悪質な販売預託商法のトラブルが増えているという報道を目にします。

具体的にはどのような被害が発生していますか。どのようなことに気を付ければ良いでしょうか。

1 悪質な販売預託商法とは

 「販売預託商法」とは、商品を販売すると同時にそれを預り、第三者に貸し出すなどして、運用して得られた利益を購入者(消費者)に還元すると告げて高額な商品を消費者に購入させる商法です。

 下の図のような取引形態ですが、高齢者を中心に繰り返しトラブルが発生しています。

2 悪質な「販売預託商法」の特徴

  • 高い利率による利益配当や、元本保証をうたって勧誘していることが多いです
  • 商品を購入させるところから取引がスタートします。
  • 購入と同時に預けてしまうので、購入者が商品を確認できません。
  • 預かった商品の運用による利益はほとんどありません。

3 なぜ販売預託商法に騙されるか

①物があるという安心感

 自分が出したお金は、物の購入代金に充てられ、実際に「自分の物」が存在すると思いこまされることが、安心感につながります。  

②お金儲けの仕組みが分かりやすい

 自分自身が経験したことがなければ、儲かる仕組みを実感できません。

 しかし、牛は太らせて霜降りの肉にすれば、高級牛肉として高く売れるという話も想像しやすくなります。

③元本保証の裏付けがあると思いやすい

 取引する事業者が倒産しても、自分の物が実際に存在していれば、損害は最小限で済み、引き渡してもらえれば換金できるから、元本が保証されると考えてしまいます。

4 過去の事例

豊田商事事件顧客に金の地金を販売するが、顧客には地金を引き渡さずに賃借し、賃借料を顧客に支払うという仕組みで、「契約期間が終了すれば、地金か地金相当の金銭を支払う」と謳い事業を行っていました。
ところが、豊田商事は実際には地金を調達していませんでした。顧客には地金の代わりに「純金ファミリー証券」を渡していたため、「現物まがい商法」「ペーパー商法」などとも言われています。顧客から集めた資金の一部はゴルフ場やマリンレジャーといった事業を展開するための不動産取得などに使っていましたが、1985年に豊田商事が破産したことで、事件が大きな社会問題となりました。
安愚楽牧場事件     業者が繁殖牛等を顧客に買戻し特約付きで販売した上で、牛の飼育は業者が行い、繁殖や売却した際の利益等を配当として顧客に支払うという仕組みです。安愚楽牧場は、実際に一定程度牛を飼育していましたが、事実上元本保証の仕組みであったことからポンジスキーム(自転車操業)に陥り、2011年に破綻しました。被害者は7万人を超え、被害額も4000億円以上という大規模な被害が発生しました。
ジャパンライフ事件磁気ベルトなどの健康器具商品を販売し、商品を客から預託を受け、第三者にレンタルすることで、レンタル料を客に支払うという仕組みを謳っていました。年6%という高い利率で顧客を募り、契約満期時は買取価格を全額返し、途中解約時も当初支払い金額を全額返す(元本保証)という契約内容でした。初めから何の利益を生まないポンジースキーム(自転車操業)であり、2018年に破綻しました。被害者は約7000人で、被害総額は約1800億円とみられ、被害者1人あたりの被害額が大きいという特徴があります。

5 預託法改正について

このような消費者被害が多発する中、2021年6月に大幅な法律改正がなされ、名称も「特定商品等の預託等取引契約に関する法律」から「預託等取引に関する法律」に改められました。

(画像は消費者庁ホームページより引用

改正の具体的な内容は、販売預託を原則として禁止し、その違反については行政処分の対象とすると共に、直接重い罰則(5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金または併科)の適用を受けるものとしました。

販売預託の「原則禁止」とは、預託等取引業者は、販売預託の勧誘や契約締結・更新をするには、それぞれの段階で個別に、内閣総理大臣(消費者庁)により、厳格な要件と手続の下で、顧客の財産上の利益が不当に侵害されるおそれがないことをなどの「確認」を受けなければなりません。

すなわち、勧誘前と契約時の2段階で消費者庁の審査を通過した場合のみ、例外的に認められることとなりました。

今回の改正では、消費者からのクーリング・オフの通知が電磁的方法(電子メール等)で行うことが可能になったことや、預託等取引業者自身が売主となる場合のみならず、密接関係者が売りになる場合も規制の対象となるなど、脱法を防ぐ手立ても工夫されています。

6 引き続き注意が必要な理由(悪質業者は法の隙間を狙う)

加工食品のオーナー制度を展開し、1千億円超の負債を抱えて2018年に破産した「ケフィア事業振興会」は、元代表が詐欺罪などで起訴された被害事例ですが、改正された法律の下でも販売預託商法には当てはまりません。

ケフィアのオーナー制度とは、例えば干し柿の事業では、1口5万円でオーナーを募り、長野県の関連会社で干し柿を製造し、7カ月後にケフィアが商品を買い取ってオーナーに5万5250円を支払うという勧誘文句でした。

干し柿は一度も顧客に引き渡されないため、預託期間は所有権がケフィアから顧客(消費者)に移った時期が起算点となりますが、契約書にいつ移転するか明記されていませんでした。

そのため、ケフィアが恣意的に預託期間を決めることができ、預託期間が不明確のため、改正法においても適用外になってしまいます。

7 被害に遭わないために

特別な対策を行う必要はありません。

巷でよく耳にすることがですが、表面的に美味しい話には疑ってかかるべきです。

行動に移す前に、区役所の消費者センターや弁護士などの専門家に相談しても良いでしょう。

①元本保証・確定利回りに嘘はないか

 必ず儲かる、楽して稼げることはありません。

②1人で決めない

 家族や友人など、周囲の人の意見も聞いて、取引の内容をよく考えましょう。