1 はじめに

 契約書を確認(作成)して欲しい・・・、弁護士業務を行っていると、このようなご相談が毎日のようにあります。

法律家は、このようなご相談、ご依頼に対して、どのような着眼点を持って仕事をしているのでしょうか。

自分自身で契約書をチェックしたり、作成したりする際に、どのような点に注意をすれば良いでしょうか。

ここでは、そのような疑問に対して、大まかな内容をお伝えできればと思います。

2 契約書を作成する意義

 たとえば、民法には13の類型の契約(売買、消費貸借、委任、請負など)が規定されており、それぞれの類型に沿った意思表示に合致が認められれば、契約書を作成していなくても、法律が規定する権利義務の発生が認められることになります。

 しかし、あくまでも民法や商法などの法律が定めているのは最低限のことです。
法令の定めと異なる内容や、法令に定めがない法律効果の発生を求める場合があると思います。
 このような場合には、その合意を証明する書面、すなわち契約書の作成が必要不可欠となります。

 そのため、なぜ契約書を作るのかは、契約自由の原則のもと、契約当事者の意思に合致した内容をより反映させた合意を形に残しておくため、といえます。

 

 この観点から、契約書において必要としている条項があるか?求めている法律効果を発生する条項になっているか?などの観点で契約書を眺めていくことになります。

【法律家の契約書作成に至る思考過程】

希望する典型契約に応じ、契約書に特に定めを置かないとどうなるかを考える
法律の規定通りで問題ないか?
契約自由の原則から、意図する法律効果(権利義務の発生)を明確化
どういうリスクが発生し得るかを想定して、どういう契約上の手当てをするか検討する。過去の事例をヒヤリングするなどし、「想像力」を働かせる。
法令等への抵触がないかをチェックする
強行規定、公序良俗など、コンプライアンスチェックを行う。

3 契約書の要素

 契約書には、一般的に規定しておくべき内容があります。

 これは、一定の類型の取引を繰り返し行う場合には、雛形を使うことで類型的に検討すべき項目の漏れを防止でき、雛形と異なる部分についてチェックをかける体制にしておくことで、業務の標準化、効率化につながっていくものと思います。

 インターネットなどで雛形を利用するに際しても、その雛形に漏れがないか確認すると良いでしょう。

 以下では、一般的な契約書の雛形を紹介し、チェックポイントを説明していきます。

以下に記載する以外にも、期限の利益の喪失、不可抗力の場合の免責、権利義務の譲渡禁止、秘密保持等に関する条項、契約終了時の残存条項、反社会的勢力の排除等に関する条項なども想定できます。

タイトル
✓印紙
✓前文(当事者の記載も)
✓目的
✓権利義務の内容
✓条件、期限、契約期間
✓解除、損害賠償
✓費用負担
✓規定外事項
✓準拠法・合意管轄
✓後文(契約書の作成通数を含む)

4 各論説明

1 タイトル

 契約書のタイトルは、契約の内容を端的に表す言葉が良いです。

たとえば、売買契約書、業務委託契約書などです。

ただし、注意しなくてはならないのは、契約書の効力が生じるのは、あくまでも契約書に記載されている内容であって、タイトルに縛られるわけではありません。

雇用契約の潜脱意図を有しながら、「業務委託契約書」を交わしたとしても、その実質が雇用契約であれば、×業務委託契約ではなく、雇用契約が成立します。

 また、「覚書」や「合意書」とのタイトルであっても、内容が当事者間に権利義務を生じさせるに十分な内容であれば、その締結によって効力を生じることになります。

2 印紙

 印紙税法上の課税文書である場合には、契約書の原本の通数に応じて、印紙を貼付けし、消印する方法で印紙税を納付することになります。

3 前文

 誰と誰が当時者で、どのような内容について、どのような意図で締結しようとしているのかを明確化します。仮に契約書の文言や、規定していない不測の事態が生じた場合であっても、契約書の解釈にあたり、裁判所の指針にもなり得るものです。

4 目的

 前文と同様に、契約書の解釈にあたり重要になります。たとえば、何が契約の目的かを明確にすることで、契約の目的を達しない場合には解除できるという場合には非常に重要なものとなります。

5 権利義務の内容

 契約のまさに肝となる部分です。意図する法律効果をイメージし、リスクを想定しながら作成します。

 また、契約の目的物がある場合には、その目的物を別紙を利用するなどして、できる限り詳細に特定し、疑義が残らないようにする必要があります。特に、その目的物が契約時に存在せず、契約書に基づいて作成される場合には、その仕様を詳細に特定し、完成した目的物が契約の本旨に従っているかどうかを見極める基準を明確にする必要があります。

6 条件、期限、契約期間

 権利義務の発生に条件をつける場合には、何が条件なのかを明確に特定するようにします。また、権利義務の履行に期限をつける場合には、期限を経過した場合のペナルティ(遅延損害金など)や、期限の利益の喪失について定めるべきか検討します。

 さらに、継続的な契約関係について期間の定めを置く場合には、期間内解除の可否、期間満了時の取り扱い(更新・延長の有無、更新拒絶等の事前通知の要否など)をあわせて定めることが一般的です。

7 解除、損害賠償

 相手に契約の本旨に従った履行をしない場合には、民法を根拠として契約の解除が可能です。ただ、契約書上においても、一定の事由が生じた場合に解除できる旨を明確にしたり、無催告解除を可能としたりする特約を設け、契約関係からの離脱を早期に実現できるようにすることが一般的です。

 また、解除事由の発生や解除を行う場合に、不履行当事者に対して損害賠償請求ができる旨を定めておき、損害賠償の予定・違約金の定めを置くことも検討事項になります。

8 費用負担

 契約の締結、履行に関して費用が発生する場合には、その費用負担を誰が持つのかを明確にしておくと良いでしょう。

9 規定外事項

 契約書に定めがない事項や規定の会社に疑義が生じた場合の取り扱いを定める条項です。

一般的に、法令に従うことや当事者の協議により解決する、などの内容であれば問題ありませんが、当方に不利な内容がないかを確認すべきです。

10 準拠法・合意管轄

 特に契約当事者が遠方にいる場合には、予め定めを置いておくと良いです。

11 後文(契約の作成通数を含む)

 契約書を何通作成し、原本を誰が所持するかなどが記載されることが一般的です。

 紛争となった時に、原本が何通作成され、誰が原本を所持しているのかが意味を持つ場合もあり得るために設けられます。

12 契約書作成日

 後日の証明手段として、いつ作成されたかが重要な意味をもつ場合がありますので、記入漏れにご注意ください。

13 当事者の署名捺印もしくは記名捺印

 前文に記載された当事者について、権限のある者(法人であれば代表者等)が署名捺印もしくは記名捺印して作成されます。

署名(記名)捺印欄には、どういう立場で署名(記名)捺印する者なのかを明確にすることが必要です。