性的姿態撮影等処罰法とは|制定背景・撮影罪(盗撮罪)の基本を解説
令和5年7月に施行された「性的姿態撮影等処罰法」1は、いわゆる盗撮行為を全国一律の刑罰法規として処罰する新しい法律です。
従来は迷惑防止条例による規制が中心でしたが、スマートフォンの普及と画像拡散の深刻化を背景に、刑法とは別に独立した法律が制定されました。
本記事(第1弾)では、性的姿態等撮影罪の成立要件、保護法益、正当な理由の判断枠組みを中心に説します。
※ 本記事では一般的な見解をご紹介するもので、そのすべてに賛同するものではありません。
※ 公開日時点の情報を基にしています。
1 本法の制定の経緯と目的
本法が制定された背景には、近年の技術進歩に伴い、性的な姿態を撮影する行為が容易になり、それに伴う被害が拡大したという社会的な状況があります。
(1) 制定の背景と旧法制度の課題
平成29年(2017年)以降、法制審議会において、性犯罪・性暴力の実態や被害者の権利保護・救済のあり方について検討が重ねられてきました。従来の刑法には性的な姿態を撮影する行為を直接的に罰する規定がなく、その多くは各都道府県の定める迷惑防止条例によって規制されていました。
しかし、迷惑防止条例による規制は、地域によって罰則や構成要件が異なり、全国一律の規制を求める声が高まっていました。
また、撮影行為によって生じた画像や動画(性的な姿態の影像に係る電磁的記録)が流通・拡散することで、被害者の被る被害が甚大化する危険性も問題視されていました。
スマートフォンの普及により誰もが容易に撮影行為をすることができるようになった社会的背景も影響しているように考えられます。
(2) 本法の目的と成立
こうした状況を踏まえ、本法は、性的な姿態を撮影する行為等を規制するとともに、これらの行為により作成された電磁的記録等(性的な姿態の影像が記録されたもの)の流通・拡散を防止し、併せて押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等の措置を講ずることを目的としています。
本法は、令和5年6月16日に第211回国会において成立し、同年6月23日に公布されました。これにより、性的な姿態の撮影行為に対する罰則が全国一律で適用されることとなりました。
2 本法の特色:全国一律の規制と押収物対応
本法は、迷惑防止条例による規制等の課題に応えるため、被害者の権利利益を強力に保護するための、いくつかの重要な特色を持っています。
(1) 罰則の全国一律化
本法は、これまで地域差があった性的な姿態の撮影行為に対する規制を、全国一律の刑罰法規として確立しました。これにより、場所を問わず、撮影行為に対する法的な評価と対応が統一されました。
(2) 新たな犯罪類型の設定
本法は、撮影行為そのものに加え、その後の画像拡散行為に対する明確な罰則が新設されています。
• 性的姿態等撮影罪(第2条)
• 性的姿態等記録保管罪(第4条):みだらな目的で撮影された電磁的記録を保管する行為を処罰します
• 性的姿態等提供罪(第3条、第5条):撮影物を不特定または多数の者に提供・送付する行為を処罰します。
• 性的姿態等記録保管罪(第4条):みだらな目的で撮影された電磁的記録を保管する行為を処罰します。
(3) 押収物データの消去・廃棄制度の導入
また、犯罪行為によって生じた押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録(以下「対象電磁的記録」)について、その消去・廃棄等の手続きが定められている点にも特徴があります。
性的な姿態の影像の拡散を防止し、被害者の私的利益や名誉を回復させるための制度とされています。
3 性的姿態等撮影罪(第2条)の構成要件
本法は第2条から第6条にわたり、撮影行為、提供行為、保管行為に関する罰則を定めています。
本記事では、「性的姿態等撮影罪」を中心に解説します。
保護法益は、意思に反して自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られないという性的自由・性的自己決定権とされています。
本条は、正当な理由がないのに、人の性的姿態等を撮影する行為を処罰するものです。
(1) 法定刑
3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金。
(2) 2条1号
ア 客体|撮影対象|「性的姿態等」「対象性的姿態等」
(ア) 性的姿態等
「性的姿態等」とは、
- イ 客体の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはその周辺部、臀部又は胸部)又は人が身に着けている下着等(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
- ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十七条第一項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態
をいいます。
- 単に性器や胸部といった露骨な部位だけでなく、下着で覆われている部分も含むと定義されており、広範囲な保護が目指されています。
- 例えば、スカートの下に撮影機器を差し入れた撮影などが該当し得ます。
- 「間接的に覆っている部分」とは、冬季に重ね着をしている下着なども対象に含める趣旨とされています。
(イ) 対象性的姿態等|露出等による除外
- 性的姿態等のうち、「人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの」に対する撮影行為が対象となります。
- 「人が通常衣服を着けている場所」とは、公道・公園・デパート・電車の車両などが例として挙げられています。
- 「自ら露出し又はとっている」とは、「殊更注意を払わなくても目に触れうる状況に自らしている」こととされています。
- 人が通常衣服をつけている公園でタオルで体を覆うなどし、できるだけ目に触れないように着替えている場合の「下着」の撮影は処罰対象行為になり得るとされています。
- 「不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら」
- 「人が通常衣服を着けている場所」で自ら露出しても、「不特定又は多数の者の目に触れる」状況にないと認識していた場合を対象に含む趣旨とされています。
- 更衣室が手狭であったため、誰もいない会議室において着替えていた時に、ひそかに入ってきた撮影者が撮影行為に及んだ場合
- このような場合には、保護法益を放棄していないと考えられるためとされています。
イ 行為態様|ひそかに
- 「撮影対象者に対象性的姿態等を撮影することを知られないような態様」とされています。
- 人の内心である「意思に反することのみを要件とすると、不明確になることから、意思に反することが外部的・客観的に明らかな態様方法として、要件とされています。
- 撮影対象者が撮影行為を認識していても、対象性的姿態等を撮影されることを認識できないような態様も該当し得るとされます。
- 撮影対象者以外の周囲の者が認識していても、撮影対象者が認識できないような態様も該当し得るとされています。
ウ 「正当な理由がないのに」
- 本罪の成立には「正当な理由がないのに」撮影を行うことが必要です。
- これは、被害者保護の要請と、個人の自由な意思決定権やプライバシー保護との調和を図るための要素とされています。
- 総合判断
- 撮影行為者と対象者の関係
- 撮影に至る経緯・目的
- 対象性的姿態等の内容
- 撮影方法の態様
等を総合して判断するとされます。
- 「正当な理由」がないとされる状況の例
- 不同意の意思が表面化している場合:被害者が撮影に同意しない意思を形成・表明し、それが困難な状態にある場合。
- 行為の性的な性質と信頼がない場合:撮影行為が性的な性質を有するか否かにかかわらず、特定の者以外が閲覧しないとの信頼をさせていたにもかかわらず、その信頼に反して撮影する場合。
- 「正当な理由がある」とされる例
- 医療行為のための撮影
- 親族が成長の記録として撮影する場合
- 相手から「同意していなかった」と後から主張されてトラブルにならないために、ひそかに動画撮影等する行為は、正当な理由とならない可能性が相当あります。
- 正当な理由がある場合とは
- 撮影行為を巡って利害が相反するものではなく、かつ、社会通念上、動機・目的が正当であり、それを前提に対象や方法などの態様も相当なものと考えられるところ、標記の撮影行為はいずれにも当てはまりがたいという考えがあるためです。
- 正当な理由がある場合とは
(3) 2号 同意がない場合等(同意が困難・困難な状況に乗じて)の撮影行為
- 不同意わいせつ罪等と同様の原因行為・原因事由により、撮影する行為を処罰の対象とするものです。
- 行為者が自ら行うもののみならず、撮影対象者を利用して行うものも該当する場合があるとされています。
(4) 3号 誤信させた上等での撮影行為
ア 趣旨など
- 誤信がある場合には、撮影に応じるかの意思決定の前提を欠いていることから、処罰の対象とされています。
- たとえば、金銭的な対価を支払う約束の下、撮影行為が行われた場合に、金額に誤信があったときなどを、誤信があっただけでは処罰するべきとは言えない場合は除外され得ます。
イ 誤信の内容
- 「行為の性質が性的なものではないとの誤信」
- 「撮影行為が性的な性質を有するにもかかわらず、性的な性質がないものと誤信していること」とされます。
- たとえば、医療行為のために必要な撮影行為であるとの誤信があり得ます。
- 「撮影行為が性的な性質を有するにもかかわらず、性的な性質がないものと誤信していること」とされます。
- 「特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信」
- 「撮影行為により生成される記録を特定の者以外の者が閲覧するにもかかわらず、当該特定の者以外の者は閲覧しないものと誤信」していることとされます。
- たとえば、交際相手から画像は自分以外に見せないと告げられ、撮影した交際相手以外が閲覧しないと誤信していた場合が考えられます。
- 「撮影行為により生成される記録を特定の者以外の者が閲覧するにもかかわらず、当該特定の者以外の者は閲覧しないものと誤信」していることとされます。
イ 撮影対象者を利用した撮影行為
- 2号と同様、行為者が自ら行うもののみならず、撮影対象者を利用して行うものも該当する場合があるとされています。
(5) 4号 撮影対象者が16歳未満の者等の場合
ア 客体
- 客体が性的姿態等とされています。
- 性的姿態等のうち、「人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの」が除外されていません。
- 16歳未満の者は、性的な姿態の撮影行為に応じるかどうか有効な意思決定をする能力に欠けていることからとされています。
- 13歳以上16歳未満の場合には、年齢差要件(撮影対象者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が行為者であること)が設けられています。
- 16歳未満の者は、性的な姿態の撮影行為に応じるかどうか有効な意思決定をする能力に欠けていることからとされています。
イ 正当な理由
- 1号の正当な事由と同様の総合判断とされています。以下は挙げられている例です。
- 子の成長の記録として行われる、自宅庭で上半身裸で水遊びをしている子供の撮影
- 地域の行事として開催される、上半身裸で行われる少年相撲の取り組みの撮影
- 子供の身体的発育に関する研究を行っている医師が、研究に用いる目的で腹部の写真を必要な枚数だけ撮影する場合
- 紙おむつのCM素材とする目的で上半身裸の乳児を必要な枚数だけ撮影する場合
(6) その他の要件
ア 画像自体からの対象者の特定|顔などの容姿が写っていることは不要
- 意思に反して性的な姿態が撮影されれば、「意思に反して自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られないという性的自由・性的自己決定権」という保護法益が侵害されることから、画像そのものから撮影対象者を特定できることは要件とされていません。
イ 場所の特定も不要
- 撮影場所にかかわらず、意思に反して性的な姿態が撮影されれば保護法益が侵害されるため、場所の特定は必要とされていません。
(7) 未遂犯の処罰
- 未遂犯も処罰されます。
- スカートで隠された下着を撮影する目的で撮影機器をスカートの下に 差し向けてシャッターを押したが、たまたまの霧光不足で性的姿態の影像として記録されなかった場合
- 具体的な事実関係によっては、
- スカートで隠された下着を撮影する目的で、スカートの下に撮影機器を差し入れた時点で、実行の着手が認められる場合もあり得るとされています。
4 刑事弁護における本法への対応
性的姿態等撮影罪に関する法律は、従来の犯罪とは異なる側面が多く、注意が必要な点もあります。
(1) 構成要件に関する留意
「性的姿態等撮影罪」(第2条)において、「正当な理由がないのに」という要件がポイントになり得ます。
• 撮影目的が医療や教育など正当な範囲であったか。
• 被害者の同意の有無、または同意が困難な状態に陥っていると認識できたか。
• 行為の性的な性質がないと信頼させていたか否か、その信頼を裏切っていないか。
これらの事実関係を詳細に聴取し、撮影の経緯や目的を確認することで、構成要件の不充足を主張できる可能性があります。
(2) 押収物データ消去手続の確認
逮捕・勾留され、スマートフォンなどが押収された場合、押収物がどのようになるか、注意を払っておく必要があります。
• 検察官による消去措置、または裁判所による消去決定が不当であると考える場合、審査の申立て(第26条)を行うことが、依頼者の権利保護(押収物の返還など)に繋がる場合があります。
• 消去決定等については、行政不服審査法とは異なる独自の審査の仕組みが設けられています。手続きを十分に理解し、適切に不服申し立てを行う必要があります。
5 まとめ
性的姿態撮影等処罰法は、単なる盗撮処罰にとどまらず、性的自己決定権を中心とした新しい法益構造を持つ犯罪です。
とりわけ「正当な理由がないのに」という要件は、事案ごとに微妙な評価を要し、重要な争点となり得ます。
対応するためには、刑事弁護の専門知識と、新しい手続きへの迅速な対応力が不可欠です。
本法に関連する事案でお困りの方は、ぜひ専門家にご相談ください。
別記事で、撮影後の行為である提供罪・保管罪・送信罪や、押収物データの消去手続という特徴的制度について解説します。
6 他の記事
7 用語解説など
性的姿態撮影等処罰法:正式な名称は、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」といいます。





