逮捕されたらどうする?勾留を避けるための弁護士の弁護活動
「逮捕された」瞬間から、刑事手続は刻一刻と進みます。
特に最初の72時間は、勾留請求1されるか否かを左右する極めて大切な時間です。
弁護士は直ちにご本人と接見2し、必要な資料や誓約書の準備を進め、身体拘束を回避するための活動を開始します。
以下では、その流れをご紹介します。
※ 本記事は一般的な運用や流れ等をご紹介するものです。ご相談内容によって異なる場合もあります。
※ また、公開日の情報を基に作成しています。
1.逮捕直後
(1) ご本人との接見
ご依頼を頂きましたら、まずご本人が留置されている警察署等へ接見1に行きます。
事実関係の確認、生活状況などについて聞き取りをします。
また、検察官送致の日程などスケジュールの確認もします。
※ご本人との守秘義務との関係で、お話しできない事情もあり得ます。
(2) 接見後・ご家族への連絡など
ご本人からご家族への伝言等があればお伝えすることもあります。
※ 逃亡のや罪証隠滅につながり得るような伝言はできません。
(3) 弁護人選任届の受領
ご本人とお話しして正式にご依頼いただくことになった場合には弁護人選任届という書類に署名と押印を頂きます。
弁護人選任届がなければ、捜査機関が書類提出等を受け付けないこともあるためです。
2. 勾留を回避するための資料収集・作成
(1) 検察官・裁判官への申入れ
状況に応じ、早期に身体拘束を争う方針を取る場合には、勾留を避けるための弁護活動に早期に取り掛かる必要があります。
検察官には勾留請求2を控えるよう、裁判官には勾留の裁判をしないように申入れる必要があります。
その際、勾留の要件に沿って検討しなければ説得はできません。
(2) ご本人にお願いしたい資料
ご本人からは、逃亡や罪証隠滅の動機がないことを示すために、逃亡しない・関係者と接触しない・被害現場には近づかない・通勤ルートを変更するといったことを約束する誓約書の作成をお願いすることがあります。
誓約書などについてはパソコンを接見室に持ち込み近くのコンビニで印刷して、差し入れてご署名いただくといったことが考えられます。
当事務所では携帯用のプリンターを持参して、面会室内で印刷してそのまま差し入れるよう努めています。
また、身分を証明する資料として、名刺や社員証なども宅下げ3を受けてお預かりすることがあります。
(3) ご家族にお願いしたい資料
ご家族からも、生活状況や釈放された場合には身元を引き受ける旨の誓約書や身元引受書の作成をお願いすることがあります。
その際、身分証明証、住民票、戸籍謄本などもあると客観的資料によって生活状況や身分関係を明らかにすることができるので有用と言えます。
生活上に関し、ご家庭の収入がご本人の収入に大きく依存している場合には、ご本人やご家族の課税証明書のご提供をお願いすることもあります。
住宅ローンなどがある場合には、ローンの契約書や自宅の登記事項証明書などが有用なこともあります。
(4) コンビニエンスストア等での取得
以上については、スマートフォンが復旧した現在では、メールやライン等を利用して、まずはお写真をお送りいただくことで早急に集まりやすくなっています。
また、住民票や課税証明書は、マイナンバーカードを利用すれば、近くのコンビニエンスストア等で発行できることもあるようです。
3.検察官送致
(1) 勾留請求しないよう申入れ
以前の記事でもお伝えした通り、警察段階で釈放されることは多くありません。
したがって、検察官送致された場合には、2で集めた資料を基に意見書を作成し、検察官に提出し、勾留請求をしないよう申入れることが考えられます。
その際、検察官と利用して面談することも考えられます(電話で面談することも多いです。)。
(2) 勾留請求されてしまったら
経験上ですが、結果的に勾留請求が却下された事案でも、検察官は勾留請求をするケースは多いです。
そのため、仮に勾留請求をされてしまっても、諦めるのはまだ早いと考えられるケースもあります。
4.勾留の裁判前
勾留請求がされると、裁判官が勾留をするかの判断をします。
その際、裁判官に対し、意見書を提出し、勾留の裁判をせず勾留請求を却下するよう申し入れをすることが考えられます。
その際、担当裁判官と利用して面談することも考えられます(電話で面談することも多いです。)。
5.勾留の裁判後
勾留されてしまった場合、複数の手段があります。
(1) 準抗告の申立て
準抗告は、勾留の裁判の判断が誤っていたとして、その裁判の取消を求め、不服申立をする手続です。
第四百二十九条(準抗告)※1項のみ表示
裁判官が次に掲げる裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消し又は変更を請求することができる。
一 忌避の申立てを却下する裁判
二 勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判
三 鑑定のため留置を命ずる裁判
四 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
五 身体の検査を受ける者に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
準抗告は事後審4とされています。
基本的には勾留の裁判時点の事情を基に判断されることになります。
もっとも、勾留の裁判後の事情も取り込んで判断されているのが実情です。
勾留の裁判後すぐに被害者の方と示談が成立した場合が典型です。
別記事でご紹介の、最高裁平成26年10月17日決定の趣旨を踏まえると、準抗告は事後審であり、最初の勾留の裁判が「不合理ではないか」という観点から審査されるのが通常と考えられます。
したがって、「自分であれば勾留請求は却下するが、勾留の裁判をする判断も不合理ではない」と準抗告審が判断すれば、準抗告申立が棄却されてしまう可能性もあり得ます。
他方、勾留請求が却下された場合には、検察官が準抗告をすることもできます。
この場合に「自分であれば勾留の裁判をするが、勾留請求却下の判断も不合理ではない」と準抗告審が判断すれば、検察官の準抗告申立は棄却される可能性があります。
この点は、表裏の関係にあるということになります。
(2) 勾留取消請求
勾留の裁判の後の事後的な事情変更が生じ、勾留の必要性がなくなった場合に、勾留の取消を求めるものです。
第87条(勾留の取消)
1 勾留の理由又は勾留の必要がなくなったときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。
2 第82条第3項の規定は、前項の請求についてこれを準用する。
典型的な例は、被害者の方がいるケースで、示談が成立したなどの事情変更が考えられます。
なお、裁判所が裁量により自主的に判断をする「職権」でも可能とされていますが、実務上は、当事者の請求によることが殆どです。
(3) 準抗告申立と勾留取消請求の違い
準抗告申立でも、勾留の裁判後の事情を取り込んで判断されているのが実情ですから、大きな違いはありません。
もっとも、準抗告は合議体で3名の裁判官で構成する裁判所で判断される一方(刑事訴訟法429条4項)、勾留取消請求については通常は一人の裁判官が判断します。
このあたりは、準抗告審は刑事部の裁判官が担当するのか・民事の裁判官も入って判断するのか、勾留取消請求は令状専門部の裁判官が判断するのか・民事担当の裁判官も当番制で判断するのかなど裁判所によって運用が異なります。
刑事部の裁判官や令状部の裁判官が身体拘束について慎重な判断をするかは不明です。
かえって、感覚が鈍くなっている可能性もあるかもしれません。
一概には言えないところもあり、ケースバイケースということになるでしょう。
準抗告申立と勾留取消請求は両方申立てをすることも可能です。
被害者の方と示談が成立するなど、事後的な事情変更があった場合には両方請求することも戦略的にはあり得ます。
(4) 勾留延長の裁判をしないよう申入れ
最初の勾留の裁判の期間は、勾留請求日から10日間というのが実務上の扱いです。
その上で、さらに最大10日間の延長が認めらることがあります(一部例外はありますが、個々では10日間の延長を前提とします。)。
第二百八条
➀ 第二百七条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
② 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
(太字・下線は筆者)
「やむを得ない事由」については
一般的には
・事件の複雑困難
・証拠収集の困難
・事件の輻輳(ふくそう)
が考慮要素とされ、それらを理由に勾留期間を延長して更に取調をするのでなければ起訴若しくは不起訴の決定をすることが困難な場合
をいうとされています。
この場合、勾留延長の裁判がされる前に、延長の理由がないという申し入れをすることが考えられます。
事件の証拠関係、考えられる捜査、これまでの期間にその捜査はできなかったのかといった点を説得的に検討する必要があります。
この申入れにより、検察官が10日間の延長を求めたところ、数日間延長期間が減るということもあり得ます。
(5) 勾留延長の裁判に対する準抗告申立
勾留延長の裁判に対しても、準抗告申立をすることができます。
たとえば、10日間の勾留延長が認められたところ、準抗告が認められる、準抗告が一部認められ数日間延長期間が減るということもあり得ます。
(6) 特別抗告
準抗告を棄却した決定に対しては、特別抗告をすることができます。
別の記事でも判例のご紹介とともに解説をしました。
第四百三十三条
➀ この法律により不服を申し立てることができない決定又は命令に対しては、第四百五条に規定する事由があることを理由とする場合に限り、最高裁判所に特に抗告をすることができる。
② 前項の抗告の提起期間は、五日とする。
第四百五条
高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。
一 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
二 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
三 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
特別抗告は、判例違反・憲法違反が法定の理由です。
判例上、刑事訴訟法411条に定める事実誤認や法令違反等を理由に職権破棄をすることも可能とされていますが、一般的にはハードルは高いと言えます。
もっとも、ご紹介した判例のように、最高裁が応答することもありますので、事案に応じでどこまで申立てをするかということになってきます。
6.まとめ 弁護士に依頼するメリット
以上のように逮捕されてからの動きはめまぐるしいものがあります。
逮捕という事態は、誰にとっても突然で、先の見えない不安をもたらします。
しかし、勾留を避けるための活動には、弁護士の知識と経験が大きな力になります。
一人で悩まず、早めに専門家へご相談ください。