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共犯からの離脱は認められる?|刑事責任を免れる条件と判例を弁護士が解説

「友人から空き巣に誘われたが、怖くなって直前で逃げ出した」「暴行の途中でこれ以上はまずいと思い、現場を去った」 このように、一度は犯罪に加担しようとしたものの、途中で翻意して身を引くことがあります。
しかし、自分がいなくなった後に仲間が犯罪を完遂してしまった場合、残された結果について自分も責任を負わなければならないのでしょうか

刑法上、この問題は「共犯からの離脱」「共犯関係の解消」と呼ばれ、成立するか否かで刑事責任そのものが左右される極めて重要な論点です。

本記事では、判例・学説の流れとともに、どのような行為をすれば責任を免れ得るのかを、刑事弁護の実務の視点を踏まえて解説します。

※ 本記事は、一般的な考え方や運用等をご紹介するもので、全てに賛同するわけではありません。

※ また、公開日の情報を基に作成しています。

共犯関係の解消と因果性の遮断の概念図

1 共犯からの離脱(共犯関係の解消)という概念

共犯関係にある者が、犯罪が完了する前に犯意を放棄し、実行行為を中止することを指します。

(1) 処罰根拠と解消の論理

ア 共犯の処罰根拠

刑法60条は「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする」と定めています。

刑法60条が定める共同正犯に該当すれば、実行行為の全てを行っていなくとも起きた犯罪の全ての責任を負うことになります(一部実行全部責任)

この正犯の中には、実行行為を分担したもののほか、実行行為を行っていない者、つまり共謀共同正犯も含まれるというのが一般的な理解です。

共犯者が、自らすべての行為を行っていないにもかかわらず、仲間の行為も含めた「全体の責任」を負わされる(一部行為の全部責任)根拠には様々な考えがあります。

イ 因果的共犯論からの説明

一部実行全部責任の根拠について、近時は、自分の行為が、仲間の行為を介して結果発生に影響(因果性)を及ぼしたからだと考えが有力です(因果的共犯論)。

因果的共犯論からは、離脱によって「それまでの自分の関与」と「その後の仲間の行為・結果」との間の因果的なつながりが断絶されたといえる場合には、離脱後の結果について責任を負わせるべきではないという考えにつながりやすくなります。

(2) 「離脱」と「解消」の用語の使い分け

なお、この論点では、共犯の中止など様々な表現が使われていますが、現場を立ち去るなどの事実行為を「離脱」と呼び、それによって法的に後の結果に責任を負わない状態になることを「共犯関係の解消」と呼んで区別する傾向があります。

2 学説の議論状況

共犯関係の解消がどのような場合に認められるかについては、長年議論が積み重ねられてきました。

(1) 中止犯の準用論(旧来の議論)

かつては、刑法43条ただし書が定める「中止犯」(自己の意思で犯罪を中止した場合の刑の減免)の応用問題として議論されていました。

この考え方では、実行に着手した後は、単に自分が身を引くだけでは足りず、仲間の犯行を阻止するか、結果の発生を阻止しなければ責任を免れないとする考えもあり得ます。

もっとも、共犯関係の解消は刑事責任を負うかの問題である一方、中止犯は刑の任意的減免の刑事責任を負うことを前提にした科刑の問題であり、区別されるべき問題という考えが有力なように見えます。

(2) 因果性遮断説(現在の通説的見解)

現在では、前述の「因果性」に注目する因果性遮断説が通説とされています。

離脱によって、自分がそれまでに及ぼした心理的・物理的影響力が除去されたかを基準に判断します。この立場では、仮に仲間の犯行を完全に阻止できなくても、自分の影響力が及ばない範囲で結果が生じたのであれば、その結果についての責任が否定されうることになります。

3 判例の議論と変化

裁判例は、時代を追うごとに「因果性の切断」を実質的に判断するようになっています。

(1) 以前の傾向:実行の着手前後による区別

かつては、犯罪が始まる前(実行の着手前)であれば、「離脱の意思表明」と「仲間の了承」があれば比較的緩やかに解消を認める傾向にあったとされています。

他方、実行の着手後は、既に犯罪の危険性が現実化しているため、防止する措置を講ずることが求められる判例が出されるなど解消は極めて厳格に判断されてきました。

(2) 近時の重要判例:実質的判断への移行

近時の最高裁は、実行の着手の前後という形式的な区別よりも、「因果性が実際に遮断されたか」という実質的な状況を重視しています。

たとえば、実行の着手前であっても必ずしも「離脱意思の表明と了承」が絶対的なものではないとされています。

ア 最決平成1年6月26日刑集43巻6号567頁(傷害致死事件)

共謀して暴行を加えた後、被告人が「おれ帰る」と言って立ち去った後に、仲間が更に暴行を加えて被害者を死亡させた事案です。

最高裁は、被告人が立ち去った時点で仲間が暴行を継続するおそれが消滅していなかったのに、格別これを防止する措置を講じなかったとして、共犯関係の解消を否定しました。

イ 最決平成21年6月30日刑集63巻5号475頁(住居侵入強盗事件)

強盗目的で住居に侵入した後、強盗の実行に着手する前に、「犯行をやめた方がよい、先に帰る」と一方的に電話して離脱した事案です。

最高裁は、強盗の「着手前」であっても、既に住居侵入によって強盗に至る具体的危険が生じていたことを重視し、犯行を防止する措置を講じていない以上、解消は認められないと判断しました。

4 共犯関係の解消が認められるための要素

実務上、解消が認められるためには、以下の要素を検討する必要があります。

(1) 心理的因果性の遮断

離脱者が他の共犯者の犯意を強化したり、安心感を与えたりした影響を取り除くことが考えられます。

ア 離脱意思の表明と了承

原則として、仲間に「自分はやめる」と伝え、仲間がそれを認識することが必要です。

イ 首謀者・リーダーの場合

単に告げるだけでは共犯関係の解消は認められない傾向があります。

自分が作り出した共謀関係を解消させ、共謀以前の状態に復元させる(仲間を説得して思いとどまらせる、実行者を現場から連れ戻す等)といった積極的な措置が重要な要素となり得ます。

(2) 物理的因果性の遮断

犯行道具の提供や、情報の提供などの物理的な寄与を取り除くことです。

もっとも、共同正犯の場合、共謀という意思連絡が求められる以上、心理的因果性があることは前提となっており、物理的因果性と心理的因果性の双方の遮断が問題となり得ます。

物理的因果性が残存していても心理的因果性が解消されている場合には、共同正犯としての刑事責任はなくとも、幇助犯としての責任は残るとする指摘もあります。

ア 供与物の回収

凶器や合鍵、資金などを提供していた場合、それらを回収し、仲間の犯行を容易にさせている状態を解消することが要素になり得ます。

暗証番号などの重要な情報提供をした場合には、その情報を用いた犯行ができないような措置が求められるという指摘もあります。

イ 代替可能性の検討

離脱者が提供した道具が、誰でもどこでも手に入るようなもの(例:どこにでもあるナイフや包丁)であれば、物理的影響力は比較的小さいと評価されることもあります。

(3) 特殊な解消ケース|残留者による排除

共謀に基づき被害者に対し第1暴行がなされた後、離脱しようとした者が、仲間から暴行を受けて失神し、現場に放置された後に仲間が第2暴行を継続したような場合です。

この場合、残留者が離脱者の意思や関与をあえて排除して犯行を継続したといえるため、解消が認められることがあります(名古屋高判平14.8.29判時1831号158頁等)。

ただし、第1暴行の因果性が第2暴行にどの程度及んでいるかという点が重要であり、「残留者による排除」がなされたからといって当然に共犯関係の解消が認められるかは慎重に考える必要があります。

(4) 共謀の射程との関係

自分が離脱した後に、仲間が当初の計画を大幅に超える行為(例:窃盗の共謀だったのに仲間が勝手に殺害した)に及んだ場合、そもそもそれは新たな共謀に基づく犯行であることから、当初の「共謀の射程」外であるため、解消の問題以前に責任を負わないとされることがあります。

5 弁護士から見た課題と実務対応

共犯からの離脱と共犯関係の解消の主張は、刑事弁護においても以下の点に留意する必要があります。

(1) 「心理的因果性」の立証の難しさ

  • 「いつ、どのような態度でやめることを伝え、仲間がどう反応したか」は、目撃者がいない密室や現場での出来事であることが多く、共犯者の供述が重要な証拠となることが少なくありません。
  • 共犯者の証人尋問において、当時の会話の内容や現場の緊張感、被告人が立ち去った後の仲間の心理状態を細かく弾劾し、被告人の影響力が消滅していたことを主張立証していくことが考えられます。

(2) 「格別な措置」の高いハードル

  • 近時の判例(平成21年決定等)により、着手前であっても「警察への通報」や「被害者の救護」に近いレベルの措置が求められる可能性があります。
  • 被告人が当時置かれていた立場(リーダーではなく従属的だった等)や、離脱時に犯行がどの程度進展していたかを詳細に分析し、その状況下で「可能な限りの解消行為」を行っていたことを主張します。

(3) 裁判員への分かりやすい説明

  • 「因果性の切断」という概念は、一般の方には馴染みがありません。
  • 着手前だから〇〇、着手後だから△△という説明ではなく、共犯の処罰根拠に遡ったところから、どういった事実がポイントになるかを丁寧に論ずる必要があります。
    • 一般的にどのような事実がポイントになるのか(意思表示と了承、防止措置、凶器の回収など)
    • 今回の事件ではどういった事実がポイントになるのか(首謀者的な立場ではないから意思表示と了承、犯行を止めるよう説得すれば足り、実行者を連れ戻すといった措置までは要求されないなど)
  • 分かりやすい言葉を用い、直感的に理解しやすい説明を心がけます。

6 まとめ

共犯関係からの離脱が認められるかどうかは、刑事責任の有無そのものにかかわります。

近時の判例は、「現場にいなかった」「やめると言った」だけでは足りず、どのように因果性を遮断したのかを厳しく問う傾向にあります。

共犯事件は、立場や関与の程度によって評価が大きく分かれます。
少しでも不安がある場合には、早い段階で刑事事件に精通した弁護士へご相談ください。

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