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【事例】2件の万引きで第1種少年院送致となったケース(東京家裁令和3年2月9日決定)

事例ポイント

保護処分歴がない万引きのケースで少年院送致となっており、更生に向けた環境整備の重要性を示唆するケースです。

【事案の概要】

 1件目は、商業施設にある書店から、コミック本19冊(販売価格合計1万0048円)を万引きしました。

 2件目は、コンビニエンスストアから、トランプ一式(販売価格660円)を万引きしました。

【決定の要旨】

 本件非行は2件の万引きであるが、その経緯を踏まえると軽微な事案と評価することは相当でない。すなわち、少年は幼少期から窃盗を繰り返して、その都度周囲から再三指導を受けたにもかかわらず、自制できないまま本件を立て続けに起こしており、本件は少年の窃盗に対する規範意識の鈍麻と物欲に関する衝動性の強さが表出したものといえる。

 また、少年は、交友関係に影響される形で、生活の乱れや問題行動が拡大しつつある。
 そして、その背景には、注意欠陥多動症疑いと診断されているように、不注意や多動性、我慢や自制が効きにくい少年の資質面の課題が強く関係しており、これまでの成育歴に起因する根深いものといえる。

 少年は、観護措置手続の中で内省を深めているものの、少年の上記資質面の課題が根深く、これまでの指導が歯止めにならなかった上、少年鑑別所の生活でも自制できずにいる面が見受けられることから、少年の再非行防止には外部からの継続的な働き掛けが必要な状況であるが、少年の周囲には適切な働き掛けを期待できる社会資源を見出し難い。

 以上のことからすると、少年に保護処分歴がないことを考慮しても、少年を第1種少年院に送致して、専門家による矯正教育を通じて規範意識の涵養と自己統制力の獲得が必要かつ相当とした。

【メモ】

1 非行事実の軽重に対する評価

 非行事実は、要保護性(非行性)の顕在化と捉えられますので、その動機・目的が本人の性格的な問題点を解明する観点から重視され、犯行後の対応なども環境的な問題として考慮されます。
 そのため、非行事実の軽重は、単に行為と結果だけではなく、非行に至る経緯や動機、常習性、組織性、計画性等の事情も加味して判断されます。

 今回の決定は、2件の万引きで、行為や結果に着目すれば軽微とはいえないものの、幼少期より窃盗を繰り返して再三の指導を受け、直前に友人の制止も聞かずに万引きに及んでいることなど非行の背景にある経緯も併せて考慮した結果、「軽微な事案と評価することはできない」と判断されています。

2 保護処分歴がないこと

 少年の資質面の課題が根深い状態にあることや、これまでの周囲の指導が功を奏しなかったことを踏まえ、試験観察を選択することは困難と判断されました。

 事案の内容と要保護性の程度に即して健全な判断を個別的に行っていくしかなく、初回係属であっても、少年院送致を選択することが必要な場合はあるとされています。

3 資質面の特性について

 実務においては、少年の要保護性を検討するためには、家庭裁判所調査官による社会調査が活用されています。

 本決定では、少年の資質面の特性として注意欠陥多動症疑いが指摘されていますが、単にこの資質面の特性があることから少年院送致という結論にしているわけではありません。
 その資質面の特性が窃盗をはじめとする多数の問題行動につながっており、本件非行と強く関係している上、成育歴に起因した根深いものとなっていることを具体的に検討したうえで、最終的な結論に結びつけています。

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