訪問販売を装ったリフォーム工事(特に屋根)のぼったくり被害に対して、各自治体なども注意喚起を行っています。
その手口は悪質で、高齢者を狙い、全く必要性のない工事の契約をさせて、相場よりも著しく高額な金額を詐取するものです。
このような被害に遭ってしまった場合には、自治体や消費者センター、弁護士などに相談をしてください。
また、契約した日から8日以内であれば、何もよりもすぐにクーリングオフの通知を出しましょう。
契約した日を含めて8日以内に通知を発送することが必要です(到着日ではありません)。
この記事では、弁護士による詐欺被害回復の方法(進め方)をご紹介します。
お恥ずかしながら、私は当初、ニュースなどを聞きながら、金額が相場より高いというだけでは、被害回復は容易ではないと思っていました。
しかし、実際にご相談にいらっしゃる方々の被害をうかがうと、「相場より高い」なんてものではなく、「そもそも必要性が全くない工事を、あり得ないほど法外な金額で、現金支払いにて詐取する」手口に驚愕しました。
高齢者(しかも単身者を狙う)の弱みにつけこむやり方は、立派な犯罪行為です。
訪問販売の詐欺被害に遭った場合、弁護士がどのように被害回復を進めていくか、その方法を解説します。
下のチラシのように、各自治体においても注意喚起や、相談先のご案内を行っています。
🔗「お宅の屋根を無料修理しましょうか」と訪問されたら要注意! (文京区HPより引用)
第1 弁護士による被害回復の進め方
1 想定事例
リフォーム業者が、「屋根に剝がれそうなところがあるから見せて欲しい」と突然訪問してきたので、実際に屋根を見てもらいました。
すると、「危ない状態です。直ちに修理をした方がよいです」と言われ、その場で屋根修理の契約書を取り交わし、施工費用として300万円を現金で支払った事例を想定します。
2 被害回復の主な流れ
①事実関係の調査
業者に対する返金要求をするにあたり、どのような請求が可能かを検討します。
その際に、クーリング・オフが可能か、契約の取り消しによる返金が可能か、刑事告訴が可能かを判断するために、時系列による事実整理やお手持ちの資料を確認させていただきます。
【確認したい主な事項】
- いつ、誰と契約をしたのか
- どのような理由(勧誘)を言われたか
- 具体的な工事は、いつから、どのように行われているか
- (書面)契約の書面を確認
- (支払)いつ、誰に、いくらを支払ったか
- (支払)支払方法~現金交付、銀行振込など~領収証の有無
②業者に対する返金要求
クーリング・オフの通知
まず、契約締結日から8日以内であれば、すぐにクーリング・オフの通知を発送します。
クーリング・オフは、理由を問わずに解除が可能となりますが、厳格な時間的制約(訪問販売の場合は、8日以内)が法定されています。
通知方法は、内容証明郵便で送ることが、後の紛争予防には最適です。
仮に8日間が経過していたとしても、クーリング・オフの期間経過が正当化されるのは、事業者から法定の要件を満たす書面が交付されている場合に限られますので、交付された書面が法律上の要件を満たすか確認することも必要です。
詐欺取り消し・債務不履行解除
クーリング・オフができない場合であっても、そもそも工事を行う必要性がないにもかかわらず、工事が必要であると誤信して契約をした場合には、工事業者による詐欺行為といえます。
そのため、騙された契約であることを主張して、詐欺による取り消しをします。
また、工事の必要性があったとしても、訪問販売によるぼったくり工事を行う業者は、まともな工事を行いません。
そのため、建築士などの専門家の協力を得て、まともな工事がなされていないことを理由に、ぼったくり工事の契約を解除します (債務不履行解除)。
想定事例での検討
まず、契約してから8日以内であれば、すぐにクーリング・オフの通知を発送します。
次に、「屋根に剝がれそうなところがある」、「危ない状態です。直ちに修理をした方がよいです」という状態が本当にあるのかを検討します(ほとんどの場合はありません)。
さらに、実際に工事を行っている場合には、どのような欠陥に対して、どのような工事を施して、現状はどうなのか(工事が進行中であれば、直ちに中止させましょう)を確認します。
このような事実確認をしつつ、業者に対して返金要求を行います。
工事が進行すればするほど、請求の根拠となる証拠も少なくなっていきます(屋根の修理の必要性があったのかを確認する手段がなくなってしまいます)ので、この観点からも早いご相談がよいですね。
③法的手続(裁判)へ
上記の通知に対して、業者が反論等をして返金に応じない場合には、訴えを提起します。
訴えるのは、業者だけではありません。
ぼったくり詐欺工事は明らかな違法行為ですので、事業者の社長個人、勧誘を行った従業員個人など、個人で所有している財産からの回収を図るために、社長や従業員も被告として訴えます。
被告に社長や従業員個人を加えて、会社財産だけでなく、社長や従業員の個人財産からも強制執行による回収を狙います。
被告を増やしても、債権は分割されるわけではなく、判決で認められた被害額全額を回収できるまで、それぞれの財産に対して差押えを図ることができます。
3 まとめ
訪問販売に対しては、業者に一切の反論をさせないクーリング・オフがベストな対抗策です。
もっとも、クーリング・オフが使えないとしても、業者から返金を図ることは可能です。
悪質な訪問販売をする業者に対しては、返金を迫ることができます。
泣き寝入りは、悪徳業者をのさばらせることにもなり、また新たな被害者を生み出します。
被害に遭った場合は、知人・友人、自治体(行政)、弁護士など、ためらわずにご相談いただきたいと思います。
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【被害回復手段の解説】「特定商取引法」(訪問販売)を活用する!!第2 クーリング・オフを利用した返金要求
1 訪問販売はクーリング・オフの対象です
クーリング・オフとは、消費者が事業者との間の契約について、理由なく、無条件で、契約の解除ができる権利をいいます。
消費者は、いつも慎重な判断に基づいて契約をしているわけではありません。
訪問販売はその典型で、事業者が不意打ち的に消費者の自宅を訪れますので、契約の是非について判断するのに十分な時間を確保することができません。
そのため、十分な検討をしないまま、消費者が契約をしてしまうリスクが類型的に高いといえます。
そこで、消費者に対して、8日間の検討時間を与え、冷静に判断してもらいます。
不要と考える場合には、契約からの離脱を簡単に認められるようにしています。
🔗「特定商取引法ガイド」ホームページより引用
一般論として、契約の解除をするには、原則として債務不履行などの理由が存在していることが必要です。
もっとも、クーリング・オフは、通常の契約解除とは異なり、理由や条件は不要で、(期間内であれば)自由に解除が認められます。
通知の発送手段
以前は、ハガキなどの「書面」ですることが必要でした。
しかし、法改正によって、令和4年6月からは、メールやFAXでも可能となりました。
確実にクーリング・オフをするためには、複数の手段を併用しても良いでしょう。
「口頭」でのクーリング・オフは法文上は認められていませんが、認めている裁判例もあります。
もっとも、後にトラブルになりやすいので、形に残る方法で通知をした方が良いです。
クーリング・オフ期間(8日間)が開始しない場合
事業者が消費者に対して交付する書面について、そもそも交付していない場合や、記載事項に不備がある場合、クーリング・オフ期間が進行しません(8日間のカウントダウンが始まりません)。
契約した日から8日間が経っている場合でも、事業者から交付された書面を確認してみてください。
特商法4条又は5条の要件を満たさない場合には、8日間のクーリング・オフ期間が始まりませんので、まだクーリング・オフが可能です。
また、「工事を始めたので、もうクーリング・オフはできない。」など、クーリング・オフについて誤った説明を受けた場合には、同様にクーリング・オフ期間が始まりません。
🔗「訪問販売」(特定商取引法ガイド)
2 クーリング・オフのポイント
クーリング・オフがなされると、事業者は消費者に対して、代金を返還しないといけません。
その上、事業者は、消費者に対して、損害賠償も違約金も請求することができません。
さらに、消費者が商品を受け取っていた場合には、事業者に返還する必要がありますが、返還に要する送料は、事業者が負担します。
また、消費者が商品や役務の提供を受けた後にクーリング・オフした場合でも、事業者は使用利益・利用利益を請求できません(商品代金や役務提供の対価を支払う必要がありません)。
取付工事によって、壁に穴を開けたり、地面を掘り起こしたりといった現状変更がある場合には、事業者に無償修復を求められることが規定されました(特商法9条7項、24条7項)。
3 クーリング・オフのまとめ
- 契約「締結日」より、8日以内に通知を「発信」すること(到着ではない)
- 法定書面の不交付、不記載では、クーリング・オフ期間は始まらない
- 理由不要、無条件で認められる
- 事業者は損害賠償も違約金も請求できない
- 返品にかかる費用は、事業者が負担する
- 事業者は、使用利益・利用利益を請求できない
- 事業者は原状回復のために無償修復をする必要がある
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訪問販売に対するクーリング・オフを詳しく解説しました第3 悪質業者に対抗する法的手段・根拠
1 消費者を保護する法律の全体像
消費者を保護する法律の建付けについて、「3階建て建物」と言われることがあります。
下図では、左側が契約締結過程を、右側が契約内容に関する規制を記載しています。
消費者保護を考えるにあたっては、クーリング・オフの規定がある特定商取引法を中心に、被害回復に使える手段を上階から順に考えていきます。
2 返金要求(クーリング・オフだけじゃない)~ 民事責任の追及
すでに8日間が経過しており、クーリング・オフが適用されない場合を検討します。
クーリング・オフが利用できない場合でも、業者に対する返金要求は当然可能です。
①債務不履行責任の追及
詐欺を行うぼったくり業者は、まともな仕事をしません。
適当にやった体裁だけ作って、新たな被害者を探しに行きたいのが本音です。
建築士などの専門家の協力を得ながら、工事の妥当性・適切さを吟味し、酷い工事しかしていないことを理由として、契約の解除と共に返金を求める不当利得返還請求(または損害賠償請求)をします。
損害は、支払い済みのお金だけでなく、中途半端な工事によって原状回復が必要であれば、その費用も追加します。
②不法行為責任(詐欺)の追及
必要性がないにもかかわらず、「屋根が壊れている」、「修理をしないといけない」など、嘘の事実を言われて騙された場合には、事業者の詐欺行為による契約締結といえます。
ほとんどの場合に、この不法行為(詐欺)が成立するものと思います。
そのため、詐欺による不法行為に対して、損害賠償請求を行うことが可能です。
騙されて契約をさせられた場合には、①不法行為による損害賠償や、②詐欺取消しを根拠とした返金要求など、法律的には両方考えられます。
前述した想定事例では、詐欺による取り消しを解説しました。
損害は、支払い済みのお金だけでなく、中途半端な工事によって原状回復が必要であれば、その費用も追加します。
3 行政処分
訪問販売は、特定商取引法の規制対象となります。
具体的には、事業者は氏名等を明示しなければならず、必要事項が法定された書面を交付しなければならない等の規制を受けます。
このような規制に違反した場合には、業務改善の指示(特商法7条1項)や業務停止命令(8条1項前段)、役員等の業務禁止命令(法第8条の2第1項)等の行政処分の対象となるほか、一部は罰則の対象にもなります。
悪質業者に対する行政処分の公表例
- 「瓦がずれていて危ない」などと嘘を告げて、リフォーム工事を勧誘する訪問販売事業者2社に業務停止命令が出された事例
🔗詳細はコチラから(東京暮らしWEB) - 「屋根がはがれそうなところがある」などと消費者宅を訪問し、リフォーム工事を勧誘する事業者に、業務停止命令(3か月)が出された事例
🔗詳細はコチラから(東京暮らしWEB) - 「給湯器の点検をする」などと消費者宅を訪問し、リフォーム工事を勧誘する事業者に、業務停止命令(3か月)
🔗詳細はコチラから(東京暮らしWEB) - 「屋根がはがれているのが見えた」などと消費者宅を訪問し、リフォーム工事を勧誘する事業者に、業務停止命令 (6か月)
🔗詳細はコチラから(東京暮らしWEB)
4 刑事告訴
訪問販売によるリフォーム工事の詐欺は、詐欺罪や特定商取引法違反という立派な犯罪行為に該当します。
なかなか証拠を揃えづらく、立件が難しい難点こそありますが、実際に逮捕されている事例も数多くあります。
証拠を揃えられる限り、刑事告訴も選択肢の1つとして常に念頭に置いています。
「相場より著しく高額な契約をさせられた!」と訴えても、初めからその金額を提示されていれば、一般的に詐欺罪は成立しません。
確かに、業者が「うちは他のどこよりも安いです!」と金額の安さをアピールしている場合には、業者の嘘がありますので、詐欺罪に問い得るでしょう。
しかし、単に「うちはこの金額でやりますが、いかがですか?」では、消費者が相場の金額を知らないだけで、その金額で工事を行う契約自体には納得したはずです。
もちろん、相場からかけ離れた金額ならば、消費者の無知につけこむもので、契約が無効になる場合もありますが、これはあくまでも民事の話です。
警察にとっては、詐欺罪の成立を検討する状況ではありませんので、民事不介入と考えます。
そのため、考えるべきは、業者が事実に反する言動を行い、消費者を騙そうとしたかという視点から考えます。
具体的には、契約金額が高いか安いかという程度問題ではなく、修理する必要性が全くない屋根なのに、「欠陥がある」とか「修理しないといけません」などと、客観的な事実に反した言動を捉えて追及するべきです。
このように追及すべき方法を整えることで、警察も犯罪(詐欺罪)の捜査として動きやすくなると考えます。
民事不介入と言われやすい追及方法
相場より高すぎる金額で契約をさせられました。
こんな高い金額で契約をさせることは、詐欺罪になりますよね?
相場の金額なんて、誰か決めた人がいますか?
「うちは安い」とも言ってませんし、ご納得いただいて契約したはずですが。
契約金額の妥当性が問題であれば、当事者で解決を図ってもらうのが妥当かなぁ。。。
そうなると、警察が口出しすべきか悩ましい。
刑事責任の効果的な追及方法
そもそも屋根に欠陥はなかったのに、「修理をしないと雨漏りする」と嘘をつかれ、騙されて契約をしてしまいました。
修理の必要性があったことは間違いありません。
建築士などの専門家に見てもらって、業者の言い分がデタラメであれば、嘘をついて高齢者を騙したことになる。
これは詐欺罪が成立するか、検討しなければならない!
逮捕事例
逮捕報道① 2024年3月11日時事ドットコム
2023年4月、川崎市幸区の男性に対し、「屋根が飛びそうだ。くぎが効かなくなっている」などとうそを言い、工事代金名目で現金52万3600円をだまし取ろうとした疑いで逮捕した。
同課によると、容疑者らが屋根を壊したとみられる。
屋根にくぎ付けされている板金を上下に揺すり、くぎが抜ける様子を動画で撮影し、男性には「豆腐にくぎが刺さっているような状態」と説明していた。
逮捕報道② 2023年9月27日静岡朝日テレビ
静岡県富士宮市の高齢女性にうその説明をして、必要のない屋根の修理費用をだまし取るなどした疑いで、神奈川県の男ら7人が逮捕されました(詐欺と特定商取引法違反)。
警察によると、7人は共謀して4月下旬富士宮市で、1人暮らしの71歳の女性の自宅を訪問し、リフォーム会社を名乗り「屋根瓦がずれている。
このままだと雨漏りする」などとうその説明をして、必要のない修理費として、現金64万3000円をだまし取るなどした疑いが持たれています。
屋根瓦修繕業の男と自称建築業の男がほかの5人に指示を出し、静岡県内外で100件以上、同様の犯行を繰り返していたとみられ、静岡県には今年3月までに、20件ほどの相談があったということです。
7人は工事1件につき、平均でおよそ90万円を請求していたといい、被害額は少なくとも1億円近くになるとみられています。
第4 当事務所への無料相談方法と弁護士費用
1 訪問販売のリフォーム工事詐欺を弁護士に無料相談する
訪問販売によるリフォーム工事詐欺(ぼったくり)については、手口の悪質性から、初回無料相談を実施しています。
ご来所やオンラインだけでなく、お電話による相談も実施していますので、お気軽にご相談いただきたいと思います。
特にクーリング・オフは、時間との戦いでもありますので、自治体などの相談窓口や弁護士に、早めにご相談されることをお願いしています。
なお、当事務所にご依頼いただく場合には、以下の弁護士費用を頂いておりますので、費用の目安にしていただければと思います。
2 当事務所の弁護士費用(リフォーム詐欺)
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