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準抗告とは?勾留・保釈却下・接見制限等に不服を申立てる手続を解説

刑事裁判手続においては、捜査段階や公判準備段階で、裁判官による勾留(身体拘束)や保釈の判断、さらには捜査機関による押収、接見(弁護人との面会)の制限など、被疑者・被告人とされた人の権利に重大な影響を及ぼす「裁判」や「処分」が下されます。

これらの裁判や処分が不当であるとき、迅速かつ簡易な手続きによってその取消し又は変更を求める制度が「準抗告」です。

準抗告は、刑事訴訟法第429条(裁判官の裁判に対する不服申立て)と第430条(捜査機関の処分に対する不服申立て)の二つの制度の総称であり、弁護活動の生命線とも言える重要な手段です。

※ 本記事は公開時点の情報を基にしています。
※ 一般的な実務上の運用などをご紹介するもので、全てに賛同しているわけではありません。

1 準抗告の対象となる二つの裁判と処分

(1) 刑訴法429条|裁判官の「裁判」に対する準抗告

刑事訴訟法第429条は、一人の裁判官(受訴裁判所1に事件が係属していない場合の裁判官による判断や、受訴裁判所の受命裁判官や受託裁判官などが含まれます。)がした特定の裁判に対する不服申立てです。

裁判には、判決・決定・命令の3種類がありますが、これらの裁判官の判断は決定にはならず、抗告の対象にはなりませんが、不利益をもたらす性質上、不服申し立てを認めることとしたのが、準抗告となります。

その裁判官が所属する裁判所の合議体に求める手続きです。

第429条
1 裁判官が次に掲げる裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消し又は変更を請求することができる。
➀忌避の申立てを却下する裁判
②勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判
③鑑定のため留置を命ずる裁判
④証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
⑤身体の検査を受ける者に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
2 第420条第3項の規定は、前項の請求についてこれを準用する。
3 第207条の2第2項(第224条第3項において読み替えて準用する場合を含む。)の規定による措置に関する裁判に対しては、当該措置に係る者が第201条の2第1項第1号又は第2号に掲げる者に該当しないことを理由として第1項の請求をすることができない。
4 第1項の請求を受けた地方裁判所又は家庭裁判所は、合議体で決定をしなければならない。
5 第1項第4号又は第5号の裁判の取消又は変更の請求は、その裁判のあった日から3日以内にしなければならない。
6 前項の請求期間内及びその請求があったときは、裁判の執行は、停止される。

・準抗告の対象となる主な裁判(刑訴法429条1項)

1.忌避の申立てを却下する裁判
2. 勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判。
  • 勾留決定、勾留延長決定、保釈請求却下決定、保釈許可決定、押収物の還付に関する裁判、移送の同意に関する裁判などが該当します。
    • 勾留理由開示の決定も準抗告の対象とされています(最決昭46・6・14)。
    • 証拠保全のための押収請求を却下する裁判についても、判例上準抗告が認められています(最二小決昭55・11・18 刑集34巻6号421頁)。
    • 勾留の執行停止は、職権発動を促すことなので、通常は、準抗告の対象とならないとされています。
    • 勾留場所に関する裁判についても可能とされています。
  • 逮捕に関する裁判は含まれないと考えられています(最決昭和57年8月27日)。もっとも、逮捕手続の違法は、重大な場合には引き続く勾留に対する準抗告で不服申立の理由とできるとされています。
  • 押収とは、事実取調べ(刑訴法43条)などのために、裁判官自らが行った押収が対象となります。
    • 捜査機関が行った押収は、刑訴法430条の準抗告になります。
3. 鑑定のため留置を命ずる裁判
  • 420条や429条1項2号と異なり、「鑑定のための留置に関する裁判」とされていません。
  • 鑑定留置請求を却下する裁判などが含まれるか議論がありますが、勾留に関する裁判と同様と考えられています。
4. 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
  • これに相当する、受訴裁判所の決定に対する不服申し立てが、即時抗告とされ期間は3日とされていることから、申立期間は3日間とされ、執行停止もされることになっています。
5. 身体の検査を受ける者に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判。

・準抗告の範囲

  • 429条1項1号から5号は限定列挙と考えられており、これ以外の裁判については認めれていないと考えられています。
  • 申立権者は、不服がある者とされています。
    • 被告人の立場にある人の親族が申立てた保釈の却下の裁判に対し、不服申し立てを認めた例もあります(最決平成17年3月25日)。

・保釈の裁判に対する不服申立て

  • 保釈の裁判に対する不服申立は、第1回公判期日前2は、予断排除要請の関係から、実際に公判審理を行う受訴裁判所以外の裁判官が判断することになっていますから、準抗告となります。
  • 第1回公判期日より後は、受訴裁判所が判断しますので、不服申し立ては、抗告となります。

(2) 刑訴法430条|捜査機関の「処分」に対する不服申立て

刑訴法第430条は、検察官、検察事務官、司法警察職員といった捜査機関が刑事手続上行った処分に対する不服申立てです。

これは本来、行政処分として解決されるべき性質を持ちながら、刑事手続き上の処分であることに鑑み、迅速な解決を図るために刑訴法上に設けられた制度といえます。

本来は行政処分であることから、430条3項で、行政事件訴訟法の適用除外であることが定められています。

第430条
1 検察官又は検察事務官のした第39条第3項の処分又は押収若しくは押収物の還付に関する処分に不服がある者は、その検察官又は検察事務官が所属する検察庁の対応する裁判所にその処分の取消又は変更を請求することができる。
2 司法警察職員のした前項の処分に不服がある者は、司法警察職員の職務執行地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所にその処分の取消又は変更を請求することができる。
3 前二項の請求については、行政事件訴訟に関する法令の規定は、これを適用しない。

・主な対象となる処分(刑訴法430条)

1. 接見等に関する処分|弁護人等と被疑者との接見の日時、場所等の指定や、接見を拒否する処分
  • 接見の拒否処分は、明示的になされた場合に限らず、接見ができない状態を作出した場合も含まれると解されています(最決昭41・7・26 20巻6号728頁)。
  • 接見の制限は被疑者・被告人の防御権の確保に直結するため、弁護活動において、この430条に基づく不服申立ては非常に重要です。
2. 押収物及び押収物の還付に関する処分。
  • 裁判所は押収の必要性についても審査できるとされています(最決昭和44年3月18日)。
  • 押収されたが、捜査に必要がないと考えられる物を取り戻す際に、活用することが考えられます。
    • 事件と関係がないが押収されてしまった携帯電話機などは典型例です。
    • ただし、残念ながら、裁判所は容易に認めません。
  • 写真撮影は、押収に関する処分に当たらないとされています(最決平成2年6月27日)。
  • 押収物の還付に関する処分には、押収物の還付等の拒否も該当します。

2 準抗告の手続とポイント

(1) 申立先と審理体

準抗告の請求は、原則として原裁判官が所属する裁判所(管轄裁判所)の合議体によって審理・決定されます。

地方裁判所または家庭裁判所(一部の場合)の合議体によって決定されなければなりません。

(2) 申立ての方式と期間

・書面の直接提出

準抗告の申立ては、請求書を管轄裁判所に直接提出しなければなりません。

FAXや電話では不可とされています。

・書面による請求

請求は書面によって行わなければなりません。

請求書には申立人の署名押印が必要です。

・期間制限

  • 原則として、準抗告には期間の制限はありません
    • ただし、証人等に対する過料・費用賠償の裁判(429条1項4号及び5号)の取消し・変更の請求については、裁判があった日から3日以内に請求しなければなりません。この3日の期間内に請求があった場合、その裁判の執行は停止されます。
    • 起訴前勾留中に、起訴された場合に、起訴前勾留に対する準抗告をする場合など、申立ての利益を欠くと判断される場合はあります。

(3) 準抗告の目的と効果|取消・変更と自判か差戻か

  • 準抗告の目的は、原裁判の取消しまたは変更を求めることです。
    • 取消し: 裁判がその存在しない状態になること。
    • 変更: 裁判の効力は維持しつつ、その内容を変更すること(例:保釈保証金額の変更など)。
  • 自判か差戻か
    • 刑訴法432条により、426条が準用されるので、条文上は差戻が可能です。
    • 準抗告は、裁判所の決定に対する判断ではなく、裁判官の裁判に対する判断に関するものなので、差し戻す裁判所がないという、理論的な問題があります。
    • 受訴裁判の裁判と異なり、裁量判断を尊重する理由も乏しいという見方もあるようです。
      • たとえば、保釈の判断は、保釈は、最終的な有罪・無罪、量刑判断などの見通しを踏まえた判断になり、実際に審理を行って心証形成を行う受訴裁判所の裁量は広いものと考えられます。
      • 他方、予断排除の関係から受訴裁判所に代わり判断をするに過ぎない裁判官の裁量は受訴裁判所より狭いのではないかという議論もされています。
        • 第1回前の保釈の裁判については、準抗告になりますが、準抗告では、刑訴法432条は423条を準用しておらず、準抗告審が、原裁判をした裁判官の判断を知るのにも限界があるという問題もあります。
    • 以上から、原裁判を取消す場合でも、自判が原則という考え方が有力です。

(4) 準抗告に対する不服申立て|特別抗告

・条文構造|再抗告の不許

準抗告に対する裁判については、432条により広告の規定が準用される結果、刑訴法427条が準用され、抗告をすることが禁止されます。

これにより、「不服申し立てができない決定」に該当することから、特別抗告が可能とされています。

・特別抗告とは

特別抗告は憲法違反・判例違反を理由にすることができます。

刑事訴訟法405条は上告理由の規定ですが、同433条により特別抗告の理由になります。

第433条(特別抗告)
1 この法律により不服を申し立てることができない決定又は命令に対しては、第405条に規定する事由があることを理由とする場合に限り、最高裁判所に特に抗告をすることができる。
2 前項の抗告の提起期間は、5日とする。

第405条(上告のできる判決、上告申立理由)
高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。
1 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
2 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
3 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。

ただし、判例違反や憲法違反以外であっても、上告理由の411条を準用し、職権破棄することが認められています(最高裁昭和26年4月13日決定・刑集5巻5号902頁)。

特別抗告が認められる事案の殆どはこの規定に基づくものとされています。

第411条
上告裁判所は、第405条各号に規定する事由がない場合であっても、左の事由があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
1 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
2 刑の量定が甚しく不当であること。
3 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。
4 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
5 判決があった後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があったこと。

・特別抗告が認められるハードル

一般的には、特別抗告のハードルは高いとされています。

保釈や接見禁止について、特別抗告が認められた事例はあります。

3 まとめ|迅速な防御権の確保は刑事弁護士の責務

準抗告制度は、裁判官や捜査機関による不当な判断に対し、迅速かつ実効的な救済を可能にするために不可欠です。

勾留の当否、保釈の条件、あるいは接見の可否といった問題は、刑事事件の帰趨を左右する防御活動の根幹に関わります

当事務所でも、依頼者の権利が不当に侵害されていると判断される場合、直ちに、かつ最も効果的な方法で準抗告等を申立て、身体の自由と防御権の確保に最善を尽くします。

不当な身柄拘束や処分でお悩みの際は、当事務所にご相談ください。

4 その他の記事

準抗告の個別の論点についてです。

5 用語解説など

  1. 受訴裁判所:ここでは実際の公判手続きの審理を行うことになった裁判所(事件を審理する機関としての裁判所。当然、裁判官で構成される。)の意味
  2. 第1回公判期日前:通常、公判期日の罪状認否で被告人とされた方が、公訴事実に対する意見を述べる前までと考えられています。