13歳触法少年の薬物の依存性の深刻さから第1種少年院送致となった事例
決定のポイント
決定の時に、14歳未満の少年については、特に必要と認める場合でなければ、少年院送致はなされません(少年法24条1項但書)。
本事例は、少年法24条1項但書が適用された数少ない事例の1つです。
14歳に満たない少年は、環境的な要因の影響を受けやすいため、開放的で福祉的な児童福祉機関の措置に委ね、同機関が相当と判断した場合に限って家庭裁判所の審判に付することができるという児童福祉機関先議の原則(少年法3条2項、児童福祉法27条1項4号)が定められています。
なお、平成19年に少年法が改正されるまでは、処遇決定時に14歳未満の少年は、少年院に送致することができませんでした。
14歳未満の少年について「特に必要と認める場合に限り」という要件が付されたのは、14歳に満たない少年の施設内処遇は従来どおり児童福祉施設で行うのが原則であり、少年院送致は児童自立支援施設送致等の他の保護処分によってはその目的を達し得ない特別の事情がある場合に限って例外的に許されるものであることを法律上明らかにしたものです。
本件は、13歳の少年が自ら覚せい剤、大麻を入手した事案ですが、中学校内で複数回にわたり使用したり、授業中に大麻を机の下で切り刻むなどしていたもので、本人の依存の深刻さだけでなく、学校関係者や社会に及ぼした影響などを考えると、到底軽視することのできない事案といえます。
1 事案の概要 ~ 東京家裁令和元年9月12日決定
第1
少年は、Bと共謀の上、みだりに令和元年△月×日午後9時38分頃から同日午後9時42分頃までの間、○○市○○区○○町×番地××○○店×階トイレ内において、氏名不詳者から、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩の結晶約0.870グラム及び大麻を含有する乾燥植物細片約4.829グラムを代金11万円で譲り受けた。
第2
少年は、みだりに、同年△月×日午後3時25分頃、○○区○×丁目××番××号○○警察署内において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩の結晶約0.870グラム及び大麻を含有する乾燥植物細片約4.829グラムを所持した。
2 主文と処遇の理由
⑴ 主文
少年を第1種少年院に送致する。
⑵ 処遇の理由の要旨
本件に至る経緯
少年は、小学校5年生頃に母方祖母から将来のためにと両親に内緒で500万円ほどの現金を受け取って高級ブランド店に出入りするなどし、そこで声を掛けられた年長不良者らと一緒に遊ぶようになって、上記現金を上記年長不良者らに分散して預けるなどした。
その頃、少年は、不良年長者らに誘われて大麻を使用し、以後、3か月に1回程度の割合で使用を繰り返すようになり、中学入学前後頃にはLSDやコカインも使用するようになって薬物の使用頻度も増えていった。
また、少年は、不良年長者らとクラブに頻繁に通うようになり、そこには様々な薬物が用意されており、それを自由に使用したりしていたほか、高級ホテルを借りて窓に目張りをした上で薬物を使用したりもしていた。
そうした中で、少年は、同級生らに薬物を勧めたところ、本件非行事実第1の共犯者であるB(以下「B」という。)がこれに興味を示し、大麻やコカインを一緒に使用するようになった。
また、少年は、同級生らを誘って遊びに出掛けたり、ゲームセンターに行ったりすることを繰り返し、その際の多額の費用はすべて手持ちの現金や自宅から持ち出した現金で賄っていた。
そして、少年は、中学入学後、薬物を自ら購入するようになり、使用頻度もますます増え、警察官の職務質問を受け、手荷物検査や身体検査を受けたものの、薬物を下着の中に隠していたことから発覚を免れた。
この頃、少年は、薬物使用の影響で、目が真っ赤に充血したり、黒目が上を向いてまっすぐ歩けないことがあったり、在籍学校で少年が巻紙を落としたため、教師から薬物使用を疑われたが、少年は、証拠がないので違うと言い張って、その場を逃れたことがあった。
令和元年△月頃、少年は、手持ちの現金が乏しくなり、また、年長不良者らに警察の捜査が及びそうであったことから、薬物の使用を一時控えることとした。
しかし、その間も少年は、薬物使用と同様の効果を得ようとし、Bを誘って薬局で販売している咳止め薬を大量に摂取することを繰り返していた。
そうしたところ、現金を預けていた年長不良者から30万円くらいが戻ってきたことから、少年は、Bを誘って薬物密売人の連絡先を探し出したが、薬物を購入することはできなかった。
そこで、少年は、Bに頼んで薬物を購入してもらうことにして、Bが非行事実第1の薬物の譲受けに及んだ。
そして、翌日、少年は、通学先の中学校でBから薬物を受け取り、トイレの個室内で、始業前と授業の合間の3回にわたり、あらかじめ用意していた学校給食用のスプーンとライターで覚せい剤をあぶって吸引したが、それほど効果を感じなかったことから覚せい剤のかけらを口に含んで授業を受け、さらには、授業中に譲り受けた大麻を机の下ではさみを使って切り刻んでいたところを教師に見つかり、非行事実第2の薬物所持が発覚することとなった。
本件に至る上記の経緯に加え、少年が述べるところによると、少年がこれまでに使用した薬物は、大麻、覚せい剤、LSD、MDMA、ヘロイン、モルヒネ及びコカインというのであり、覚せい剤の使用は本件時が2回目であるものの、その余は相当多数回に及び、使用頻度、使用量も増加していることなどに照らし、少年は、少なくとも薬物に対する精神的依存症状を示すに至っており、薬物への依存性は深刻である。
少年の環境等
少年を取り巻く環境についてみると、両親は、少年に対する関心と指導の意欲を有しているが、少年の金銭の持ち出しを知っても自宅に多額の現金を置いたままにするなど、金銭管理が十分とはいえず、結果としてこれまで少年の問題行動を助長させてきたということができる。
父親は、少年に寄り添ってきてはいるが、教育熱心のあまり、少年の心情を理解しようとする姿勢に欠け、生活に関しても賞罰を伴った規制を行ってきており、少年は、父親に親和しつつも家庭内で窮屈さを感じており、その反動が少年の年長不良者との交友や目が届かないところで羽目を外したり、奔放な振る舞いをしたりという行動の一因となっている。
また、母親は、少年の発達上の特質をなかなか受け入れることができず、ひたすら少年を信頼するという姿勢を持ち続けてきている。
そして、両親、特に父親は、本件非行内容及び少年のこれまでの薬物との関わりを知っても、医療機関の指導を受けることで少年と薬物との関わりを断つことができるなどと楽観的な見通しを述べるにとどまり、少年の薬物への依存性の深刻さについての理解が不十分であるというほかない。
したがって、少年の改善更生に向けた両親の指導監督に多くを期待することは困難というべきである。
裁判所の検討結果
以上検討したところによると、本件事案の重大性や少年の薬物への依存性の深刻さ、少年の資質及び行動傾向上の問題の根深さとその改善の困難さ、少年の保護環境などに照らすと、少年が現在13歳であり、少年にはこれまで保護処分歴がないことや、本件を受けての保護者の少年の指導監護に向けた意欲の高まりなどを考慮しても、少年に対しては、系統的で強固な枠組みの下、時間をかけて少年の資質面の問題に即した地道な指導を行うことにより、薬物との断絶を果たすと共に、健全な対人関係を形成する能力や社会性、規範意識を身に付けさせることが必要不可欠であり、少年を少年院に収容することが特に必要と認められる。