法整備の一環として新設されました。

本罪は、正当な理由がないのに、人のコンピュータにおいて実行させる目的で、コンピュータ・ウイルスなどの「不正な指令」を与える電磁的記録を作成・提供・取得・保管する行為を処罰します。

2 保護法益

(1) 社会的な信頼の保護

  • 本罪の保護法益は、「電子計算機のプログラムに対する社会一般の信頼」であると解されています(立案担当者)。
    • 特定の個人のプライバシーや財産を守るという個人的法益ではなく、プログラムが「意図した通りに動き、意図しない動作はしない」という社会全体の信頼(社会的法益)を保護することを意味すると言えます。
    • そのため、本罪は実害の発生が要件とされていません。

(2) 学説の展開

ア 抽象的法益への批判

  • 通説のいう「社会一般の信頼」という概念は極めて抽象的であり、処罰範囲が不明確になりすぎるという批判が学説からなされています。

イ 情報セキュリティ(CIA)重視の立場

  • 一部の学説では、社会的な信頼に加えて、個人の法益としての情報セキュリティ、すなわち機密性(Confidentiality)、完全性(Integrity)、可用性(Availability)の三要素(CIA)の侵害を並列的に保護法益として捉えるべきであると主張しています。
  • この立場によれば、これら三要素を侵害する可能性があるプログラムのみが処罰対象となると解釈されます。

ウ 実害発生の重視

  •  また、処罰範囲を限定するために、情報の窃取やデータの損壊、システムの妨害といった「実害」を生じるものに限定して本罪の客体を定義すべきであるとの主張もあります。
  • しかし、立法過程では、実害が発生する前の予備的段階を捉えて処罰することに主眼が置かれたためか、現在の通説的見解には至っていません。

(3) 電子計算機の社会的機能の維持

  • プログラムに対する信頼を保護することは、ひいては社会的基盤となっている電子計算機による情報処理が円滑に機能することを保証することにつながる面もあると言えます。
  • 最高裁も、本罪は「電子計算機による情報処理に対する社会一般の信頼を保護し、電子計算機の社会的機能を保護する」ことを目的としていると明示しています。

3 構成要件の核心|「反意図性」と「不正性」の判断枠組み

(1) 開発行為等の萎縮への懸念

不正指令電磁的記録作成等の罪は、プログラムの開発行為自体を萎縮させるおそれがあるとの懸念が指摘されています。

プログラムは、その内容自体が必ずしも違法なものとは限らず、利用方法によっては日常生活に便宜をもたらす一方、他方では、悪用されることによってはじめて害悪をもたらすものもあるためです。

この点では、ファイル共有ソフト「Winny」の開発行為について、著作権法違反の幇助罪の成否が問題となった事件(最決平成23年12月19日刑集65巻9号1380頁)とも、問題意識において共通するところがあります。

こうした問題と大きく関係するのが「反意図性」「不正性」の要件です。
不正指令電磁的記録作成等の核心的な要件と言ってもよいでしょう。

(2) 反意図性(意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき)

ア 規範的な判断基準

刑法168条の2第1項1号が定めるこの要件は、個別具体的な使用者の実際の主観的な認識ではなく、「当該プログラムについて一般の使用者が認識すべき動作」を基準として規範的に判断されています。

イ 最高裁が示した考慮要素

最高裁(令和4年1月20日判決)は、一般の使用者が認識すべき動作の認定に当たっては、以下の要素を総合的に考慮する必要があるとしています。

(ア)当該プログラムの動作の内容

(イ)プログラムに付された名称

(ウ)動作に関する説明の内容

(エ)想定される当該プログラムの利用方法等

(3) 不正性(不正な指令)

ア 処罰範囲の限定機能

 「不正な」という要件は、反意図性が認められるプログラムのうち、社会的に許容し得ないものを処罰対象として絞り込むための要件とされています。

イ 不正性の考慮要素

最高裁は、不正性について「電子計算機による情報処理に対する社会一般の信頼を保護し、電子計算機の社会的機能を保護するという観点から、社会的に許容し得ないプログラムについて肯定される」と解した上で、以下の要素を考慮すべきであると判示しました。

(ア)当該プログラムの動作の内容

(イ)その動作が電子計算機の機能や電子計算機による情報処理に与える影響の有無・程度

(ウ)当該プログラムの利用方法等

4 反意図性と不正性に関する最高裁判例

(1) コインハイブ事件

「反意図性」「不正性」の要件について、最高裁判所が判断を示したのが、いわゆる「コインハイブ事件」です。コインハイブ事件では、ウェブサイトの閲覧者のコンピュータの計算能力を利用して暗号資産のマイニングを行うサービス「Coinhive」を利用し、そのマイニングに用いられるJavaScriptのコードを自身のウェブサイトに設置した行為が、不正指令電磁的記録に関する罪に当たるかが問題となりました。

以下では、判例のご紹介の前提としてマイニングの概要を解説します。

コインハイブ事件におけるウェブサイト閲覧者のPCを利用したマイニングの仕組みを示す図
コインハイブ事件では、ウェブサイトに組み込まれたプログラムにより、閲覧者のPCのCPUを利用してマイニングが行われました。

(2) マイニングとは

ア マイニング

  • 「マイニング(mining)」とは、暗号資産の取引を承認・記録するための計算処理にコンピュータの計算能力を提供し、その対価として暗号資産などを受け取る仕組みをいいます。
  • 暗号資産の中には、中央銀行や金融機関のような特定の管理者を置かず、ネットワークに参加する多数のコンピュータによって取引の正当性を確認し、記録を維持する仕組みを採用しているものがあります。
  • このような暗号資産では、一定の計算処理を行うことによって取引記録の検証等に貢献した者に、報酬として暗号資産が与えられる仕組みが採用されている場合があります。この計算処理が、一般に「マイニング」と呼ばれています。
  • マイニングには相当な計算能力が必要となるため、コンピュータのCPUなどに大きな負荷をかけることがあります。そのため、マイニングを行うコンピュータでは、電力消費量が増加したり、処理速度が低下したりすることがあります。

イ ブラウザ上で行うマイニング

  • マイニングは、専用のコンピュータやソフトウェアを用いて行うだけでなく、ウェブサイトを閲覧している利用者のコンピュータの計算能力を利用して行う方法もあります。
  • 例えば、ウェブサイトに一定のプログラムを組み込み、そのサイトを閲覧した利用者のコンピュータのCPUを利用してマイニングの計算処理を行わせる方法があります。
  • この方法では、利用者が専用のソフトウェアをインストールしなくても、ウェブサイトを閲覧するだけで、閲覧者のコンピュータ上で一定の計算処理が実行されることがあります。
  • サイト運営者側からすれば、広告を掲載する代わりに、サイト閲覧者のコンピュータの計算能力を利用して暗号資産を得るという収益モデルを構築することも可能です。
  • もっとも、利用者の知らないところでCPU等を利用すると、コンピュータの処理速度が低下したり、電力消費が増加したりする可能性があります。そのため、利用者にそのような計算処理が行われることを説明し、同意を得ているかどうかが問題となる場合があります。

ウ コインハイブ事件とマイニング

  • このようなブラウザ上でのマイニングをめぐって問題となったのが、いわゆる「コインハイブ事件」です。
  • この事件では、ウェブサイトを閲覧した利用者のコンピュータを利用して、暗号資産のマイニングを行うプログラムが問題となりました。
  • 重要なのは、マイニングそのものが違法であるかどうかではありません。

(3) コインハイブ事件より前の適用例|仙台地裁(平成30年7月2日判決)

コインハイブ事件より前にマイニングが問題となったものとして、以下のような先例がありました。

ア 事案の概要

使用者に気付かれずに仮想通貨のマイニング(演算作業)を行うプログラムを実行する機能を有するプログラムを作成し、インターネット上にアップロードして多用途のプログラムを装って不特定多数の者にダウンロード・実行させた事案です。

本事案では公訴事実は争われていませんでした。

イ 裁判所の量刑判断(犯情)

  • (ア)犯行態様

裁判所は、「他人のパーソナルコンピュータの処理能力を利用して仮想通貨を得ようという利欲的な動機」に基づき、被告人の有するプログラミングの知識・技術を悪用した巧妙な犯行であるとしました。

  • (イ)社会的影響

現にプログラムをダウンロードした者がおり、仮想通貨上の約5000円程度の報酬を得たことを踏まえ、「電子計算機のプログラムに対する信頼を毀損する害悪の根源を作り出し、社会に拡散させた犯情は相応に重い」としました。

5 コインハイブ事件の紹介|一審・控訴審から最高裁

(1) 事案の技術的・事実的背景

ア コインハイブの仕組み

コインハイブは、ウェブサイト運営者が自分のサイトにコード(スクリプト)を埋め込むことで、サイト訪問者のPCのCPUを利用して仮想通貨のマイニングを行わせることができるWebサービスでした。
マイニングによる報酬の一定割合をサイト運営者に分配する仕組みとなっていました。

イ 問題となった行為

被告人とされた方は、自身のサイト収入源としてコインハイブを導入し、閲覧者の同意を得る仕様や説明を設けることなく、約1ヶ月間設置・保管しました。この間、約1200円〜1300円程度の利益を得ていました。

(2) 第一審(横浜地裁平成31年3月27日判決)|無罪

ア 反意図性の肯定

一審は、「マイニングに関する説明はなく、閲覧中にマイニングが行われることについて同意を得る仕様にもなっていなかったこと、ウェブサイトの収益方法として閲覧者の電子計算機にマイニングを行わせるという仕組みは一般の使用者に認知されておらず、マイニングによる電子計算機への負荷の程度に照らして一般の使用者がその実行に気付くことはないといえる」ことから、反意図性を認めました。

イ 不正性の否定と「有用性」の評価

  •  (ア)収益モデルとしての評価
    • 一審は、本プログラムが「本件プログラムコードの実行により運営者が得る利益は、 ウェブサイトの質の維持向上のための資金源になり得るから、閲覧者にとって利益となる面があること」という運営者側の利益を認め、それが閲覧者にとっても利益となる面がある点を考慮しました。
  • (イ)影響の軽微性
    • 「本件プログラムコードの実行により生ずる閲覧者の電子計算機の処理速度の低下等は、広告表示プログラム等の場合と大差ない上、…(サイトの)閲覧中に限定されること」と判示し、閲覧者のPCに与える負荷が広告表示プログラム等と大差ないとして、「社会的に許容される」ものと評価し、不正性を否定して無罪としました。

(3) 控訴審(東京高裁令和2年2月7日判決)|逆転有罪

ア 「反意図性」の厳しい解釈

  •  (ア)「許容されない」規範的評価
    • 高裁は、以下の点を指摘して、一審の判断を指示しました。
      • 「本件プログラムコードは、サイト閲覧者の電子計算機にマイニングを行わせるという機能を有するものであり、閲覧することによりマイニングが行われることの表示は予定されておらず、マイニングにより生じた報酬を閲覧者が得ることは予定されていない。」
      • 「一般に、閲覧者は、閲覧に必要なプログラムを実行することは承認していると考えられるが、本件プログラムコードによるマイニングは閲覧に必要ではない。」
      • 「その上、本件プログラムコードによるマイニングは閲覧者の電子計算機に一定の負荷を与えるものであるのに、閲覧者には利益がもたらされないし、閲覧者にマイニングによって電子計算機が使用されていることを知る機会やマイニングを拒絶する機会も保障されていない。」
    • (イ)閲覧に不要な動作
      • マイニングは「ウェブサイトの閲覧に必要ではない」動作であり、閲覧者に利益をもたらさず、拒絶の機会も保障されていない点を重視しました。

イ 「不正性」の肯定と広告プログラムとの差異

  • (ア)信頼保護の重視
    • 高裁は、「本件プログラムコードは、閲覧者に利益を生じさせない一方で一定の不利益を与えるものである上、不利益に関する表示等もされないから、プログラムに対する信頼保護という観点から社会的に許容すべき点はない。また、サイト閲覧中に、閲覧者の電子計算機を、閲覧者以外の利益のために無断で使用するものであり、電子計算機による適正な情報処理の観点からも、社会的に許容されるということはできない。」としました。
  •  (イ)一審の判断について
    • 一審の判断については、「➀閲覧者の利益にもなると指摘した点について、そのような利益は、意に反するプログラムの実行を使用者が気付かないような方法で受忍させた上で実現されるべきものではないし、②処理速度の低下等について、広告表示プログラムは閲覧に付随して実行され実行結果も表示されるものが一般的であり、その点で本件プログラムコードとは大きな相違があるから比較検討になじまない上、本件は、意図に反し電子計算機が使用されるプログラムであることが主な問題であるから、処理速度の低下等が使用者の気付かない程度であったとしても不正性を左右しない。」としました。

(4) 最高裁(第一小法廷令和4年1月20日判決)|破棄自判・無罪確定

ア 判示された「反意図性」の判断|肯定

  • 枠組み
    • 「反意図性は、当該プログラムについて一般の使用者が認識すべき動作と実際の動作が異なる場合に肯定されるものと解するのが相当であり、一般の使用者が認識すべき動作の認定に当たっては、当該プログラムの動作の内容に加え、プログラムに付された名称、動作に関する説明の内容、想定される当該プログラムの利用方法等を考慮する必要がある。」
  • 当てはめ
    • 当該サイトが「閲覧中にマイニングが行われることについて同意を得る仕様になっておらず、マイニングに関する説明やマイニングが行われていることの表示もなかったこと、ウェブサイトの収益方法として閲覧者の電子計算機にマイニングを行わせるという仕組みは一般の使用者に認知されていなかったことといった事情」を指摘し、反意図性については肯定しました。

イ 判示された「不正性」の判断|否定(無罪の決め手)

  • 枠組み
    • 「不正性は、電子計算機による情報処理に対する社会一般の信頼を保護し、電子計算機の社会的機能を保護するという観点から、社会的に許容し得ないプログラムについて肯定されるものと解するのが相当であり、その判断に当たっては、当該プログラムの動作の内容に加え、その動作が電子計算機の機能や電子計算機による情報処理に与える影響の有無・程度、当該プログラムの利用方法等を考慮する必要がある。」
  • あてはめ
    • 最高裁は、以下の多角的な視点から、本プログラムが「社会的に許容し得ない」ものではないと結論づけました。
      • 保護法益に照らして重要な事情である電子計算機の機能や電子計算機による情報処理に与える影響は、サイト閲覧中に閲覧者の電子計算機の中央処理装置を一定程度使用することにとどまり、その使用の程度も、閲覧者の電子計算機の消費電力が若干増加したり中央処理装置の処理速度が遅くなったりするが、閲覧者がその変化に気付くほどのものではなかったと認められる。
      • また、ウェブサイトの運営者が閲覧を通じて利益を得る仕組みは、ウェブサイトによる情報の流通にとって重要であるところ、被告人は、本件プログラムコードをそのような収益の仕組みとして利用したものである上、本件プログラムコードは、そのような仕組みとして社会的に受容されている広告表示プログラムと比較しても、閲覧者の電子計算機の機能や電子計算機による情報処理に与える影響において有意な差異は認められず、事前の同意を得ることなく実行され、閲覧中に閲覧者の電子計算機を一定程度使用するという利用方法等も同様であって、これらの点は社会的に許容し得る範囲内といえるものである。
      • さらに、本件プログラムコードの動作の内容であるマイニング自体は、仮想通貨の信頼性を確保するための仕組みであり、社会的に許容し得ないものとはいい難い。

ウ 判決の意義

  • 最高裁は、単に「意図に反する」というだけで処罰することを避け、「社会的許容性(不正性)」という観点から、技術の有用性や実害の程度を冷静に評価して処罰範囲を限定すべきであることを示したといえます。
  • プログラムなどの開発活動が委縮するという懸念に対しても一石を投じたともいえます。

6 刑事弁護の視点

(1) プログラムや仕組みに対する理解

反意図性や不正性は、「一般の使用者が認識すべき動作」や「社会的許容性」という高度に規範的な判断を伴います。

まず、プログラムのコード内容、リソース消費量、データの機密性・完全性への影響などを正確に理解することが重要です。

コインハイブ事件の最高裁判決が示したように、既存の適法な技術(広告、解析ツール、セキュリティパッチ等)との共通点や、その技術がもたらす社会的な有用性を、当時の社会通念に照らして丁寧に主張することが不可欠です。

(2) 早期弁護活動の重要性

本罪は極めて専門性が高く、捜査機関が新しい技術を「未知のウイルス」などとして過剰に評価し、不当な逮捕・起訴に踏み切るリスクもあり得ます。

エンジニアやクリエイターの正当な開発活動が、曖昧な法適用によって萎縮(チリング・エフェクト)することは、社会全体の損失です。

捜査機関が開発活動等に精通しているかは一概には言えず、早期に相談し、対応することが重要と言えます。

7 まとめ

不正指令電磁的記録に関する罪では、プログラムが使用者の意図に反する動作をするかという「反意図性」だけでなく、そのプログラムが社会的に許容し得ないものといえるかという「不正性」が重要な意味を持ちます。

コインハイブ事件において最高裁判所は、反意図性について、一般の使用者が認識すべき動作と実際の動作との違いを、プログラムの動作内容、名称、説明、想定される利用方法等から判断するという枠組みを示しました

また、不正性については、電子計算機による情報処理に対する社会一般の信頼や電子計算機の社会的機能を保護するという観点から、プログラムの動作内容、電子計算機の機能や情報処理への影響、その利用方法等を考慮して、社会的に許容し得ないものかを判断するとしました。

そして、コインハイブ事件では、マイニングによるCPU等への影響の程度、ウェブサイトの収益手段としての利用、広告表示プログラムとの比較、マイニング自体の社会的意義などを踏まえ、不正性を否定して無罪を言い渡しました。

この判決からも分かるように、不正指令電磁的記録に関する罪では、単に「利用者が知らなかった」「コンピュータに負荷をかけた」といった事情だけで結論が決まるわけではありません。

問題となっているプログラムが実際にどのように動作するのか、利用者にどのような影響を与えるのか、どのような目的・方法で利用されたのか、当時の技術や社会状況においてどのように受け止められていたのかなどを、具体的に検討する必要があります。

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9 用語解説など