仮眠中の交際相手への暴行により第1種少年院送致とされた事例
本件は、少年が、当時交際相手と行動を共にし、滞在していたネットカフェにおいて交際相手に暴行を加えた事案です。
東京家庭裁判所において、第1種少年院に送致するとの審判に対し、少年が抗告をしましたが認められず、少年院送致が決定しました。
1 事案の概要 ~ 東京高裁令和元年7月29日決定
少年が、令和元年△月×日午前10時30分頃、○○区所在のネットカフェにおいて、仮睡中の交際相手の女性に対し、首をつかんで無理やり起こし、あごを手でつかむ暴行を加えたという暴行の事案です。
2 裁判所の判断
原決定は、本件非行につき、その態様自体から、相手に配慮することなく暴行を用いてまで自己の要求を押し通そうとする自分本位な態度がうかがわれるところ、少年が当時の交際相手に対して自己の要求を通そうとして暴行を加えた前件により平成28年△月に保護観察処分を受けたことや、母親に対して再三にわたって暴力的な言動を続け、母親がそれに耐えきれず少年のもとを離れたことから、交際相手に代償的な役割を求めて依存を深め、結局は自己の思いどおりにならない事態を迎えて暴力的な言動に及んだものと理解されるとした。
そして、鑑別結果通知書及び少年調査票によれば、少年は、母親や交際相手など親密な相手に対しては幼児的なまでに一方的に依存し、自己の過大な期待を押し付け、それがかなわないとなると一転して暴力的な言動に出るという傾向が顕著であり、相手の心情を理解することなく自己の主張にこだわって修正が利きにくく、物事を被害的に受け止めがちであり、根拠のない自信から非現実的な希望にしがみつきやすいなどの資質上の問題が認められるところ、その問題性は前件の後に強まっているとした。
さらに、本件非行に至る経緯として、少年は、前件で保護観察処分となった後、家庭内で母親に対する暴力的な言動が絶えず、母親が家を出た後、保護観察所が様々な指導と支援を行い、○○区の福祉担当者も福祉的な手当てを検討するなどしたにもかかわらず、具体的なあてもないのに芸能活動に差し障るとして提案された施設への入所を拒否し、母親を一方的に非難するなど指導を受け入れる姿勢を見せなかったとした。
加えて、少年は、本件審判においても、客観的に自己を直視し、教育的な働きかけを受け入れる姿勢は全く認められず、母親は、少年への対応に精神的に疲弊し、社会復帰後の少年を1人で受け入れることは無理があるとの考えであり、父親も現状のままで少年を受け入れることは困難であるとの意向を示していることなどを考慮すると、少年の問題性は根深く深刻であり、要保護性が極めて高いから、本件が比較的軽微な事案であることを考慮しても、少年を少年院に収容し、その改善更生を図ることが必要不可欠であるとした。
以上の原決定の判断は、要保護性を基礎づける事実の認定やその評価に誤りはなく、それに基づく処分の決定も裁量の範囲を著しく逸脱したものとは認められず、相当である。
3 コメント ~ 非行事実の軽重と要保護性の関係
決定文にも記載されているように、本件は少年院送致とする他事例との比較において、非行事実は比較的軽微と評価できそうです。
もっとも、非行事実の軽重は、単に行為と結果だけでなく、非行に至る経緯や動機、常習性、組織性、計画性等の事情も加味して判断されます。
そのため、非行事実の行為と結果だけをみると軽微といえなくはないものの、比較的近い時期に同種の非行歴、保護処分歴があるなど、背景事情も含めて検討すると、軽微な非行と評価するのは相当でない事案が多いと指摘されています。
本決定が肯定した原審決定(東京家庭裁判所の決定)は、非行の態様から、相手に配慮することなく暴力を用いてまで自己の要求を押し通そうとする自己本位な態度がうかがわれることを指摘し、この点は少年の資質上の問題が本件非行(暴行)に顕在化したことを示すとともに、非行の動機、経緯は、相応に悪質であることを指摘しています。
比較的近い時期になされた同種非行の内容や、その非行について保護観察処分を受けてから本件非行に至るまでの少年の行動など、常習性の有無、非行事実の軽重、少年の要保護性の程度を判断するうえで、重要な事情であるといえます。