準抗告の実務論点を解説|勾留・保釈却下・接見制限等の不服申立
勾留や保釈、接見禁止などの裁判に対する不服申立てとして活用される準抗告。
本記事では、起訴前後の勾留に関する準抗告の利益、犯罪嫌疑を理由とする可否、複数事件にまたがる勾留、準抗告審の審査範囲、執行停止など、実務上重要となる個別論点を整理します。
実際の運用や裁判例にも触れ、より実務的な視点から解説します。
※ 本記事は公開時点の情報を基にしています。
※ 一般的な実務上の運用などをご紹介するもので、全てに賛同しているわけではありません。
1 勾留の裁判における論点
(1) 起訴前の勾留の裁判に対する起訴後の準抗告
- 捜査のために認められる起訴前勾留と、裁判のために認められる起訴後勾留とは性質が異なりますが、準抗告の利益はないとされています(最決昭和59年11月20日刑集38巻11号2984頁)。
- 特別抗告について、最決平成2年12月20日集刑256号497頁で、認められないとされています。
(2) 勾留に関する準抗告と「犯罪の嫌疑」の判断可否
勾留に関する裁判(刑訴法429条1項2号)に対する準抗告において、申立人が「犯罪の嫌疑がないこと」を理由とすることができるか否かは、古くから論点とされてきました。
- 条文の規定
- 刑訴法429条2項は、勾留に関する裁判への準抗告について、刑訴法420条3項(犯罪の嫌疑がないことを理由として抗告をすることはできない)を準用すると定めています。
- 起訴後の勾留
- 嫌疑の有無は、受訴裁判所が本案(公判)で審理されれるべき事項であり、起訴後の勾留においては、この準抗告手続で並行的に争うことは不適当とされます。
- 起訴前の勾留
- 文言上は起訴前にも準用される(不許容説/通説的見解)ものの、起訴前の勾留手続きの性質が、裁判の準備を目的とする起訴後勾留とは異なると考えられるため、例外的に嫌疑なしを理由とする準抗告を許容すべきとする見解も有力です。
- 実務上の救済
- 準抗告が不適法とされる立場(準用説)を採る場合であっても、準抗告裁判所が職権により犯罪の嫌疑の有無を調査し、不当な勾留を救済することは可能であるとする見解が有力であり、実務上の不公正はこれにより救済されるとされています。
- ただし、実務上、嫌疑なしを理由とする準抗告に
(3) 複数の被疑事実に係る勾留の裁判の個数
- 一つの勾留状で、被疑者国選弁護の対象事件と非対象事件の複数の被疑事実につき勾留された場合、国選弁護人が非対象事件部分についても勾留の不当性を準抗告で争えるかという問題があります。
- 裁判の効力を「事件ごと」に考える原則があるものの、勾留の裁判そのものは、被疑事実の単複にかかわらず、被疑者の身柄を10日間拘束するという「1個の不可分な裁判」であると解する考え方が相当であるとされます。
- この見解によれば、国選弁護人は、対象事件の弁護人として選任された資格に基づき、非対象事件の事実を含む勾留全体について準抗告を申し立てることが可能となります。
- ※ ただし、現在、被疑者国選対象事件は、勾留されているすべての事件が対象となっていますので、現実的にはこの論点は生じづらい状況になっているように思います。
2 準抗告審の構造と判断資料の範囲
準抗告審の構造を巡る議論は、実務上、原裁判後に生じた事情(新事情)や、原裁判時に存在したが提出されなかった資料(新資料)を審査の基礎に含めることができるかという問題に直結します。
(1) 基本構造|事後審的審査
準抗告審の構造については諸説ありますが、現在では、基本的に事後審的なもの、または「緩やかな事後審」として理解するのが通説的な立場です。
これは、原裁判の当否を原裁判時に存在した資料に基づいて審査する構造を指します。
(2) 新資料(原裁判当時存在した資料)の取り扱い
- 原裁判当時客観的に存在した資料で、原審で取調べの対象とならなかったもの(新資料)については、簡易迅速性の要請に反しない限り、原則として取り調べ・参照ができると一般的に理解されています。
- 勾留の裁判は、検察官から提供された資料を中心とする「一方当事者参加の手続」であるため、弁護人側が勾留要件の当否を吟味するための客観的事実に関する証拠を提出させ、それを審査する必要性が高いためです。
- たとえば、家族の身分証明書や既に作成されていた身元引受書などが何らかの理由で提出できなかった場合が考えられます。
(3) 新事情(原裁判後に生じた事情)の取り扱い
原裁判後に生じた新事情を考慮できるかについては見解が分かれますが、事案の流動性が高い刑事手続きの性質上、実務では柔軟な対応が求められます。
・ 実務上の通説的見解(限定的許容説)
- 原則として新事情の取り調べは許されないとされます。
- 例外的に、「原裁判時からわずかの期間(短時日)のうちに生じた原裁判の結論に影響を及ぼすような事実であって、しかも迅速に取り調べることが可能であり、当該準抗告手続の中で右事実を取り調べて一挙に解決することを適当と認める場合」には、職権により取り調べ・参照ができるとされます。
- 現に、保釈請求の却下の裁判を受けた後、被害者側の方から示談をお受けいただける可能性が高まり、その状況を報告する文書を新事情を疎明する資料として添付し、準抗告を申し立てた結果、準抗告が認容され保釈された経験があります。
・ 裁判例の紹介
- 保釈許可決定後の被告人の態度を考慮し取消した事例(神戸地決昭39.9.22 下刑6巻9・10号1096頁)
- 保釈許可決定後の被告人による被害者への脅迫等の態度を考慮し、罪証隠滅のおそれがあるとして原裁判を取り消しました。
- 訴因追加請求を考慮し保釈許可を取り消した事例(函館地決平13.3.24 判タ1068号245頁)
- 保釈許可決定と同日になされた訴因及び罰条の追加請求という新事情を踏まえ、罪証隠滅・逃亡のおそれを認めて原裁判を取り消しました。
- 自白の成立を考慮し勾留を取り消した事例(東京地決昭47.4.9 判タ276号102頁)
- 原決定後、被疑者が主要部分について自白した点を考慮し、原裁判を取り消しました。
3 保釈・勾留における準抗告の具体的な運用
(1) 保釈許可決定に対する準抗告の期間制限
保釈許可決定(刑訴法429条1項2号)に対して、被告人とされた人の側が保証金を納付して釈放された後も、保証金額や条件に不服があるとして準抗告を申し立てることは可能ですが、合理的な期間を過ぎた申立ては、法的安定性を害するため不適法となると考えられています。
- 東京地決昭51.12.2 刑月8巻11・12号532頁
- 釈放後3か月以上経過した指定条件の取消しを求める準抗告について、法律状態が安定しているとして、原裁判そのものを攻撃する不服申立てを許さないと判断しています。
- 東京地決平6.3.29 判タ867号302頁
- 保証金額に不服がある被告人が、一時的に保証金を納付して釈放された翌日に申し立てた準抗告を、不利益の強制を避ける観点から適法と判断しました。
(2) 接見等禁止の裁判に対する一部取消しの申立て
裁判官が発する接見等禁止決定(刑訴法429条1項2号の裁判に付随する)は、通常、特定の者を除外しない包括的な決定としてなされます。
これに対し、弁護人は被疑者の近親者など事件に関係のない特定の者について、部分的な取消し(一部解除)を予備的に申立てることが可能です。
- 準抗告審の判断
- 準抗告審は事後審的であり、原裁判当時の資料に基づき判断するのが原則です。
- 予備的申立てがあった場合、包括的な接見等禁止決定の当否を審査する過程で、この予備的申立ての内容(特定の親族との接見禁止の要否)を意識的に検討させることができます。
- 一部解除の職権発動手続との関係
- 予備的申立てを検討しないとする消極説もありますが、解除の職権発動を待つよりも、原裁判に近接した時期の予備的申立ては、準抗告審で判断することが可能であると考える見解が有力です。
(3) 勾留取消し・保釈許可裁判に対する執行停止の基準
・ 条文
準抗告では、執行停止に関する抗告の規定が準用されます。
(抗告に関する規定の準用)
第432条第424条、第426条及び第427条の規定は、第429条及び第430条の請求があった場合にこれを準用する。
(通常抗告と執行停止)
第424条
1 抗告は、即時抗告を除いては、裁判の執行を停止する効力を有しない。但し、原裁判所は、決定で、抗告の裁判があるまで執行を停止することができる。
2 抗告裁判所は、決定で裁判の執行を停止することができる。
・ 考慮要素
- 勾留を取り消す裁判や保釈を許可する裁判が下された後、検察官等がこれに準抗告を申し立てた場合、原則としてその申立て自体は原裁判の執行を停止する効力を持ちません。
- しかし、原裁判所または準抗告裁判所は、決定で執行を停止することができます(刑事訴訟法432条が準用する刑訴法424条1項ただし書、2項)。
- 執行停止をすべきか否かの判断は、以下の二点を総合的に考慮して行われます。
- 原裁判取消しの蓋然性
- 原裁判が取り消される可能性の高さ。
- 原状回復の困難性
- 原裁判の執行(被疑者の釈放など)により、勾留によって確保されていた罪証隠滅や逃亡の防止という状態に戻すことが著しく困難になるか否か。
- 原裁判取消しの蓋然性
- 特に、勾留請求却下の裁判に対する準抗告の段階(起訴前)では、収集されている証拠が少なく、一般的に罪証隠滅のおそれが大きいため、原裁判取消しの蓋然性や原状回復の困難性が高いと判断されやすい傾向があります。
・ 報道で目にする深夜釈放の映像
- ニュースなどで、著名人が保釈され、深夜に、拘置所から出てくる映像をご覧になった方もいるかもしれません。
- 事案によりますが、保釈許可の裁判が出された後、検察官が抗告または準抗告を申立て、保釈許可の裁判の効力が停止の決定が出された結果、抗告または準抗告の判断が出るまで釈放されないため、抗告または準抗告の判断が出た後、深夜に釈放されるということがあります。
- 保釈の許可が出ても、どの時間帯に釈放されるかは、留意が必要です。
——————————————————————————–
4 まとめ
準抗告の申立にあたっては、時期・資料・事情に応じた判断に加え、以上みてきたとおり、事後審という性格や、裁判が受訴裁判所ではない裁判官が行われる点でどの程度の裁量が尊重されるべき赤など、理論的な問題もはらんでいます。
弁護人は、身柄拘束の不当性を的確に主張し、迅速に救済を図る必要があります。
当事務所では、依頼者の自由と権利を守るため、準抗告・抗告を含む全過程で最善の弁護活動を行っています。
不当な身柄拘束や処分でお悩みの際は、当事務所にご相談ください。
5 その他の記事
準抗告の一般的な手続は、以下の記事でご紹介しています。