性犯罪と少年事件 ~ 現状と弁護士に求められること
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少年事件の性犯罪には、どのような特徴がありますか?
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令和5年版犯罪白書によると、少年による強制性交等の事件は年間で220件、強制わいせつの事件は年間で485件でした。
このうち、女子が加害者となったのは合わせて7件で、ほとんど全てが男子による犯罪です。
少年事件は、共犯事件の割合が大きいです。
中でも、強盗や恐喝は、全体の半数ほどが共犯事件となっています。
一方、強制わいせつは、95%以上が単独犯です。
強盗や恐喝は不良仲間と交流するうちに感化されて犯罪に至るケースが多いのに対して、性犯罪はその場の衝動で犯罪に至ってしまうケースが多いと言えるでしょう。
令和5年の刑法改正で、強制わいせつ罪は不同意わいせつ罪となり厳罰化の方向での改正が行われました。
今後、少年の性犯罪についても厳しい処分が下される可能性は高くなるでしょう。
今回は、性犯罪の厳罰化に触れたうえで、少年が不同意わいせつ罪で逮捕された場合の流れや不同意わいせつ罪の付添人活動について解説します。
第1 性犯罪の厳罰化
令和5年の刑法改正で、強制わいせつ罪は不同意わいせつ罪に、強制性交等罪は不同意性交等罪に改正されました。
いずれも、改正前の犯罪より処罰範囲が広げられています。
また、時効についても、強制わいせつ罪は7年であったものが、不同意わいせつ罪では12年となっており、性犯罪を厳罰化する方向での改正が行われたと言えるでしょう。
1. 強制わいせつ罪は不同意わいせつ罪に
強制わいせつ罪は、13歳以上の人に対して、「暴行又は脅迫」を用いてわいせつな行為をした場合、もしくは、13歳未満の人に対して、わいせつな行為をした場合に成立する犯罪でした。
不同意わいせつ罪は、「暴行又は脅迫」という手段がなくても、被害者の同意なくわいせつな行為をした場合に成立します。
たとえば、被害者がアルコールの影響により正常な判断ができない状態であったり、職場での上下関係から拒絶の意思を表しにくい状況であったりした場合に、その状況に乗じてわいせつな行為をすると不同意わいせつ罪が成立する可能性があります。
不同意わいせつ罪は、強制わいせつ罪に比べて犯罪が成立する範囲が広いと言えるでしょう。
また、不同意わいせつ罪は、同意の有無を問わず、16歳未満の人に対してわいせつな行為をした場合にも成立します。
強制わいせつ罪では処罰されなかった13歳以上16歳未満の人に対するわいせつ行為についても、不同意わいせつ罪では処罰の対象となります。
なお、同意がある場合でも13歳以上16歳未満の人に対する不同意わいせつ罪が成立するのは、加害者が5歳以上年上の場合のみです。
つまり、中学生同士の恋愛で不同意わいせつ罪が成立することはありません。
ただし、19歳の少年が14歳の少女と交際する場合には、不同意わいせつ罪が成立する危険性があるため注意が必要です。
2. 不同意わいせつ罪の構成要件
不同意わいせつ罪が成立するのは、次の4つの類型に分けられます(刑法176条)。
- 刑法176条1項各号を原因として、被害者が同意しない意思を形成、表明、全うするのを困難な状態にさせて、それに乗じてわいせつな行為をした場合
- わいせつな行為ではないと誤信させる、もしくは人違いに乗じてわいせつな行為をする場合
- 16歳未満の人にわいせつな行為をした場合(相手が13歳以上16歳未満の場合、加害者が5歳以上年長の場合に限る)
- 13歳未満の人にわいせつな行為をした場合
(不同意わいせつ) 第176条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。 二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。 三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。 四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。 五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。 六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。 七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。 八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。 2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。 3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。 引用:刑法|e-Gov法令検索 |
第2 少年による性犯罪の現状
令和5年版犯罪白書によると、少年による刑法犯の検挙人員は21,401人で、そのうち220人が強制性交等罪、485人が強制わいせつ罪で検挙されています。
【参照】🔗令和5年版犯罪白書|法務省
近年、成人による性犯罪は厳罰化の傾向にありますが、これは少年にも当てはまります。
強制性交等罪はもちろんのこと、強制わいせつ罪でも少年院送致となる事例は少なくありません。
電車内での痴漢行為は、迷惑防止条例違反に止まるケースもありますが、行為がエスカレートして被害者の下着の中に手を入れると、不同意わいせつ罪で検挙されてしまいます。
痴漢行為で検挙されると、重い処分を受ける可能性も高く、余罪があると1度の逮捕では済まないケースもあります。
少年が性犯罪で検挙された場合には、初期の段階から弁護士を付けるなどして適切に対処しなければ、重い処罰が下されてしまう可能性が高いでしょう。
第3 少年が不同意わいせつ罪で逮捕された場合の流れ
少年が不同意わいせつ罪で逮捕された場合には、引き続き勾留される可能性が高いでしょう。
逮捕されると、逮捕から72時間以内に勾留されるか釈放されるかが決まります。
勾留が決まると、逮捕に引き続いて10日間勾留されることになります。
事件が事件の内容によっては、勾留の期間が最大で10日間延長されます。
内容に争いがない事件や、被害者との示談が成立した場合には、勾留期間は10日間で終了する可能性が高いでしょう。
しかし、少年が事件を認めていない場合や共犯事件など10日間の勾留で捜査が終わらないときには、最大で勾留が10日間延長される可能性があります。
勾留が終わると、少年は家庭裁判所に送致されます。
家庭裁判所では、観護措置決定で少年を少年鑑別所に収容するか否か、少年審判を開始するか否かの判断をします。
不同意わいせつ罪で逮捕・勾留された事件では、多くの場合、少年審判開始の決定が下されるでしょう。
少年審判を開始するケースでも、事案によっては観護措置決定がされずにこの時点で釈放されることもあります。
少年鑑別所に収監されると、原則としてそこから4週間は鑑別所内で生活することになります。
少年審判では、保護観察処分となるケースが多いものの、事案によっては初犯でも少年院送致となる可能性もあるでしょう。
第4 不同意わいせつ罪と付添人(弁護人)の活動
少年が不同意わいせつ罪で検挙された場合の、付添人の活動としては、少年のサポートや被害者との示談交渉により、少年が逮捕されるのを防ぐ、逮捕された少年が早期に釈放されるよう行動するといった内容がメインとなります。
ここでは、具体的な付添人活動の内容を紹介します。
1.少年の内省を深める・少年のサポートをする
少年が事件の内容を認めている場合には、少年に罪の重さを自覚させ、再び犯罪を犯さないように内省を深めさせることが重要です。
少年の動機を詳しく聞いて、犯罪を繰り返さないためにはどのように行動すべきなのかを共に考えます。
少年が逮捕されているケースでは、取り調べに対応するためのアドバイスを行ったり、今後の見込みを伝えたりして、少年のサポートを行います。
逮捕された少年は、外部との連絡が取れずに大きな不安を抱えています。
その不安を少しでも和らげることが付添人の大きな役割となるでしょう。
2.被害者との示談交渉・被害弁償を行う
不同意わいせつ罪で重い処分を免れるためには、被害者との示談を成立させることが何よりも重要となります。
性犯罪の被害者は、示談交渉に拒否反応を示すケースも多いです。
被害者がどうしても示談交渉に応じてくれない場合には、被害者への損害賠償金を供託したり、贖罪寄付をしたりなど、他の手段を検討することも必要です。
3.少年が社会生活に復帰するための環境調整を行う
不同意わいせつ罪で逮捕・勾留されると、退学処分や解雇処分により、少年が社会に復帰しても戻る場所がなくなる可能性があります。
付添人は、少年がいつごろ釈放されるかを予測して、拘束が長く続くようであれば学校や勤務先と処分を免れるための交渉を行います。
拘束が短期間で済むケースでは、少年が釈放される前に学校や勤務先に逮捕の事実を知られないよう行動することも少なくありません。
もちろん、保護者との関係も重要です。
少年が家庭に戻ったときに、保護者がしっかりと少年を監督できるよう助言・指導を行うこともあります。