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保護処分歴なく示談が成立した恐喝で第1種少年院送致された事例

本件は、少年が、元同級生の被害者を脅迫して現金2万5,000円を脅し取った恐喝保護事件です。

原審が少年を第1種少年院送致と判断しましたので、少年が抗告をしました。

もっとも、本件の東京高裁は、保護処分歴がなく、被害者と示談が成立している事情があっても、少年院送致の決定を維持し、少年の抗告を棄却しました。

1 事案の概要 ~ 東京高裁平成29年12月21日決定

少年が、元同級生の被害者(当時15歳)から現金を脅し取ろうと考え、被害者に対し、「なくした先輩の財布を弁償しろ。」、「先輩はやくざだ。やくざだからお前殺されちゃうかもしれないよ。」、「今持っているお金を出せ。」、「さっきもらった3000円じゃ足りないから、バッグの中に隠してある6000円をよこせ。」、「金払え。○○まで来いよ。お前が悪いんだから。」などと脅迫して現金の交付を要求し、被害者から、3回にわたり、現金合計2万1500円を脅し取ったという事案である。

2 裁判所の判断

1 原審裁判所の概要

原決定は、本件非行について、遊興費を得たいと考えた少年が、楽に金銭を得る手段として、気弱であると考えていた元同級生の被害者から金銭を喝取した事案であり、本件非行自体から、少年の共感性の乏しさ自己中心性が指摘できるとした上で、このような少年の問題性は、母親や少年に対する父親の暴力が横行し、母親に連れられて自宅を離れることも多く、母親も少年の寂しさを受け止めるまでには至らなかったという成育歴や家庭環境に根差す根深いものであるとした。

また、少年は、入学した高校の部活動が期待したレベルにないなどとして登校意欲を低下させて退学すると、深夜徘徊するなど生活レベルを低下させ、翌年の高校再受験の失敗から自尊心を低下させ、鬱憤を深めていたと理解できることや、少年はその鬱憤を発散するために支配的に振る舞うことが多くなり、近時は母に詰め寄って30万円を受け取ったり、母に暴力を振るったり、父の服を盗み、それを返す条件として30万円を受け取ったりした挙句本件に及んだという経緯を踏まえた上で、本件は、これまで家庭内にとどまっていた少年の問題性が家庭外に発現したもので、強力な指導が必要であるとした。

原決定は、少年の保護環境について、両親は、自分たちのもとで少年を更生させることは無理と考えており、本件非行に至る経緯に照らしても両親の教育力に期待することはできず、父方祖父母のもとで更生させるという方針についても具体的な方法の提示はなく、祖父母の監護に期待することもできないとした。

そして、少年の更生のためには、少年を矯正施設に収容し、集団生活の中で他者の心情を察する体験を積ませて協調性を養い、自己の意に沿わない状況を適切な手段で解決するための自己統制力を高めさせ、信頼できる指導者に受容されることで等身大の自分を受け入れる態度を養うことが必要であり、少年を第1種少年院に送致するのが相当とした。

2 付添人(弁護士)の抗告理由

少年の付添人は、以下の理由を述べて、保護観察処分または中間処分として在宅試験観察に付するべきだと主張しました。

  • 本件非行は、複数回にわたる恐喝行為であるとはいえ、被害金額は2万1500円と少額であり、示談も成立している、
  • 少年は自らが自己中心的であったことを自覚し、逮捕、勾留、観護措置、審判を通じて内省を深めており、原決定が指摘する少年の問題性が発現した非行事件が本件だけであることからすれば、それが矯正教育を要するほど根深いものかどうかは慎重に判断されなければならない、
  • 両親は、少年の交友関係を断つために、祖父母のもとで生活させることを考えているのであって、両親のもとで更生させることが無理と考えているわけではない、
  • 集団生活の中で他者の心情を察する経験を積ませて協調性を養うことは学校生活を通じてでも可能であり、少年院が唯一ではない、
  • 祖父母のもとでの生活については、少年も新たな環境で生活する決意を有しており、既に少年の弟が祖父母のもとで問題なく生活しているという実績があることからすれば、祖父母の監護に十分期待できる、
  • 少年には保護処分歴がなく、ひとまず社会内での更生が可能かどうかを見極めるべきある、

3 東京高裁の判断

①被害金額の大きさと示談の成立

本件非行は、少年が、遊興費欲しさに、気が弱く恐喝できそうな相手として被害者に目をつけ、被害者ならば誰にも訴えることができず、事件が発覚することもないと高を括り、少年から預かった財布を被害者がなくしたかのような状況を偽装作出した上、やくざである先輩の財布をなくしたなどとして、恐怖心をあおり、弁償金名目で数十万円もの金員を支払うよう要求し、実際に3回にわたり現金合計2万1500円を脅し取ったという、卑劣かつ狡猾なものであり、自分の欲求を満たすために、被害者の心情を全く考えずに行動し、自分の都合のよいように物事をでっち上げることにもためらいが見られない。

さらに、その過程においては、被害者に対してほぼ一方的に暴行を加え、LINEを用いて執ように圧力をかけるなどして長期にわたって被害者を心身ともに追い込んだ上、被害者にアルバイトをするよう強く申し向け、そのアルバイト代を搾取するなど、被害者の心情を全く無視した支配的な態度は顕著であり、原決定も説示するとおり、本件非行自体から少年の共感性の乏しさ、自己中心性の大きさが見て取れる。

その被害金額が少額であるとの所論はそもそも当たらないし、本件非行の上記の悪質さに照らせば、被害者との間で示談が成立したという点を少年の処遇決定に際して考慮するにも限度があるというべきである。

②少年の非行は根深いものではないこと

少年の問題性が非行事件として顕在化したのは本件が初めてであるものの、その背景を考察すると、原決定も説示するように、母親や少年に対する父親の暴力や、それを避けるために母親が少年を連れて自宅を離れることが多かったという家庭環境のもと、少年が寂しさや鬱憤を募らせる一方で、鬱憤の解消方法として暴力的な姿勢をとることを身に付け、また、自分も今まで散々理不尽な思いをしてきたのだから、少しくらい思うままに振る舞ってもよいなどと自己正当化する構えも強めていったと理解できることや、本件以前にも少年は、母親に詰め寄って弟名義の預金口座から30万円を少年名義の口座に移させたり、母親に暴力を振るったり、父の服を盗んだ上でこれを返す条件として父から30万円を受け取るなど、家庭内で支配的に振る舞うことにより、明らかに分不相応な大金を得る経験を重ね、少年の問題行動を家庭内だけでは解決できないとして、複数回にわたって警察にも相談されるなどしたのに、少年は問題行動を改めないばかりか、その支配的な態度を外部に向けるようになり、本件非行に至ったという経緯に照らせば、少年の問題性が成育歴家庭環境に根差した非常に根深いものであることは明らかである。

③④社会内での更生を試みられるべきであること

父母の監護に期待できないこと、学校における集団生活という緩い枠組みでは共感性の醸成が叶わなかったことは、本件非行に至る上述の経緯から明らかであり、少年には少年院での強固な枠組みの中で、時間をかけて矯正教育を行う必要がある。

⑤祖父母のもとで生活するべきであること

少年の弟は、不登校の状況に至り、生活環境を変えるために祖父母の下で生活するようになったというのであって、弟に対する監護養育の状況と少年の更生に必要な監護態勢を同列に扱うことはできない。
祖父母の下での監護養育に期待できないとの原決定に誤りはない。

⑥保護処分歴がないこと

少年の上記のような問題性の根深さや、保護環境の状況に照らせば、少年について、保護観察処分によっては少年の更生は期待し難く、また、在宅試験観察を行う基盤も欠いているというほかない。

3 コメント

⑴保護処分の選択性判断

少年院などの収容保護への謙抑的な傾向や段階的処遇(例:保護観察⇒少年院)という判断手法も見られる一方で、非行性が深刻化してしまわないように適時適切な保護処分の必要性も無視してはなりません。

結局、事案の内容と要保護性の程度に即して健全な判断を個別に行っていくよりありませんが、保護処分が初めてとなる少年に対しても、少年院送致を選択することがあり得ることに留意が必要です。

⑵審判の対象と非行性

審判の対象は、要保護性非行事実です。

少年審判は、非行事実と要保護性が審理の対象となります。

非行事実の軽重は、単に行為と結果だけでなく、非行に至る経緯や動機、常習性、組織性、計画性等の背景事情も加味して判断されます。

非行事実の軽重の判断にあたっては、単に行為と結果だけでなく、非行に至る経緯や動機、常習性、組織性、計画性等の背景事情も加味して判断されます。

本件では、被害金額が少額との付添人の指摘は当たらないとし、上記の考え方に沿って検討しながら、少年が被害者から現金を脅し取った動機経緯に着目し、本件非行の悪質性、少年の問題の大きさを指摘しています。

⑶示談の成立

示談の成立という事情は、犯罪的危険性(少年の性格、環境に照らして再び非行に陥る危険性)を中核とする要保護性の判断においては、少年の資質や保護環境といった少年側の事情が重視されますので、被害弁償等の事情は、少年の反省心保護者の監護能力の問題として考慮されます。

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