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保釈の流れと手続を解説|保釈の要件・判断基準・保証金の相場まで

刑事事件で勾留された方にとって、「いつ保釈されるのか」「どうすれば保釈されるのか」は切実な問題です

保釈は、保証金を納付することにより一時的に身体拘束を解く制度であり、裁判準備や社会復帰のための重要な手段です。

本記事では、刑事弁護の立場から、保釈の基本的な流れ、必要的・裁量保釈の違い、判断のポイントや保証金額の決定基準を、条文と実務運用に即して分かりやすく解説します。

※ 本記事は、一般的な考え方や運用等をご紹介するもので、全てに賛同するわけではありません。

※ また、公開日の情報を基に作成していますが、令和5年改正刑事訴訟法については割愛しています。

1 保釈とは

保釈とは、勾留されている被告人からの請求に基づき、一定の保証金(保釈保証金)を納付させることを条件として、勾留の執行を一時的に停止し、被告人とされる人の身体拘束を解く裁判およびその執行を指します(刑事訴訟法第88条、第93条)。

※ 被疑者段階では保釈の制度はありませんので注意が必要です。

(1) 保釈の目的と性質

  • 保釈制度の根幹にあるのは、保証金の没取という経済的な威嚇を用いることで、被告人に「逃亡すれば保証金を失う」という心理的・経済的圧力をかけ、公判期日への確実な出頭や逃亡・罪証隠滅の防止という勾留本来の目的を、身体拘束を伴わずに達成することにあるとされています。
  • 保釈が許可されても、勾留の効力自体が消滅するわけではなく、勾留の執行が停止されるという性質を持っています。
    • 実刑判決が言い渡された場合、保釈の効力が失効し、直ちに身体拘束されるので、注意が必要です(刑訴法343条)。

(2) 勾留の執行停止との違い

  • 保釈と似た制度に勾留の執行停止(刑訴法第95条)があります。
    • これは保証金の納付を必須の要件とはせず、親族の病気の看護、重要な業務の処理、その他適当と認めるときに、裁判所が職権で勾留の執行を停止するものです。
    • 保釈は、原則として保証金が必須であり、この点が異なります。

2 保釈の要件

保釈は、要件の性質から「必要的保釈(権利保釈)」(刑訴法第89条)と「裁量保釈」(刑訴法第90条)の二つに分けられます。

要件の詳細な解説は別記事でご紹介します。

(1) 必要的保釈(権利保釈)(刑事訴訟法第89条)

  • 保釈請求があった場合、刑事訴訟法第89条に定める除外事由(不許可事由)のいずれにも該当しない限り、裁判所は保釈を許さなければなりません(裁量なし)。
    • このため「権利保釈」と呼ばれています。
    • 裏を返せば、以下のいずれか一つでも該当すれば、必要的保釈は認められません。
  • 残念ながら、現実的には、権利保釈除外事由がないとして、保釈されるケースはほとんどないと言われています。
条文 除外事由(刑訴法第89条)
第1号 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したもの。
第2号 被告人が前に禁錮以上の刑に処せられたことがあり、その執行を終わり、又は執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に当たる罪を犯したもの。
第3号 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したもの。
第4号 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
第5号 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
第6号 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族の身体若しくは財産に害を加え、又はこれらの者を畏怖させるに足りる相当な理由があるとき。
  • 「常習性」(第3号)は、法定刑が長期3年以上の懲役または禁錮に当たる罪を反復する習癖が認められ、保証金の担保では逃亡を防止できないほど逃亡のおそれが高い場合を類型化したものとされています。
  • 特に実務で問題となるのが「罪証隠滅のおそれ」(第4号)です。
    • 単に罪証隠滅の可能性がわずかにあるだけでは足りず、その程度は慎重に吟味されなければなりません。
  • 保釈保証金の没取という威嚇により担保できる程度の「罪証隠滅のおそれ」であれば、この除外事由には該当しないと考えられています。

(2) 裁量保釈(刑事訴訟法第90条)

必要的保釈の除外事由(刑訴法第89条各号)のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、以下の事情を考慮し、適当と認めるときは職権で保釈を許すことができます。これが「裁量保釈」です。

刑事訴訟法第90条
裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。

  • 裁量保釈の判断では、まず、逃亡や罪証隠滅のおそれの程度を考慮し、その上で、後者の事情について、具体的に考慮するという過程になるとされています。
  • 被告人の防御の準備上の不利益も考慮要素となります。
    • 特に、公判前整理手続や裁判員制度のもとでは、複雑な事案において被告人と弁護人が緊密に打ち合わせを行う必要があり、この意思疎通の必要性は極めて重要な視点とされています。
    • さらに、公判前整理手続が進展し、審理の争点や証拠が整理されると、罪証隠滅のおそれが縮減されると評価され、保釈が認められやすくなる傾向があります。
  • なお、裁判所は裁量保釈の判断資料として、勾留状に記載されていない余罪(非勾留事実)も考慮することができるとされています(最三小決昭44.7.14 刑集23巻8号1057頁)。

3 保釈の手続

(1) 請求権者と請求

  • 保釈の請求権者は、被告人、弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹です(刑訴法第88条)。
  • 請求は、原則として保釈請求書という書面によって行われます(刑訴規則296条)。

(2) 保釈の判断権者

保釈の許否を判断する権限を持つ者は、公訴提起後の公判手続きの進行状況によって異なります。

期間 担当者/裁判所 根拠法規/詳細な説明
第1回公判期日まで 裁判官 勾留に関する処分を行います。これは刑訴法第280条第1項および刑訴規則第187条第1項に基づきます。
ここでいう裁判官は、実際に審理を担当する受訴裁判所を構成する裁判官以外の裁判官のイメージです。
第1回公判期日後 事件の審理を行う受訴裁判所(裁判体) 事件の審理を行う受訴裁判所が担当します。
ここでいう「第1回公判期日まで」とは、単に期日が開かれただけでなく、冒頭手続(起訴状朗読と被告人・弁護人の陳述)が終了するまでと解されています。
第1審判決後 第1審判決後(控訴前) 第1審の
(受訴)裁判所
判決の言渡し後、控訴提起前の期間における勾留に関する処分は、第一審の裁判所が担当します(刑事訴訟法97条)。
控訴提起後(控訴審裁判所に記録が届く前) 第1審の
(受訴)裁判所
控訴が提起された後であっても、訴訟記録が控訴審裁判所に到達するまでは、第1審の裁判所が担当します(刑事訴訟規則92条2項)。
控訴審裁判所に記録が到達した後 控訴審の裁判所 控訴審裁判所に訴訟記録が到達した時点以降、勾留に関する処分は控訴審の裁判所が担当します。

(3) 検察官の意見聴取

  • 保釈請求があった場合、裁判所または裁判官は、必ず検察官の意見を聴かなければなりません(刑事訴訟法第92条第1項)。
  • 検察官は、保釈の許否に関する意見を述べる際、単に「不相当」といった結論だけでなく、刑訴法第89条各号に該当する可能性や保釈を適当としない具体的な事実を明らかにする必要があります。

(4) 保釈保証金の決定

保釈を許可する際には、保釈保証金の額が定められ(刑訴法第93条第1項)、その他適当な条件が付されます。

ア 保釈保証金の決定

  • 保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力、被告人の性格及び資産を考慮し、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならないとされています(刑訴法第93条第2項)。
  • 将来の量刑予測が重いほど、逃亡の蓋然性が高いとみなされ、高額になる傾向があります。
    • 罪種、罪質、法定刑のほか、以下の事情が考慮されるとされています。
      • 犯行の動機、態様、手段、計画性、組織性。
      • 犯行(被害)の結果。
      • 被害者の宥恕の有無。
      • 被害弁償の有無。
      • 被告人の前科前歴。
      • 犯行の社会的影響。
      • 被告人が逃亡した場合の社会的影響。
    • 証拠の証明力
      • 証拠の証明力は、有罪判決となる可能性の程度を予測し、それを踏まえて被告人の逃亡の蓋然性の程度を測る要素とされています。
    • 被告人の性格及び資産
      • 資産
        • 保証金の没取が被告人の出頭確保に効果を発揮するためには、被告人にとって経済的な痛手となる金額でなければならないと考えられていることによるものとされています。
        • そのため、保証金の額は、被告人の資産(財産、経済状況)と密接に関連するとされています。
      • 性格
        • 被告人に粗暴性や犯罪の常習性があるかどうかも考慮されます。
        • 性格によって、威嚇の効力が異なると考えられているとされています。
  • 保証金の額は、没取の威嚇が逃亡・罪証隠滅防止に効果を持つかを判断する上で、被告人とされたひとの資産が直接的に影響するとされています。

イ 統計や裁判官の論考|通常事件は200万円が相場か?

  • 少し古い資料ですが、平成 10 年度の司法統計では、保釈許可決定があり、保証金の納付により現実に釈放された7065名の内、保誕金額が100万円以上300万円未満の者が約82パーセントの5777名とされています。
  • 2012年頃の論考ですが、ごく普通の単独事件について、150万円から200万円くらいが最近の相場ではないかという指摘もあります1
    • ごく普通の単独事件を前提とした一例であり、あくまでも事案ごとなので注意が必要です。

ウ 高額になる事件

相当高額な租税事件、被害金額が相当高額な詐欺・横領事件などは、実刑になる可能性が高く、被告人とされた方の資力も相当あるため、1000万円以上、極端なケースでは億単位になることもあるようです。

エ 保釈保証金が決まるタイミング|裁判官面接

  • 保釈請求にあたっては、通常、裁判官と面接をします(電話を利用することもあります)。
  • この面接時に、保釈の許可が見込まれれば、こちらの資力や準備できる金額を説明し、保釈保証金が事実上決められることになります。

(5) 保釈の条件

裁判所は、逃亡や罪証隠滅を防ぎ、公判審理の円滑な遂行を確保するため、住居の制限その他適当と認める条件を付すことができます(刑訴法第93条第3項)。

以下は、典型的な例です。

  • 制限住居
    • 被告人の所在を常に明らかにするための条件です。
  • 旅行制限
    • 海外旅行や一定の日数以上の旅行をする場合に、事前に裁判所の許可を必要とします。
  • 接触禁止
    • 被害者や証人、共犯者など、事件関係者との面会や通信、電話等による一切の接触を禁止することが定められる場合があります。

(6) 保釈の裁判で示される理由

裁判所が行う保釈に関する決定は、原則として理由を付さなければなりません(刑訴法第44条)。

  • 保釈許可決定
    • 実務上は、許可の理由については簡略化された「基本書式」が用いられることが多くなっています。
    • これは上級審での審査は一件記録に基づいて職権で行われるため、結論に影響がないことなどが理由とされます。
  • 保釈却下決定
    • 保釈請求を却下する際には、却下理由の骨子(刑訴法第89条のどの号に該当するか、裁量保釈を認めない理由など)を明示することが、不服申立ての便宜のために求められます。
    • 裁量保釈の判断が否定された場合、裁判所は、却下する具体的な理由を付さなければなりません。
  • もっとも、残念ながら、現在の保釈の裁判における理由付けは、非常に簡潔で何も言っていないに等しい内容です。
    • 身体拘束を解かない理由を正当化できるのか、納得できるものとなるのかは疑問です。
    • 詳細な理由が付されるケースもありますが、少数です。

4 保釈の裁判に対する不服申立

保釈に関する裁判に不服がある場合、不服申立の手続きが定められています。

(1) 保釈請求却下への不服申立

保釈請求が却下された場合、被告人側は以下の手続きで不服を申し立てることができます。

  • 第1回公判期日まで
    • 準抗告(刑事訴訟法第429条第1項第2号)。
  • 第1回公判期日後
    • 抗告(刑事訴訟法第420条第2項)。
  • 第1審判決後
    • 控訴申立て前・控訴後控訴審に記録到達まで
      • 保釈の判断が第1審裁判所
      • 抗告(刑事訴訟法第420条第2項)
    • 控訴審裁判所に記録到達後
      • 保釈の判断をしたのが、控訴審裁判所
      • 異議申立(刑事訴訟法第428条2項)

(2) 保釈許可決定への不服申立(検察官による)

  • 検察官は、保釈許可決定が不当である(例:保証金額が過小、条件が不十分など)として、同様に準抗告・抗告・異議申立を申し立てることができます。
    • 検察官が不服申立をした場合、保釈の裁判について執行停止がなされるのが通常なので、不服申立の判断が出るまでは、釈放されないことに注意が必要です。
      • 保釈そのものに対する不服申立が認められた場合、釈放されないことになります。
      • 釈放時間が深夜になる可能性があることにも留意が必要です。

(3) 再度の保釈請求

  • 保釈請求について却下決定が確定した後でも、勾留の理由や保釈の相当性に関する「事情の変更」があった場合は、再度の保釈請求が可能です。
    • 特に、罪証隠滅のおそれ(刑訴法第89条第4号)や裁量保釈の相当性(刑訴法第90条)の判断に影響を与える新たな事情(例えば、公判の進行による証拠調べの完了や身元引受人の確保、病状の悪化など)が生じた場合、弁護人を通じて速やかに再請求を検討すべきです。
  • 何度でもあきらめないことが重要です。

5 保釈の取消と保証金の没取

  • 保釈された被告人が、以下の事由に該当する場合、裁判所は保釈を取り消すことができます(刑訴法第96条第1項)。
    • 召喚を受け、正当な理由がなく出頭しないとき。
    • 逃亡し、又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
    • 罪証を隠滅し、又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
    • 被害者等に害を加えたり、畏怖させたりする相当な理由があるとき。
    • 制限住居その他の条件に違反したとき。
  • 保釈が取り消された場合、裁判所は保釈保証金の全部又は一部を没取することができます(刑訴法第96条第2項)。
    • 没取された保証金は国庫に帰属します。

6 まとめ

保釈は、被告人とされた人の権利保護と公判の円滑な遂行を両立させるための重要な制度です。

保釈を成功させるためには、必要的保釈の除外事由に該当しないことを主張するか、除外事由があっても裁量保釈を認めてもらうための緻密な弁護活動と立証が不可欠です。

保釈保証金の額や条件設定も含め、専門的な知見と経験に基づいた戦略的な活動が求められます。

保釈についてお困りの際は、刑事弁護の専門家にご相談ください。

7 その他の記事など

8 用語解説など

  1. 若園敦雄「保釈保証金額決定の基準」『別冊判例タイムズⅡ』判例タイムズ社、2012年、pp.26-27