ブログ

不正指令電磁的記録に関する罪とは?作成罪等の構成要件を解説

不正指令電磁的記録に関する罪は、一般に「コンピュータ・ウイルス作成罪」とも呼ばれ、コンピュータ・ウイルスやマルウェアなどをめぐる重要な犯罪類型です。

もっとも、どのようなプログラムが「不正指令電磁的記録」に当たるのかは、単に使用者の意図に反して動作するかどうかだけで決まるわけではありません。

特に、刑法168条の2第1項1号では、「反意図性」と「不正性」が重要な要件となります。

また、本罪には、作成・提供・供用・取得・保管など複数の犯罪類型が定められており、それぞれ構成要件が異なります。

本記事では、刑法168条の2・168条の3について、各犯罪類型の構成要件を整理するとともに、Coinhive事件の最高裁判決が示した「反意図性」「不正性」の判断枠組みにも触れつつ、解説します。

※ 本記事は比較的一般的な理解を説明するものです。

※ また、公開日の情報を基に作成しています。

不正指令電磁的記録に関する罪(コンピュータ・ウイルス作成罪)の全体図。準備・所持、流通、実行のタイムライン、反意図性と不正性の判断基準、刑事弁護のポイントをまとめた概念図。
不正指令電磁的記録に関する罪(コンピュータ・ウイルス作成罪)の各罪の構成要件と判断基準の全体像

目次

1 不正指令電磁的記録に関する罪とは

(1) 新設の経緯と目的

今日、電子計算機(コンピュータなど)は極めて重要な社会的機能を有しており、多くの社会活動がプログラムによる情報処理に依存しています。

コンピュータ・ウィルス等が使用者の意図に反して実行され、これらプログラムが正常に作動しない、データ破壊や情報流出を引き起こす事態を放置すれば、情報処理システムに対する社会一般の信頼が失われ、円滑な社会活動が困難になります。

本罪の新設前は、電子計算機損壊等業務妨害(刑法234条の2)、電磁的記録毀棄罪(258条)が成立し得るにとどまっていました。

不正指令電磁的記録に関する罪(一般に「コンピュータ・ウイルス作成罪」とも呼ばれます)は、平成23年の刑法改正により、サイバー攻撃による被害の深刻化や、欧州評議会の「サイバー犯罪に関する条約」の受諾・発効に向けた国内法整備の一環として新設されました。

(2) 処罰の対象

本罪は、正当な理由がないのに、人のコンピュータにおいて実行させる目的で、コンピュータ・ウイルスなどの「不正な指令」を与える電磁的記録を作成・提供・取得・保管・供用する行為を処罰します。

2 保護法益

(1) 社会的な信頼の保護

  • 本罪の保護法益は、「電子計算機のプログラムに対する社会一般の信頼」であると解されています(立案担当者)。
    • 特定の個人のプライバシーや財産を守るという個人的法益ではなく、プログラムが「意図した通りに動き、意図しない動作はしない」という社会全体の信頼(社会的法益)を保護することを意味すると言えます。
    • そのため、本罪は実害の発生が要件とされていません。

(2) 学説の展開

ア 抽象的法益への批判

  • 通説のいう「社会一般の信頼」という概念は極めて抽象的であり、処罰範囲が不明確になりすぎるという批判が学説からなされています。

イ 情報セキュリティ(CIA)重視の立場

  • 一部の学説では、社会的な信頼に加えて、個人の法益としての情報セキュリティ、すなわち機密性(Confidentiality)、完全性(Integrity)、可用性(Availability)の三要素(CIA)の侵害を並列的に保護法益として捉えるべきであると主張しています。
  • この立場によれば、これら三要素を侵害する可能性があるプログラムのみが処罰対象となると解釈されます。

ウ 実害発生の重視

  •  また、処罰範囲を限定するために、情報の窃取やデータの損壊、システムの妨害といった「実害」を生じるものに限定して本罪の客体を定義すべきであるとの主張もあります。
  • しかし、立法過程では、実害が発生する前の予備的段階を捉えて処罰することに主眼が置かれたためか、現在の通説的見解には至っていません。

(3) 電子計算機の社会的機能の維持

  • プログラムに対する信頼を保護することは、ひいては社会的基盤となっている電子計算機による情報処理が円滑に機能することを保証することにつながる面もあると言えます。
  • 最高裁も、本罪は「電子計算機による情報処理に対する社会一般の信頼を保護し、電子計算機の社会的機能を保護する」ことを目的としていると明示しています。

3 不正指令電磁的記録作成・提供罪(刑法168条の2第1項)

刑法168条の2第1項における不正指令電磁的記録の「作成罪」と「提供罪」の構成要件を整理した概念図。共通要件である「違法性」「実行供用目的」や、各罪の具体的な行為態様を比較・解説。
刑法168条の2第1項(作成罪・提供罪)の構成要件と共通要件

(1) 条文

正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
 一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録 
二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録

(2) 1項の柱書・全体

一般的には、反意図性・不正性が正面から論じられることが多いですが、
以下では、条文の順番に沿って説明をしていきます。

ア 正当な理由がないのに

  • 「違法に」を意味します。
  • 規定が設けられた趣旨
    • 例えば、ウイルス対策ソフトの開発・試験等を行う場合には、自己のコンピュータで、あるいは、他人の承諾を得てそのコンピュータで作動させるものとして、コンピュータ・ウイルスを作成すること等があり得えます。
    • このような場合には、「人の電子計算機における実行の用に供する目的」が欠けることになると考えられますが、このような場合に本条の罪が成立しないことを一層明確にする趣旨で、「正当な理由がないのに」との要件が規定されたと考えられています。
  • 正当な理由の有無については、他の違法性に関する判断の場合と同様に、行為の目的や態様など諸般の事情を考慮して、判断されることになると考えられています。
    • 法令又は正当な業務による行為(35条)、正当防衛(36条1項)に該当する場合も、正当な理由があるということになります。

イ 人の電子計算機における実行の用に供する目的

    • 犯人以外者の者を考えられています。
    • 本罪の「実行の用に供する」に当たるためには、不正指令電磁的記録等が動作することとなる電子計算機の使用者が不正指令電磁的記録等であることを認識していないことが必要と解されています。
    • そのため「人」には、不正指令電磁的記録等であることを認識している第三者は含まれないこととなると考えられています。
  •   電子計算機
    • 自動的に計算やデータ処理を行う電子装置などと言われます。
  • 実行の用に供する目的
    • 1項の罪は目的犯と考えられています(主観的違法要素)。
    • 「実行の用に供する」とは、不正指令電磁的記録を、電子計算機の使用者にはこれを実行しようとする意思がないのに実行され得る状態に置くこととされています。
    • 「実行の用に供する」に当たるためには、その不正指令電磁的記録が動作することとなる電子計算機の使用者において、それが不正指令電磁的記録であることを認識していないことが必要とされています。
      • 提供罪においては、「提供」自体は、不正指令電磁的記録であることを認識している者に取得させる行為とされ提供の相手方は事情を知っている必要がありますが、提供の相手方以外の第三者であってそれが不正指令電磁的記録であることを認識していないものの電子計算機で実行され得る状態に置く目的があることが必要とされています。
    • 「実行の用に供する」具体例として以下のようなものがあげられています。
      • 不正指令電磁的記録の実行ファイルを電子メールに添付して送付し、事情を知らず、そのようなファイルを実行する意思のない第三者のパソコン上で実行され得る状態に置く場合
      • 不正指令電磁的記録の実行ファイルをウェブサイト上でダウンロード可能な状態に置き、事情を知らない第三者にそのファイルをダウンロードさせるなどして、そのようなファイルを実行する意思のない者のパソコン上で実行され得る状態に置く場合

ウ 次に掲げる電磁的記録その他の記録

  • 次に掲げる
    • 各号の解説で触れます。
  • 電磁的記録
    • (刑法7条の2)で定義されている通り、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるもの
      • 記録媒体の上に情報あるいはデータが記録・保存されている状態を前提としており、情報あるいはデータそれ自体や記録媒体そのものを指すものではないと考えられています。
      • 記録といい得る程度の永続性を有することが必要とされ、回線上や通信中のデータや処理中のデータは含まれないと考えられています。
  • 対象となる電磁的記録
    • 本罪の対象となるのは、168条の2第1項各号に定める電磁的記録です。これには実行形式のファイル(バイナリコード)だけでなく、ソースコードや、ソースコードを印刷した紙媒体なども含まれるとされています。
    • 不正指令電磁的記録に関する罪は、コンピュータ・ウイルスを対象とすることを前提としています。
    • この罪の対象となるものは、他のプログラムに寄生して自己の複製を作成し感染する形態のものに限られるわけではないと考えられています。
    • 以下のようなウィルスも含まれ得ると考えられています。
      • トロイの木馬
        • 一般に、無害のプログラム等であるかのように見せかけて、コンピュータ使用者が気付かないうちに、破壊活動やデータの流出等を行うプログラムを指すとされます。
      • ワーム
        • 一般に、他のプログラムに寄生せず、単体で自己増殖するプログラムを指すとされます。
      • スパイウェア
        • 一般に、コンピュータ使用者が知らないうちにインストールされ、様々な情報を収集するプログラムを指すとされる。

エ    作成

  •  「作成」とは、不正な指令を与える電磁的記録を、新たに記録媒体上に存在せしめることをいいます。プログラミング言語を用いてウイルス・プログラムのソースコードを完成させる行為などがこれに当たります。
    • 既存のプログラムをコピーするだけでは作成には当たらないと考えられています。
    • ただし、実行供用目的を有して保管した場合には、保管罪が成立し得ます。

オ 提供 

  • 「提供」とは、不正指令電磁的記録等であることの情を知った上でこれを自己の支配下に移そうとする者に対し、その支配下に移して事実上利用し得る状態に置くことをいいます。
  • メールへの添付送信や、記録媒体(CD-R等)の交付などが典型例です。
    • 提供罪の対象は「次に掲げる電磁的記録その他の記録」のみ、供用罪の対象は「前項第1号に掲げる電磁的記録」と、それぞれ規定され、いずれも、「人の電子計算機における実行の用に供する目的」で作成されたものには限定されていません。
      • したがって、提供罪の対象となる不正指令電磁的記録については、その作成時における目的のいかんを問わないと考えられています。

(3) 1項1号の対象

ア 「人が電子計算機を使用するに際して」

  • 「「意図」が、他人が電子計算機を使用する際のものであることを明確にするため」に規定されたと考えられています。
  • 人・電子計算機
    • 既に述べたものと同様です。

イ  反意図性|「その意図に沿うべき動作をさせず又はその意図に反する動作をさせるべき」

  • (ア) 判断の基準
    • 「その意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき」(反意図性)という要件です。
    • 判例・通説は、個別具体的な使用者の実際の認識ではなく、「一般の使用者が認識すべき動作」を基準として規範的に判断するとしています。
      • 保護法益が、プログラムに対する社会一般の信頼を保護法益とすることから導かれるものと考えられます。
  • (イ) 考慮要素
    • 最高裁(令和4年1月20日判決刑集76巻1号1頁)は、一般の使用者が認識すべき動作を認定するにあたり、以下の要素を総合的に考慮すべきであると判示しました。
      • ➀ プログラムの動作の内容
      • ② プログラムに付された名称
      • ③ 動作に関する説明の内容
      • ④ 想定される当該プログラムの利用方法等
  • (ウ) 具体例
    • a 反意図性が否定される場合
      • 市販のソフトウェアで、使用説明書等によって機能が認識し得るようになっている場合、たとえ個別の使用者がその機能を現実に認識していなくても、反意図性は否定されると考えられています。
      • 他方、使用説明書が付されていないソフトであっても、その機能は、名称やサイト上での説明等により、通常、使用者が認識し得るようになっていることから、使用説明書が付されていない一事をもって、反意図性が肯定されるわけではないと考えられています。
      • いわゆるポッブアップ広告(Webページにアクセスしたときなどに自動的に表示されるWeb広告など)は、通常、インターネットの利用に随伴するものであり、そのようなものとして一般に認識すべきと考えられることから、基本的に、反意図性は満たさないと考えられています。
    • b 反意図性が肯定される場合
      • 行政機関からの通知を装い、アイコンも偽装するなどして、ファイルを全消去するプログラムをメールで送りつけて実行させるような場合は、反意図性が認められると考えられています。

ウ 不正性|「不正な指令を与える電磁的記録」

  • (ア)判断の基準
    • 「不正な」(不正性)という要件は、反意図性が認められるプログラムのうち、社会的に許容し得ないもの(社会一般の信頼を害するもの)を処罰対象として絞り込むための要件とされています。
  • (イ)最高裁の判断
    • 最高裁(令和4年1月20日判決刑集76巻1号1頁)は、不正性について、「電子計算機による情報処理に対する社会一般の信頼を保護し、電子計算機の社会的機能を保護するという観点から、社会的に許容し得ないプログラムについて肯定される」と解しています。
  • (ウ)考慮要素
    • 不正性の判断にあたっては、以下の要素が考慮されると考えられます。
      • ➀ 当該プログラムの動作の内容
      • ② その動作が電子計算機の機能や情報処理に与える影響の有無・程度
      • ③ 当該プログラムの利用方法等
  • (エ)具体例
    • 反意図性は満たす一方で不正性が満たされない例として、ソフトウェアの製作会社が不具合を修正するプログラムをユーザーの電子計算機に無断でインストールした場合における当該修正プログラムが例として挙げられることがあります。
    • いわゆるバグは、作成者も知らないうちに発生するプログラムの誤りないし不具合であるため、基本的には、回避不能なものとして許容されていると考えられることから、不正性は満たされないと考えられています。
    • 反意図性も満たされないと考えられています。

※Coinhive事件の最高裁判決が示した『反意図性』『不正性』のより詳細な判断基準については、以下の記事で解説しています

(4) 1項2号

ア 意義

「同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録」とは、内容的には「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える」ものとして実質的に完成しているものの、そのままでは電子計算機において動作させ得る状態にないものと考えられています。

イ 例

  • 「同号の不正な指令を記述した電磁的記録」としては、例えば、そのような不正な指令を与えるプログラムのソースコード(そのままでは実行できず、CPUが理解できる言語に変換することによって、実行することが可能となるプログラムとなるものを言います。)を記録した電磁的記録が該当します。
  • 「その他の記録」としては、そのようなソースコードを紙媒体に印刷したもの等も当たるとされています。

ウ 第1号とのすみわけ

1項2号に掲げる電磁的記録その他の記録が客体とされたのは、このような記録が作成・提供・取得・保管されれば、電子計算機で実行可能な不正プログラムは容易に作成し得え、すでに十分な危険性があるため、処罰対象とする必要性があるためと考えられています。

4 不正指令電磁的記録供用罪(刑法168条の2第2項)

(1) 条文

「正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。」

(2) 正当な理由

  • 168条の2第1項柱書と同様です

(3) 対象

  • 168条の2第1項1号に限られています。

(4) 人・電子計算機

  • 168条の2第1項柱書と同様です

(5) 「実行の用に供する」の意味

  • 168条の2第1項柱書と同様です
  • 不正指令電磁的記録を、電子計算機の使用者にはこれを実行しようとする意思がないのに実行され得る状態に置くこととされています。
  • 例えば、ウイルスの実行ファイルをウェブサイトからダウンロード可能な状態に置き、第三者にダウンロードさせる行為などが該当します。

(6) 未遂|168条の2第3項

ア 規定の経緯

例えば、不正指令電磁的記録の実行ファイルをメール送信して、情を知らない第三者のメールサーバ上の受信者のメールボックスには届いたものの、ダウンロードさせるにはいたらず、第三者のパソコンにおいて実行される状態にはならなかったとしても、処罰の必要性は高いという理由で、未遂の処罰規定が設けられたとされています。

イ 具体例

  • 不正指令電磁的記録をメール添付して送信したが、その者のプロバイダのメールボックスに記録させるにとどまった場合
  • 不正指令電磁的記録が記録されている記録媒体をその者に交付したものの、その者が当該記録媒体を電子計算機で用いなかった場合
  • コンピュータ・ウイルスをWebサイト上で公開して、誰でもダウンロードできる状態にする行為については、議論があります。
    • 例えば、多数回のアクセスがあるようなWebサイトのトップページに、ワンクリックするだけで感染してしまうウイルスを、新着情報であるかのように偽装して仕掛けた場合には、その時点で供用未遂に当たり得るという見解もあります。
  • 不正指令電磁的記録をメールに添付して送信し、受信したパソコンのハードディスクに保存等されたところ、ウイルス対策ソフトで発見された場合についても議論があります。
    • あらかじめウイルス対策ソフトがインストールされていたため、不正指令電磁的記録がハードディスクに取り込まれた直後に発見・駆除されたような場合には、供用未遂に当たり得るという考えもあります。
  • 以下の例については、不正指令電磁的記録が受信者の電子計算機にダウンロードされ、支配下に置かれた以上、基本的には、容易にこれが実行され得る状態にいたったとして既遂に達したと考えるべきという見解もあります。
    • 実行にアイコンのダブルクリック等の操作が必要な不正指令電磁的記録をメール添付して送信し、受信者が使用するパソコンなどにダウンロードされたが、不正指令電磁的記録自体は保存も実行もされなかった場合
    • 不正指令電磁的記録のファイルはデスクトップ上に保存されたものの、実行されるにはいたらなかった場合

5 不正指令電磁的記録取得・保管罪(刑法168条の3)

刑法168条の3「不正指令電磁的記録取得罪・保管罪」の構成要件と、罪数・他の罪との関係をまとめた図解。取得・保管行為の違いや、「実行供用目的」などの要件、供用罪や提供罪との牽連犯、業務妨害罪との競合などを視覚的に解説。
刑法168条の3「取得罪」「保管罪」の構成要件と罪数・他罪との関係

(1) 条文の引用

「正当な理由がないのに、前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、二年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。」

(2) 正当な理由

  • 168条の2第1項柱書と同様です

(3) 前条第一項の目的

  • 168条の2第1項柱書と同様です。
  • 保管行為を開始した時点では目的を有していなかったとしても、その後、保管中に目的を有するにいたった場合、その時点から保管罪が成立し得ることになるとされています。

(4) 対象

  • 168条の2第1項各号の電磁的記録等が対象となります。
  • 「(前条一項)各号に掲げる電磁的記録その他の記録」とのみ規定され、「人の電子計算機における実行の用に供する目的」で作成されたものには限定されていません。
    • そのため、同罪の対象となる不正指令電磁的記録については、その作成時における目的は問われないことになります。

(5) 取得

  • 「取得」とは、不正指令電磁的記録等であることの情を知った上で、自己の支配下に移転させる一切の行為を指します。
  • 該当し得る例
    • 不正指令電磁的記録が記録されている記録媒体の交付を受ける行為
    • 不正指令電磁的記録が添付された電子メールを、メールサーバのメールボックスにおいて受信する行為
  • ウイルス・プログラムのソースコードが印刷された紙媒体の交付を受ける行為

(6) 保管

  • 「保管」とは、自己の実力支配内に置いておくことをいいます。
  • 自分のPCのハードディスク内に保存し続ける行為がこれに当たります。

(7) 罪数や他の罪との関係

ア 不正指令電磁的記録に関する罪の相互間における罪数関係

  • 作成罪•保管罪と供用罪•提供罪との関係
    • 作成罪及び保管罪は、供用目的で行われることから、供用罪とは基本的には牽連犯となると考えられています。
    • 作成罪及び保管罪と提供罪との関係も、いずれも供用目的で行われる犯罪類型であることから、牽連犯となると考えられています。
    • 不正指令電磁的記録等の作成後の保管行為については、作成に伴う必然的結果として一時的に保管している場合のほかは、別個に保管罪が成立し、その保管は作成罪に包括・吸収されるものではないと考えられています。
  • 取得罪・保管罪と供用罪・提供罪との関係
    • 取得罪及び保管罪も、いずれも供用目的で行われる犯罪類型であることから、供用罪とは牽連犯となると考えられています。
    • 取得罪及び保管罪と提供罪との関係についても、牽連犯となると考えられています。
    • 不正指令電磁的記録等の取得後の保管行為が、取得罪とは別に保管罪を構成するかは、不正指令電磁的記録等の作成後の保管行為と同様に考えられています。
  • 提供罪と取得罪の関係
    • 提供罪と取得罪は、いわゆる対向犯の関係に立つと考えられています。
    • 基本的に、不正指令電磁的記録等の提供者が取得罪の共犯となることはなく、取得者が提供罪の共犯となることもないと考えられています。

イ 他の罪との罪数関係

  • 不正指令電磁的記録を用いて、人の業務に使用する電子計算機における実行の用に供し、当該電子計算機に使用目的に反する動作をさせて、その業務を妨害した場合、供用罪と電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法234条の2)の成立が考えられることになります。
  • 供用罪はプログラムに対する社会の信頼を保護法益とする一方、電子計算機損壊等業務妨害罪は業務遂行の安全を保護法益とし、保護法益を異にするため、行為が一個の場合には、両罪の観念的競合となると考えられています。

6 刑事弁護におけるポイント

不正指令電磁的記録(コンピュータ・ウイルス作成罪)事件の刑事弁護ポイントをまとめたインフォグラフィック。早期相談・活動、目的の有無、行為の特定、既遂・未遂、罪数関係、他罪との関係などのチェックポイントを視覚的に整理。
不正指令電磁的記録事件における主要なチェックポイント

(1) 問題となる犯罪類型・構成要件の特定

  • 不正指令電磁的記録に関する罪について刑事事件となった場合には、まず、問題となっている行為が、刑法168条の2第1項の作成・提供罪、同条第2項の供用罪、刑法168条の3の取得・保管罪のいずれに該当するのかを正確に把握することが重要です。
  • これらの犯罪類型は、いずれも不正指令電磁的記録に関係する行為を処罰するものですが、対象となる記録、行為の内容、必要とされる目的などが異なります。
    • 例えば、単に不正指令電磁的記録を作成したという事実だけでは、直ちに刑法168条の2第1項の罪が成立するわけではありません。
      • 同項では、「正当な理由がないこと」に加え、「人の電子計算機における実行の用に供する目的」が必要とされています。
    • また、他人に不正指令電磁的記録を提供した場合であっても、実際にその電子計算機において実行される状態に置かれたかどうかによって、提供罪と供用罪の区別や、供用罪の未遂の成否が問題となる場合があります。
  • そのため、「ウイルスを作った」「ウイルスを送った」といった具体的な行為を時系列に沿って整理し、それぞれについてどの犯罪類型のどの構成要件が問題となるのかを検討する必要があります。

(2) 「人の電子計算機における実行の用に供する目的」の検討

  • 作成・提供罪や取得・保管罪では、「人の電子計算機における実行の用に供する目的」が重要な要件となります。
  • したがって、プログラムを作成したり保管したりしたという客観的事実に加え、その行為を行った時点において、どのような目的を有していたのかを具体的に検討する必要があります。
    • 例えば、自己の電子計算機上でプログラムの動作を検証する目的であったのか、正当な権限を有する者の電子計算機で使用する目的であったのか、それとも事情を知らない第三者の電子計算機で実行させる目的であったのかによって、構成要件該当性が異なる可能性があります。
    • また、取得・保管については、取得又は保管を開始した時点でその目的を有していたのか、その後に目的を有するに至ったのかという時間的な関係も問題となります。
  • そのため、メール、チャット、ファイルの作成日時、保存状況、ウェブサイトへの掲載状況などの客観的資料と、自身の認識と照らし合わせながら、目的の内容とその形成時期を具体的に検討することが重要です。

(3) 作成・提供・供用・取得・保管の行為を切り分ける

  • 不正指令電磁的記録に関する事件では、一連の行為の中に複数の犯罪類型に関係する行為が含まれることがあります。
    • 例えば、あるプログラムについて、①作成する、②自己のコンピュータに保存する、③第三者に送信する、④第三者のコンピュータに取り込まれる、⑤実際に実行される、という経過をたどった場合、それぞれの段階が刑法上どのように評価されるのかを検討する必要があります。
      • 特に、「提供」と「供用」は日常的な意味では似ていますが、刑法168条の2では別の犯罪類型として規定されています。
      • また、供用については未遂も処罰されるため、どの時点で既遂に達したのか、あるいは未遂にとどまるのかという点も重要となります。
  • したがって、プログラムがどこに存在していたのか、誰の支配下に移ったのか、どの電子計算機で実行され得る状態になったのか、実際に実行されたのかなどを、時系列に沿って具体的に確認することが重要です。

(4) 未遂・罪数・他の犯罪との関係を検討する

  • 不正指令電磁的記録に関する罪では、犯罪の成立時期だけでなく、未遂の成否や他の犯罪との罪数関係も問題となります。
    • 例えば、電子メールによって不正指令電磁的記録を送信したものの、受信者の電子計算機において実行される状態に至らなかった場合には、供用罪の未遂が成立するかどうかが問題となり得ます。
    • また、同一のプログラムについて、作成、保管、提供、供用等の複数の行為が行われた場合には、それぞれについて犯罪が成立するのか、牽連犯その他の罪数関係となるのかを検討する必要があります。
    • さらに、不正指令電磁的記録を利用して電子計算機の機能を妨害した場合などには、電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法234条の2)その他の犯罪が成立する可能性もあります。
    • そのため、単独の犯罪の成立要件に加え、行為全体を把握した上で、既遂・未遂の別、成立する犯罪の範囲、罪数関係について検討することが重要です。

(5) 早期の弁護活動の重要性

  • 不正指令電磁的記録に関する罪は、プログラムの技術的な仕組みと刑法上の構成要件の双方を検討する必要があるため、事件の初期段階から事実関係を正確に整理することが重要です。
    • 特に、捜査段階では、捜査機関が問題としているプログラムやファイルが何であるのか、どのような行為が問題とされているのか、どの犯罪類型の成立を想定しているのかを早期に把握する必要があります。
    • その上で、プログラムの作成・取得・保管・提供・供用に至る経緯や、その時々における本人の認識・目的を整理し、各構成要件について成立するのかを検討していくことになります。
  • 不正指令電磁的記録に関する罪は、同じプログラムをめぐる行為であっても、その行為の時期や態様、目的によって成立する犯罪類型が異なり得ます。そのため、事件の初期段階から、個々の行為と各構成要件との対応関係を丁寧に整理することが、適切な防御活動につながります。

7 まとめ

不正指令電磁的記録に関する罪では、単にコンピュータ上で意図しない動作をするプログラムであるというだけで、直ちに犯罪が成立するわけではありません。

特に刑法168条の2第1項1号では、「反意図性」と「不正性」が重要な構成要件となります。

最高裁はコインハイブ事件において、プログラムの動作内容だけではなく、名称、説明、利用方法などを踏まえて一般の使用者が認識すべき動作を判断し、さらに社会的に許容し得ないプログラムであるかという観点から不正性を判断する枠組みを示しました。

また、不正指令電磁的記録に関する罪には、作成・提供・供用・取得・保管など複数の犯罪類型があり、それぞれについて目的や客体、行為態様などの構成要件を検討する必要があります。

したがって、プログラムをめぐって刑事事件となった場合には、プログラムの技術的な仕組みだけでなく、その機能がどのような目的で、どのような方法で利用され、一般の使用者からどのように認識されるものであったのかを具体的に検討することが重要です。

8 その他の記事

コインハイブ事件を紹介しつつ、反意図性不正性を中心に解説した記事です。

9 用語解説など