ゲーム依存14歳の住居侵入保護事件で児童自立支援施設送致を取消した事例
ゲーム依存状態の少年(非行時14歳1ヵ月の中学3年生)がゲーム場所を確保しようと考え、空き家であるか確認するために他人の家に侵入した事案について、広島家裁は、児童自立支援施設に送致する決定をしました。
これに対して、少年側が処分不当を理由に抗告を申立て、抗告を認めて原裁判所に差戻したのが本件高等裁判所の決定です。
本件の少年は、本件の後の差戻審において、3ヵ月余りに及ぶ在宅試験観察の後、高校受験を待たずに少年を一般短期保護観察に付する旨の決定がなされ、確定しました。
なお、試験観察中、一度もゲームをすることがなかったとのことです。
1 事案の概要と原決定(広島家裁)の要旨
1 事案の概要
本件は、ゲーム依存の状態にあった少年(当時14歳1か月)が、家族に怒られずに長時間ゲームで遊ぶことのできる場所を確保しようと考え、空き家のように見えた住居(被害者宅)について、実際に空き家であるか確認しようと侵入した「住居侵入の事案」です。
ただ、少年も、空き家ではなく、住居かもしれないとの認識はあったようです。
2 原決定の要旨
①少年は、小学4年生時に同級生宅に侵入し、ゲーム機等を盗んで児童通告を受けたほか、中学校進学後も、ゲームセンターに行くために他人の自転車を持ち去る、父親の叱責や勉強を避けるため家出をし、友人宅に侵入してゲーム等を盗む、空き家と思しき家に侵入して寝泊まりする、などの触法行為を繰り返していました。
②少年は、潜在的能力は高いが、その性格上、物事に取り組む意欲が持続しにくい。
③少年は、幼少期に母親と死別し、父親も単身赴任で遠方に居住する中、父方祖父母と同居し、いつも寂しさを感じており、学業のことばかりいわれる不満からゲームに没頭しました。
その結果、学業に支障を生じるとともに、家族からの叱責を避けるため家出をするなどして、他人の住居等への侵入を繰り返していました。
④これまで、少年は、父親の意向で中学1年時、ゲーム依存からの離脱のため約1か月間、心療クリニックに入院したほか、医師や父親と「ゲームセンターには行かない」、「宿題をする」などの約束をしたり、○○児童相談所に通い、児童福祉司の指導を受けたり、高校受験に向けての学習塾に通う予定でもありました。
それにもかかわらず、本件非行(住居侵入)を起こしているのであって、こうした家族や警察、児童福祉司の関与等が非行の歯止めとなりませんでした。
少年の問題点は未だ根深く、明確な枠組みを持った環境下で生活態度の改善を行う必要があるが、少年の非行性の程度に照らせば、少年院ではなく児童自立支援施設に送致し、家庭的な雰囲気の中で少年の特性に応じた専門的かつ一貫した教育を行い、社会的スキルを獲得させ、再非行の防止を図るのが相当である。
2 高等裁判所が原決定を取消した理由(広島高決令元年8月28日)
1 高校への進学
少年は、現在、中学3年生であり、本年△月から高校受験のための塾への入会を予定するなど、相応の真剣さをもって高校進学を希望しているところ、児童自立支援施設を含む収容処遇を受けると、来年度の高校進学は相当に困難となることがうかがわれる。
前記のような少年の進学に向けての意欲や鑑別結果報告書に記載された少年の資質・能力を踏まえると、来年度の高校進学が困難となることは、少年の将来にとって、相当な不利益であることは否定できず、本件の処遇選択に当たっては、この点も十分に考慮する必要がある。
2 非行事実の悪質性
本件非行事実の悪質性については、原決定中では、特に評価を示していないが、住居侵入事案であり、その目的は、家族の目の届かないところでのゲームの遊び場を確保したいというもので、「空き家なら他人に迷惑をかけることもないだろう」との安易で独善的な認識はそれ自体、当然問題視されるべきこととはいえ、このような動機自体は、同種事案の中において特に悪質なものとまではいえない。
3 非行性の程度
次に、非行性の程度についてみるに、原決定は、この点を重く見たものと解される。
確かに、少年は、これまで、ゲーム関係品や現金の窃盗や、家出のための邸宅侵入等の触法事件を起こしてきており、ゲーム依存の度が強く、衝動性の高い性格傾向をも踏まえれば、ゲームに関連した再非行のおそれは否定しがたい。
しかし、その生活状況をみると、学校生活等において特段の問題行動も見当たらず、不良親和性も不良交友も認められない。
少年の非行性はゲームに関連した限局的なものにとどまり、深刻化しているとまではいい難い。
なお、この点に関連し、原決定は、これまで、家族や警察、児童福祉司による働きかけにもかかわらず、少年の非行に歯止めがかかっていないことを問題視している。
しかしながら、少年にとって家庭裁判所に送致されたのは本件が初めてであり、これまで、少年は、保護処分はもとより、家庭裁判所による教育的措置についても受けたことはないのであって、前記の非行内容及び非行性等からすると、本件は、まずもって、社会内処遇による改善更生の方策が検討されるべき事案であったといえる。
3 付添人(弁護士)提出の証拠による少年の環境整備
①少年の事件当時の通学先の校長は、「少年は、欠席も少なく、落ち着いた学校生活を送っており、授業態度も良好である」などと述べている。
②少年は、少年作成の「抗告申立書」と題する書面において「今回、初めて逮捕、観護措置等を経験し、罪の重さを痛感した。これまで、勉強や家族からの叱責など、嫌なことから逃げていたが、怒られる原因はすべて自分にあった。今は勉強の楽しさを知り、ゲームに代わる面白いことのように感じている。今後はゲームを断ち、勉強最優先にする。高校入試を目指して全力で努力する。」などと述べている。
③少年の実父は、原決定時、少年の児童自立支援施設送致を希望していたが、原決定後、嘆願書を提出し、「原決定後、少年は、真摯な反省を見せている。今後は、父方祖父母と協力し、これまで至らなかった点を改善し、少年を全力でサポートするので、少年を、普通の学校に通い、友人らとともに高校に進学できる環境に戻してほしい。」などと述べている。
④少年の祖父母においても、原決定時、「少年の監護に自信がない」などと述べていたが、原決定後、嘆願書を提出し、少年の社会内処遇を強く希望している。
4 裁判所の判断
これらの事情も踏まえると、少年は、中学校生活に相当程度適合していた状況がみてとれるほか、今回、観護措置等を経て少年が自分なりに内省を深め、高校入試という具体的な目標に向けて前向きな姿勢を示し、これを受けて保護者である実父や、監護者である父方祖父母が、再度、社会内で少年を受け入れ、その更生について、3名が協力して支援していく意向を明確にしていることが認められる。
検討すると、本件については、在宅試験観察の措置をとるなどして少年の社会内での生活状況を見た上で、特に問題がない限りは、基本的に社会内処遇を選択するのが相当であるというべきである。
なお、祖父母は高齢であり、その監護能力には限界があり得るが、仕事の関係で少年と離れて生活している実父においてもこれまで以上の協力を約束しているほか、保護観察処分となれば、補完的に保護観察所の適切な支援も期待されるところでもある。
そうすると、原決定は、社会内処遇の可能性を十分に調査・考慮することなく、収容処遇である児童自立支援施設送致を選択した点で、その処分は著しく不当であるといわざるを得ない。
5 原審と本件の結論を分けたポイント
原審と本件の評価の違い
【原決定】
少年がゲーム依存状態にあり、これまでゲーム関係品の窃盗や、家出のための邸宅侵入等の触法事件を繰り返し、診療クリニックへの入院や児童相談所における指導等の介入措置を経ても非行性が解消されずに本件に至っていることを重視しました。
【本決定】
本決定は、学校生活等において特段の問題行動はなく、不良親和性も不良交友もない少年の生活状況等をみれば、少年の非行性はゲームに関連した限局的なものにとどまり、深刻化しているとまでは言い難いと判断しました。