刑事処分を希望して抗告したが認められずに少年院送致となった事例
【本件事例のポイント紹介】
少年院入所措置は、いわゆる「前科」扱いとならず、少年には刑事処分より有利な処遇といえます。
もっとも、本件は、少年が少年院への入所を嫌がり、刑事処分を希望して、家庭裁判所における審判での決定に対して、抗告しました。
成人の傷害罪であれば、執行猶予や罰金刑が期待されるのに(身柄は釈放されます)、少年院への入所では身体拘束期間が続くため、入所を嫌がった対応と推測されます。
ただ、執行猶予も罰金刑も前科であり、一般的類型的に少年には不利益な処遇といえます。
東京高等裁判所は、検察官送致決定(刑事処分)が少年院送致より一般的類型的に、少年にとって不利益な処分であり、本件の少年の非行はそこまで進んでいないと判断して、少年の抗告を棄却しました。
1 事案の概要 ~東京高裁平成29年7月13日決定
本件は、19歳の少年が居酒屋で被害者の顔面を瓶で殴り、全治20日間の傷害を負わせた事件です。
少年は過去にも同じ被害者に対して傷害を負わせた前歴があり、少年院送致や保護観察を受けていましたが、その改善が不十分で再び非行に及んでいます。
少年は成人として刑事処分を受けたい旨を主張して家裁の決定に抗告しましたが、最終的に第1種少年院への送致が決定されました。
2 裁判所の判断
1 家庭裁判所の審判のポイント
- 犯行態様は非常に危険で、少年の過去の保護処分歴や矯正教育の取り組み状況から、直ちに社会内での更生を期待することは困難と判断。
- 少年の粗暴性は認められるものの、非行内容に広がりがなく、就労や親族との関係も維持されていることから、犯罪的傾向が進んでいるとは評価しない。
- 第2種少年院ではなく、軽度の矯正を行う第1種少年院が適当と判断。
2 東京高裁の判断のポイント
- 少年は成人として刑事処分を受けたいとの主張をしていたが、検察官送致(刑事処分)は一般的に保護処分よりも少年にとって不利益であるため、適切ではないとした。
- 本件非行が特に重大な被害結果を伴う事案ではない点、少年の犯罪的傾向が著しいとはいえない点から、保護処分が相当と判断。
- 少年を第1種少年院に送致した原決定を支持し、抗告を棄却。
3 本件のポイント ~ 少年法が目指しているもの
本件裁判例は、少年法が掲げる「保護主義」を実際の判断にどのように適用するかを考えるうえで、重要な事例です。
1. 少年法の基本的理念
少年法は、未成年者が刑罰ではなく保護処分を通じて社会復帰を目指すことを目的としています。
このため、非行少年が再び社会で健全な生活を送れるよう、「教育・矯正・保護」が重視されます。
本件では、少年が「成人として責任を取るべきだ」と主張したにもかかわらず、裁判所が保護処分を選択したことは、少年法の理念に基づく判断です。
特に重要なのは、次の2点です:
- 保護処分が矯正教育と再非行防止の観点で最適である場合、少年が成人として刑事処分を望んでいても、その希望が叶えられるとは限らないこと。
- 裁判所が「成人としての責任」よりも「更生の可能性」を優先する姿勢を示している点。
2. 裁判所の判断基準
裁判所は、少年の処遇選択に際して次の点を重視しました:
非行の内容と重大性
- 本件非行は、暴力的で危険性の高い行為ではあるものの、結果として被害が限定的(全治20日間の傷害)であり、「特に重大な事案」とは評価されませんでした。
- また、少年が過去に同様の非行を繰り返していたことから、粗暴性は認められたものの、非行の広がり(他の犯罪への発展)は見られないことが指摘されています。
矯正の必要性と可能性
- 少年が過去に受けた保護処分(中等少年院送致や保護観察)が十分な効果を上げていない点が指摘されています。しかしながら、少年院退院後も就労を続け、親族との関係も良好であったことから、社会復帰の可能性が完全に否定されるものではありませんでした。
- このような事情を総合して、「成人としての刑事処分」よりも「教育を目的とした保護処分」の方が少年にとって適切であると判断されています。
再非行防止の観点
- 再非行を防止するためには、少年が社会内で更生するには至っていないと判断され、矯正施設での教育が必須であるとされました。
- 一方で、少年の犯罪的傾向が著しく進行しているわけではないことから、第2種少年院(より厳格な矯正施設)ではなく、第1種少年院(軽度の矯正施設)が選択されました。