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職務質問はどこまで適法?警職法2条の要件と違法になる境界を弁護士が解説

街中で突然声をかけられる「職務質問」。
しかし、「これは断っていいのか?」「違法ではないのか?」と疑問を感じた経験がある方も多いのではないでしょうか。

職務質問は警察官職務執行法2条に基づく適法な警察活動ですが、その一方で、一定の限界を超えれば違法となる可能性もあります。

本記事では、刑事弁護の実務の視点から、職務質問の要件・合理的理由の意味・違法と判断されるポイントについて、判例を交えながらわかりやすく解説します。

※ 本記事では一般的な見解をご紹介するもので、そのすべてに賛同するものではありません。

※ 公開日時点の情報を基にしています。

職務質問が適法となる要件(警職法2条1項)の概念図。客観的な不審性による判断の基礎、合理的な判断による相当な理由、対象となる何らかの犯罪の3要素と、適法性の限界について解説しています。
警察官職務執行法2条1項に基づく職務質問の要件と判断基準

※ 「停止」の要件は、別記事で解説する予定です。

1 職務質問の意義と法的性質

(1) 職務質問の定義

職務質問とは、警察官が、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者等を停止させて質問することを指します。これは、犯罪の予防、鎮圧という行政警察目的を達成するために行われる行政警察活動の一種です。

(2) 行政警察活動と司法警察活動の交錯

ア 理論的区別

警察活動は、大きく「行政警察活動」と「司法警察活動」に分類されます。

行政警察活動は、公共の安全と秩序を維持することを目的とし、将来の犯罪の予防や鎮圧を主眼とします。

一方、司法警察活動(捜査)は、既に発生した犯罪について犯人を特定し、証拠を収集することを目的とします。

イ 実務上の連続性

職務質問は形式的には行政警察活動ですが、質問の過程で特定の犯罪の嫌疑が濃厚になれば、必然的に刑事訴訟法上の捜査(司法警察活動)へと移行することになります。

学説上、職務質問は「捜査の端緒」としての性格を有すると同時に、嫌疑が具体的な場合には「実質的に捜査の一部」を構成する場合があるとされることが一般的です。

(3) 警職法2条の性格

警職法2条1項が、警察官に新たな権限を付与する「権限創設規定」なのか、あるいは単に警察の職務内容を示した「確認的規定」なのかについては、警察法2条の性質と関連して争いがあります。

2 警察官職務執行法2条1項の要件

警職法2条1項は次のように規定しています。

「警察官は、異常な挙動 その他周囲の事情 から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。」

この条文から、職務質問の対象者は大きく以下の2種類に分けられます。

①犯人(疑いのある者):犯罪に関与している疑いのある者

②参考人:既に、あるいはこれから行われようとする犯罪について知っていると認められる者

以下、特に問題となる「犯人(疑いのある者)」に対する要件を詳細に分析します。

(1) 異常な挙動その他周囲の事情(判断の基礎)

職務質問を行うためには、まず客観的な「不審性」の基礎となる事実が存在しなければなりません。

ア 異常な挙動

  • 「異常な挙動」とは、不自然、奇妙、又は正常ではない言動、服装、持ち物の不自然さとされています。
    • 例えばですが、ろれつが回らない・目が充血・異常な発汗・呼吸が荒く落ち着きがない といった挙動が考えられます。

イ その他周囲の事情

  • 「周囲の事情」とは、時間、場所、環境等などとされています。
    • 同じ挙動であっても、昼間の人通りが多い場所と、深夜の犯罪多発地域では、その不審性の評価が異なると判断され得ることになります。
  • 要件自体は緩やかに判断されるべきという見解
    • 職務質問の後の、同行や所持品検査等に違法な有形力の行使があったとされた事案で、顕在化されますが、職務質問そのものの要件については、比較的緩やかに認められるべきであるという見解も存在します。
    • 何らかの不審な状況があれば、積極的に声をかけて質問し、不振が解消されれば、質問を打ち切るといのが職務質問の基本的という考えが背景にあるようです。

(2) 合理的な判断による「相当な理由」(不審事由の程度)

「相当な理由」とは、単なる主観的な推測ではなく、客観的な根拠に基づく嫌疑を意味します。

ア 客観的合理性の必要性

  • 判断の基準は、警察官の主観ではなく、一般社会人の知識を前提とした合理性がなければならないとわれています。
  • 戦前の不審尋問が警察官の恣意に任されていたことへの反省等から、警職法は「合理的に判断して」という文言を挿入しており、当然の解釈とされています。

イ 一般社会人の知識を前提にした合理性に限られるか

  • 裁判例(大阪地判昭63・3・9判タ671号260頁)によれば、「異常な挙動その他周囲の事情」とは、現場における相手方の挙動自体や周囲の状況のほか、警察官側の持っている事前の知識や情報等を総合的に考慮し得るものとされています。 
  • 但し、警察官において「一般市民であればこのように判断するだろう」という社会通念に基づいた常識的な対応が求められるとされています。

ウ 判断の時点・程度

職務質問を行う時点における具体的状況によって現場の警察官が通常判断可能な程度で足りるとされてます(京都地判昭和43・7・22判タ225号245頁参照)。

エ 刑訴法上の「相当な理由」との違い

  • 刑事訴訟法199条(逮捕の要件)などで求められる「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」とは、証拠によって犯罪の成立が高度に蓋然的であることを要します。
    • これに対し、職務質問における「相当な理由」は、行政上の必要に基づいて行うもの(犯人の特定・証拠の収集という犯罪捜査を直接目的としていない)・犯罪自体も特定されていない段階であること等から、そこまでの高度な蓋然性は不要であり、「犯罪との関わりをかなりの程度に示す客観的状況の存在」があれば足りると解されています
  • 具体的裁判例の検討
    • 要件を肯定した事例
      • 午前10時こところ、繁華街の派出所前路上を一見土工風の風体、着衣で、スーツケースをもち、警察官を避けるように目をそらせ足早に立ち去ろうとした者(東京地判昭53・9・21判タ1251号112頁)。
      • 覚醒剤事犯の多発地域で警ら中の警察官らに気付いて目を伏せ、接近するにつれて落着きをなくすなどの不審な態度をとり、またその風貌も、頬がこけ顔色が青白いなど、覚醒剤常習者に多くみられる外見的特徴がみられた者(大阪高判昭61・5・30判時1215号143頁)。
    • 要件を否定した事例
      • 午前10時頃、粗末な衣服を着て好天であるのに古い半長靴をはいて…市内の劇場前で看板を見ていたが、私服警察官と目が合うやその場を立ち去ろうとした者に対する職務質問が、被告人の服装や履物や所持品等による様相は、「一般労働者のそれと多く異なるところがな」いと判断された(京都地判昭43・7・22判タ225号245頁)。
      • 服装が一見やくざ風であったうえ、警察官を避けて足早に去って行こうとしたという事実のみでは「職務質問の要件を満たすものとは認められない」とされた(大阪地判昭63・4・14判タ1303号97頁)。

(3) 犯罪の意義

ア 犯罪の種類

  • 「何らかの犯罪」とされる犯罪の種類に限定はないとされています。
    • また、自然犯だけでなく、法定犯も対象となります。
  • 軽微な犯罪(軽犯罪法違反など)も含まれます。
    • ただし、犯罪の軽重は、職務質問等の方法・限度において、その適法違法の判断において重要な考慮要素とされています。

イ 犯罪の特定

  • 犯罪予防・鎮圧という行政警察作用であるため、職務質問を開始する時点では、犯罪が具体的に特定されている必要はないとされています。「何らかの」犯罪に関係すると認められれば足りるとされています。

ウ 未成年者による行為

  • 犯罪構成要件に該当し、違法性のある行為であることを要するが、有責性までを要するものではないとされています。
  • 14歳未満の者の行為(刑法上の犯罪にはならない触法行為)であっても、これに関係する者に質問することは可能です。

3 職務質問の実施方法と適法性の限界

(1) 供述拒否権(黙秘権)の告知と警察官の身分開示

ア 供述拒否権告知の要否

  • 原則としての告知義務の不存在
    • 職務質問は行政警察活動の一種であるため、刑事訴訟法上の被疑者取調べとは異なり、明文の供述拒否権告知義務は定められていません。
    • 警察官職務執行法(以下「警職法」)2条3項は、答弁を強要されないことを保障していますが、告知そのものを要件とはしていません。
      • 答弁する義務がないことは大前提になります。
      • 間接強制による罰則も認められていません。
    • 告知がないことのみをもって直ちに職務質問が違法となるわけではないと解されています。
  • 憲法的要請と実務上の解釈
    • 憲法38条1項が保障する「何人も自己に不利益な供述を強要されない」という黙秘権の趣旨は、行政警察活動においても尊重されるべきです。
    • 嫌疑が濃厚となり、実質的に被疑者としての取調べに移行したと認められる段階においては、供述拒否権の告知を行うべきであるという考えがあります。
      • この考えの背景には、その時点の供述が、後に被疑者・被告人の立場になった場合に不利益に利用されることがあると考えられます(逮捕勾留の疎明資料など)。
    • 具体的には、質問が通常相当とされる時間を超えて長時間に及ぶ場合や、有形力(実力)を用いて停止させている場合などは、告知が必要とされる可能性が高まると考えられます。

イ 警察官の官職・氏名の提示義務

  • 身分の開示方法
    • 行政目的の立ち入り検査質問を行うにあたり、身分証呈示を義務付ける規程があります(古物営業法23条2項、風営法37条2項、旅館業法7条4項、食品衛生法30条2項など)
    • 制服警察官の場合は、外観から警察官であることが明白であるため、通常は改めて身分を提示する必要はないと考えられています。
      • もっとも、相手方から身分提示を要求された場合には、警察手帳を提示して身分を示すことが求められるという見解があります。
    • 私服警察官の場合は、職務質問を開始するにあたって、警察手帳を示して身分を告知することが必要という考えがあります。
      • 質問を受忍させる以上、相手方に質問者の身分を領置させることは当然という考えもあります。
      • (京都地判昭43・7・22判タ225号245頁)は、私服警察官が身分を明かさず同行を求めた点も問題視されています。
  • 提示すべき内容の範囲
    • 警察官の正当な職務であることを明らかにすれば足りるため、必ずしも氏名まで開示する義務はないとする裁判例(東京高判昭55・9・4判タ440号152頁)も存在します。
    • しかし、警察内部の規程(警視庁警察職員服務規程等)では氏名等の告知が定められており、国民の理解と協力を得るためには、所属・階級・氏名の開示が望ましいとされています。

(2) 質問の方法と許容される限度

ア 質問の具体的な態様

  • 伝達手段
    • 質問は通常、口頭(言語)によって行われますが、身振りや手振り、その他の動作による場合も含まれます。
    • 例えば、覚醒剤使用の疑いがある場合に腕を見せるよう求める、あるいは所持品の提示を求める動作などがこれに当たります。
      • その場合には、回答は口頭に限られないということになります。
      • 当然、強制的に袖をまくり上げたりすることはできません。
  • 質問の内容的限度
    • 職務質問における質問は、答弁を強要するものではない以上、一般社会人が社会通念上当然に答えられると認められる限度内の事項に限られるべきであると解釈されています。
    • 相手方の明示的な拒絶にもかかわらず、執拗に同じ質問を繰り返すことは、「答弁の強要」にわたる可能性があります。

イ 質問を継続できる時間的限界

  • 質問の終了時期
    • 質問の結果、当初抱いていた不審事由が解消された場合には、速やかに質問を終了しなければならないと考えられています。
      • 新たな不審を発見しようとして職務質問を続行することは許されないとされています。
    • また、犯罪の嫌疑が確実となった場合は、警職法上の職務質問としての段階を終え、刑事訴訟法上の捜査(司法警察活動)へと移行することになります。
  • 社会通念上の相当性
    • 質問の継続時間は、具体的な状況に照らし、社会通念上妥当な限度で認めるとされています。
    • 実務上の目安としては、数分から長くとも数十分程度(例えば、自転車の盗難確認や無線による手配の照会に要する時間)にとどめるのが相当であると考えられています。

ウ 相手方の拒絶に対する説得の限界

  • 説得と執拗さの区別
    • 相手方が質問への回答を拒んだからといって、直ちに質問を打ち切らなければならないわけではない、とされています。
    • 不審の程度が高まっている場合には、回答に応じるよう説得を続け、質問を繰り返すことも許容されるとされています。
      • 大阪地判昭56.11.13判時1050号171頁は「警察官による職務質問はこれを受ける者の任意の承諾を条件とし、これに反して質問を行ったり継続したりすることは許されないが、だからといって拒否されればそれ以上如何なる行動にも出られないのではなく、質問を拒んだ相手に対し強制にわたらない範囲でその翻意を求めてこれを説得することもまた警察官が適法になしうる」としています。
  • 違法な「強制」への転化
    • 単なる説得を超えて、相手方の自由な意思を制圧するほど過度に執拗な態様になれば、それは「答弁の強要」となり、警職法2条3項に抵触する違法な活動と評価されます

4 まとめ

職務質問は、犯罪予防のために必要な制度である一方、その運用には明確な限界があります。

特に、

  • 不審事由の欠如
  • 合理的理由の不存在
  • 執拗な質問や実質的な強制

といった事情があれば、違法と評価される可能性があります。

実際の現場では、適法・違法の判断は非常に微妙であり、後の刑事手続に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。

もし職務質問やその後の対応について不安がある場合には、早期に刑事弁護に詳しい弁護士へ相談することが重要です。

5 その他の記事

6 用語解説など