事業者ファクタリングの裁判では、どのような点が争われ、どのような判決がなされていますか?

 事業者ファクタリングは、譲渡債権を早期に資金化することによって譲渡企業に資金を供与する金融的機能があります。
 そのため、資金供与として同様の機能を有する貸付け」(貸金業法2条1項)に該当するかどうかが争われます

 ファクタリング取引が「貸付け」に該当すると判断された場合には、以下の点でファクタリング取引で問題が発生します。

  • ファクタリング業者は貸金業法3条1項に基づく登録が必要になります
  • 譲渡債権の割引によって得られた利得は、利息あるいはみなし利息に該当すると考えられますので、利息制限法の上限金利を超過する部分は無効となります(利息制限法1条)
  • 出資法の上限金利を超過する場合には、取引自体が無効となります(貸金業法42条1項)

 事業者ファクタリング取引は、早期現金化という需要に応えるために、裁判所もその有用性、必要性を認めながら、資金需要者たる利用者(債権譲渡人)の利益にも配慮し、貸金の規制に対する脱法と思われるような取引を規制するような傾向があると考えています。

資金需要への要請と利用者への配慮(脱法の防止)の調整をどう図るか?
【参考】 事業者ファクタリングは合法?問題点を正しく理解して利用検討を!
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事業者ファクタリング取引を利用する前に問題点を知っておこう!
https://ik-law.jp/factoring/

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第1 事業者ファクタリング取引の裁判における主な考慮要素

1 事業者ファクタリング取引を見る基本的視点

 事業者ファクタリング取引は、債権譲渡・債権売買であり、少なくとも買主への引渡し後に生じた目的物に内在するリスクは買主に帰属します

 そのため、債権譲渡後に債務者の信用が悪化したことに起因する譲渡債権の回収不能リスクは、譲渡債権の譲受人(買主)であるファクタリング業者が負担しないといけません。

 事業者ファクタリング取引において、債務者の信用不安事由に起因して生じた債権の回収不能額を譲渡企業(利用者)に対して償還請求できないことは、大原則です。
 仮に、譲渡債権の回収不能額の償還請求を可能とする取引であれば、その償還の程度等により、譲渡債権を担保とした貸付けと評価され、真正譲渡性が否定される可能性が高いものといえます。

2 主な判断要素

経済的リスクの移転

 債務者に対する債権回収不能リスクを、ファクタリング業者(債権譲受人)が負担しているかは非常に重要な要素となります。

 契約書の形式的な条項(文面)だけでなく、実質的に判断されますので、たとえば譲渡人(利用者)に表明保証をさせ、当該表明保証に違反する事態が生じた場合に、その違反を理由に譲渡債権の買戻しを行わせる等、合理的理由の認められない買戻し義務を譲渡人が負っている場合には、担保目的を推認できる可能性が大きいです。
 ただ、売買取引において、売主が売買時点における目的物の状態について担保責任を負うことは一般的ですので、譲渡時点における取引先の信用不安事由の不存在を表明保証すること自体は問題ないと考えられます。

 同様に、債務者の信用不安の発現により生じた回収不能額を譲渡企業に対して償還請求できる旨の規定があるような場合には、担保目的が強く推認できます。
 たとえば、①取引先の倒産等を発動原因とする譲渡債権の買戻しや譲渡契約の解除、②取引先の倒産等によって生じた譲渡債権に係る回収不能額の補償等が考えられます。

債権の譲渡価格が債権譲渡人の信用リスクを考慮して決定されているか

 事業者ファクタリング取引は、サイレント方式の債権譲渡が用いられることから、ファクタリング業者にとって債務者の信用状態を直接判断することができません。
 それにもかかわらず、債務者の債権回収不能リスクを負うとなると、譲渡対価が利用者にとってみれば割高に設定されていたとしても、経済的合理性を有するものと言い得るでしょう。

 もっとも、その譲渡価格の設定において、本来的に債権譲渡人の信用リスクは基本的に影響しないはずです(譲渡人破産の場合における、債権譲渡の対抗要件具備などでの影響は生じ得ます)。
 それなのに、債権譲渡人の信用リスクにより譲渡価格が変化するのであれば、それは償還請求等により、債権譲渡人への請求を念頭に置いていることの何よりの証左と言い得るもので、担保目的を推認できる事情と考えられます。

第2 裁判例の概観

1 事業者ファクタリング取引の真正譲渡を認定した裁判例

【裁判日時等】【判決の要旨】
債権額面の7割から8割程度で売買(債権譲渡)された事案において、売掛債権を担保とした金銭消費貸借契約であり、実質利率が出資法の上限金利を超える等の理由から無効であるとして、不当利得の返還を求めました(東京地判令2・9・18)。・譲渡債権について、第三債務者の無資力リスクを負い、償還請求権を有する者ではなく、債権の買戻しを予定していない。債務不履行リスクが移転していると評価できる。

・譲渡金額も、無資力リスクを負っており、第三債務者への債権譲渡通知を留保することから第三債務者の直接の信用調査が困難であることを考慮すると、その差額は担保目的であることを推認させるような大幅なものということはできない。

・債務者対抗要件である債権譲渡の通知・承諾については、猶予されて原債権者が債権の回収を行うことは、債権譲渡登記制度の制度趣旨からも想定されている。

⇒ 担保の目的とは認められず、出資法、貸金業法が適用される契約とはいえない。公序良俗違反も認定できない。
一連の取引において、毎月の譲渡代金は700万円で一定しており、売買手数料が81~91万円と概ね定まっていた事案において、利息制限法違反により過払分を不当利得返還請求によって求めました(東京地判令4・3・2)。・債権譲渡通知を発信していなくても、取引先への悪影響を懸念してのことで、不自然とは言えない。

・買戻義務はなく、債権譲渡基本契約書にも、受戻権や償還請求権のないことが明記されているだけでなく、毎回第三債務者が異なり、第三債務者の情報を調査している形跡がうかがえ、回収可能性が高くなるような債権を選別していたことが認められる。
 そのため、債権の回収リスクは、ファクタリング業者が負っていたというべき。

・(一定の売買手数料を毎月支払わせる形式や、支払期日前に相殺処理している事実、弁済期が近い債権が対象となっている点から、回収リスクを負っていないとの主張に対し)いずれもファクタリング業者が回収リスクを負わない理由にはならない。

・表明保証については、譲渡対象の債権の存在や瑕疵の不存在について表明保証するものであり、債権を譲渡する以上、不自然な条項とはいえない。

⇒ 買戻義務や回収リスクの負担の事実は認定できず、金銭消費貸借が成立していたとは認めることができない。
利息制限法違反を根拠とした不当利得返還請求(東京地判令3・9・1)。・債務者の債務不履行又は倒産手続の開始による場合には、原告(利用者)は何らの責任を負わない旨が明記され、かつ、支払う必要があるのはあくまで譲渡債権から回収した額とされており、通常の債権譲渡と同様に債権の譲受人が債権回収のリスクを負っている。

・原告は、債務者から回収した限度で支払えば足りるため、譲渡債権を買い戻さざるを得ない立場にあったということはできない。

・表明保証について、譲渡債権の抗弁事由や消滅事由が存在しないことを表明保証の対象とすること自体は、債権譲渡の目的物に法的問題がないことを契約の前提として、譲渡債権の回収のリスクを低減するための合理的な措置である。

⇒ 実質的には金銭消費貸借契約であったとはいえない。
債権譲渡を認定した裁判例

2 実質的に「貸付け」に当たると判断した裁判例

【裁判日時等】【判決の要旨】
原被告間で、継続的に金銭の授受が繰り返され、一定期間後に利息制限法をはるかに超える金員を上乗せして支払わなければなりませんでした。
そこで、法形式上は債権譲渡契約ではあるものの、実態が金銭消費貸借契約に等しいとして、同法違反が主張されました。

判決において、譲受債権のデフォルトリスクをファクタリング業者がほとんど負わないために、債権を取得する意思が希薄であり、利息制限法所定の制限利率による利息を上回る差額を取得することを正当化できる事情がないとして、金銭消費貸借契約に準じると認定しました(大阪地判平29・3・3)。
「金銭消費貸借契約であれば、貸主は、利息制限法所定の制限利率の限度でしか利息を収受することができず、債権の売買契約ということでこれを上回る利益を上げることが正当化されるとすれば、買主が、売買対象の債権につきある程度回収のリスクを負うなど、相応の理由があってしかるべきであるが、上記認定事実によれば、被告は、債権回収のリスクをほとんど負っていない。
 また、被告が上げた利益は、専ら原告との間で繰り返し授受された金員の差額によるものであり、債権を売買の対象としたとはいえ、その代金を一部しか支払わないで済むとか、債権のうち一定の金額分のみをあえて売買の対象とするなど、債権の額面とは無関係に金員の授受がなされていた。
 加えて、原告が買戻しを行わなかった場合には、譲渡債権の全額が回収できたときに初めて債権譲渡代金全額の支払を受けるとか、債権の一定金額分のみの譲渡のために各債務者に債権譲渡通知が発送されてしまうといって不利益を受けるから、本件取引において原告は、買戻しを行わざるを得ない立場にあったものといえる。
 そうすると、本件取引では、金銭消費貸借契約の要素たる返還合意があったものと同視することができる。」
譲渡人(利用者)が破産したので、破産管財人が実質的にみて金銭消費貸借契約にあたり貸金業法42条1項により無効であるとして不当利得の返還を求めました。
250万円の売掛金に対し、諸費用を控除して、198万5044円が入金されていました。

なお、本件は、譲渡人に何らの責任を負わせないことを確認する条項のある、いわゆるノンリコースの規定が設けられています(東京地判令4・3・4)。
・個別契約締結日における債務者の信用に関する表明保証について、いずれも売掛債権等につき債務者の支払不能等の危険性が存在することを示す兆候といえる。

 そして、ファクタリング業者の請求に応じて、売掛債権等を買い戻す義務を負わせる規定があり、買い戻しでは受領した債権譲渡代金よりも通常高額な売掛債権等の額面金額を対価として支払い、さらに表明保証違反により被った損害の一切として、損害又は損失を被らないようにするためにファクタリング業者が支出した費用及び損害又は損失を回復するために支出した費用(弁護士・司法書士費用を含む)、利用者から売掛債権等を譲り受けるための資金調達に要した費用まで支払う義務を負うものとなっている。

⇒ 買戻義務の規定は、債務の保証を求めるものに等しく、支払不能等のリスクを利用者に負担させるものに他ならず、金銭消費貸借契約と同様の経済的機能を有するものということができ、貸金業法42条1項に該当する。
債権譲渡ではなく、金銭消費貸借契約と認定した裁判例

第3 裁判例と簡単な私見

 上記の裁判例を概観しても分かるように、事業者ファクタリングそのものについては、裁判所もその需要や有用性に配慮し、否定する立場は取っていません
 ただ、債務者からの債権回収リスクをファクタリング業者が負っていないような場合には、実質的に「貸付け」に当たると判断します。

 貸付けに該当すると判断した裁判例について、大阪地裁のは途中から債権の一部しか買い取らなくなるなど、かなり悪質性の高いものでした。
 もっとも、東京地裁のは、破産管財人が原告になっている点で特殊といえば特殊なケースではありますが、事案はノンリコース規定の設定を含め、一般的な内容をも含むもので、汎用性が高いものと考えています(むしろ注意したい点は、ファクタリングの高額さを考えると、利用者が破産してしまうのは自然な流れといえます)。

 確かに、信用情報に影響なく、迅速に債権が現金化されるメリットはあります。

 しかし、一般的な銀行融資と比較してあまりに手数料が高額な点を看過してはなりません(ファクタリング業者に対する詐欺事件なども発生しており、業者が高額の手数料を徴収すること自体は、一概に否定できるものではないと考えますが)。
 私自身もそうですが、中小零細企業や個人事業主は、基本的に資金基盤は脆弱な企業が多いと思います。

 ファクタリングの利用は、売上の大幅な減少であり、提供している商品・サービスの値下げに他なりません
 仮に利用する場合であっても、その必要性、有用性を経営者として再度慎重にご検討いただきたいと考えます。

 万が一、悪質な業者に手を出してしまった場合には、断固戦っていくべきです。

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第4 (参考)給与ファクタリング

 給与ファクタリングについては、労基法24条1項(給与は直接支払わなければならない規定⇒債権譲渡しても譲受人は会社に請求できない)との兼ね合いもあり、裁判例においても実質的に貸付けであると判断されており、ほぼ確立していると判断して差し支えない状況です(参考:東京地判令2・3・24など)。

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